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9月9日の建国記念日には6回目の核実験を行うのではないかとの懸念もくすぶっている 写真:労働新聞より
北朝鮮への石油禁輸や斬首作戦は成功するか?元駐韓大使が論評
http://diamond.jp/articles/-/140680
2017.9.1 武藤正敏:元・在韓国特命全権大使 ダイヤモンド・オンライン
北朝鮮は、8月29日朝、平壌郊外の順安(スナン)地域から北東方向に弾道ミサイル1発を発射した。このミサイルは約2700km飛行し、北海道襟裳岬上空を通過、同岬の東約1180kmの太平洋上に落下した。安倍総理は「政府は発射直後からミサイルの動きを完全に把握していた」としたが、日本落下の可能性はないと判断し、自衛隊による迎撃措置は取らなかった。
北朝鮮の朝鮮中央通信は、このミサイルが「火星12」であったと報じた。北朝鮮の金正恩委員長は、米国との決定的対立を望まない姿勢を示すためか、予告していたグアム周辺の海域にミサイルを4発同時に発射することは避けた。しかし、発射されたミサイルは、グアムへの発射計画で予告していたものと同一のものと思われ、「グアムをけん制する前奏曲となる」と述べているように、米国に警告を与えるには十分であろう。
また、「恥ずべき韓国併合から107年にあたる29日に『日本人を驚愕させる大胆な作戦』を立てた」と述べ、日本にも警告を発している。さらに「今後、太平洋を目標とする弾道ミサイル発射訓練を多く実施して、戦略兵器の戦力化を積極的に進めなければならない」と語った。
安倍総理は、「これまでにない脅威」と述べたが、日本を標的とし、上空を通過させたことに強い懸念を覚えざるを得ない。
国連安全保障理事会は29日夕、緊急会合を開き、北朝鮮によるミサイル発射を非難するとともに、発射の即時停止を求める議長声明を、中ロを含む全会一致で採択した。これまで北朝鮮の挑発行動に対しては、報道機関向けの非公式な報道声明で対応することが多く、議長声明は2012年4月以来5年4ヵ月ぶりである。国連は、それだけ事態の深刻さを重く見たということである。
安保理の追加制裁決議で
「石油禁輸」を提起へ
安倍総理とトランプ大統領は、29日、30日と2日連続で電話会談を行った。その内容は明らかにできないとしているが、それだけに安保理での新たな制裁決議を含め、様々なシナリオを包括的かつ具体的に議論したものと考えられる。両首脳は、圧力強化で完全に一致したと報じられている。
日米両国政府は、今回のミサイル発射を受け、国連安保理で「石油禁輸措置」を提起する方針であると報じられている。菅義偉官房長官も会見で、「石油の禁輸も当然、選択肢の一つだ」と述べている。
北朝鮮に対しては、挑発行動が続く中で制裁を強化してきたが、中国の消極的な協力姿勢もあって、韓国の文在政権誕生後も9回ミサイルを発射するなど、挑発を繰り返している。9月9日の建国記念日には6回目の核実験を行うのではないかとの懸念もくすぶっている。
このように、北朝鮮が高価なミサイルを連射できる背景には、北朝鮮の経済が好転していることが背景にあるとされている。現に昨年のGDPは3.9%増の3兆円余りであった。しかし、国連食糧農業機関(FAO)によると、今年の干ばつは2001年以来の深刻さであり、2017年収穫初期の穀物生産は31万トンと昨年の45万トンから3割以上減少しているという。
1990年代に起きた大規模な飢饉では、数十万人が死亡したと推計されており、今も極めて厳しい状況だと言わざるを得ない。しかも、世界食糧計画(WFP)によれば、核ミサイルによる挑発への制裁で、各国の食糧支援が急激に低下していると言われている。
これが北朝鮮の現実なのである。本来、核やミサイル開発に使われている外貨資金は食料の輸入に充てられるべきなのだが、国民を食べさせるカネを削ってでも核ミサイル開発につぎ込む国なのだ。
したがって、核ミサイルの開発資金を遮断する経済制裁は、国民生活がいっそう窮乏するだけで効果は薄く、北朝鮮の核ミサイル開発を制裁によって止めるためには軍事活動の“血液”となる「石油の禁輸」が不可欠だと言われるゆえんである。
石油禁輸に潜む
二つのリスク
しかし、石油の禁輸が実施できるか否か、その鍵を握るのは中国とロシアである。中国の王毅外相は、「国連安保理メンバーの共有認識に基づいて、必要な対応をする」と述べ、北朝鮮への制裁強化などに一定の協力をする考えは示している。
ただ、中国は北朝鮮社会の混乱を招くとして、石油禁輸には一貫して反対してきた。ロシアも慎重姿勢を崩していない。両国ともまずは、北朝鮮の主産品である石炭や鉄、鉄鉱石、鉛、海産物などの輸出を全面的に禁止、北朝鮮労働者の新たな受け入れ禁止などを盛り込んだ8月5日の国連安保理の制裁決議を完全に履行することが重要だとの立場であろう。しかし、それでは北朝鮮に対する影響力は限定的だ。
外国での新たな就労を抑えると言っても、そもそも現在どれだけ就労しているか確実な統計がない中で、新たな就労を把握することは困難であろう。また、北朝鮮の主要輸出品を全面禁輸するといっても、海上取引などの抜け道はある。
やはり、経済制裁が効果を上げるためには、石油の禁止しかないであろう。現在は中国が年間50万トン程度の原油を輸出していると言われ、ロシアも輸出を増やしているのではないかと推測される。これを遮断すれば、軍は身動きが取れなくなる。
北朝鮮に対する石油の禁輸措置は、現状で最も有効な制裁手段であるが、二つの危険性がある。
一つは、北朝鮮の暴発を招きかねないことである。戦前の日本は、ABCD包囲網による対日石油禁輸で追い詰められ、真珠湾への奇襲攻撃で太平洋戦争に突入した。この時と同様に、北朝鮮も軍の身動きが取れなくなった時、一か八かの攻撃を仕掛けてくる可能性がある。
今でも北朝鮮は資金的に追い詰められてはいるが、核やミサイル開発を急ぎ完成させることで米国に保有を認めさせ、苦境を打破しようとしている。北朝鮮も、自ら攻撃を仕掛ければ自滅することは分かっているから、対話の道を探っているはずだ。しかし、どっちみち自滅するとなった場合、どのような行動に出るか、それは未知数である。
第二に、石油禁輸は最後の制裁手段である。これでも状況が打開しない場合どうするか。北朝鮮に対し軍事行動に出るのか、それとも対話の道を探るのか、非常に難しい選択に迫られる。しかし、事態がここまできては、そうした覚悟も必要なのかもしれない。
最後は「斬首作戦」だが
報復の被害は甚大に
北朝鮮に、核やミサイル開発を完全に放棄させるためには、金正恩委員長をトップから下ろすほかない。米国のキッシンジャー元国務長官は、米中の合意が得られれば、その機会は増すだろうと述べているが、全く同感である。
しかし、当の中国は、北朝鮮と取引のある中国企業に制裁を科すくらいのことでは動かない。それよりも中国は、北朝鮮が混乱し、中朝国境が不安定化することは望んでおらず、まして中朝国境近くまで韓国や米国が入ってくることなど、許すことはできない。
つまり、中国が動くとすれば、金正恩政権崩壊後も中国が一定の影響力を保持できること、そして中朝国境沿いの混乱を最小限に抑えられることが約束されたときである。そのためには米国との取引が必要である。ただ、韓国は、頭越しの米中合意には大反対するであろう。
金正恩を代えるには、中国に主導させるのが比較的に危険は少ないだろう。しかし、それがダメなら「斬首作戦」ということになろう。ただ、その場合には、失敗した際の北朝鮮の報復をいかに抑えるのか、非常に難しい作戦になる。
核ミサイル施設に対する限定攻撃は、全ての施設を網羅することが不可能であり、北朝鮮の報復攻撃を受けることは必定であろう。その場合、ソウルには1時間に50万発の砲弾が飛んでくると言われており、戦闘開始後90日間で100万人以上が犠牲になると言われている。もちろん、日本に対しても無数のノドン、スカッドミサイルが飛んでこよう。しかも、核弾頭を搭載できるようになっていると想定しておいた方がいい。米国のマティス国防長官があくまでも外交的解決を模索するのはこのためだ。
斬首作戦が難しいとなれば、核を持つ北朝鮮との「共存」が不可避となるかもしれない。日米首脳の電話会談では、対話のための対話は行わないことで合意しているが、時間が経てば経つほど事態は悪化する。そこで、事態を収拾するためには、「対話以外の選択肢はない」と判断される時期がくるかもしれない。
海図なき航海に
日本はどう臨むべきか
そのとき、核ミサイルを保有する北朝鮮とどう向き合うのか。
韓国では、北朝鮮に核の保有を認める代わりに、ICBMの開発を放棄させる案を主張する者がいる。その場合、米国にとっての核の脅威は防げるかもしれないが、日本にとっては危険極まりないシナリオである。
米国では、北朝鮮が核開発を凍結する代わりに、在韓米軍の撤退ないし縮小、米朝平和協定の締結などが論じられているが、これもまた日本や韓国の安全保障にとって脅威が増すことになる。
日本にとっての脅威は核ばかりでなく、生物化学兵器やテロなど多方面にわたっている。危険極まりない金正恩氏が、このような兵器を保有することを黙認することはできない。さらに北朝鮮は、韓国の「赤化統一」を目論むかもしれない。北朝鮮の支配下に入った韓国の姿を想起すると恐ろしい気がする。
いずれにせよ、日本にとっては、対話による解決も決していい結果をもたらすものではない。となれば、日本自身が北朝鮮に対する備えを強化するほかない。
日本は、今年6月に「組織犯罪処罰法改正案」(テロ等準備罪法案)を可決・成立させた。これはテロなどの防止に不可欠であろう。また、昨年には集団的自衛権の行使が容認された。されに北朝鮮のミサイルによる挑発を受け、「イージス・アショア」の導入に向け、設計費を予算に計上することになった。
しかし、この迎撃ミサイルの導入が再来年以降では間に合わない。北朝鮮緊迫の事態に備え、直ちに取り組むべきであろう。また、現在検討されている敵地攻撃能力も持つべきであろう。
北朝鮮問題は、日本にとっての現実の脅威であり、対処することを避けてはならないのである。
(元・在韓国特命全権大使 武藤正敏)
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