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莫邦富の中国ビジネスおどろき新発見
【第297回】 2017年1月19日 莫 邦富 [作家・ジャーナリスト]
中国人観光客による新千歳空港での「暴動」、真相はこうだった 矛先は日本の観光行政へ
2016年12月22日から24日にかけての大雪で、新千歳空港では1万6000人もの人々が空港に足止めされ、空港内で3日間にわたって滞在を余儀なくされた人も出た。大混乱の空港で、一部の中国人乗客が騒ぎ出し、航空会社と衝突したというが…… Photo:読売新聞/アフロ
今、Googleの検索欄に、「千歳」「中国人」という日本語のキーワードを入れてみると、検索単語の予測候補として自動的に現れるのは、こんな言葉である。
「千歳 中国人 暴れる」「千歳 中国人 海外の反応」「千歳 中国人 暴動」「千歳 中国人 航空会社」「千歳 中国人 騒ぎ」「千歳 中国人 欠航」「千歳 中国人 反応」……。
昨年12月22日から24日にかけて大雪に見舞われたため、新千歳空港では航空便の欠航が発生した。一時、1万6000人もの人々が空港に足止めされ、空港ターミナル内で3日間にわたって滞在を余儀なくされた人も多く、空港は大混乱になったという(後述する西本紫乃さんのレポートによる)。そのなかで、一部の中国人乗客が航空会社と衝突した。
それを「騒ぎ」ととらえて報道した日本メディアの記事に出てくるのが、冒頭のようなキーワード群なのである。
日本のメディアに出ている最初の一連の報道記事を読むと、いつものように中国人観光客を悪者にする報じ方と過激な言葉が目立つ。中国国内でもこうした報道を受けて、同胞はまた海外で馬鹿げたことをした、といった批判の声が上がった。「騒ぎに出た人間はそのまま海外に追放せよ」といった過激な声も出ているぐらいだ。
問題を起こしたのは
どの会社のどの便だったのか
しかし、当初から私が不思議に思っていることがある。中国系航空会社とか、航空会社とかの表現はあるが、どの航空会社のどの便についてはほとんどの記事が触れていない。航空会社からの抗議を恐れたためのメディアの自衛手段だろうと思った。
ただ、時間が経つに連れ、新千歳空港で実際に何が起きたのかといった情報が次第に伝わってきた。まず、欠航で問題を起こした航空会社は中国国際航空、キャセイパシフィック航空(日本航空との共同シェア便)、中国海南航空傘下の香港航空だ。
中国のメディア「人民網日本語版」2016年12月28日の報道によれば、「この大雪の影響で、キャセイパシフィック航空のほかにも、東方航空、中国国際航空、大韓航空などの便も欠航となり、足止めされた旅客も非常に多かったこともあって、空港内にはやや混乱が見られたという。その後、次々と離陸していく航空会社がある中で、キャセイパシフィック航空の離陸だけが遅々として進まなかった」という。
スキーを楽しむために休暇を利用して北海道にやってきたのに、新千歳空港で3日間も足止めされた香港の女優ミッシェル・リー(李嘉欣)もいよいよ我慢できなくなったのか、12月25日未明の3時頃、SNSの微博にキャセイパシフィック航空を名指して、私たちは新千歳空港で3日間も待たされていたのに、キャセイパシフィック航空から情報の連絡や手配の一つも提供されていない。一方、他の航空会社は次々と運航を再開した、と批判の書き込みをした。
騒動の詳細を分析した
日本人学者のレポート
1月17日、北海道大学公共政策大学院専任講師・西本紫乃さんという方が、「『新千歳空港で暴れた中国人乗客』騒動の真相」という長いレポートを発表し、新千歳空港で発生した「騒動」事件の詳細を公にした。
そのレポートでは、欠航で問題を巻き起こした航空会社と便名を明らかにした。中国国際航空の北京行きCA170便だ。
西本さんのレポートでは、具体例を詳細にわたって挙げながら、騒ぎを大きくした一番の原因は「乗客の不満を招いた航空会社対応の不備」にある。「(ようやく)中国国際航空の中国人責任者が現場に姿を現したが、結局、乗客が満足するような対応はしてくれなかった」と容赦なく指摘した。同じく欠航のため出発できなかった台湾人乗客の中には、「航空会社手配で食事やホテルが用意されて買い物や温泉を楽しみ、2日間の余分な日本滞在に満足をしていた人もいた」と他の航空会社の対応のよさを実例で説明し、それが中国国際航空の乗客の不満の原因の一つになったのは間違いない、と西本さんは見る。
次に、その批判の矛先を在札幌中国総領事館にも向けた。「中国人乗客の中には、新千歳空港での自分たちの窮状を、札幌にある中国総領事館に電話で訴え、助けを求める人もいた。この時に実際に領事館に電話をかけた人の話によると、中国総領事館の対応は冷たかったそうで、乗客たちにとって何ら問題解決にはならなかった」と舌鋒が鋭い。
三番目に、新千歳空港の管理レベルの低さもこの大雪による欠航事件でクローズアップされた。深夜に現れた空港ターミナルの責任者らの乗客への接し方は非常に高圧的で、「あなたたちの自業自得だ」と繰り返し、「自業自得」という言葉に多くの中国人が反発を覚えた、と西本さんのレポートは厳しく指摘している。
不満の矛先はやがて
航空会社から日本へ
空港管理者側と乗客との板挟みになった中国国際航空の日本人スタッフが悔し涙を流してしまったほどだ。それを見た乗客の数人がその日本人スタッフに駆け寄って慰める一幕もあった、という。
「乗客のほとんどを占める中国人たちは、空港側の対応に強い怒りを覚えた」。最初、中国人乗客たちの不満の矛先は主に航空会社の対応に向けられていたが、24日の深夜からは、「乗客らの嫌悪感は日本側に向かう」ことになった、と現場での乗客たちの気持ちの変化がこう報じられている。
新千歳空港の現場にいた中国人乗客らもSNSなどで、2000万人、4000万人の外国人観光客を受け入れるといった数字目標よりも、受け入れ能力の強化を先にやるべきだ、と日本の観光行政をたしなめる声を上げている。
新千歳空港の非常時の対策の強化などを含め、観光インフラの受け入れ能力、職員や事業従事者のサービス意識や態度の向上が課題になっていると、私も思う。
(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)
http://diamond.jp/articles/-/114700
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