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クルド独立投票でイラク緊張、各国が猛反発、新たな内戦の恐れ
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10611
2017年9月19日 佐々木伸 (星槎大学客員教授) WEDGE Infinity
イラクのクルド自治政府による独立国家の是非を問う住民投票が9月25日に迫る中、関係各国が猛反発し、緊張が高まってきた。特にイラク中央政府は軍事介入までちらつかせており、過激派組織「イスラム国」(IS)が掃討されつつある一方で、新たな宗派紛争、内戦の恐れが出てきた。
■油田都市キルクークの支配
クルド人は国家を持たない最大の民族として知られる。イラク、トルコ、シリア、イランにまたがる山岳地帯を中心に約3000万人が居住している。今回、独立の是非を問う住民投票を計画しているのは、イラク北部のクルド自治政府だ。自治政府のバルザニ議長が昨年2月、「クルド人の将来を決める時は来た」として住民投票の実施を発表していた。
各地のクルド人はISの台頭とその混乱を独立に向けた地歩を固めるために最大限利用した。イラクでは米軍の支援を受け、北部モスルなどでイラク軍治安部隊とともにIS掃討作戦を推進した。特に北東部の油田地帯の中心都市キルクークの解放に全力を挙げた。
キルクーク一帯の油田の生産量は70万バレル(日量)といわれ、イラク有数の油田の1つ。当地の支配と権益をめぐっては中央政府とクルド自治政府との間で対立が続いてきた。ISが2014年6月、隣国シリアからイラクに侵攻すると、それまでキルクークに駐屯していたイラク軍が逃走し、ISの占領するところなった。
その後、クルド自治政府の軍事組織ペシュメルガがキルクークを解放し、同地の支配を固めてきた。キルクークの住民はクルド人が最大勢力だが、アラブ人やトルクメン人なども多く住む他民族都市だ。クルド自治政府には、キルクークからの石油収入を国家独立の原動力にしようという思惑が強い。
イラクのクルド人は過去、中央政府から数々の弾圧を受けてきた。独裁者サダム・フセイン政権時代には化学兵器攻撃にさらされて約5万人が虐殺された。この時は米軍が飛行禁止空域をイラク北部に設置してフセイン政権軍をけん制したため、九死に一生を得た。
フセイン政権が崩壊した後、自治政府を発足させたが、シーア派支配の中央政府はクルド人やスンニ派に十分な富の分配をせず、対立が深まった。ここ数年は、クルド地域への予算が届かず、自治地域では教師や公務員の給料も滞りがちになり、中央政府への不満と独立への渇望が高まった。
シリアのクルド人もISとの戦争の混乱を利用して勢力を拡大した。米国は地元の最も信頼できるクルド人武装組織「人民防衛部隊」(YPG)に武器を供与し、ISと戦わせた。YPGはアラブ人とともに「シリア民主軍」として現在、ISの首都ラッカの7割を制圧している。その一方で、シリア北部の3つの県を自治区として固め、IS以後に独立国家樹立の機会をうかがっている。
■火遊びをするな、と警告
自治政府のバルザニ議長はあくまでも住民投票を実施する方針を崩しておらず、自治政府議会も15日、あらためて投票実施を承認した。しかし、こうしたクルド人側の動きに対し、イラクのアバディ首相は「火遊びをするな」と非難。投票が暴力の事態を引き起こせば、軍事介入する用意があると警告した。
イラク政府軍やシーア派民兵軍団はすでに、クルド側との対決に備えて、キルクーク周辺に展開中とも伝えられるなど新たな軍事的な緊張が高まっている。ISとの戦いでは、米国の仲介もあって、イラク軍とペシュメルガが協調し、モスルなどを解放した。しかし、住民投票が実施されれば、この協力関係は終わりを告げるだろう。
イラクへの影響力を強める隣国のイランもクルド人の独立の動きにはイラクの統一を壊すものと反対。トルコのエルドアン大統領も投票を実施すれば、クルド人は「大きな代償を払うことになるだろう」と警告し、近く投票に対応するため、国家安全保障会議を開催するとしている。
トルコは国内で反体制クルド人組織PKKとの戦いを続けており、イラクの住民投票が国内のクルド人の分離独立運動を刺激すると懸念している。イラクにはPKKの亡命本部があり、トルコは軍を進駐させているが、この派遣軍の増強もありそうだ。シリアのアサド政権も反対の立場で、クルド人を抱える4カ国すべてが今回の住民投票には反対している、ということだ。
クルド人を支援してきた米国も「投票は支持しない」と声明を出し、その理由としてISとの戦いに支障が出かねず、地域をさらに不安定化させることを挙げている。国連もイラクの一体性を損なうとして反対だ。
しかし、イスラエルだけは賛成だ。ネタニヤフ首相は「独立国家樹立の正当な取り組みを支持する」と賛成を表明している。イスラエルは60年代以降、クルド人との関係を維持してきた。これはクルド人の独立国家がアラブやイランといった敵国に囲まれたイスラエルにとって、“緩衝地帯”になることを期待してのものだ。
■100年の悲願
イラク自治政府の住民投票が仮に圧倒的な賛同を得たとしても、そのことが直ちにクルド人の独立国家に結び付くものではないだろう。しかし、クルド人の100年の悲願にとって、最大のチャンスであるのは間違いない。
クルド人はこれまで独立国家という意味では、2度に渡って好機を逸してきた。英国は第1次世界大戦後のオスマントルコの分割をめぐるセーブル条約に、クルド人独立国家の構想を明記した。しかし、トルコ建国の父、ケマル・アタチェルクの拒否によって、この構想は消えることになった。
第2次世界大戦後の1946年、ソ連占領下のイラン北西部にクルド人の「マハバード共和国」が発足したが、後押ししたソ連があっけなく手を引いたため、イラン軍に攻められて11ヶ月で崩壊した。その後、クルド人は各国の政治的な思惑や歴史に翻弄され、国家をなき民族として生き続けてきた。
1980年代、米上院のスタッフとして、クルド人に対するフセイン政権の虐殺を調査したピーター・ガルブレイス氏は今回の住民投票を「ブレキジットだ」と欧州連合(EU)からの英国の離脱に擬えているが、孤立無援の住民投票が予定通り実施されるのかどうか、その帰趨は中東全体に大きな影響を与えることになるだろう。
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