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似た者同士のトランプと習近平が世界秩序を破壊する
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/01/post-9240.php
2018年1月4日(木)12時02分 クリストファー・バルディング(北京大学HSBCビジネススクール准教授) ニューズウィーク
北京の故宮を訪れたトランプ夫妻(左)と習夫妻 JONATHAN ERNST-REUTERS
<ニューズウィーク日本版 2018年1月2日/9日合併号は、2018年の世界を読み解く「ISSUES 2018」特集。グレン・カール(元CIA諜報員)、ジョン・サイファー(ニュースサイト「サイファーブリーフ」国家安全保障アナリスト)、小池百合子(東京都知事)、マリア・コリナ・マチャド(選挙監視団体スマテ創設者)、アレクサンダー・フリードマン(資産運用会社GAMのCEO)、トニー・ブレア(イギリス元首相)らが寄稿したこの特集から、米中トップが自由主義の世界秩序を破壊しかねないと指摘する記事を転載>
巧みな交渉手腕と対中強硬路線を売りにしてきたビジネスマン大統領の面目躍如ということなのだろう。11月前半にアジアを歴訪したドナルド・トランプ米大統領は、中国で総額2500億ドルを超す商談の成立を発表し、意気揚々と帰国した。
しかし、これは空疎な勝利でしかない。商談の多くは拘束力がないもので、契約が実現しない可能性が高い。しかも、仮にこの全てが実現したとしても、アメリカの巨額な対中貿易赤字を生んでいる構造的要因はほぼ変わらない。トランプと中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は、中国市場への外国企業のアクセスなど、根本的な問題について公に意見を戦わせることは慎重に避けた。
中国をアメリカと肩を並べる大国と位置付けたい習は、共同記者発表で「大国の協調と協力」を訴えた。しかし、「協力」という言葉とは裏腹に、2人の間の摩擦は隠せなかった。摩擦の要因は両者の相違点ではなく、共通点のほうだった。
口の悪さで知られる不動産王と、口の重い共産党エリートに共通点などなさそうに見えるが、彼らはよく似た地政学観(「地経学観」と言ったほうがいいかもしれない)の持ち主だ。
2人とも声高にナショナリズムを叫んでいる。「アメリカを再び偉大にする」というトランプのキャッチフレーズは、習のスローガンである「中華民族の偉大な復興」や「中国の夢」と重なり合う。いずれも、自分たちの国が今より敬意を集めていたり、力を持っていたりした日々へのノスタルジアが投影された言葉だ。
ナショナリズムは、2人のリーダーの経済政策にも影を落としている。ひとことで言えば、トランプと習は重商主義的な発想で経済を見ている。
トランプが貿易赤字の解消に血道を上げるのは、「貿易赤字=国の弱さ」という誤った認識を持っているからだ。重商主義の経済観では、貿易黒字は国の強さとイコールと見なされる。習が自国の市場を固く閉ざす一方、世界の市場に進出しようとするのも、貿易黒字を積み上げたがる重商主義的な発想に基づく行動と言える。
ナショナリスティックな重商主義の下では、国と国の交渉は経済のパイの分捕り合戦にならざるを得ない。世界経済を発展させるための包括的な合意がまとまることは難しく、個別の問題に関する商取引型の交渉に終始するのだ。
リーダーのコストを嫌う
トランプと習は17年春、アメリカの牛肉輸出など10項目の合意に達した。目を見張る成果と宣伝されたが、これは商取引型の合意でしかなかった。
このような状況が両国の経済に及ぼす影響は大きい。トランプが対中貿易赤字の是正を望んでいても、大型の商談をまとめるだけではその目標を達成できない。2国間、できれば多国間でもっと広範な仕組み作りに合意しない限り、アメリカの対中貿易赤字の拡大は止まらず、両国の経済関係はいっそう悪化する恐れがある。
それにこのやり方では、中国が非自由主義的な秩序を築いて好きなように振る舞う状況に歯止めをかけられない。トランプが自由主義の原則を守ることを二の次にし、商取引型の交渉に走る限り、中国はますます国内外で非自由主義的な手法を実践しやすくなる。
アメリカと中国だけではない。近年、多国間の枠組みではなく、2国間交渉で問題を解決することを好む国が増えている。ほかの国々も2つの超大国に倣い、自由主義の原則を追求するよりも、商取引型の交渉に走り始めているのだ。
例えば、THAAD(高高度防衛ミサイル)の配備をめぐって中国との関係が緊張している韓国がそうだ。北朝鮮問題という地域の安全保障上の脅威について話し合うことよりも、中国による経済的圧力を緩和するための取引をしようとしてきた。
トランプは中国の保護主義への対抗手段として、商取引型の2国間交渉を選んだ。だがもし彼が多国間の枠組みを作って本気でこの問題に立ち向かおうとしたならば、国内外から広範な支持が得られたはずだ。
米国内では国防や経済界の利益を重んじる共和党員だけでなく、民主党や労働組合からも支持を得られただろう。国際社会でも、中国の容赦ない保護主義に悩む国々から幅広い支持が集まったはずだ。韓国や日本、オーストラリア、ドイツ、それにイギリスの当局者は、いずれも中国の保護主義への不満を隠さない。
多くの国がTPP(環太平洋経済連携協定)に参加したのも、中国の保護主義への反発という意味合いが強かった。TPPを当初、推進したのはオバマ政権下のアメリカだったが、トランプ政権によって息の根を止められた。
トランプに世界を牽引する意思がないことも、自由主義に基づく強い「ノー」を中国のナショナリズムに突き付けるという世界の期待に応える意思がないことも明らかだ。安易な商取引型の交渉は短期的な利益をもたらすかもしれない。だが、かつてアメリカが主導した多国的枠組みの経済的な大義はどこかに消えてしまう。
トランプが多国間の枠組みを作ることに二の足を踏む理由の1つは、世界のリーダーという特権的な立場を維持するにはコストがかかるとはっきり認識している点にある。自由な貿易や投資市場も大きな利益と共に負担をもたらす。米ドルが世界通貨になった理由の一端は、アメリカが大幅な貿易赤字をいとわなかった点にあった。
【参考記事】安倍首相が2018年に北朝鮮を電撃訪問すべき理由
まさに「中国の思う壺」
アメリカは、世界のリーダーとしての地位や自由主義市場(アメリカはこれらの最大の受益者でもある)に伴うリスクを軽減することに目を向けるべきだ。かつてのアメリカは自由主義の原則を守るためのコストやリスクを進んで背負ってきた。自ら進んで原則に縛られ、WTO(世界貿易機関)のような多国間の枠組みにおいて議論に負けるリスクも受け入れてきた。
だが、中国にはそのような意思はない。経済規模にものを言わせて、原則に縛られることを拒んでいる。
もしトランプや習のような経済観や交渉観が広がれば、自由主義の原則に基づく世界秩序の行方も危ういものになりかねない。イギリスのEU離脱やNAFTA(北米自由貿易協定)再交渉、南シナ海をめぐる領土問題といった例を見ても、ナショナリズムに基づく商取引的な2国間交渉が幅を利かせつつあることがうかがえる。
トランプ政権は孤立主義的ナショナリズムへと引きこもり、かつてアメリカが主導した自由開放路線から得られる利益がいかに大きいかを認めようとしない。これではまさに中国の思う壺だ。2国間交渉で中国に働き掛けても根本的な問題の解決にはつながらない。そればかりか、アメリカ自身がかつて築いた自由主義の秩序を守ることに無関心であると、あからさまに示すことにもなる。
From Foreign Policy Magazine
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