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首脳会談を前に「優しく愛して、お願いトランプ」が日本を覆う異常−(田中良紹氏)
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8th Feb 2017 市村 悦延 · @hellotomhanks
メディアには週末の日米首脳会談に向けたカウントダウン報道があふれている。
経済で押し込まれることはないか。安全保障面は大丈夫か。そうした心配が論じられている。
トランプ大統領が選挙中に日本の自動車メーカーを槍玉にあげ、
また米軍駐留経費の負担増を言ったことで、
まるで「冷たくしちゃイヤ、優しく愛して、お願いトランプ」の雰囲気が日本を覆っている。
先週のマティス国防長官の初来日も、7日のティラーソン国務長官と岸田外務大臣との初の電話会談も、
米国が尖閣諸島を日米安保条約第5条の「適用範囲」と言ってくれるかどうかだけに注目が集まり、
「言ってもらえた」と安堵の胸をなでおろしている。
米国が「適用範囲」と言うのは当たり前で胸をなでおろす話ではないのにこの有様である。
そんな態度では「交渉術」を自慢するトランプ大統領をつけあがらせるだけだとフーテンは思う。
さらにトランプの後ろにキッシンジャー元国務長官が「指南役」としているならなおさらだ。
フーテンの見るところキッシンジャーは日本人嫌いである。嫌いというよりバカにしている。
バカにしているから日本人には本心を隠してリップサービスをする。
しかし日本人以外には「日本人ってバカだよねー」と言っている。
ところが日本人はキッシンジャーを妙にありがたがって「日本向け」のご高説を拝聴する。
例えばキッシンジャーは中国の周恩来との秘密会談で「中国人には我々と同じ戦略性があるが、
日本人には戦略性がない。日米安保条約は日本を暴発させないためのビンの蓋だ」と言った。
つまり安保条約で米国は日本を自立させないようにするから中国にとっても利益になるという意味である。
またキッシンジャーは「日本人は分かり切ったことをやるのに15年もかかる」と言った。
ペリー来航で開国するしかないのにすったもんだして明治維新まで15年もかかった。
戦争に敗けて西側陣営に付くしかないのに60年安保まで15年も右往左往した。
だから冷戦後の世界にもすぐ対応できないし、何をするにも時間がかかる。キッシンジャーはそう考えている。
一方のトランプ大統領も『トランプ自伝』(早川書房)を読めば、日本人を好きではない。
まず商売相手としてやりにくい。必ず大勢でやって来てその全員を納得させなければならず、
それがなかなか難しい。しかも真面目一方で交渉しても楽しくない。
ただ日本人は金を持っている。その金はアメリカを圧迫して貯め込んだ金で、
これまでの米国の政治指導者は日本の貿易政策にうまく対処できなかったとトランプは考えている。
そう考える人間だから自分が大統領になれば日本が米国から吸い上げた金を取り戻すのを
自分の仕事と考えるのは不思議でない。
『トランプ自伝』によればそのための交渉術は、まず相手に自分の腹の中を分からせないようにし、
かつ自分が相手より優位に立っていると思わせることだとしている。
その意味では、当選が決まると真っ先に土産を持って会いに行った安倍総理は、
最初から自分の優位性を認めているのだから交渉相手としては格好の標的となる。
フーテンなりにトランプの心理を読み解けば、
下手に出てくる相手はみんなの見ている前でおだてれば喜ぶ。
そして一人の時に脅しをかけるのが有効である。
週末のワシントンDCとフロリダでの日米首脳会談はそうした考えをベースに組み立てられていると
フーテンは見ている。
そしてトランプ政権誕生後の日本を見ると、
「尖閣諸島に安保条約第5条を適用してくれ」とそればかりを熱望し、
中国にびくついていることを臆面もなく表明した。
弱みがそこにあるならば安全保障を絡めれば経済交渉も有利に進められると考えるのが自然である。
それにしてもなぜ日本はこれほど「尖閣への安保適用」を熱望するのか。
それは中国が尖閣の領有権を主張し始めた時、
米国が日中どちらの側にも付かないというあいまいな態度をとり続けたからである。
原則として領土問題は当事者同士で解決すべき問題で、国益を侵されない限り介入すべきではない。
米国はそう考えたのだろうが日本は違った。
普通の国ならば自国の領土は自国で守ると考える。
ところが日本ははじめから米軍に守ってもらえなければ領土を守れないと考える。
「ビンの蓋」が米国の思い通りの結果をもたらしているのである。
日本は米国なしには何もできないと表明する国になった。
米国はオバマ政権以来「尖閣には安保条約が適用される」と言うようになった。
きっかけは日本をTPP交渉に引き込むためである。
しかし米国がそう言ったことを中国と戦火を交えてでも日本を守ってくれると考えるのは誤りである。
米国の利益になれば守るが、利益にならなければ守らない。当たり前である。
米国民が血を流してでも守る価値があると思わなければ税金を使うことを米国民は許さない。
冷戦時代の米ソがそうであったように核保有国同士が直接戦火を交わすことはあまりにもリスクが大きい。
それでも米ソの軍拡競争が激しかったのは、軍拡によって相手国の経済を疲弊させ、
経済体制の崩壊が政権崩壊につながることを狙ったからである。
米中で言えば、中国経済の破たんが共産党の一党支配を崩壊させ、
米国流の民主主義が導入されれば米国の勝利と言うことが出来る。
しかし米中にはすでに緊密な経済関係が築かれている。
そこが米ソ関係とは異なり、中国経済の破たんは米国経済も返り血を浴びて破たんする可能性がある。
冷戦後とは「唯一の超大国」として覇権を目指した米国が、
自分に代わり得る覇権を抑えるため、
中国とロシアとEU(ドイツ)と日本を「仮想敵国」として互いを競い合わせ、
その結びつきに楔を打ち込もうとしてきた時代である。
しかし米国の覇権は世界中に反米テロ組織を生み出し、
情報と金融に特化した経済はリーマン・ショックとなって「資本主義の終焉」を思わせる経済危機を招いた。
そのどん詰まりから抜け出そうと米国はもがいている。
そのもがきがトランプ大統領という稀有の指導者を生み出した。
それは「米国時代の終焉」をも思わせる事態なので各国みな冷静に推移を見守っている。
そうした中で「仮想敵国」の中からいち早く軍門に屈した日本だけが、
米国がなければ生きていけないとばかりに「すり寄ろう」としている。
「すり寄る」ことで国益が得られるならそれはそれで理解できる。
しかし中国の軍事力にびくつくような妄想を基に経済交渉を行えば
トランプ流「交渉術」にしてやられることは目に見えている。
自国の領土は自国で守る。
その基本認識を国民に植え付けることもできないで「お願いトランプ」では、
キッシンジャーではないが「どこに戦略性があるのか」と言いたくなる。
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