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トランプ「日本批判」の本当の狙い〜「愚か者」扱いはキケンだ! 交渉相手として冷静に弱点を見抜く
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50911
2017.02.06 橋 洋一経済学者 嘉悦大学教授 現代ビジネス
■お叱りを受けてしまったが…
先週、本コラムに「トランプはかくも賢く、計算高い!」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50837)と書いたところ、あるマスコミの人から、どうしてトランプを擁護するのかと、お叱りを受けた。
別に擁護しているわけではない。冷静にトランプ大統領に賢いところもあると見ているだけだ。
米大統領を日本人がいくら批判したところで交代できるわけでもない。であれば、日本の交渉相手としてその弱点を見抜いたほうがいい。
上から目線の批判に意味はない。批判ばかりしているマスコミの意見は、実戦の交渉にはまったく参考にならないし、時間の無駄、と思っている。
マスコミで展開される批判だけを見て「トランプ政権は行き詰まる」とか断言する人もいるが、そうした人は安倍政権にも嫌悪感を持っていて、安倍政権は早晩ダメになると予想した人が多い。
感情が先に出ると、予想も外れになる(気がする)。
もっとも、トランプ大統領の発言はみんなの興味関心を引くので、日本のメディアはこぞって取り上げるわけだ。トランプは引っ張りだこである。実は、あるマスコミ関係者から、トランプは数字(視聴率)が取れると聞いたことがある。
そんな折、筆者は先週土曜日に大阪の朝日放送の番組「正義のミカタ」に出演し、トランプ大統領の為替発言にどのように対処するべきなのかを解説した。
「トランプ大統領が日・中を名指しで批判!」というタイトルで、トランプ発言を「日本が長年、何をしてきたかを見ろ! 日本や中国は為替操作して通貨安に誘導している!」と簡略化して取り上げていた。
これは単に事実の話であるが、日本は為替操作をしていない。番組では、変動相場制と固定相場制の話をした。日本は変動相場制であり、原則として為替介入はしない。
変動相場制の国では為替介入は公表事項であるが、近年日本は為替介入をしていない。介入実績は、財務省のホームページにある「外国為替平衡操作の実施状況」に出ているので、一度確認してみてほしい( http://www.mof.go.jp/international_policy/reference/feio/ )。
他方、中国は変動相場制ではなく、管理相場制である。番組では単純化して固定相場制といったが、本質的には管理相場制と同じであり、ほぼ常に為替介入が実施されている制度である、と番組で発言した。
もちろん、トランプ政権もこの程度の話は承知している。トランプ大統領の発言は、報道によれば、「マネーサプライ(これは正しくはマネタリーベースであろう)を増やして日本は為替を円安にした」といっているようだ。
この表現だけでも、大統領はかなり「賢い」と筆者は思う。少なくとも、日本のマスコミよりレベルは高い。というのは、為替と金融政策の関係を相当理解しているからだ。
日本のマスコミが為替について説明するときは、ほとんどが「誰かの発言がきっかけで円安に動いた」程度の報道ばかりで、メカニズムに言及することは少ない。エコノミストが出てきて解説する場合でも、せいぜい日米の金利を用いて為替の動きを説明するだけで、マネーの量によって為替を説明することはまずない。
■トランプを黙らせる方法はある。が……
実は、為替については日米のマネーの量の違いで説明する方がはるかに説得的である(この点は、2011年8月22日付「史上最高値を突破した円高につける薬はある」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/16755 などを見てもらいたい。副題に高橋法則と書かれているが、これは編集部のつけたもので、もともと「ソロス・チャート」として有名なモノだ)。
番組では、トランプ政権が日本と中国の為替制度の違いを知っているとした上で、日本に対しては「金融緩和によって円安にした」とトランプ大統領が発言したことを紹介した。
そして、為替レートは、二つの交換比率であることをまず説明した。例えば、日本が金融緩和することは、円の量が増えることになる。すると円がドルに比べて相対的に増えるので、円の希少性がなくなり、円安になる、と説明した。
まずは、これが基本である。これを理解したうえで、トランプ大統領が、
「日本は金融緩和によって円安にしている」
と日本を批判したなら、
「その通り。これは、日本の雇用を作るための一手で、つまりはJAPAN FIRSTだ。AMERICA FIRST を訴えるなら、アメリカも金融緩和によってドル安にすればいい」
と応じればいいだけのことだ。
トランプ大統領のいう「AMERICA FIRST」は、実は交渉するには日本にとって都合のいいフレーズであり、トランプ大統領の意見を切り返すのは比較的容易である。
なお、丁寧に日本の事情を説明するという手はあまり有効でない。財務省は、「金融政策は為替の変更を目的としていないので、ご理解ください」とでも説明したいようだ。これで相手が理解してくれればいいが、「日本の事情など知らない。AMERICA FIRSTなので理解しない」と言われればおしまいである。
しかも、この説明では(まるで国内のメディアに財務省が説明するときのように)、あなたはわかっていない、と上から目線のようになってしまう。これも逆効果である。
番組で説明できたのは、時間の都合でここまであった。もう少し時間があれば、次の強烈な話をするつもりだった。
アメリカは大統領令で政府紙幣の発行ができる。実際、リンカーン大統領、ルーズベルト大統領、ケネディ大統領は政府紙幣発行の大統領令を出している。そこで、トランプ大統領に対して、
「アメリカは大統領令で政府紙幣を発行できるので、すぐに金融緩和が可能だ。実際、リンカーン大統領、ルーズベルト大統領、ケネディ大統領はやったではないか」
といえばいい。
これを聞いたトランプ大統領は、きっとリンカーン大統領とケネディ大統領が暗殺されたことを思い出すだろう(これは極めてセンシティブな共通項だ)。トランプ大統領が「チキン」であれば、別の話題に移るはずだ。
この一手をうつことで、トランプ大統領の人となりをはかることもできる(ただし、この会話は1対1でしか話さないほうがいいだろう)。
■トランプが本当に言いたいこと
もっとも、トランプ大統領の日本批判は、あくまで取引(ディール)のきっかけである。そこで、大統領が為替の話をした真意は何かを探ってみよう。
話は、1月31日の米製薬業界と大統領との会合にさかのぼる。
そのときのトランプ大統領のツイッターやFacebookでは、会合があったことが記されているが、そこに書かれた内容や、米メディアで報道されているのは、「米製薬業界に薬価格の引き下げを要望している」程度のことだった。その際、「海外ではアンフェアーなことが行われている」という件で、日本や中国の「為替操作」が話題に出たようだ。
筆者は、製薬業界との会合という点に注目している。
実は、TPP交渉でアメリカが負けたといわれるのは、製薬分野であった。オバマ政権にいた筆者の知人も、製薬分野では日本とオーストラリアなどの連合チームにアメリカは大きな譲歩を余儀なくされたといっていた。
次世代の主力製品である「生物製剤」に対して、アメリカは12年間の独占期間を強硬に主張していたが、他国は5年間を主張した。交渉の結果、両者の間で、新薬のデータは5年以上、生物製剤については8年以上のデータ保護期間を設けることに決まった。これには、アメリカの製薬業界は納得できずに、オバマ政権に抗議し続けた。
トランプ大統領にとっては、製薬業界はオバマ政権の敵であるので、敵の敵は味方になる。製薬業界を味方につけようとしたわけだ。
ただし、会合ではトランプ大統領は製薬会社に対して「薬価を下げろ」と正論をいっている。正論をぶつける一方で、それを薄めて味方につけるために、中国と日本の為替問題を持ちだし、彼らの溜飲を下げたのだろう。
しかし、この問題に関しては前述したように、日本は簡単に反論できる。この点はおそらく大統領側も織り込み済みではないかと、筆者は思っている。
では、トランプ大統領の真意はどこにあるのか。それはやはり、「TPPを二国間でやり直そう、その際、製薬業界の意向は譲れないよ」というメッセージではないか。
アメリカと日本は世界第1位と第2位の医薬品市場である。このため、日本の製薬会社は長期の保護期間を設けることで、利益を得る可能性がある。この点は、オーストラリアなどとは事情が異なっている。
アメリカの言い分は、日米の二国間協定で医薬品の保護期間の長期化を決めれば、お互いのメリットになるということだろう。
その際、日本での医薬品の価格規制制度は、JAPAN FIRST ではないとアメリカから言われる可能性もある。日本は、国民皆保険でJAPAN FIRSTを守りながら、医薬品の価格規制制度での対応が求められる展開ではないか。
■オバマならよくて、トランプはダメ?
もっとも、これは筆者の独断的な先読みであり、かなり将来の予想である。実際、10日に予定されている日米首脳会談は公式会談として初めてのものなので、そこまで議論がいかないだろう。
まず人間関係を構築することが目的なので、ゴルフをやることも首脳会談の中に入っている可能性もある(これは昨年11月21日付け本コラム http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50256 参照)。その方が、日米の長期的な関係を考えたら、貿易交渉をするよりかはるかにいいだろう。
いずれにしても、トランプ大統領のことを、自由貿易の意味(例えば比較優位の原理)もわかっていないで、1980年代の日米摩擦時代の亡霊である、と決めつけていると、手痛いしっぺ返しがあるだろう。
なお、先週の「正義のミカタ」では、トランプ大統領が大嫌いな米国人のモーリー・ロバートソン氏が、トランプ政権の入国管理規制は酷いもので、このままではアメリカはとんでもない国になるといっていた。
筆者は、ちょっと煽りすぎではないかと思い、「アメリカは変な人が大統領になってもいいように、三権分立の国なので、やり過ぎなら、どこかでチェックが入る」と、コマーシャルの間に話したら、番組再開後に、その話をしてくれ、と言われた。まあ、冷静にアメリカの三権分立を見ていこうじゃないかと思っていた。
実際、7ヵ国からの入国を禁止する大統領令に対して、ワシントン州シアトルの連邦地裁は一時差止命令を出し、それに対してトランプ米政権はサンフランシスコ連邦高裁に上訴した。この間、大統領令の一時差し止めが当面続くことになっている。まさに、教科書のような三権分立の実例になっている。
また、トランプ政権のやっている7ヵ国からの入国規制という枠組はオバマ政権からのもので、アメリカ人の過半数には支持されている。入国規制の程度問題であるが、マスコミはオバマ政権がやっていたものでも、トランプ政権が同じことをやると批判的になってしまう。
はっきり言っておこう。トランプ大統領がやることだから、とすべてを否定したらバカを見る。ちょっと冷静に、物事をとらえ、考えたほうがいい。
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