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「ミサイルよりハリケーン」北朝鮮問題へのトランプの本気度
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10501
2017年9月2日 海野素央 (明治大学教授、心理学博士) WEDGE Infinity
今回のテーマは「ミサイルよりもハリケーン」です。8月29日に北海道上空を通過した北朝鮮の弾道ミサイル発射を受けて、安倍晋三首相は2日連続でドナルド・トランプ米大統領と電話協議を行いました。両氏は、北朝鮮に対してさらなる圧力強化をかけるという点で一致しました。ただ、両氏が直面している課題の優先順位においては相違が存在しています。本稿では、トランプ大統領の現在の最優先課題及び北朝鮮問題に対する本気度について分析します。
■安倍・トランプの優先順位の相違
安倍首相にとって北朝鮮問題は喫緊の課題であることは言うまでもありません。一方、トランプ大統領の最優先課題は、ハリケーン「ハービー」の対応です。
ハリケーンに対する対応の成否は、大統領の好感度及び支持率に直結します。2005年8月末に南部ルイジアナ州を襲ったハリケーン「カトリーナ」の対応が遅れたため、ジョージ・W・ブッシュ大統領(当時)は批判を浴びました。被災者にマイノリティ(少数派)が多かったために、「低所得者層の非白人に冷たく、富裕層の白人に手厚い大統領」というレッテルを貼られてしまったのです。ブッシュ大統領が不人気に陥った出来事の一つでした。
それとは対象的だったのが、バラク・オバマ大統領(当時)です。2012年米大統領選挙投票日の直前に、ハリケーン「サンディ」が東部ニュージャージー州を直撃すると、オバマ大統領は24時間以内に、3回もクリス・クリスティ知事(共和党)に電話を入れて協議しました。その後、被災地に入り、同知事と協力して対応に当たったのです。当時筆者は、研究の一環として南部バージニア州のオバマ選対でボランティアの運動員として働いていました。同大統領の迅速な対応が、選挙結果にプラスに働いたことは間違いありません。
今回被災地となっているテキサス州は、大統領選挙の大票田(選挙人38)です。同州は与党共和党の地盤ですが、ヒスパニック系(中南米系)の人口増加により、野党民主党は1976年以来の奪還を狙っています。トランプ大統領が再選を狙う場合、死守しなければならない極めて重要な州の一つになります。
ハリケーン「ハービー」によって甚大な被害を受けた南部テキサス州及びルイジアナ州を訪問し、被災者を気遣っているリーダーを演出する絶好の機会でもあるのです。同大統領はすべての国民ではなく、支持基盤のみとコミュニケーションをとっていると非難されています。被災地を訪問して被災者と交流する映像が全国に繰り返し流れれば、「すべての国民の大統領」という新しいイメージを創ることができるのです。以上の理由で、同大統領にとって初めてのハリケーンの対応が最優先課題になっています。
■トランプの危機感
トランプ大統領は、現在非難の嵐にさらされています。バージニア州シャロッツビルでの白人至上主義者と反対派との衝突事件を巡る「双方に非がある」という発言は、身内の与党共和党議員からも厳しい批判を受けています。
さらに、スティーブン・バノン首席戦略官兼大統領上級顧問解任による影響が懸念されています。支持基盤の一角を成す極右思想に染まった支持者が、ホワイトハウス内の穏健派に対して一層厳しい攻撃をすることは明白です。トランプ大統領は、バノン氏解任によって白人至上主義者の心の中に「裏切られた」という気持ちが芽生えないように対策をとらなければなりませんでした。
そこで、彼らの支持をつなげようとして人種差別者とみられている西部アリゾナ州マリコパ郡の元保安官ジョー・アルパイオ被告に恩赦を与えたのです。ところが、その意思決定に非難が集まっています。
バージニア州での衝突事件後に行われた米世論調査機関ギャラップ社の調査をみますと、共和党支持者のトランプ大統領に対する週の平均支持率(2017年8月21−27日)は78%です。高い水準ではあるのですが、約1カ月前は86%(同年7月17−23日)で8ポイント低下しています。ハリケーン「バービー」の対応を間違えれば、さらに支持基盤が揺らぎ同大統領に熱狂的なトランプ信者までも離反しかねません。
危機感を抱いたトランプ大統領は、8月29日にテキサス州に入り、グレッグ・アボット知事と記者会見を開き、地元住民に演説を行いました。9月2日に再度同州を訪問します。同日、共和党の地盤であり他の被災地でもある南部ルイジアナ州における被害状況も視察する予定です。
トランプ大統領は、北朝鮮問題の解決にエネルギーを費やすのではなく、支持者をつなぎ止めるためにハリケーンの対応に100%のコミットメントをしています。率直に言ってしまえば、人道的立場に立っているのではなく、政治的思惑からハリケーン問題に取り組んでいるのです。
■北朝鮮問題に動きが鈍いトランプ
米ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、トランプ大統領は、8月29日の北朝鮮の弾道ミサイル発射から約14時間後に声明を発表しています。その中で同大統領は、「すべての選択肢が(交渉の)テーブルの上にある」と述べました。この聞き慣れたメッセージは、ほとんど効果を上げていないことは確かです。同大統領は良い選択肢が見つからないのです。北朝鮮のパトロンである中国依存の外交交渉、石油禁輸のない経済制裁及び相手国からの反撃を受ける可能性が高い軍事行動など、すべての選択肢の中からどれをとっても、効果性に欠けるかリスクが高いのです。
7月4日、北朝鮮は1回目のICBM(大陸間弾道ミサイル)を発射しました。ミサイルがICBMと確認されても、トランプ大統領はホワイトハウスで緊急記者会見を開くなどの行動を起こしていません。では、同月28日に発射した2回目のICBMまでの間に、同大統領は何に対して時間とエネルギーを費やしていたのでしょうか。
北朝鮮問題が最優先課題であるならば、トランプ大統領は中国が北朝鮮に圧力をかけるように、そこに自身のエネルギーを注ぐべきでした。ところが、同大統領は米議会が休会に入る前にオバマ前大統領の医療保険制度改革(通称オバマケア)に対する代替法案を可決させようと、身内の与党共和党上院議員に「最大限の圧力」を加えていたのです。さらに、ジェフ・セッションズ司法長官を解任させるために、同長官にも圧力をかけていました。同大統領の圧力の矛先は、中国及び北朝鮮ではなかったのです。そこから、北朝鮮問題に対する同大統領の本気度が見えてこないのです。
米国東部時間で8月28日夕方に北朝鮮は、日本上空を通過する弾道ミサイルを発射しました。ミサイル発射以来、同月30日になってトランプ大統領は、初めて北朝鮮に関して自身のツイッターに「対話は解決策ではない」と投稿しました。ミサイル発射から投稿までの「タイムラグ」からも、同大統領が北朝鮮問題を本当に最優先課題に置いているのか疑わざるを得ないのです。
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