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まだTPPに固執の笑止…「化石」化しているアホノミクス
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/197823
2017年1月19日 日刊ゲンダイ 文字お越し
宗教的な妄信でTPP推進(C)AP
「米国ファースト」を掲げ、保護主義に向かうトランプ次期米大統領の就任を間近に控えた17日、英国のテリーザ・メイ首相がEU離脱についての基本方針を発表した。資本主義と自由貿易を柱としてきた世界秩序がいよいよ決壊し、地殻変動が起きていることを思い知らされる。
メイ首相が示した方針は、EUの単一市場から完全に離れる「ハードブレグジット」と呼ばれるもの。自由な貿易圏より、移民の受け入れ制限を優先した。EUをはじめとする世界各国とは、個別の通商協定を結ぶことを目指すという。
かねて英国の選択を支持してきたトランプ次期大統領は、英タイムズ紙のインタビューで、メイ首相について「ホワイトハウスに入れば、すぐに会談する」と言い、速やかに英米間の自由貿易協定を結ぶ意向を表明している。
「戦争を仕掛けてまで自由貿易を推し進め、これまで散々儲けてきたアングロサクソン2大国が、時を同じくして保護主義に転換した。自由貿易の盟主がここまで追い詰められたのは、象徴的な出来事です。その間隙を縫うように、中国が存在感を増している。中国は今年、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に初めて出席したのですが、習近平国家主席が17日に行った基調演説で、『保護主義に断固として反対する』と表明し、自由貿易の旗手に名乗りを上げたのです」(シグマ・キャピタルの田代秀敏チーフエコノミスト)
■中国が自由経済圏のリーダーに?
共産主義国家である中国が、自由貿易を守り、グローバル経済を牽引していくと宣言――。何だか倒錯した展開だが、それくらい世界は変容し、激流の最中にある。これまでの常識は通用しなくなっているのだ。
それなのに、もはや時代遅れのTPPに固執しているのが日本の首相だ。東南アジア3カ国とオーストラリアを歴訪した安倍首相は、16日にハノイ市内で記者会見し、「繁栄の基盤は自由貿易だ」と強調。「自由で公正なマーケットをつくり上げていかねばならない」とTPPの早期発効を求めた。今回の外遊でも、自由貿易の重要性を説いて回ったという。「TPPを礎に、より大きな経済連携協定を目指していく」とも言っていて、すっかりアジアのリーダー気取りなのである。
行く先々で大金をバラまき、チヤホヤされて勘違いしていることもあるが、安倍はTPPによる中国包囲網という妄想に取りつかれている。
米ワシントンを訪れた自民党の茂木政調会長も、トランプに近いとされる共和党のロジャー・ウィッカー上院議員と17日に会談し、米国のTPP参加を頼み込んだが、「すぐに動かすことは難しい」とにべもなく断られてしまったという。そりゃそうだろう。トランプがTPP離脱を公約にしている以上、もうこの話は無理なのだ。
ダボス会議では中国が主役を張り、自由経済圏のリーダーになろうとしているのに、今さらTPPもない。ナントカのひとつ覚えで、使い古された“価値観外交”で中国包囲なんて考えているようでは、世界の潮流から取り残されるだけだ。
完全離脱を表明した英メイ首相(C)AP
20世紀型の自由貿易万能論は通用しなくなっている
「貿易摩擦などに関するトランプ次期大統領の認識は、80年代で止まっているように見えますが、自由貿易をやみくもに信奉する安倍首相の経済観も高度経済成長期のままで、『夢よもう一度』の幻想を抱いているとしか思えません。その結果、米国とは相いれなくなり、首相の大嫌いな中国が、自由貿易の擁護で日本の最大の理解者になっているのも皮肉な話です」(田代秀敏氏=前出)
自由貿易の推進力になってきたのは、英国の経済学者デビッド・リカードが提唱した「比較優位」の概念だ。それぞれの国が最も得意な分野に特化し、国際分業を進めることで、互いに利益を最大化できるというもの。日本なら自動車などが得意分野に当たるだろう。それ以外は貿易で賄えば、全体の利益が高まるという原則だ。
20世紀までは、それでよかった。だが、リカードが比較優位論を発見したのは19世紀初頭のこと。世界の経済環境は当時と様変わりした。貿易は国家間のものではなくなり、自由貿易で富を得る主体が、国から巨大グローバル企業に移ってしまった。もはや比較優位が国家単位で成り立たなくなっている。TPPのような自由貿易協定を結んでも、一部のグローバル企業に富が集中するだけなのである。TPP問題に詳しい東大大学院教授の鈴木宣弘氏(農政)が言う。
「TPPにしても、もともと米国の業界の利益のためのものだし、日本でも政権と結びついた一部の人々が得をするだけです。グローバル企業は人件費の安い地域で生産した製品を自由に動かし、世界中で売る。こういう状況下で自由貿易を徹底すれば、巨大グローバル企業が儲かるだけなのです。大企業が他国に工場を移転するのは、その方が儲かるからで、国内の雇用が安い人件費に奪われ、巨大企業の経営者や投資家に富が集中していく。大企業が儲かることも大切ですが、国そのものは産業空洞化などで衰退化していきます」
■反グローバリズムは必然的な動き
国が自由貿易を推し進めても、グローバル企業が儲かるだけで、内需は増えず、賃上げも望めない。労働者は他国の安い人件費と競わされ、雇用は非正規に置き換えられていく。そういうグローバリズムの本質、20世紀型の資本主義の限界が露呈しつつある。その表象が、トランプ大統領の誕生であり、英国のEU離脱なのである。自由貿易神話は崩れたのだ。
もちろん、国際社会がこぞって保護主義に走れば、世界経済にとってのマイナスは大きい。自国第一主義が先鋭化すれば、いずれ戦争に発展する可能性もある。だが、世界全体にとって良いか悪いかは別として、英米が保護主義に舵を切る動きが必然的なのは確かだ。自由貿易の拡大で成長してきた世界秩序は過去の産物で、今は21世紀の新たな秩序の萌芽、過渡期にあるとみるべきだろう。反グローバリズムを選んだ英米は、時代の先を見ている。
そんなパラダイムシフトの真っただ中にあって、自由貿易の拡大と金融政策で景気が良くなるという幻想に凝り固まっている安倍政権は、あまりにオメデタイ。世界の潮流に背を向けるアホノミクスは、もはや化石と化している。輸出も頭打ちで、株価も為替次第。これでは世界の動きに翻弄されるだけなのに、ほとんど宗教的な妄信で「道半ば」と言い続けるその先に、何が待っているのか。
英米の猿真似をする必要はないが、グローバリズム至上主義とは何だったのか、日本国民も立ち止まって考えるべき時に来ている。
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