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過激派の根絶やし作戦推進へ、トランプ政権が暗殺の規制緩和
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10654
2017年9月25日 佐々木伸 (星槎大学客員教授) WEDGE Infinity
トランプ米政権はイスラム過激派の根絶やし作戦に大きくカジを切った。米国はこれまで、武装無人機と特殊部隊による「標的殺害」の対象を上級幹部に絞ってきたが、その規制を撤廃し、下っ端の戦闘員にまで拡大する見通しだ。過激派組織「イスラム国」(IS)が壊滅した後、勢力の拡大が懸念される国際テロ組織アルカイダを見据えた政策転換と受け止められている。
■ナイジェリアからフィリピンまで
トランプ政権のこの新方針は米紙ニューヨーク・タイムズ(9月21日付)が特ダネとして報じた。それによると、トランプ政権の安全保障担当の当局者らは過去数カ月に渡って検討を続け、9月14日の閣僚級会合で中身を確定し、署名のためトランプ大統領に送った。大統領の署名は確実と見られている。
「標的殺害」は過激派幹部の身元を確定し、標的を絞って武装無人機や特殊部隊の急襲で殺害ないしは捕獲する政策。オバマ前大統領が2013年にその基準を定めた。その対象は原則的に「米国人に対し、継続的かつ切迫した脅威を与えている」と見なされる上級幹部に限定された。
しかし、標的の確定には政府の安保関連次官級会合での承認が必要で、手続きに時間がかかり、対象を取り逃がしたこともあった。トランプ政権は今回、殺害の対象を上級幹部だけではなく、過激派の一戦闘員にまで拡大し、狙う対象の規制を緩和した。
ただし、「民間人をほぼ巻き込むことのない確認を得る」という作戦発動の条件はそのまま残されることになった、という。トランプ政権の高官の1人は新方針について、オバマ前政権の基準の“官僚化”を一掃するのが狙いと指摘し、承認手続きを簡素化し、素早く効率的に作戦を発動できるようにしたことを明らかにした。
トランプ大統領はすでに、ISとの戦闘では、現場部隊への権限委譲を進めてきたが、新方針によってさらにこの傾向が進む見通し。また無人機攻撃の強化を求めてきた中央情報局(CIA)の要求を認める方向になりそうで、シリア、アフガニスタン、パキスタン、イエメン、ソマリアなどでの作戦が激化する可能性がある。
こうした地域だけではなく、今回の方針により、過激派が活動しているアフリカのナイジェリアからアジアのフィリピンまでの広大な地域での「標的殺害」が可能になったとも言えるだろう。
■アルカイダ再台頭への恐れ
この点について、新方針は一定の歯止めを掛け、新たな国で無人機作戦などを開始する場合は政権の上級レベルの承認が必要、としている。当該の国の選定については、1年ごとに見直しが検討される、という。
しかし、作戦遂行の根拠になっている「自衛権の行使」という理屈には多くの場合、無理があること、米国にとって直接的な脅威とならない国への攻撃には、その国の指導者からの同意が必要なことなど、問題も多い。とりわけ、作戦の規制が撤廃されることにより、民間人の被害が増えるのは確実と見られており、人道的な面から批判が出るのは必至だ。
トランプ政権が新方針の採用に踏み切った背景には、過激派一掃を効率的に進めるという理由に加え、一時はISの台頭の影に沈んでいたアルカイダが再び勢力を盛り返していること、またシリアやイラクで崩壊の瀬戸際にあるISの分派がフィリピンなど東南アジアにまで勢力を伸張させていることに対する危機感がある。
アフガニスタンとパキスタンとの間の部族地帯に本部を置いていたアルカイダは指導者のオサマ・ビンラディンが米特殊部隊に暗殺された後、壊滅状態に陥り、この本部に代わってイエメンの「アラビア半島のアルカイダ」や北アフリカの「マグレブ諸国のアルカイダ」などの分派組織が活動を活発化させた。
■シリアに最大の聖域
米国はこうした分派に対して無人機攻撃などを続けてきたが、ここにきてシリア北西部のイドリブ県に「米同時多発テロ(9・11)以来、アルカイダの最大の聖域ができつつある」(米高官)状況になった。その主役は過激派組織「レバント解放委員会」だ。
同組織はアルカイダ系の分派「ヌスラ戦線」だったが、昨年、組織名を改称し、アルカイダとの関係断絶を表明した。だが、米国はこれについて、米軍の空爆を逃れるための“偽装離婚”と断じ、警戒を強めてきた。同組織には、アフガンなど各地のアルカイダ戦闘員が結集し、今やその勢力は1万人にも膨れ上がっているとされる。過激派界の“新スター”とされるビンラディンの息子もこの中に潜伏している可能性がある。
同組織はシリアの内戦で反体制派に加担し、アサド政権軍やそれを支援するレバノンの武装組織ヒズボラと戦闘を重ね、反体制派では最強の軍事組織にのし上がった。現在はトルコと国境を接するイドリブ県をほぼ支配するまでになり、アサド政府軍と対峙している。
アサド政権は激戦が予想される「レバント解放委員会」との戦闘を後回しにし、まずは東方でのIS壊滅に全力を挙げる方針だが、IS壊滅後には同組織との決戦は必至。しかし、ISのように大きな拠点を構えることなく、ゲリラ戦を得意とする「レバント解放委員会」の一掃は困難で、より広大な地域に戦線が拡大する公算が強い。
トランプ政権はこうした混沌とした状況に対応するためにも、過激派の「標的殺害」の新方針策定を急いだと見られている。だが、最近、「レバント解放委員会」と連携を組む過激派組織がシリア軍支配下の村々に攻撃を仕掛けるなど政権軍との衝突が激化しており、トランプ政権はISに次いでアルカイダにも手を焼くことになりそうだ。
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