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絶対権力者プーチンの再選が決して「楽勝」とは言えない理由
http://diamond.jp/articles/-/157404
2018.1.29 北野幸伯:国際関係アナリスト ダイヤモンド・オンライン
ロシアで3月18日に実施される大統領選挙。有力な対抗馬はなく、プーチンの再選が確実視されている。しかし、国内に抵抗勢力がまったくないわけではなく、米国もプーチン降ろしに動いている。プーチン再選は「楽勝」とも言えない情勢だ。(国際関係アナリスト 北野幸伯)
米国が動き出した!
強烈なプーチン封じ込め策
米国ではロシアの新興財閥狩りが始まり、ロシア国内でも「貧しいのはプーチンのせい」とする言説が注目を集めている。絶対権力者・プーチンに、これまでにない逆風が吹きつけている Photo:Reuters/AFLO
プーチン再選を阻止したい最大の勢力は、実は米国だ。ただしこれは、トランプの考えではない。彼は大統領になる前も、なった後も、一貫して「親プーチン」の姿勢を保っている。
ご存じのように、トランプは外国首脳への「好き嫌い」が激しいが、プーチンとはマッチョな強硬派同士、ウマが合うのだろう。だが、「ロシアゲート」の問題があり、プーチン政権と良好な関係を築くことができない。
トランプ以外の米国内を見ると、「奴のせいでヒラリーは負けた」と信じる民主党は、すべて反プーチン。そして、共和党内にも「反プーチン」は多い。
米国は、戦後約45年続いた「米ソ冷戦」に勝利。ソ連は崩壊し、新生ロシアは、しばらく米国に従順だった。ところが2000年にプーチンが登場すると、ことあるごとに米ロは対立するようになる。
例を挙げれば、
・プーチンは、米国のイラク戦争に反対した
・プーチンは08年、米国の傀儡国家ジョージア(旧グルジア)と戦争し、圧勝した(当時、プーチンは首相。大統領はメドベージェフだったが)
・プーチンは、11年に始まったシリア内戦に介入した。米国は、欧州、サウジアラビア、トルコなどと共に反アサド派を支援。プーチンは、アサドを支持した。結果、アサドは反アサド派とISを駆逐し、今も政権にとどまっている。つまり、この「代理戦争」で、プーチンは米国に勝った
・プーチンは14年3月、クリミアをロシアに併合した。さらに、ウクライナ東部ルガンスク、ドネツクを支援し、事実上の独立状態に導いた
・「北朝鮮問題」でプーチンは、「圧力路線」の米国に逆らい、「対話路線」を進めている
このようにプーチンは、あらゆる場面で米国と正反対の立場を取っている。米国が「プーチンを排除したい」と考えるのは、当然だろう。
では、具体的に米国政府は、何をしているのだろうか?ブルームバーグ1月16日付は、米財務省が「新興財閥リスト」を作成していることを報じている(太線筆者、以下同じ)。
<米財務省がプーチン政権に近い新興財閥リスト提出へ−露富裕層は動揺
ブルームバーグ 1/16(火) 13:30配信
米財務省はロシアのプーチン政権に近い新興財閥の寡頭資本家「オリガルヒ」の最初の公式リストを完成させつつある。
これを受けロシアの富裕層は財産と名声を守る行動に乗り出している。 >
新興財閥に米国が迫る
「プーチンを裏切れ!」
どんな目的で、リストは作られているのだろうか?
<このリストはロシアのエリート層のブラックリストに相当する見込みで、昨年8月にトランプ米大統領が署名した法律で報告が義務付けられている。
同法は2016年米大統領選への干渉疑惑を巡りロシアへの制裁を意図したもので、財務省と国務省、情報機関は180日以内に「ロシア政府との近い関係や純資産」に基づき対象者を特定する必要があり、期限は1月29日。 >(同上)
つまり、このリストは、「エリート層」の「ブラックリスト」であり、「ロシアへの制裁」を強化するために作られている。米国財務省、国務省、情報機関から、「この人物はプーチンに近い」と判断されれば、ブラックリスト入りし、制裁を課される。
米欧日による対ロシア制裁は、14年3月のクリミア併合以降、今も続いている。その影響で、ロシア経済はボロボロになってしまった。そんなロシアに対して米国は、「さらに過酷な制裁を科す」と脅しているのだ。しかも、「プーチンに近い新興財閥」が「狙い撃ち」される。
新たな制裁内容はまだ決まっていない。しかし、容易に想像できるのは、「欧米銀行から融資を受けられなくなる」「欧米でビジネスができなくなる」「欧米にある資産を没収される」「欧米やオフショアにある銀行口座を凍結される」ことなどだろう。これは、新興財閥にとって大変な脅威だ。
では、新興財閥たちはどうすればいいのか?
「プーチンを裏切れば、ブラックリストには入らず、制裁も科せられない」
これが米国のメッセージだ。そして実際に、「プーチンを裏切るから勘弁してくれ」と懇願する新興財閥も出てきている。
<米国務省の元職員のダン・フリード氏によれば、ロシア人実業家らは同リストに掲載されないよう米財務省や国務省で制裁関連の業務経験を持つ元当局者に接近して支援を求めたという。>(同上)
米国は、なぜ今、このような行動をとるのか?ロシアの専門家たちは、「プーチン再選を阻止したいからだ」という意見で一致している。
国内にも反プーチンが…
カリスマユーチューバー活動家が台頭
米国だけではない。ロシア国内にも、プーチンを脅かす存在がいる。日本ではあまり知られてないが、欧米でもっとも人気のあるロシア人活動家、アレクセイ・ナワリヌイだ。
41歳の彼は、政府高官の汚職を暴露する「カリスマユーチューバー」として知られる。ここでは詳述しないが、ナワリヌイのバックには、“プーチンの宿敵”がいる。「ユコス事件」で03年に逮捕、13年に釈放され英国に逃げた「元石油王」ホドルコフスキーである。詳しくは、バックナンバー「プーチンが宿敵リベンジに大慌て!ロシアデモ騒動の舞台裏」を参考にしていただきたい。
ナワリヌイ最大のヒット作は、17年3月2日に公開された、「メドベージェフの隠し資産」暴露動画だろう。ロシア語がわからなくても、メドベージェフの(ものとされる)別荘の豪華さは理解できる。是非ご覧いただきたい。
この動画によると、メドベージェフには、以下のような資産があるとされる。
・モスクワ州の別荘(2822平米。推定価格50億ルーブル〈=約100億円〉)
・ソチの別荘(4177平米。70億ルーブル〈=約140億円〉)
・クルスク州の別荘、黒海沿岸の街アナパのブドウ園
・サンクト・ペテルブルグの複数のマンション(総面積1827平米、推定価格10億ルーブル〈=約20億円〉)
・ヨット2隻(推定価格10億ルーブル〈=約20億円〉)
・イタリアのブドウ園――など。
現在までに、約2600万人が、この動画を見た。ロシア語なので、視聴者のほとんどはロシア人だろう。つまり、ロシア国民の約5.4人に1人が見たことになる。
米欧日の経済制裁によって経済がボロボロになって苦しんでいる国民たちは、ナワリヌイの動画に激怒。17年3月26日、ロシア全土で「メドベージェフ隠し資産の真実」を求める大規模デモが発生し、モスクワでは1000人超の逮捕者が出た。独裁者・プーチンが睨みをきかせるロシアでは、異例のことである。
3月18日、投票日には
ロシア全土でデモの嵐が吹き荒れる
しかし、政権は沈黙を続けた。メドベージェフがこの動画に関するコメントを出したのは、動画がアップされた1ヵ月後である。
彼は、「動画は、民衆をデモに駆り出し、政治目的を達成するためにつくられた」と語ったが、注目の「資産の有無」については触れなかった。ほとんどの国民は、「動画の中身が本当だから、否定しないのだ」と思ったことだろう。
この話は、政権、司法、メディアが徹底的に沈黙することで、一応沈静化した。しかし、民衆の中に、現政権に対する「大きな不信感」が芽生えたことは否定できない。
さて、ナワリヌイは、今年3月の大統領選に立候補する意志を示していた。しかし、ロシア中央選管は、彼を候補として認めない判断を下す。理由は、ナワリヌイが過去に「横領罪」で有罪の判決を受けたこと(彼自身は、無罪を主張しており、罪は「政治的にでっちあげられた」としている)。
選挙に出られなくなったナワリヌイは現在、「選挙ボイコットデモ」を呼びかけている。3月18日の投票日には、ロシア全土でデモが起こるだろう。デモ参加者と警察の対立が暴力沙汰に発展することや、逮捕者が大量に出ることも予想される。欧米は、この事態を利用し、プーチン批判を強め、さらなる制裁強化に利用するかもしれない。
プーチン以外の有力候補は
共産党の「ソフホーズ」経営者
プーチン以外に現時点で立候補を表明しているのは、極右「ロシア自民党」のジリノフスキー、リベラル政党「ヤブロコ」のヤブレンスキー。2人共、1990年代から政界にいる「古株」だ。
他には、91〜96年サンクト・ペテルブルグ市長だった故アナトリー・ソプチャクの娘で、テレビ司会者のクセニヤ・ソプチャク。ちなみに、アナトリー・ソプチャクは、プーチンの元上司である(プーチンは、サンクト・ペテルブルグ副市長だった)。つまり、クセニヤはプーチンにとって、「上司の娘」にあたる。
さらに、実業家の権利を主張する「成長党」のチトフ代表など。いずれも、プーチンに勝てる可能性は、まったくない。唯一、「善戦するかもしれない」と思えるのは、共産党候補のパヴェル・グルディニンだ。
グルディニンは、60年モスクワ生まれ。95年から、「ソフホーズ・レーニン」の代表を務めている。「ソフホーズ」というのは、国営の「ソ連農場」のことで、共産主義が崩壊したロシアでは、すでに「死語」になっている。
グルディニンが経営する「ソフホーズ・レーニン」は、国営企業ではなく、農業を営む民間株式会社だが、ロシアでは優良企業として、一種の伝説になっている。従業員の給料はロシア平均の2倍で、社員とその家族の教育費、医療費は全額会社負担。さらに社員は、マンションや家を購入する際、会社から「無利子融資」を受けられるなど、至れり尽くせりだ。
「共産主義の理想を実現している」ということで、その名声はロシア全土に伝わっている。
グルディニンは、外交分野について、プーチンを批判していない。「クリミアはロシア領」と断言し、「大統領になったら、ラブロフ外相、ショイグ国防相を留任させる」としている。問題は「経済政策」だ。
ロシア経済の苦境は
プーチンが牛耳る石油会社のせい!?
驚いたことに、グルディニンは、「プーチンは新興財閥だ!」と断言する。どういうことだろうか?
プーチンは、2000年代初め、1990年代にロシアを牛耳っていた新興財閥を征伐し、人気を獲得した。なぜなら、当時の新興財閥はソ連崩壊に乗じて大金を稼いだ一方で、税金を払っていなかったからだ。そして、信頼できる友人、部下を経済の主要部門に送り込んだ。代表的な例は、石油最大手ロスネフチの会長セーチン氏や天然ガス最大手ガスプロムのCEOミレル氏だろう。
グルディニンは、プーチンが、セーチン氏、ミレル氏を通じて、ロスネフチとガスプロムを実質支配しているので、「新興財閥だ」というのだ。
さらに、グルディニンは、ロシア経済の苦境について、新たな見解を提示している。
ロシア国民は、現在の経済的困難について、「米欧日による制裁が原因」と考えている。その通りだろう。同時に国民は、制裁の原因となった「クリミア併合」については、「絶対善」と確信している。つまり、「何も悪いことをしていないのに、制裁を主導する米国がロシア苦難の原因であり、すべて米国が悪い」というロジックだ。
しかし、グルディニンは、「国民が貧しいのは別の理由もある」と言う。「石油会社が利益をロシアではなく、オフショアにため込んでいるのが原因だ」と。
「国民が貧しいのはプーチンのせい」
グルディニン人気は上昇中
グルディニンは問う。
「ロシアは世界有数の石油、ガス大国ですね?」(答えは、その通り!)
「しかし、ロシア国民は貧しいですね?」(これも、その通り!)
ロシアの1人当たりGDPは16年、8945ドルで、世界70位。平均月収は、8万2000円ほどである。なぜ、資源超大国ロシアの国民は「貧しい」のだろうか?
グルディニンは、明確な(明確らしき)答えを提供する。「石油会社が、利益をオフショアにため込んでいるから、国民に金が回ってこないのだ」と。話の真偽はともかく、この単純な解説は、庶民を納得させる説得力を持つ。そして、同時に現政権への不信感を増大させる。
彼のロジックは、以下のようなものだ。
1.プーチンは事実上、石油会社の支配者である
2.その石油会社は、オフショアを使っている
3.だから、ロシア国民は貧しい
突き詰めれば、「プーチンのせいで、国民は貧しい」という結論になってしまう。そんなグルディニンは、どんな政策を主張しているのか?
・オフショア利用の禁止
・石油会社の国営化(ロスネフチ、ガスプロムは既に「国営企業」である。しかし彼によると、これらの企業は事実上、プーチンに「私物化」されており、「真の国営化」を実現する必要がある)
・規制撤廃、減税などによる中小企業支援
・公務員給与、年金の大幅増(財源は、オフショア使用を禁止すれば、すぐ捻出できるとする)
そして、最優先課題は「貧困層をなくすこと」「国民を豊かにすること」と宣言している。
これらの主張は、年金生活者、公務員、中小企業、貧困層に受け入れられそうだ。現時点で、グルディニンの支持率は、6〜8%と言われている。しかし、今後増加して、2位につける可能性は高い。
このように、プーチンは現在、国内外から攻撃を受けている。それでも、彼は3月の大統領選で勝利し、6年間の「プーチン新時代」が始まるだろう。
安倍―プーチンの下で、日ロ関係は現在良好だ。だからプーチンの時代が続くことは、日本にとって悪くない。しかし、これまで絶対権力者と目されてきたプーチンを取り巻く環境は、これまでとは変わってきている。日本は、ロシアの不安定要因についても、正確に把握しておく必要があるだろう。
- 全土で反プーチン・デモ 大統領選ボイコット訴え〜支持は底堅く、再選が確実視され/テレ朝 news 仁王像 2018/1/29 20:00:41
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