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制裁への耐性強い北朝鮮、経済制裁で核・ミサイル開発は止められない
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10576
2017年9月13日 礒ア敦仁 (慶應義塾大学准教授) 澤田克己 (毎日新聞記者、前ソウル支局長) WEDGE Infinity
国連安全保障理事会が9月11日(現地時間)、北朝鮮による6回目の核実験(9月3日)に対する制裁決議2375を採択した。米国が作成した原案には北朝鮮に対する石油の全面禁輸などが入っていたが、北朝鮮国内で大きな混乱を生みかねないと考える中国とロシアが消極的だったため最終的には一定の上限を明示する妥協案となった。今後のためにカードを温存しておくという意味もあろう。
制裁の目的は懲罰ではなく、核・ミサイル開発に関連する活動を完全に中止するよう北朝鮮に政策変更を求めることだ。しかし、経済制裁だけで核開発放棄などという大きな政策変更を強いるというのは無理のある考え方であり、外交交渉なしに目的を達することは不可能である。今回の制裁決議についても、北朝鮮経済に一定程度の影響を及ぼすものの、核・ミサイル開発を止める効果はゼロに等しいと考えられる。北朝鮮に対する制裁決議は2006年10月の第1回核実験で採択された決議1718以降、今回で9回目だ。これまでの制裁決議が功を奏してこなかったことは議論の余地がない。
■政策変更を強いられることを嫌う北朝鮮
北朝鮮については、もともと閉鎖的な体制であることや朝鮮戦争(1950〜53年)以降に米国から制裁をかけ続けられて「制裁慣れ」していること、対外経済の規模が小さいことなども、経済制裁の効果を期待できない理由として語られる。ここでは、そういった論点とも少し違う「制裁への耐性が強い北朝鮮体制の特徴」について考えてみたい。
北朝鮮はそもそも他国によって政策変更を強いられることを極端に嫌う。冷戦期には、中ソ両国からの影響を排除しつつ自主路線を歩もうとした。それが北朝鮮憲法第3条で国家の指導指針と規定される「主体思想」である。主体思想を守ってきた結果、ソ連のように崩壊することもなかったし、中国のような改革開放をしなくても体制を護持できた。北朝鮮は、そうした自信を持っているのだ。
核実験2日前となる9月1日付けの朝鮮労働党中央委員会機関紙『労働新聞』は、重鎮の董泰官(トン・テグヮン)論説委員による政治論評「偉大な強国の時代」を掲載した。北朝鮮に対して持たれているイメージとは違うかもしれないが、『労働新聞』の論説記事は署名入りが原則となっている。特に重要な論説の筆者は限られており、董氏はそのうちの1人である。
董氏の論評は、北朝鮮の国際的地位について「人工衛星の製作及び打ち上げに成功し、水素爆弾と大陸間弾道ミサイル(ICBM)を保有した世界6大強国」、「潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を保有する世界の5大強国」、「移動式発射台を利用したICBM発射技術を保有している世界の3大強国」の一つにのし上がったと強調した。制裁に屈しないで核とミサイルの開発を続けてきたことによって、米国やロシア、中国などという大国と肩を並べられたという自己認識だ。
論評はさらに「世界で最も強く偉大な人民が保有していることにより、朝鮮は事実上、世界一の強国、天下無敵の国である」とまで主張する。そして「いくら『制裁』と『圧迫』の魔の手がいたるところに広がっても、地球上の敵対勢力が群れを成して襲い掛かってきても、偉大な精神力に全ての戦略兵器を握ったこの朝鮮は、百戦百勝するだろう」と強調する。
■餓死者出した「苦難の行軍」に並べて団結を要求
このような論調は頻繁に見られる。金正恩体制は、核・ミサイル開発は抑止力確保のために必須だと考えている。北朝鮮の外務省は今回の制裁決議採択に対しても「われわれは米国と実質的な均衡を作り上げて、自主権と生存権を守る」という「報道」を発表した(9月13日)。米国に対抗するために核・ミサイル開発を進めているのであり、制裁を受けても変わらないという宣言だ。
ソ連・東欧社会主義体制の崩壊によって、1990年代の北朝鮮は未曽有のエネルギー難、食糧難に陥った。そのような「苦難の行軍」に打ち勝った金正日国防委員長の「業績」と並列する形で、制裁下の金正恩体制で団結を求める論調も目立つ。「そのお方(金正恩委員長)と一緒であれば、試練も栄光であり、死も幸福」であり、「打ち勝った苦難の強度と、越えてきた峠の高さがその人民の上がって立つ勝利の大きさと高さを決定するもの」と考えるのが北朝鮮なのである。残念ながら、「(強力な制裁をかけられて)草を食べることになっても開発を続けるだろう」というプーチン露大統領の見通しは正しいのだろう。
『新版 北朝鮮入門』(東洋経済新報社、2017年1月)に収録できなかった最新の決議を含め、これまでの制裁決議についてまとめた。北朝鮮が核・ミサイル開発を続ける動機や北朝鮮の現状などについては同書を参照していただきたい。
●国連安保理決議1718(2006年10月14日)
対象となった北朝鮮の行動:第1回核実験(2006年10月9日)
主な内容:(1)核・ミサイル関連物資等の禁輸(2)核・ミサイル開発に関与した個人・組織の海外資産凍結・渡航禁止
日本の独自対応:(1)北朝鮮籍船舶の入港禁止(2)北朝鮮籍者の原則入国禁止(3)北朝鮮からの輸入全面禁止
●国連安保理決議1874(2009年6月12日)
対象となった北朝鮮の行動:第2回核実験(2009年5月25日)
主な内容:(1)北朝鮮からの武器輸出を全面禁止(2)北朝鮮に関連する貨物への検査強化
日本の独自対応:北朝鮮への輸出全面禁止
●国連安保理決議2087(2013年1月22日)
対象となった北朝鮮の行動:テポドン2改良型発射(2012年12月12日)
北朝鮮側主張:地球観測衛星「光明星3」2号機を搭載した「銀河3」の打ち上げ
主な内容:(1)資産凍結などの制裁対象を拡大(2)北朝鮮の金融機関による活動を監視するよう各国に要請
●国連安保理決議2094(2013年3月7日)
対象となった北朝鮮の行動:第3回核実験(2013年2月12日)
主な内容:(1)核・ミサイル開発に関する金融取引禁止(2)船舶貨物検査を義務化
日本の独自対応:朝鮮総連副議長らの再入国禁止
●国連安保理決議2270(2016年3月2日)
対象となった北朝鮮の行動:第4回核実験(2016年1月6日)、テポドン2改良型発射(2016年2月7日)
北朝鮮側主張(テポドン2について):「地球観測衛星光明星4」を搭載した「光明星」の打ち上げ
主な内容:(1)北朝鮮からの石炭などの鉱物輸出を原則禁止(2)北朝鮮への航空燃料輸出制限(3)全貨物の検査
日本の独自対応:(1)2014年に一部解除された制裁の復活(2)在日外国人の核・ミサイル技術者の再入国禁止(3)北朝鮮に寄港した第三国籍船舶の入港禁止
●国連安保理決議2321(2016年11月30日)
対象となった北朝鮮の行動:第5回核実験(2016年9月9日)
主な内容:(1)北朝鮮からの石炭輸出に年間の上限を設定(2)銅やニッケルの輸出も禁止(3)北朝鮮からの彫像の輸出禁止
日本の独自対応:(1)訪朝した在日外国人の核・ミサイル技術者について入国禁止の対象者を拡大(2)北朝鮮に寄港した全船舶の日本入港禁止(3)資産凍結の対象者拡大
●国連安保理決議2356(2017年6月2日)
対象となった北朝鮮の行動:2016年9月9日の第5回核実験以降の核開発及び一連の弾道ミサイル発射
主な内容:金正恩国務委員長の側近らを資産凍結・渡航禁止の対象に追加
●国連安保理決議2371(2017年8月5日)
対象となった北朝鮮の行動:2017年7月に行われた2回のICBM発射
主な内容:(1)北朝鮮からの石炭や海産物の輸出を全面禁止(2)北朝鮮からの労働者派遣の新規受け入れを禁止(3)北朝鮮との新たな合弁企業設立を禁止
●国連安保理決議2375(2017年9月11日)
対象となった北朝鮮の行動:第6回核実験(2017年9月3日)
主な内容:(1)北朝鮮からの繊維製品輸出を全面禁止(2)北朝鮮への原油供給に「現状を超えない」という制限を導入(3)北朝鮮への石油精製品供給を年間200万バレルに制限(輸入実績の半分弱)(4)北朝鮮労働者の雇用契約の更新を禁止
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