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上院公聴会で宣誓するドゥテルテの長男パオロ、娘婿のカルピオ。麻薬取引疑惑で証言した(9月7日) Erik De Castro-REUTERS
家族思いのドゥテルテ比大統領、長男に麻薬組織関与疑惑
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/09/post-8419.php
2017年9月11日(月)15時30分 大塚智彦(PanAsiaNews) ニューズウィーク
<ドゥテルテの長男と娘婿がよりによって麻薬の取引に絡んでいた? 入れ墨や売人と一緒の写真も出てきて、「少年でも容赦しない」と言ってきただけに対応が注目される>
フィリピンのドゥテルテ大統領の長男でミンダナオ島ダバオ市の副市長を務めるパオロ・ドゥテルテ氏(42)は9月7日、フィリピン議会上院の公聴会で宣誓の後、証言を行った。そこで追及されたのはパオロ氏と、ドゥテルテ大統領の娘婿、義理の息子にあたるマナセス・カルピオ氏の2人が麻薬密売組織の犯罪に関与したのではないかという疑惑だった。
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フィリピンではドゥテルテ大統領の強力な指導力の下、麻薬犯罪根絶を目指していわゆる超法規的殺人が続いている。このため麻薬関連犯罪の容疑者のみならず、常習者や関係者まで多数が司法手続きによらずに射殺される事態が頻発、これまで殺害された麻薬犯罪関係者は数千人規模に及ぶといわれ、国際的な人権団体、フィリピン国内のキリスト教組織や野党勢力から「深刻な人権侵害事件」との批判や糾弾を受けている。ドゥテルテ大統領はしかし、依然として80%近い国民の圧倒的な支持を背景に「さらに麻薬犯罪には強い姿勢で臨む」とその強硬姿勢を崩していない。
そのいわばドゥテルテ政権の実の息子、義理の息子が共に麻薬犯罪との関連で疑惑をもたれ、上院で証言する事態になり、ドゥテルテ大統領も困惑しているだろう。
疑惑の経緯は、8月にフィリピン税関の通関業者が中国からの輸入物資の積み荷から発見された覚せい剤であるメタンフェタミンの結晶を法律に基づいて処理しようとしたところ、パオロ氏とカルピオ氏の名前を耳にした、と上院で証言したことが発端となっている。
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上院ではこの証言を手掛かりに2人がメタンフェタミンの結晶の積み荷を税関当局に圧力をかけるか、賄賂を支払って容易に持ち込めるように計らった容疑がある、として2人から直接証言を求めることになった。この時のメタンフェタミンの結晶は時価64億ペソ(約136億円)といわれている。
■疑惑を全面否定するも入れ墨は肯定
上院の公聴会でパオロ氏は「噂に基づく主張には答えられない」と述べ、カルピオ氏も「違法な麻薬の積み荷に関しては一切知らないし、全くその問題には関与していない」と揃って疑惑を全面的に否定した。
ただ、公聴会で疑惑追及の急先鋒で、反ドゥテルテの立場でもある野党のアントニオ・トリリャネス議員が「パオロ氏の背中には竜の入れ墨があり、それが何より麻薬犯罪に関連する組織のメンバーであることを示している」との指摘。これに対してパオロ氏は入れ墨の存在を認めざるを得ず、さらにトリリャネス議員がパオロ氏が麻薬組織関係者とされる人物と共に写る写真を示して追及するなど、疑惑を完全に払しょくすることはできなかった。
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ドゥテルテ大統領は大統領に就任する前に長年市長を務め、やはり強硬な麻薬犯罪対策などで治安を飛躍的に向上させた実績があるミンダナオ島ダバオ市。現在はドゥテルテ大統領の長女、サラ・ドゥテルテさん(39)が市長、そして長男のパオロ氏が副市長としてドゥテルテ大統領の市政を引き継いでいる。カルピオ氏はサラ市長の夫である。
こうしたドゥテルテファミリーが完全に市政を掌握しているダバオでは、麻薬関連犯罪そのものは封じ込められている一方で、有力者が完全にコントロールして「安定供給が確保されている」との情報も根強く、今回のパオロ、カルピオ両氏に対する疑惑もこうした情報を裏付ける形となっている。
ドゥテルテ大統領はかつて麻薬犯罪に関わる容疑者は少年であれ容赦しない、との立場を公にして批判されたこともあるが、身内である長男、女婿が麻薬犯罪にもし関与していたとなれば、政治的には厳しい局面に直面することになる。次期大統領候補として名前も挙がっているサラ市長の政治生命も完全に絶たれることになるだけに、疑惑の完全否定、払拭に躍起となるのは当然だ。パオロ氏らの名前を聞いた、と最初に証言した通関関係者もその後「2人の関与の事実はない」と態度を180度転換しているが、これも政権側からの圧力に屈した結果との見方が強い。ドゥテルテ大統領自身は、まだ息子たちの疑惑については何も発言していない。
■離婚歴あるものの家族思いの大統領
ちなみにドゥテルテ大統領には、1948年に結婚して2000年に離婚した前妻と、現在生活を共にしている内縁の妻がいる。ドイツ系の前妻エリザベス・ジンマーマンさんは現在がん闘病中とされ、その治療費一切はドゥテルテ大統領が負担している。2人の間には3人の子供があり、長男がパオロ副市長、長女がサラ市長、次男のセバンスチャン・ドゥテルテ氏はサーファーらしいというだけであまり素性が明らかになっていない。
ドゥテルテ大統領はダバオ市長時代に家族を連れて来日、温泉地や雪国を訪問して家族サービスするなど家族思いとしても知られていた。だがその一方で結婚中の1990年代から看護師であり実業家でもあるフィリピン人のハニーレット・アバンセーニャさん(46)と交際していた。ハニーレットさんとの間には13歳になるベロニカさんという娘もいる。
いずれにしろ、今回の身内の疑惑、それも大統領自身が最も強硬に進めている麻薬問題に関連した疑惑は、南シナ海問題、ミンダナオ島マラウィ市で続く武装勢力との戦闘に加え、ドゥテルテ大統領にとって頭の痛い問題になりそうだ。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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