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北朝鮮「完全破壊」を支持するトランプ支持者たち
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10645
2017年9月23日 海野素央 (明治大学教授、心理学博士) WEDGE Infinity
今回のテーマは「トランプ国連初演説を読み解く」です。ドナルド・トランプ米大統領は19日、就任後初めて国連総会で一般討論演説を行い、強い口調で核・ミサイル開発を進める北朝鮮を非難しました。トランプ大統領の演説で視聴者が記憶に残った言葉は、北朝鮮に対する「完全破壊」及び「ロケットマン」でしょう。本稿では、この2つの言葉を読み解き、そのうえで現地ヒアリング調査に基づいて北朝鮮問題に対するトランプ支持者の動向について述べます。
国連で演説するトランプ大統領(Drew Angerer/GettyImages)
■言葉の抑止力に依存するトランプ
トランプ大統領は動作を交えながら「金(キム)体制が米国を脅迫し、今後も東アジアを不安定にするならば、自国と同盟国を防衛する準備がある」と述べた後、「北朝鮮を完全に破壊する以外選択肢はない」とこれまでで最も強い警告を発しました。自身のツイッターにも同様のメッセージを投稿しています。
トランプ大統領は、「テーブルの上に全ての(交渉の)選択肢がある」と主張しているのですが、どの選択肢も効果性に欠けるないしリスクが高く、いい選択肢を見つけることができないのです。そこで、同大統領は「炎と激怒」や「完全破壊」など相手を威嚇する言葉による抑止力に依存せざるを得ないのです。
ワシントンでは、トランプ大統領の過激な言葉が北朝鮮の行動に対して抑止になっているという評価があります。その一方で、下院外交委員会に所属するジェーリー・コノリー議員(民主党・バージニア州第11選挙区)のように、同大統領の脅しを伴った発言は北朝鮮の核・ミサイル開発を止めることができないという見方も存在し、見解が分かれています。
いずれにしても、仮にトランプ大統領が「完全破壊」の選択肢を選んだ場合、米ABC ニュースで国家安全保障問題を担当しているマーサ・ラダッツ記者は「北朝鮮の完全破壊は、1000万人のソウル市民と在韓米軍の犠牲と同等である」と指摘しています。もちろん、北朝鮮の「完全破壊」は日本本土にも波及します。
■「ロケットマン」のリスク
トランプ大統領は演説の中で、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長を「ロケットマン」と揶揄しました。「ロケットマン」は、1972年に発表されたエルトン・ジョン氏のヒット曲です。
この歌詞と金委員長及び北朝鮮情勢がピッタリ重なり合うのです。例えば、”burning out his fuse up here alone” という歌詞は、金委員長が孤立し、北朝鮮が原油禁輸によって石油が枯渇し、ICBM(大陸間弾道ミサイル)を発射できなくなる状態と解釈できます。
さらに、”Mars ain’t the kind of place to raise your kids. In fact it’s cold as Hell” は、「北朝鮮は子供の教育に適切な国ではない。人権や自由がないんだ」と言い換えることができます。「ロケットマン」を聴いていたトランプ大統領の世代は、同大統領のメッセージが理解できたかもしれません。
2016年米大統領選挙の期間中、トランプ大統領は対立候補であったヒラリー・クリントン元国務長官を「いかさまヒラリー」、マルコ・ルビオ上院議員(共和党・フロリダ州)を「ちびマルコ」、テッド・クルーズ上院議員(共和党・テキサス州)を「うそつきテッド」などとニックネームをつけて、攻撃を加えて勝利を収めました。北朝鮮の核・ミサイル開発問題に関しても、同大統領は選挙の感覚で相手を見下して屈辱を与えたのです。
この言動は、かなり危険であると言わざるをえません。特に、北朝鮮が核・ミサイル開発の完成に近づいている段階においては、言葉の選択にかなりの注意を払うことが不可欠です。「ロケットマン」は逆効果になるでしょう。
■北朝鮮問題に対するトランプ支持者の動向
トランプ大統領は、演説の中で北朝鮮、イラン及びベネズエラなどを標的にして、次々にメッセージを発信しました。ただ、支持基盤を意識した発言も随所に現れていました。
まずトランプ大統領は、「各国も自国を第一に考えるべきだ」と強調し、「米国第一主義」を正当化しました。さらに、米国の株高、失業率の低さ、雇用創出及び軍事力の強さを取り出し、選挙モードで演説を行いました。国連に関しては、「米国が国連拠出金の22パーセントを支払っているのは不公平だ」と訴え、拠出金の公平性を主張しました。どれも支持者固めを狙ったメッセージです。
前で述べました「完全破壊」も、トランプ支持者の共感を得るでしょう。9月中旬、中西部ミネソタ州セントポールでトランプ支持者を対象に現地ヒアリング調査を実施した際、彼らは「外交交渉が望ましいが」「戦争は誰も望まないが」と前置きをしながらも、北朝鮮問題に対してかなり強硬な姿勢を示しました。例えば、白人女性(59)のトランプ支持者は、次のように語っていました。
「金正恩は気が狂った人間です。クリントン、ブッシュ、オバマは北朝鮮と外交交渉をしてきましたが、成果を出すことができませんでした。正気とは思えない人間と交渉をしても無駄です。彼とはいい取引ができません。戦争のみが解決策です。私は(米国)本土優先に賛成しています」
米議会では、上院軍事委員会の重鎮リンゼー・グラム議員(共和党・サウスカロライナ州)が米国本土優先論を主張しています。日本・韓国及び周辺地域に甚大な被害が出ても、本土を優先するという議論を、上のトランプ支持者は支持していました。
別のトランプ支持者の白人男性(75)は次のように語り、軍事オプションを強く支持していました。
「外交交渉を望んでいますが、25年間も機能しませんでした。トランプは北朝鮮に対して軍事行動をとらなかったら、オバマと同じです」
このトランプ支持者も上の女性支持者と同様、クリントン、ブッシュ及びオバマ政権における北朝鮮との外交交渉で結果を出せなかったことに強い不満を募らせていました。
NPR(米公共ラジオ)とグローバル市場調査会社「イプソス」による共同世論調査(2017年9月11−12日実施)によりますと、全体の51%がトランプ大統領の北朝鮮の対応を信頼していません。党派別にみますと、野党民主党支持者の77%が同大統領の北朝鮮に対する対応に不信感を抱いています。他方、与党共和党支持者の81%は信頼を置いており、2極化しています。
トランプ大統領の「完全破壊」は、共和党支持者の中でも上で紹介したような熱狂的なトランプ信者を満足させたでしょう。その一方で、民主党支持者にとってさらに不安を高めた演説であったと言えます。
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