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北朝鮮の平昌五輪参加表明 金正恩の「真の狙い」は?
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/01/post-9262.php
2018年1月8日(月)16時34分
1月2日、脅迫と兵器開発の1年を経た北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長は、国際的圧力をかわしつつ、核兵器を温存するための道具として、韓国で2月開催される平昌冬季五輪を利用しようとしている。写真は1日、平壌で新年の辞を述べる金正恩氏。提供写真(2018年 ロイター)
脅迫と兵器開発の1年を経た北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長は、国際的圧力をかわしつつ、核兵器を温存するための道具として、韓国で2月開催される平昌冬季五輪を利用しようとしている。
正恩氏は1日発表した「新年の辞」で、朝鮮半島の緊張緩和を呼びかけ、平昌冬季五輪に選手団を派遣する用意があると述べた。
国際的に孤立する北朝鮮との対話を再開し、さらなる核やミサイル実験によって五輪を邪魔されることのないよう、韓国政府は北朝鮮選手団の大会参加を求めていた。
正恩氏の今回の発言には、韓国と米国両政府のあいだに溝を作る意図があると専門家は指摘。米国は、北朝鮮に対する圧力を最大化する戦略を主導し、軍事も含めたすべての選択肢を検討すると強調している。
それと同時に、正恩氏の発言は、ここ数カ月の制裁強化によって北朝鮮包囲網を狭めてきた中国やロシア、日本が抱く国際的なコンセンサスも標的にしている。
「金一族が抱くもくろみの根幹部分は、各国の立場の相違につけこみ、それを広げることだ。まずは米韓、さらには隣国5カ国が抱える相違だ」。昨年4月まで米国務省で東アジア政策担当幹部を務め、現在はアジア・ソサエティ・ポリシー・インスティテュートに所属するダニエル・ラッセル氏はこう指摘する。
重大な挑発行為の後に、関係国間の温度差を表面化させるための融和姿勢を示す戦略を、北朝鮮はこれまで長く実践してきた、とラッセル氏は語る。「これは、典型的な『団結すれば立ち、分裂すれば倒れる』状況だ。5カ国の団結を維持するのは、北朝鮮がひどい振る舞いをしている時のほうが簡単だ」
トランプ米大統領は、米本土を射程に納める核ミサイル開発を急ぐ北朝鮮に対し、国際制裁の強化を主導してきた。対北朝鮮貿易への厳しい制限を含むこうした努力の成功には、中国やロシアなどの全面的な協力が不可欠だと、米政府は考えている。
北朝鮮の主要貿易相手国である中国は、国連制裁に同調して対北貿易を削減しているが、米政府は北朝鮮を孤立させるため、さらなる行動を中国に求めている。
ばかげた呼びかけ
韓国政府は表向き、正恩氏の発言を歓迎している。同国の文在寅大統領は、米韓の合同軍事演習を五輪後まで延期する可能性について言及しており、五輪開催前に北朝鮮との緊張を緩和しようと努めてきた。
文大統領は2日、南北関係の改善は、北朝鮮の核開発問題の解決と関連しているとも述べた。
米政府は、まだ詳細な対応を表明していない。だが共和党有力議員のグラハム上院議員は、北朝鮮が冬季五輪に参加するのであれば、米国は大会をボイコットすべきだと主張する。
「北朝鮮の冬季五輪参加を許すならば、地球上もっとも非合法な政府に正当性を与えることになる。韓国政府はもちろん、こんなばかげた呼びかけを拒否すると思うし、仮に北朝鮮が冬季五輪に参加するならば、われわれは参加しないと信じている」と同議員はツイートした。
同議員は過去にも、元米国家安全保障局(NSA)職員で、米当局の情報収集活動を暴露したエドワード・スノーデン氏の亡命をロシアが受け入れたことで、ソチ冬季五輪のボイコットを呼びかけたことがある。
北朝鮮選手団や職員が五輪に参加する図は、北朝鮮を国際社会の鼻つまみものとして位置付けてきた各国指導者にとって、居心地の悪いものになる可能性があると、韓国釜山大のロバート・ケリー教授は言う。
「北朝鮮の孤立に力を尽くしてきた米国や日本との間に緊張を生む可能性があり、韓国は微妙な立場に立たされるだろう」と同教授は指摘した。
日韓関係はすでに幾分ギクシャクしているとみられている。日本政府は韓国との関係に「疲れて」おり、文大統領に不信感を抱いていると日本の元外交官は説明する。
だがそれでも、金正恩氏の呼びかけによって、米韓の同盟関係や、対北朝鮮制裁強化による国際包囲網に、大きな傷がつく可能性は低いと専門家はみている。
「短期的に、世界的な経済・政治の孤立作戦が大きく転換されることはないだろう」と米シンクタンク外交問題評議会で米韓政策を担当するスコット・スナイダー氏は語る。
さらなるミサイル実験
専門家が懐疑的な理由としては、正恩氏が核兵器やミサイル実験、人権などの重要な点について、妥協する意思がないように見えることが大きい。「五輪参加などは、見せかけの譲歩だ。北朝鮮が実際に何かを手放すわけではないからだ」と、前出のケリー氏は話す。
金正恩氏は新年の辞で、2018年は「核弾頭と弾道ミサイルを量産」し、「実戦配備に拍車をかける」と宣言した。
これは、開発実験よりも「現実的な」演習に力点を置いた、さらなるミサイル実験がほぼ確実に実施されることを意味する、と米ミドルベリー国際大学院のジョシュア・ポラック氏は言う。
「戦略軍の主要課題は、開発から、量産と実戦配備に移りつつある」と同氏は指摘。
米国が、どんな緊張緩和の機会も利用したいのであれば、対話の前提条件として求めてきた実験停止を撤回する必要がある、とニューヨークの北東アジア安全保障プロジェクトのレオン・シーガル氏は言う。
「見返りとして最も重要なのは、合同演習を単に延期するだけでなく、規模を縮小することだ。そうした試みに失敗するならば、制御不能な北朝鮮の兵器開発が続くことになる」
(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)
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