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「トランプ大統領 アジア歴訪の成果は」(時論公論)nhk
2017年11月13日 (月)
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/284082.html
出石 直 解説委員
加藤 青延 解説委員
橋 祐介 解説委員
アジア諸国を訪問していたアメリカのトランプ大統領は、あすフィリピンのマニラで開かれる東アジアサミットに出席して、10日間あまりに及んだアジア歴訪の旅を終えます。▽核ミサイル開発を続ける北朝鮮への対応、▽台頭著しい中国との関係。初めてのアジア訪問で、トランプ大統領はどんな成果を残したのでしょうか。
(出石)
今月5日に来日したトランプ大統領は、日本、韓国、中国で首脳会談を行い、その後、ベトナム、そしてフィリピンで国際会議にも出席して、長いアジア訪問の旅を終えようとしています。アメリカ担当の橋さん、トランプ大統領は今回の訪問で満足できる成果を上げることはできたのでしょうか?
(橋)
もともと政権発足から10か月足らずで、これが初めてのアジア歴訪。しかも、外交を実務から支える体制すら完全には整っていない現状で、トランプ大統領が“致命的な失態”を演じなかっただけでも評価には値します。とりわけ北朝鮮に対する圧力強化のメッセージを鮮明に打ち出したことで、所期の目的は、一定程度、達成できたとも言えるでしょう。しかし、アメリカは、中国が存在感をますます高めているアジアとどう関わっていくのか?そうした長期的な観点から見ますと、トランプ大統領の言動は一貫性も明確性も欠き、具体的な成果に乏しかった印象は拭えません。
(出石)
中国担当の加藤さん、今回のアジア歴訪で、もっとも注目されていたのは中国の習近平国家主席との首脳会談でした。中国政府は“国賓以上”の待遇で受け入れたとのことですが、中国政府は今回の訪問をどう評価していますか?
(加藤)
トランプ大統領を上機嫌にすることができて、大変うまくいったと評価していると思います。先の共産党大会を経て2期目をスタートさせた習近平指導部にとって、今回の米中会談は絶対に失敗できない最初の外交試練の場となりました。中国としては、トランプ大統領を下にも置かない破格の手厚い待遇でもてなすことで、うまく丸め込もうとしたように見えます。“国賓待遇以上”のもてなしと、総額28兆円にものぼる“経済プレゼント”を差し出すことで、トランプ大統領の牙を抜くことに成功したと感じているのではないでしょうか。
(出石)
では個別の問題についてみていきます。まず北朝鮮です。
韓国の国会で行った演説で大統領は「ならず者国家の核の脅威は容認できない」
「我々を過小評価すべきではない」「力による平和を求めていく」と強い言葉で警告しました。さらにキム・ジョンウン委員長へのメッセージだとして次のように述べました。「北朝鮮はあなたのおじいさん(キム・イルソン主席)が思い描いた楽園ではない。誰にとっても地獄だ」
橋さん。一国の首脳とは思えない激しい言いぶりですね。
(橋)
そうしたトランプ大統領らしいとも言える過激な表現はどうあれ、アメリカは“あらゆる選択肢を排除しない”。軍事的にも経済的にも、北朝鮮に対する圧力を最大限に高めることで、核とミサイルの放棄に向けて、譲歩を引き出そうというのが、トランプ政権の基本方針です。
トランプ大統領は、そうした方針のもと、東アジアの各首脳と会談に臨んだ結果、安部総理大臣との間では、日米の立場は“完全に一致”。
続く韓国では、米韓同盟を重視する姿勢をアピールしたものの、北朝鮮への融和政策に傾くムン・ジェイン大統領との間には、“温度差”が残りました。
そして最大の焦点は、やはり中国の習近平国家主席との米中首脳会談でした。米中の立場は、朝鮮半島の非核化を目指すという、いわば総論部分では一致したものの、具体的な対応では、中国との意見の隔たりを埋めることはできませんでした。
(加藤)
私は、今回米中首脳が異常なほど親密な関係をアピールしたのは、北朝鮮に見せ付け、けん制しようという思惑があったからではないかと見ています。本来、会談に臨む米中双方の思惑にはかなりの“違い”があったはず。ところが、あえてその“違い”には深入りしませんでした。中国は、北朝鮮側と罵り合ってきたトランプ大統領を“国賓以上の待遇”でもてなしました。一方、トランプ大統領は、習近平国家主席を「掛け替えのない人物だ」と褒め称えました。
(出石)
思惑の違いがありながら、友好ムードだったのはどうしてでしょうか?
(加藤)
米中首脳が互いに持ち上げあった本当の狙いは、“米中の関係改善”と言うよりは、むしろ“米中の親密さこそが北朝鮮に対する最大の圧力になる”という双方の思惑の一致ではなかったかと思います。つまり米中共演による“当てつけ外交”だったと言えるかもしれません。強大な軍事力で北朝鮮に圧力をかけるアメリカと、経済面で北朝鮮の懐を握る中国とが、笑顔で手を握りあう姿。それを見せ付けられた北朝鮮の指導者たちは、心中穏やかでなかったのではないでしょうか。
(出石)
問題は、圧力を最大限に強めれば、北朝鮮が非核化に応じるのかという点です。たしかに北朝鮮は、トランプ大統領のアジア歴訪中核実験やミサイル発射は行わず、なりを潜めています。しかし、労働新聞の論調などを見る限り、圧力だけで非核化に応じるとは思えません。圧力が通じなかった時にどうするのか、“対話”に転じるのか、それとも“軍事力”を行使するのか、もっとも重要な出口戦略が見えてきませんでした。
一方でトランプ大統領は、今回の訪問で、アメリカ製兵器の大量購入を日本と韓国に約束させました。日本は次期戦闘機や迎撃ミサイルを、韓国は数十億ドルの軍事装備をアメリカから購入するといいます。果たしてトランプ大統領は本気で北朝鮮の非核化を目指しているのか。単に危機を煽って兵器を売ろうとしているのではという疑念すら抱いてしまいます。
キム・ジョンウン委員長を“冷酷な独裁者”と呼んだかと思えば“友人になろうと努力している”とツイッターでつぶやくなど、言動に一貫性がなく、真意をつかめないというのが正直な感想です。
(出石)
さて、今回のトランプ大統領のアジア訪問で、もうひとつ注目されていたのが、米中関係の行方でした。北朝鮮へのアプローチの違いに加えて、トランプ大領は中国との巨額な貿易赤字を問題視していたからです。対米貿易赤字は、日本にも関わってくる問題ですが、中国側はトランプ大統領の批判をどう交わしたのでしょうか?
中国側はトランプ大統領の批判をどう交わしたのでしょうか?
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(加藤)
中国側は、前回の米中首脳会談で約束した「100日行動計画」をうやむやにしつつ、あらたに28兆円のプレゼント、つまりアメリカ製品の購入や投資契約を用意することで、トランプ大統領のメンツを立てました。実は、この28兆円という金額は、中国側の貿易統計で示された去年の対米貿易黒字の金額そのものでした。「もうけた分そっくりお返ししますよ」という“つじつま合わせの数字”だったように思います。
経済プレゼントの中でも、航空機や農産物などの大量購入は、これまで中国が貿易格差で攻められたときに繰り出す定石の手段です。今回は購入品目に半導体も加わりましたが、結局、中国製のスマートフォンに使われてアメリカにも再輸出され、“行ってこい”になるかもしれません。
(橋)
たしかに今回の米中の商談の中身を詳しく見てみると、トランプ政権の発足以前から決まっていたとおぼしき契約も含まれていたようです。目玉とされたエネルギー分野での協力案件も、単なる覚書に過ぎず、実現の可能性に疑問を呈する見方もあります。ともかく首脳会談を華々しく演出するため、体裁を取り繕うことを優先したかたちです。
その一方で、トランプ大統領は、歴代のアメリカ大統領が必ずと言って良いほど言及してきた中国国内の自由や人権の問題には触れませんでした。米中主導で地球温暖化対策に取り組もうとしたオバマ前大統領のような意気込みも、知的財産権やサイバー攻撃の問題など米中2国間の懸案を、新たな国際ルールづくりとして論じようという視点も感じられませんでした。
それどころか米中の貿易不均衡がここまで大きくなったのは、当の「中国の責任ではない」として、批判の矛先をアメリカのオバマ前政権に向ける発言も飛び出しました。今後の外交交渉で自国に不利益となりかねないこうした発言は、きわめて異例です。
南シナ海での人工島の建設問題でも、中国に対して本来、直接言うべきことを当の中国では言わない“場当たり的な言動”が、中国による独善的な影響力の拡大を警戒する他のアジアの国々に不信の念抱かせたこともまた確かでしょう。
(加藤)
私は、中国がアメリカに示した28兆円のプレゼントの中でも、中国が最大の商談額になったとしているシェールガスの開発プロジェクトには、中国側のしたたかな戦略が隠されていると思います。この契約は、中国最大手の国家エネルギー投資集団が、アメリカのウェストバージニア州でシェールガスをアメリカと共同開発しようというものです。ただ、中国が欲しいのは、その事業から得る利益よりも、シェールガス発掘の技術でしょう。実は中国国内にも内陸部を中心に膨大なシェールガスが埋まっています。このプロジェクトを通じて技術を取得できれば、やがて中国が世界屈指のシェールガス産出国になれるという長期戦略が見て取れます。
(出石)
ここまで対北朝鮮政策、米中関係と見てきました。ビジネスマン出身で外交はあまり得意とは言えないトランプ大統領にとって初めてのアジア訪問でしたが、トランプ政権は今後、アジア諸国とどう関わっていこうとしているのでしょうか?
(橋)
いまトランプ政権は、TPP=環太平洋パートナーシップ協定から離脱を表明したことで、実質的にアジアに対する“足がかり”を失おうとしています。そこで目をつけたのが、安倍総理大臣がかねて打ち出していた「自由で開かれたインド太平洋戦略」でした。成長著しいアジアと潜在力あふれるアフリカをつなぐインド・太平洋を自由で開かれた地域とすることで、地域全体の安定と繁栄を目指す。そのために日米とインド、オーストラリアといった「価値観を共有する国々」が戦略的な連携を強化し、賛同の輪を広げていこうという構想です。
しかし、トランプ大統領には、そうした構想の実現に向けたプランをじっくり練った形跡はうかがえません。現に、この構想をテーマに大統領がスピーチした際は、「2国間での貿易交渉を推し進めていく」と明言し、“多国間での枠組み作り”には背を向ける姿勢を示しました。法による支配、あるいは自由と民主主義といった理念が、トランプ大統領の口から高らかに語られることもありませんでした。確固とした戦略を欠いたまま「アメリカファースト」の名のもとに、その場その場でみずからの実利を貪欲に追求する。それが今のトランプ大統領によるアジア政策の実態なのかも知れません。
トランプ大統領自身は、今回のアジア歴訪の成果を自画自賛することでしょう。しかし、中国の台頭と、アメリカによるリーダーシップの低下で揺れ動くアジア各国の不安は、今後おさまらないどころか、むしろ高まっていくのではないでしょうか。
(加藤)
一方、中国は「一帯一路」の構想を掲げています。これは、太平洋を隔てて東側に位置するアメリカとは張り合わずに、アメリカ側とは逆方向の西側に勢力を拡大するという中国の意思表示でもあります。そのせいか、今回トランプ大統領はさほど関心や反発も示しませんでした。
ただ、中国のこの構想は、安全保障の面から言えば、東南アジアやインド洋におけるアメリカのプレゼンスを将来的に揺るがしかねない中国の基盤整備になるという点も忘れてはならないでしょう。
(出石)
アジアは人口も多く、これからますますの成長、発展が期待される地域です。しかしその一方で、北朝鮮による核ミサイル開発や中国の軍事力増強など、不安定要素も少なくありません。アジアの平和と繁栄をどうやって築き上げていくのか。そして超大国アメリカはそのアジアにどう関わっていこうと考えているのか。10日間以上に及んだ異例の長旅だったにも関わらず、トランプ大統領の発言からは、そんな大きなビジョンは伝わってきませんでした。
アメリカに戻ったトランプ大統領が、アジア歴訪で得た経験を今後のアジア政策にどう生かしていくのか注目していきたいと思います。
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