http://www.asyura2.com/17/senkyo219/msg/347.html
Tweet |
改憲の論点1:参院合区と一票の格差の狭間
今だから知りたい 憲法の現場から
国民の価値対立への“行司”は政治が担うべき
2017年1月18日(水)
神田 憲行、法律監修:梅田総合法律事務所・加藤清和弁護士(大阪弁護士会所属)
今月20日から通常国会が招集され、自民党は衆参両院の憲法審査会の場で、改憲項目の絞り込みを進めるという。
憲法改正を論ずるとは、この国の望ましい統治機構の在り方を模索することでもある。憲法改正の必要はあるかないかという入り口の議論ばかりではもったいない。具体的な論点についての議論を重ねれば、たとえ改正に至らなくても、国民の憲法に対する意識や「この国のかたち」について考えが進むはずだ。
政治家たちが憲法問題を政局化せず正面から論じ、国民はその議論を追いつつ、自らの見識を深めていく。憲法改正論議は私たち国民にまたとない政治教育の場となるだろう。
そこで、今回から3回にわたり、各党・議員の発言の中から、興味深い憲法改正の論点について個々に取り上げたいと思う。いずれも改正するかしないかは別として、そのような議論そのものが議会制民主主義の発展に資するものである。
今回の論点は、参議院の合区解消だ。
2016年の参院選は、島根と鳥取、高知と徳島の合区が実施されての初の選挙となった。(写真:ZUMA Press/アフロ)
「一票の格差」問題とは
まず、参議院の「合区」解消という論点を考えたい。
「合区」とは議員定数不均衡(一票の格差)問題に絡む話である。選挙のたびに裁判が起こされ、テレビのニュースで「今日、一票の格差が合憲と判決が出ました」「違憲と判決が出ました」などとご覧になった方も多いだろう。あれに絡む話である。
合区を説明する前に、「一票の格差」問題を説明しよう。
たとえばある地区の人口が100人で、そこに国会議員を1人割り当てるとする。議員数が人口に正比例するならば、1000人いる地区には議員が10人割り当てられることになる。このとき、100人地区と1000人地区の有権者1人あたりの投票の価値を比較すると「1対1」で完全に平等になる。しかしたとえば1000人いるのに1人しか割り当てられないケースが出てくると、このとき100人地区と1000人地区の投票価値は「10対1」となる。
選挙権が「ひとり一票」ずつ与えられているのは読者の皆さんもご存じだろう。だが投票価値が「10対1」では、実質的に1000人地区では10人の有権者が集まって、やっと100人地区のひとり分に相当しているのではないか、と考えられるのである。これが「一票の格差」問題である。
「違憲状態」でも選挙無効の判決を出さない理由
わが国は1950年に公職選挙法が制定された際に、人口比に応じて議席数が配分され、たとえば衆議院議員については人口約15万人に議員1人の割合とされた。しかし戦後の経済成長につれて人口の急激な移動が起き、とくに都市部に人口が集中するようになり、割り当て議員の数が必ずしも人口比を正確に反映しなくなってきた。
「投票価値の平等」を求める裁判は多く起こされ、最高裁判所は1976(昭和51)年4月14日に、
《憲法14条1項、15条1項、3項、44条但書は、国会両議院の議員の選挙における選挙権の内容、すなわち各選挙人の投票の価値が平等であることを要求する》
として、「投票価値の平等」が憲法上の権利であることを認めた。「ひとり一票」だけでなく、実質的な中味も平等であることが必要としたのである。これは現在の通説・判例にもなっており、目立った異論も無い。
参議院についても1996(平成8)年、2012(平成24)年と最高裁は「違憲状態」と判決している。「違憲状態」とは、国会が是正の義務を負う程度の著しい不平等状態という意味だ。
「違憲状態」という奥歯にモノが挟まったような判決の仕方が、この問題の難しさを表している。これまで最高裁は違憲性を指摘しても、一度も選挙無効の判決を出したことはない。なぜなら選挙を無効にしても、議員がいなくなるだけで「投票価値の平等」を求めた人への救済にならないからである。
本来は選挙を無効にして、正しい人口比に応じた議員定数の配分をして、やりなおし選挙をすべきだ。だが議員定数の配分は立法行為であり、それは裁判所の権限ではできない。また違法であってもそれを理由に取り消すことが公共の福祉に適合していないとき、裁判所は違法だけを宣言して請求を棄却するいわゆる「事情判決の法理」を適用する。だから最高裁は「違憲」と指摘するに留めて、具体的な解決のボールを政治に投げ返し続けてきたのである。
「合区」問題は司法判断にはなじまない
これに対する政治の回答のひとつが「合区」なのである(やっと出てきた)。合区とは、行政区分を無視して、人口の少ない選挙区を「合」わせてひとつの選挙「区」にしたものである。2016年夏の参議院選では、鳥取と島根、徳島と高知が合区となり、最大格差は3.08倍まで縮まった(しかしそれでも全国で「一票の格差」訴訟が提起され、10判決が「違憲状態」、6判決が「合憲」となった)。
合区の選挙区からは鳥取と高知を地元にする議員が選出されなかった。全国知事会は昨夏、「参議院選挙における合区の解消に関する決議」という声明文を発表し、合区の解消と「将来を見据え、最高裁の判例を踏まえ憲法改正についても議論すべきと考える」と主張した。
ただ、合区を解消して、各都道府県から最低ひとりは参議院議員を出すとすると、憲法に抵触する可能性がある。憲法43条1項にこうある。
《43条1項 両議員は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する》
各都道府県から必ず出すとすれば、それは「地域代表」ではないのか。「全国民の代表」と言えるのか、という問題である。また当然、定められた議員定数を配分するという前提から考えれば、現実的には「一票の格差」は是正されず、憲法の平等原則との調整も必要になってくる。
「合区」の解消をしたければ議員定数を増やせば良いとの考え方もあろうが、財政支出面での合意が壁になる。一方、参議院を「地域代表院」とするならば、各都道府県選出議員は同数が基本になる。各県最低1議員のような選び方だと、やはり「一票の格差」は生じるだろう。いずれも、中途半端である。
「投票価値の平等」は都市住民の求める声であり、「合区解消」は疲弊した地域の声を中央に届けたい地方住民の声である。国民の価値が対立しているところであり、これは司法判断ではなく、政治の場で決着をつけねばならない。もし合区を解消して参議院を地方選出議員の場とするならば、現在の衆参両議院の関係も見直さなければならないだろう。
「一票の格差」問題は国会議員とはどういう存在なのか、衆議院と参議院の性格はどう違うのか、考える契機になる。
*1月19日公開「改憲の論点2:歯止めなき衆院解散権の是非」に続く
このコラムについて
今だから知りたい 憲法の現場から
日本国憲法が揺らいでいる。憲法解釈を大きく変更した安保法が国会で成立し、自民党はさらに改憲を目指す。その根底にあるのが「押しつけ憲法論」だ。だが日本国憲法がこれまで70年間、この国の屋台骨として国民生活を営々と守り続けてきたのも事実だ。本コラムでは、憲法史上に特筆すべき出来事が起きた現場を訪ね、日本国憲法が果たしてきた役割、その価値を改めて考えていく。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/120100058/122800010
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK219掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。