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東芝消滅危機の裏 これは疫病神政権と経産省の国策破綻だ
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/199603
2017年2月15日 日刊ゲンダイ 文字お越し
消滅はもはや秒読み…(C)AP
これぞ断末魔。日本を代表するメーカーとして栄華を誇った東芝の消滅は、もはや秒読みだ。
14日正午に予定されていた16年4〜12月期連結決算の公表が突然の延期。市場や金融業界は騒然となった。原発事業で巨額損失が発生し、最終利益が大幅な赤字になることは織り込み済みだったが、当日になって急に決算発表できないなんて、よほどの事態だからだ。
経営陣は午後6時半から会見を開き、監査承認前の「仮」の業績見通しを公表したが、それによれば、2006年に買収した米国の原子力子会社、ウェスチングハウス(WH)の巨額損失が響き、純損益は4999億円の赤字になるという。何とか5000億円の壁は超えないようにやりくりしたのか、「4999」というスーパーの特売みたいな数字に苦心の跡がうかがえるが、前年同期の4794億円の損失に続いて2年連続の赤字。通年の3月期でも、3年連続の赤字になる見通しで、こうなると俄然、上場廃止、倒産が現実味を帯びてくる。
東芝は、当日になって決算公表を1カ月延期した理由を「WH社による米原発エンジニアリング会社『CB&Iストーン・アンド・ウェブスター社(S&W)』の買収に伴う取得価格配分手続きの過程において、内部統制の不備を示唆する内部通報が(WHの従業員から)今年1月にあったため」と説明。
監査法人の承認を得るための調査に、1カ月ほどかかるとした。「WH経営者による不適切なプレッシャーの存在」も示唆していたが、そもそも「チャレンジ」とか言って部下に粉飾を強要してきたのが、東芝本体ではなかったか。
■虎の子の半導体を売って原発事業を残す
「国策として原発事業を担ってきた東芝は、いざとなったら日本政府が何とかするのだろうと国内外からみられてきました。15年に粉飾決算が発覚し、歴代3社長の辞任にまで発展しても、刑事告発には至らず、“不正会計”という言葉でウヤムヤにされた。しかし、今回ばかりは厳しそうです。原発関連での損失の闇は深く、WHによるS&W買収の経緯から何が飛び出してくるか分からない。15年の粉飾問題で第三者委員会が設置されても、膿を出し切れなかったわけで、会社更生法までいってしまうかもしれません」(経済評論家・斎藤満氏)
発表によれば、原発関連の損失額は7125億円。そのうちWHによるS&W買収に絡む損失が約6200億円だ。これはあくまで仮の数字で、綱川智社長は「今後さらに下方修正する可能性もある」と言っていた。
12月時点の債務超過は確定だが、株主資本は3月末でも1500億円のマイナスになる見込みで、このままでは負債が資産を上回る債務超過になる。
そこで、主力の半導体事業を分社化して、株式を外資に売り、その資本増強によって3月末の債務超過を回避する方針を1月27日に発表。その時は「20%未満の外部資本を導入」と言っていたのに、14日の会見では、「100%売却の可能性もある」と綱川社長が明言。これは衝撃的だ。
すでに画像センサーをソニーに、医療機器はキヤノンに、白物家電を美的集団に売却した東芝が、唯一の成長部門である半導体まで手放したら、残るのは社会インフラと原発事業だけ。後発の社会インフラはシェアが小さく、とても収益の柱にはならない。要するに、今後は原発事業会社としてやっていくと宣言したようなものなのだが、その先に展望は全くない。この日が東芝の悶絶死を決定付けたとすれば、まさに“血のバレンタインデー”である。
あの事故を経て再稼働の倒錯(C)日刊ゲンダイ
武器と原発の輸出を成長戦略の柱にするアベノミクス
東芝は今後、原発の燃料サービスやメンテナンス、廃炉などで収益を確保するというが、そんなものは絵に描いた餅でしかない。原子力技術を維持するには、国内外で新規の受注を重ねていく必要があるが、そういうビジネスモデルは成り立たなくなっている。
WHを買収した06年の時点では、地球温暖化対策などを背景に「原発ルネサンス」と呼ばれる状況だった。世界中で原発の新規建設が見込まれてもいた。だが、11年の東日本大震災で福島原発事故が世界に与えたインパクトはあまりに強烈で、原発設置の規制が世界中で厳しくなり、東芝WHが米国で受注した4基の建設費用も大幅に増加。それが今回の決算発表延期につながっている。WH買収について経営判断が正しかったのかと問われた綱川社長も、「数字を見れば正しい判断だったとは言えない」と認めざるを得なかった。
「普通の企業であれば、まずは最大の不採算部門である原発事業から撤退し、収益が見込める半導体に注力することで経営難を乗り切ろうとするでしょう。しかし、アベノミクスは武器と原発の輸出を成長戦略の柱にしている。日米原子力協定の問題もあり、米国に隷従する安倍政権の間は、原発事業をやめるわけにいかないのです。福島原発事故の惨状を見た世界が脱原発に舵を切っている以上、WHを売却しようにも買い手はいない。欧米の有力企業は原発から手を引こうとしているのに、事故の当事国である日本だけが、安倍政権の下、官民一体で原発に前のめりになってきた。東芝がWHを買収しただけではなく、三菱重工はフランスのアレバ社、日立は米国のGEと提携しています。原発推進という国の方針があるから、手を引くことは許されない。東芝がここまで追い込まれても、足を引っ張り続ける原発事業から逃れられないのは、政府とズブズブで原発事業を請け負ってきた以上、自由な経営判断ができないという面もある。原発推進という国策の犠牲者でもあるのです」(斎藤満氏=前出)
■原発と手を切らない限り再生は無理
原発は発電コストが安いなんて大嘘だ。建設費や維持費、廃炉費用、万が一の事故対策費、世界的な規制によるコストオーバー、その結果として、日本を代表する企業の消滅危機――。原発推進の国策は完全に破綻しているのである。
原発ビジネスはいったん手を出したら最後、経営難に陥っても逃れることはできない。誰も幸せにならないところが悪魔的だ。東芝が決算公表に1カ月の猶予をもらったところで、時間稼ぎでしかない。その間に虎の子の半導体を売り払い、辛うじて今年3月の決算は乗り切れても、来年以降はどうするのか。コストオーバーが膨らむ一方ではないのか。
元経産官僚の古賀茂明氏が言う。
「国策企業として原発事業を続け、『原発ルネサンス』を信奉してきたのが東芝ですから、経産省のエネルギー政策がなければWH買収に手を出さず、原発を手放せたかというと疑問です。ただ、経産省の産業政策はことごとくハズレている。原発という時限爆弾を抱えている限り、東芝はもちろん、三菱重工も日立も同じような問題を繰り返すことになるでしょうが、経産省から出てくるのは、3社の原発事業をくっつけて『日の丸原発連合体』にするというような安直なプランでしかない。時代遅れのダメ産業を一緒にして守ろうとしても社会的コストがかかるだけなのに、自然エネルギーに転換するというような発想には決してならないのです。疫病神の原発事業と手を切らない限り、東芝の再生はない。同時に、日本にも未来はありません」
東芝は、15日付で原発事業の責任者だった志賀重範会長が辞任すると発表したが、それで済むような話ではない。粉飾を繰り返した歴代経営陣の責任はもちろん、原発政策を推し進めてきた経産省だって、本来なら無傷ではいられないはずだ。
東芝の悶絶死はアベノミクスのなれの果てとも言える。政府が脱原発を決めれば、東芝にも別の選択肢があったかもしれない。政治の責任は免れないだろう。
政権と官僚たちの無責任も、徹底追及されなければ嘘だ。
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