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シリア電撃訪問で見せたプーチンの“勝負勘”エルサレムで影響力拡大
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/11383
2017年12月12日 佐々木伸 (星槎大学客員教授) WEDGE Infinity
ロシアのプーチン大統領(65)は11日、シリアを電撃訪問し、過激派組織「イスラム国」(IS)との戦いに勝利したと宣言、ロシア軍の撤収開始を命じた。同氏は、その足でエジプト、トルコも歴訪、中東での影響力増大を誇示したが、エルサレム問題で米国が窮地に立たされている状況に付け入った国際政治の“勝負勘”に、「狡猾かつ大胆」と外交専門家も舌を巻いている。
■巧みなすり替え
プーチン氏が今回のシリア電撃訪問を決断したのは、トランプ米大統領がユダヤ、キリスト、イスラム教の聖地、エルサレムをイスラエルの首都と認定したことに対し、中東を中心に世界各地で反米デモが起きるなど米国が窮地に押し入っている状況をにらんでのものだ。巧みな政治的計算に立った上での行動であり、鮮やかとも言える“勝負勘”だ。
プーチン氏はシリア軍とともにISなどテロ集団を壊滅させたとし、シリア駐留ロシア部隊の「相当部分」を撤収させることを命じた、と言明した。しかし「この勝利宣言は巧みなすり替えだ」(ベイルート筋)。2015年秋に軍事介入したロシア軍が実際に行ったのは、バッシャール・アサド政権との内戦を戦っていた反政府派勢力への徹底した空爆だ。
これにより、崩壊瀬戸際だったアサド政権は立ち直り、逆に米欧やサウジアラビアなどが援助していた反政府勢力が劣勢になって、現在はほぼ壊滅状態。ロシア軍はそもそも、ISに対する空爆はたいして実施していない。
ISを壊滅させたのは米主導の有志連合軍であり、ロシアは補助的な役割を担ったに過ぎない。プーチン氏は反政府勢力もすべてテロ集団である、と巧みにすり替え、有志連合の成果を横取りしたと言えるだろう。しかも、ロシア軍の撤収も命じたとしたが、昨年3月にも部隊の撤収を言明しながら、実際にはロシア軍の駐留規模はさほど縮小しなかった。今回も注視する必要がある。
■権益と存在感を拡大
プーチン氏が今回の訪問で降り立ったのは、ロシア空軍の拠点であるシリア西部ヘメイミーム空軍基地。ロシアはこれまで地中海に面したタルツースに海軍基地を保有していたが、プーチン氏は、今後はヘメイミーム空軍基地もロシア軍の「常駐基地」として継続使用することを明らかにした。
報じられるところによると、ロシアは7月、アサド政権からこの空軍基地を49年間借り受けることで合意したという。アサド大統領にとっても、ロシアの軍事力が政権を維持する上で必要であることから双方の思惑が一致した。ロシアはシリアへの軍事介入によって、軍事的な権益を拡大したことになる。
プーチン氏はシリアからエジプト、トルコを駆け足で訪問、両国では米国のエルサレム首都宣言を批判した。カイロではエジプトのシシ大統領と会談し、エジプトの空軍基地と領空通過をロシア軍機に容認することで合意したのをはじめ、原発4基を建設する約300憶ドルに上る協定の締結や、ロシア航空機の観光直行便の再開なども合意した。
エジプトはかつて旧ソ連の影響下にあったが、サダト大統領時代に米国寄りに外交方針を転換。以来、米国はこの40年間で700憶ドルもの巨額な援助を続けてきた。しかし、欧米の支配を嫌うシシ大統領がこのところロシアに接近、プーチン氏は米国に比べ、ほぼただで、空軍基地の使用を手に入れた。
プーチン氏はエジプトからトルコに飛び、エルドアン大統領とも会談。最新鋭のS400迎撃ミサイルの売却で合意した。両首脳の会談はこれが今年8回目。北大西洋条約機構(NATO)の一員であるトルコとの関係を急速に強化しており、米欧の懸念に拍車を掛けている。
■選挙向けに布石
今回のシリア訪問はロシア国内政治を意識してのものでもある。プーチン氏は12月6日、来年3月18日の大統領選挙に通算4選を目指して出馬することを宣言。国民の愛国心の高まりを背景に80%という高い支持率を誇っており、再選が確実視されている。
同氏は訪問時の発表で、テロとの戦いに勝利したとして、シリアでの軍事的成果を誇るとともに、2月初めから始まる選挙戦に先立ち、軍の撤収を決めて重荷を軽くし、野党からの批判に備えようという思惑が透けて見える。
米紙などによると、プーチン氏4選出馬の影では、後継者争いが本格化。同氏に群がって利権という甘い汁を吸ってきたインナーサークルの面々は戦々恐々で、ポスト・プーチン時代にも、自分たちの利権を守れるよう、水面下では後継者探しが激化している、という。
プーチン氏自身にとっても大統領を退陣した後の身の安泰を図ることが極めて重要になっている。大統領の任期は6年間、2024年までだが、自分の言いなりになる後継者を据えたとしても、後継者が失敗すれば、その後の政局によっては、プーチン氏自身も過去の罪を問われかねない。なによりも、スパイ出身の同氏は人を信用していない。
このため一部では、プーチン氏が大統領退陣後も院政を敷くため、憲法を改正し、最高軍事評議会や最高安全保障評議会といった新しい組織を発足させ、自らがその議長に就任するつもりではないか、との憶測も呼んでいる。
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