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トランプの石油制裁で一層高まる「第2次朝鮮戦争」の危機
http://ironna.jp/article/8559
2018/01/01 00:48 『重村智計』 iRONNA
重村智計(早稲田大名誉教授)
国連安全保障理事会は12月22日、北朝鮮の石油製品輸入を年50万バレル(約7万トン)に削減する制裁を可決した。制裁案をまとめた米国は、朝鮮人民軍の崩壊を意図している。それを知りながら中露両国は同意した。2018年の朝鮮半島は、軍事衝突からクーデターなどの危機が高まる。その回避には日朝首脳会談の実現しかない。
北朝鮮の石油製品輸入量は16年が約70万トンだった。大半は戦闘機用のジェット燃料(灯油)や戦車用の軽油だ。それが7万トンに削減されれば、軍は演習や作戦を展開できない。戦争しない自衛隊でさえ、年150万トンの石油を消費することを考えれば、あまりにも少ない。
2017年12月22日、北朝鮮に対する制裁決議を採択した国連安保理の会合で、制裁に賛成の挙手をする米国のヘイリー国連大使(手前右、AP=共同)
輸入原油は約50万トンだが、中国の大慶油田から出る質の悪い原油なので、軍事用の軽質油は最大25万トンしか生産できない。輸入製品と合わせた30万トンの軍用石油では、朝鮮人民軍は維持できない。戦車は動かず、戦闘機も飛べず、やがて軍は戦闘能力を失う。軍の崩壊は体制崩壊につながる。
北朝鮮は、なおミサイル発射と核実験をする計画だが、制裁で石油供給が底をつけば朝鮮人民軍は崩壊へ向かう。安保理決議は、北朝鮮がミサイル発射や核実験をすれば、原油を含む「petroleum(石油)」をさらに削減するとの制裁を明記したからだ。
では、次に何が起きるのか。可能性が四つある。「北朝鮮の譲歩」「クーデター」「北朝鮮の暴発」「米軍の核施設限定攻撃」である。
金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が、国連安保理制裁の圧力に屈し、核やミサイルの実験を止めて譲歩する可能性はまずない。石油の供給が激減すれば、「このままでわが国は大丈夫か」との思いが軍内部に広がる。中国は北朝鮮軍部のクーデターや米軍の核施設攻撃などに備え、難民受け入れ施設を建設している、と報じられた。
党機関紙、労働新聞は12月18日、故金正日(ジョンイル)総書記の命日(17日)に、金委員長が金総書記と金日成(イルソン)主席の遺体が安置される錦繍山(クムスサン)宮殿を参拝した写真を、一面に大きく掲載した。奇妙なのは、指導者1人の参拝写真だった。例年であれば高官や軍人を後ろに引き連れていたはずだ。
どうも、多くの高官が交代した事実を見せたくなかったようだ。10月の党中央委総会で多くの高官が姿を消した。新任人事は発表されたが、前任の高官たちがどうなったかは伝えられなかった。しかも、首脳部に登用されたのはまったく無名の人物だったのである。
金正日総書記の逝去6周年に当たる2017年12月17日、
金日成主席と金総書記の遺体が安置されている
平壌の錦繍山太陽宮殿を訪問した金正恩朝鮮労働党委員長
(朝鮮中央通信=朝鮮通信)
この人事の変動を国民にまだ知らせたくない事情がある、と中国では分析している。この事実から北朝鮮国内の不安定さを感じている。人事の若返りに老幹部は不満だ。軍部でも、軍を抑える力のある老幹部が姿を消している。2018年の北朝鮮内部は石油制裁により一層不安定になるだろう。
北朝鮮兵士が11月に板門店から韓国に亡命した。彼が「自由にあこがれて」亡命したというのはウソである。命をかけて逃げたのだから、「命の危険」があったと考えるべきだ。逮捕されるか、処刑される危険があったのだ。韓国の音楽をひそかに聴いてビデオを見ていたのか、直属上官がクーデター計画に加わった、などの不祥事があったのだろう。「命の危険」を語らない亡命はウソである。韓国の情報機関はこの危険を隠している。
金委員長は2018年に「核保有国宣言」を行う。これにトランプ大統領は激しく反発するだろう。なお「核実験」と大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を行う意向も示しており、そうなれば石油供給はさらに減少する。
軍部の核開発継続の意向はなお強く、指導者もそれを抑えられない。ただ、2018年前半の実験はかなり難しい。2月の平昌冬季五輪前のミサイル発射は、いくら「人工衛星の打ち上げ」と強弁しても、世界の非難を集める。北朝鮮は冬季五輪に参加せざるをえない事情もあるからだ。3月から4月に入ると、大規模な米韓合同軍事演習が展開されるが、演習中に実験すれば攻撃されるかもしれないと北朝鮮は恐れる。
そうなると、北朝鮮が核とミサイル実験に踏み切れるのは5月以降とみられる。2018年後半からはトランプ大統領による軍事攻撃の危険が高まる。これを阻止するためには日朝首脳会談を模索する、それが02年の小泉純一郎・金正日会談の教訓である。
米国のティラーソン国務長官は、12月初めに「北朝鮮との前提条件なしの対話」を呼びかけたが、3日後に発言を修正した。何があったのか。ティラーソン長官は12月15日、国連安保理の閣僚級会合後の記者会見で、「大統領の方針は明確だ。軍の準備は整っている」と、北朝鮮攻撃の可能性を強調した。
マティス国防長官は同日、「北朝鮮のICBMはまだ米国の脅威ではない」と、軍事攻撃に否定的な態度を示した。軍事攻撃に踏み切りたくない立場だ。
国務長官と国防長官の発言から浮かび上がるのは「トランプ大統領が本気で軍事攻撃を考えている」との示唆だ。トランプ大統領と会談したグラム上院議員は、北朝鮮が核実験をすれば「軍事攻撃の可能性は70%」、ICBMの発射なら「30%」と述べている。
2017年11月、北朝鮮をテロ支援国家に再指定すると表明したアメリカのトランプ大統領(右)=ワシントン(UPI=共同)
米紙ニューヨーク・タイムズは12月1日、著名なニコラス・クリストフ記者の「第2次朝鮮戦争の危機」と題した記事を大きく報じ、戦争の危険性を警告した。クリストフ記者は「大統領と補佐官が戦争に言及するときは、真剣に受け止めるべきだ」と歴史の教訓を引き合いに、軍事攻撃の可能性が高いと分析した。この記事の背景には、米国の大統領や高官、報道官は決して「ウソをつかない」という文化がある。「国民をミスリードしない」モラルが生き続けているからだ。むしろ、トランプ氏のようにウソをつく大統領は珍しい。
だが、米軍の軍事攻撃は国際法上簡単でない。国際法に違反した軍事攻撃はもちろんできない。北朝鮮が「ニューヨーク、ワシントンを攻撃できる」と言い続ければ、自衛のための攻撃との理由づけは可能だが、苦しい説明だ。とすると、北朝鮮の暴発だけが軍事攻撃を可能にする。トランプ大統領は、そのために北朝鮮を追い詰め、挑発している。脳裏には石油供給削減を続ければ、北朝鮮は何らかの軍事行動に出るとの計算があるのである。
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