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2023年2月5日 12時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/229388
大手電力各社が、送配電子会社を通じて、ライバルである新電力の顧客情報を盗み見していた問題に揺れている。かつての地域独占体制から競争を促す自由化へと電力制度改革が進められたが、鍵は送配電部門の中立性・公平性にある。その根幹を揺るがす事態だ。全面自由化から4月で7年。大手電力は依然として8割のシェアを握り、競争は道半ばにある。公正な競争環境を整えるため、規制の強化や、大手電力の傘下にある送配電部門の独立性をさらに高めるよう求める声も強まっている。(岸本拓也)
◆違法性を認識していた社員も
「電力自由化の原則である配送電部門の中立性を損なう大きな事態」(日本生活協同組合連合会の二村睦子常務理事)、「(新電力の顧客情報が)見える状態はまずいと小売り部門は分かっているわけで、故意は明らか。相当に深刻」(東京大の松村敏弘教授)
1月30日に開かれた経済産業省の電力・ガス取引監視等委員会(電取委)の会合。大手電力による不正閲覧を巡って出席委員から厳しい指摘が相次いだ。
不正閲覧は昨年末、関西電力で発覚した。関電の営業担当社員らが、子会社の関西電力送配電のシステムにアクセスし、電力小売りの新規参入事業者(新電力)の顧客情報を盗み見していたと発表した。全面自由化された2016年4月以降、閲覧できる状態にあったといい、少なくとも昨年4月以降、約1000人が4万件超の不正閲覧をしていた。
顧客情報には、契約者の名前や電話番号、電力使用量などが含まれており、社内調査で、不正閲覧した社員の14.4%が「提案活動(営業)のため」と回答。実際に営業活動に利用していたという。一方、不正閲覧した社員の42.7%が「電気事業法上の問題となり得る」と認識していたことも判明した。
問題は関電にとどまらない。電取委が大手電力各社に点検を求めたところ、1月末までに大手10社のうち、関電のほか、東北、九州、四国、中部、中国の5社で、送配電部門の子会社を通じた不正閲覧をしていたことが次々と分かった。
北陸、沖縄の2社でもシステム上、送配電部門が持つ新電力の顧客情報を見られる状態だったといい、不正閲覧がなかったかさらに調査中だ。「問題なし」と回答したのは東京と北海道の2社のみだった。
◆新電力側は「まさかではなくやはり」
子会社の情報を、親会社が見るくらいなら一見問題なさそうに聞こえるが、これは大問題だ。
かつて電力事業は大手10社が各地域で独占していた。しかし、競争が働かず、電気料金が割高になっているのではないかという懸念から、国が大手同士や新電力との競争を促すよう段階的に自由化を進めた。16年の完全自由化によって、家庭向けも含めて自由競争できるようになった。
ただ、家庭や企業に電力を届ける送配電網は、もともと大手電力が設備を持っており、新電力もそれを使って顧客に電気を届けている。その際に顧客情報を大手電力の送配電部門に伝えている。
もし大手電力の小売り部門などが、送配電部門が持つ新電力の情報を知ってしまうと公平な競争ができなくなる。そのため、小売りや発電などの部門と、送配電部門を切り離し、中立な立場で送配電網を運用するよう法律で義務付け、情報の閲覧も禁じた。
今回、6社の不正閲覧が明るみに出たことで、経産省は「公正な競争を揺るがしかねない」(西村康稔経産相)と語気を強める。一方で、新電力側の受け止めは「まさかでなく、やはりという思い」。疑念は以前から募っていたためだ。
◆性善説で実態調査してこなかった電取委
ある新電力の幹部は「こちら特報部」の取材に証言する。
「大手電力の顧客に契約乗り換えの提案をしようと、この顧客の了解を得た上で、送配電子会社に電力利用量の詳細データを請求した。するとなぜか、その顧客に対して大手電力から『料金を安くするので契約を続けて』とすぐ提案があった。不正閲覧どころか、送配電部門から自主的に漏らしているのではないかとの疑念すら抱いていた」
新電力は営業活動するとき、顧客がいつどれくらいの電力を使っているかの詳細なデータを基に見積もりを出す。このデータは大手電力の送配電部門が持っており、新電力は顧客から委任状をもらって取り寄せる。この動きが大手電力側に「筒抜け」だったのではないかと、新電力側は以前から疑っていたというのだ。
また、「(不正閲覧で)顧客がどの新電力と契約しているか分かれば、料金水準はある程度想像できる。大手側は効率的に顧客奪還の提案ができる。こんな不公平なことはない」と問題の悪質さを訴える。
今のところ、不正閲覧で得た情報を、営業活動に利用していたと認めているのは関電のみ。ほかの電力各社は「契約切り替え時の顧客対応で使った」などと説明し、営業活動への利用を否定している。
電取委は実態調査を進めているが、新電力幹部は「関電以外のエリアでも、情報漏えいを疑わせるような事例を聞いている。関電だけじゃないはず。電取委に訴えようとしたが、『証拠を出せ』と言われるので、どうしようもなかった。性善説に立ってこれまで実態を調べようとしなかった電取委側にも問題がある」と打ち明ける。
◆まずは規制強化と罰則、送配電網を独立させるべき
大手電力を巡っては、事業者向けの電力販売で顧客獲得を制限するカルテルを結んでいたことも発覚した。昨年12月には、公正取引委員会が独占禁止法違反(不当な取引制限)で中部、中国、九州の3社に過去最高となる総額1000億円超の課徴金納付命令を出す処分案を通知した。関電も関わっていたとされる。
公正な競争から目を背ける大手電力の姿勢が浮き彫りとなり、現在の制度を抜本的に改める必要があるとの指摘が上がる。
環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長は「日本の自由化の課題は、発送電分離がきちんとできていないことだ」と指摘する。
日本は20年4月から、大手電力の送配電部門を別会社にする「法的分離」方式を採ったが、飯田氏は「自由化の本質は公平性や透明性。それを支える準公共財の送配電網が、私企業の傘下にあるということがそもそも中途半端だった。今回のような失態が明るみに出た以上、(送配電網を電力会社から完全に独立させる)所有権分離を進めないと、状況は改善しない」と言う。
電力システムに詳しい都留文科大の高橋洋教授(エネルギー政策)も将来的には所有権分離が望ましいとしつつ、まずは規制の強化と罰則が必要と説く。「現在は情報漏えいがあっても罰則がなく、規制も緩い。同じ法的分離のドイツのように、(親会社と送配電子会社の)建物やシステムを物理的に完全に分けることは最低限やらないといけない。部門間の人事異動の規制強化や、不正が発覚した場合には厳しい罰則を科す仕組みも欠かせない」
送配電会社を毎年監査しながら不正を長年見抜けなかった電取委の立て直しも急務という。「規制機関は今回の件を反省し、電力会社に厳しく接して緊張感のある関係にすべきだ。人員体制や規制権限を強化して監視機能を高めていく必要がある」
◆デスクメモ
情報漏れがあり得るので、小売りなどと送配電の部門の切り離しや、情報の閲覧禁止を法律で義務付けていた―。だとすれば、そんな法律を作った国会の責任も重い。罰則なしと決まるまでに十分議論したのか。規制強化に反対したのは誰なのか。今国会で追及し、穴をふさぐべきだ。(本)
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