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2020年12月24日 07時52分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/76305?rct=hissen
白いひげの男は毎年、この日の夜、決まってこの店にやって来る。ただし、今年はえらく早い。いつもの年なら明け方近いのにまだ十時だ▼「仕事はもう終わったのかい」。白いひげの男はミルクを注文する。「ああ、今年はちょっと事情があるんじゃ」▼主人はおもしろくなかった。この男の仕事はこの夜でなければ意味がないはずだ。男の仕事を待っている人がいる。とりわけいやなことが多かった今年である。なのにこの男ときたら。主人はミルクのカップを乱暴に置いた▼「仕事なら、ちゃんと済ませているさ」。白いひげの男は弁解した。「ああ、そうだろうとも」。主人は納得しなかった。ひげの男はため息をつくと、上着の内ポケットから手帳を取り出し、ページをめくった。「ああこれだ。四月十二日。マスクがなくって困っていなかったかい」▼主人はよく覚えていた。どうしても出掛けなければならなかったが、マスクが手に入らない。しかたなく地下鉄の中ではハンカチで口を覆っていたが、見知らぬ男に「非常識だ」と大声で言われた。車内の誰もが、自分を非難しているようだった▼「あの時、マスクをくれた女の人がいたが、あれが」−。「今年は一年中、忙しかったさ。こういう年だもの」。ひげの男は席を立った。店を出る時、こう言って笑った。「来年はきっと、いつも通りの時間に来るはずじゃ」
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