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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 白人第一主義
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週刊実話 2017年2月16日号
1月21日にワシントンで行われたトランプ大統領の就任式で一番印象的だったことは、観客の大部分が白人だったということだ。つまり、有色人種の多くは、トランプ大統領の就任を歓迎しなかったのだ。その理由は、トランプ大統領のなかに潜む人種差別意識を、米国人自身が敏感に感じ取っていたからではないだろうか。
予感はあった。例えば就任前の記者会見で、トランプ大統領は、貿易不均衡を是正すべき相手として、中国、日本、そしてメキシコを挙げた。いずれも、米国が巨額の貿易赤字を抱える相手国だが、実は重要な国が抜け落ちている。ドイツだ。
なぜ、ドイツが名指しされることが少ないのか。それは、ドイツが白人の国家だからではないのか。メキシコとの国境に壁を作ろうというのも、ロシアと接近を図り、中国を敵対視することも、有色人種差別の表れなのかもしれない。
実は、私は父親の仕事の関係で、1964年に米国のボストンに住んだ。現地の公立小学校に通ったのだが、そこで待ち受けていたのは、激しい差別だった。まだ戦後20年も経っておらず、「リメンバー・パールハーバー」がしっかり根付いていた時期だったこともある。
子供というのは、ストレートに差別をぶつけてくるから、どれだけ取っ組み合いの喧嘩をしたか分からない。もちろんアメリカ人の名誉のために言っておくと、クラスの半分くらいは、私に優しく接してくれた。しかし、そんな彼らも、私をイジメから救ってはくれなかった。
イジメの空気を文章で書くのは難しいが、一つだけ実感したことを書いておくと、イジメをしてくるアメリカ人のなかでは、日本人や中国人といった黄色人種は、黒人よりも地位が低いということだ。だから私は、友達が1人もできなかった。
その後、アメリカは少しずつだが、確実に人種差別を減らす方向に歩みを進めてきた。しかし、トランプ大統領は、就任演説のなかにおいて、「平等」や「民主主義」という言葉を一度たりとも使わなかった。そのため、どうしてもあの時のアメリカのいじめっ子の姿とイメージが重なってしまうのだ。
一方、安倍総理は1月20日に国会の施政方針演説のなかで、「日米同盟こそが外交・安全保障の基軸であり不変の原則だ」と述べ、今後も日米同盟の深化に務める方針を明らかにした。しかし、この態度は、対トランプ大統領の戦略として、正しいだろうか。
いじめっ子に対する基本戦略は、毅然と相手に向き合いながらも距離を置くことだ。いじめに屈服して、何でもかんでも言うことを聞いていると、いじめは、どんどんエスカレートしていく。かと言って、喧嘩を売りにいったら、ますますやられてしまう。
だから、少なくともトランプ大統領の在任期間中は、やむを得ない場合を除いて、なるべく関わり合いを持たないようにすることが一番望ましい。下手に同盟関係を強化しようなどとすると、日本の地位をますます落とすか、トラブルに巻き込まれるだけだ。
アメリカでも、日本でも、ずっといじめられ続けてきた私が言うのだから、間違いない。
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