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サウジ突然の政変、その真の狙いはどこにある
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/11/post-8931.php
2017年11月17日(金)15時40分 アイザック・チョティナー(スレート誌記者) ニューズウィーク
ムハンマドはサウジアラビアの現代化を推進する人物として評判だが Hamad I Mohammed-REUTERS
<汚職を理由に王子ら有力者を拘束。逮捕を指示した皇太子の思惑とサウジアラビアに迫る政治・社会的変化とは>
サウジアラビア政府が11月4日、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子の指示の下、王子や大物実業家、現職閣僚ら有力者数十人を一斉に逮捕した。王子11人の中には、国際的投資家でシティグループやツイッターの大株主であるアルワリード・ビン・タラルも含まれる。
一斉逮捕の理由は汚職とされているが、サウジアラビアが困難な移行期を迎えるなか、ムハンマドが権力強化に動きだしたことはほぼ間違いない。同国は中東で、イランとの激烈な主導権争いにはまり込んでいる。その一方、国家の生命線となってきた石油の未来に対する懸念が高まり、国内では社会変革への欲求が広がる。
ムハンマドは宗教界の権力を制限する策を講じ、国内で禁じられてきた女性の自動車運転の容認を後押しした人物だ。しかし隣国イエメンでの血みどろの内戦の「黒幕」でもあり、自らへの異議を許さない。
果たして、最新の動きは何を意味するのか。ムハンマドが望む変化とはどのようなものか。汚職取り締まりの真の狙いは何か。米ウッドロー・ウィルソン国際研究センターのデービッド・オッタウェイ中東担当研究員に、スレート誌記者アイザック・チョティナーが電話で話を聞いた。
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――今回の一斉逮捕をどう捉えるべきか。
おそらく(ムハンマドは)権力固めを進め、王位継承の障害を排除しようとしている。父親のサルマン国王はもう81歳で、健康状態が良くない。だが同時に、これは新たな統治の形へ向かう動きでもあるのではないか。従来のように複数の王子が権力を共有するのではなく、1人が権力を掌握する形だ。
――今回の一件にイデオロギー的な側面はあるのか。
イデオロギーの問題ではないし、本質的には政府内の汚職と戦う取り組みですらないと思う。新たに立ち上げた汚職対策組織の名の下での動きだが、目的は汚職撲滅ではないはずだ。
――ムハンマドは「現代化」を掲げる人物として評判だ。イデオロギーが無関係なら、背後には何か実質的な狙いがあるのか。
ムハンマドは現代化に着手しているが、それが理由で一斉逮捕に踏み切ったのではない。
彼は女性や若者層が抱く要求の一部を実現しようとしている。職を求める声、より自立して生きたいと願う女性の声に応えようとしている。(その結果として)来年6月から女性の自動車運転が解禁される。さらに、女性に対して経済分野の門戸も開こうとしている。
石油への全面的依存から脱却しようとしている点で、ムハンマドは経済の現代化も目指しているといえる。しかし、今回逮捕された人々は現代化に反対していたわけではないはずだ。
――どこか中国と似ている。中国も指導者の主導の下で反腐敗運動を展開しているが、体制そのものが腐敗しているせいで、指導層の家族も含めた誰もが汚職に関わっている。問題は誰が汚職をしているかではなく、当人がどんな地位にあるかだ。
サウジアラビアは縁故資本主義の国だ。特に外国人投資家は、有名な王子や地元の大物実業家と組まなければ仕事ができない。そんなシステムが何十年も存続している。王族とビジネス関係者の間には緊密なつながりがある。今回逮捕された者が裁判にかけられるかはまだ分からないが、そうなったら驚きだ。
――裁判にならないとしたらどうなるのか。
彼らの一部は(名門ホテルの)リッツ・カールトンで拘束されているというから、悪い待遇じゃない。ある程度の時間がたてば釈放され、ほんの少数が起訴されるのではないか。
だがムハンマドが、タラルら高位の王族や重要人物を拘束したのは事実だ。タラルは190億ドル近い資産を持つサウジ最大の富豪というだけではない。世界屈指の大富豪だろう。
――ムハンマドは中東でどんな役割を果たそうとしているのか。とりわけイランをめぐっては攻撃的な構えのようだが。
「味方でなければ敵」というのが彼の態度だ。
――それがまた効果的だ。11月4日には、レバノンのサード・ハリリ首相がサウジ滞在中に辞任を発表した。
サウジアラビアはハリリに対して相反する態度を示してきた。(辞任せよと)圧力をかけたかは分からない。ハリリを暗殺する陰謀があったというが。
ハリリが強い指導者ではなかったこともある。(レバノンのシーア派軍事組織)ヒズボラに十分な対策を取らないと判断して、サウジアラビアはハリリ支持をやめたのかもしれない。
――ムハンマドは一斉逮捕の前にドナルド・トランプ米大統領の上級顧問ジャレッド・クシュナーに相談し、トランプ政権から「承認」を得たとの説もある。
その説のささやかな証拠と言えるのが、アジア歴訪中のトランプが(11月4日に)わざわざサルマン国王に電話して、現代化の動きをたたえたという事実だ。一斉逮捕については何も言っていないが、北朝鮮問題がのし掛かるなかでサルマンに電話をしたのは異例のことだ。クシュナーが実際にサウジアラビアにいて、ムハンマドを支持したという説の信憑性を高める。
――サウジ国民の待遇改善、サウジアラビアが地域および世界で、より有害でない役割を果たすことを望むアメリカ人という立場でみた場合、今回の一件とこれまでの数カ月間についてどう考えるか。
サウジアラビアは石油依存をやめなければならない。私に言わせれば、(ムハンマドは既に)脱石油を目指す経済改革計画を発表し、経済の原動力を民間部門に切り替えるなど真剣な取り組みを始めている。それこそサウジアラビアにとって必要なことであり、素晴らしいビジョンだ。実現できるかどうかは別の話だが。
社会的な側面では、超保守的な宗教界を相手にムハンマドは戦っている。宗教界はあらゆる手段を使って、特に女性をめぐる変化を阻もうとしてきた。サウジアラビアは女性の自動車運転を禁じていた世界で唯一の国で、女性の運転禁止は国家のイメージを悪くするだけだった。これを変えようとする過去数十年間の努力がやっと実った形だ。
だが政治面では、王子など自らの親族に対するムハンマドの強硬姿勢は多くの敵をつくり、多くの不満を引き起こしているのではないか。
――サウジアラビアは外交面でも引き下がる気配がない。
ムハンマドは極度の反イラン派で、イランに対抗することばかりを考えている。その点が変わることはない。
変わり始めているのは統治法だ。1人の王子が権力を掌握するのは前代未聞といっていい。短・中期的にどんな反応を引き起こすのか。新しい形に適応するのか、反ムハンマドの動きが始まるのか......。次に何が起きるかは分からないが、サウジアラビアの統治は大きな転換点を迎えている。
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