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写真:労働新聞(電子版)より
北朝鮮がミサイル発射のため「資本主義化」を止められないジレンマ
http://diamond.jp/articles/-/139000
2017.8.18 高英起:デイリーNKジャパン編集長 ダイヤモンド・オンライン
核開発・ミサイル発射で武力挑発を続ける金正恩・北朝鮮労働党委員長と、「予防戦争」を示唆しながら北朝鮮を抑え込もうというトランプ米国大統領の「チキンゲーム」が、一段とエスカレートしてきた。北朝鮮は、先月、相次いで大陸間弾道ミサイル(ICBM)とされる「火星14」型を二度、試射し、さらには「グアム島」を”標的”にするミサイル発射実験の計画までを言い出した。だが核とミサイル開発にかかる多額の開発資金をどう調達しているのだろうか。
北朝鮮といえば餓死者が出るほどの貧困国家というイメージが持たれているが、筆者が脱北者や内部情報筋のネットワークを通じて得る北朝鮮経済の実態は違う。国連も北朝鮮の核・ミサイル開発を断念させるために、経済制裁を強め、開発資金の調達にダメージを与えようとしているが、本当にそれができるかどうかは、疑問だ。だが北朝鮮自身もジレンマを抱えている。
闇市場から「統合市場」に成長
「管理費」などが国家財政を支える
北朝鮮が貧しい国家であることに間違いはない。国民を食べさせるための配給システムは事実上崩壊し、社会主義経済は名ばかりになった。
しかし、実はここ10年間で経済は右肩上がりに成長している。
国連が北朝鮮に対して初めて制裁をかけたのが2006年。つまり、国連の制裁下にもかかわらず、経済は成長しているのである。
その原動力となるのが一般庶民によって作り出された「草の根資本主義」だ。
その中心がチャンマダンと呼ばれる「ヤミ市場」だ。
チャンマダンの形成過程などについては、李相哲・龍谷大教授の記事「北朝鮮経済が制裁強化でも容易に破綻しない理由」が詳しい。
チャンマダンでは、ありとあらゆるモノが、国境を接する中国から密貿易なども含めて輸入され売られた。中国では食料も民生品も金さえあれば手に入る。
穀物、海産物、果物、お菓子などの食品類だけでなく、化粧品、電化製品、文房具など、品揃えは豊富でなくても、生活必需品はほぼ揃う。時には、軍隊によって横流しされた国連物資なども売られている。
多種多様な商品のなかには、車の部品であるラジエーターなども見られる。
人気のある代表的な業種は「古着商売」。すぐ隣の中国は、世界の工場だ。新品、古着にかかわらず、たくさんの商品が入り込んで販売された。同時に、庶民の生活レベルが向上したせいか、最近では中国製品に飽き足らなくなり、日本製や韓国製の方が質がいいという認識さえ広まっている。
チャンマダンを通じて人々は、市場経済で当たり前の「モノを仕入れて売る」ビジネスを学んだ。
かつてのヤミ市場は、今では「統合市場」と名付けられ当局公認となった。しかも当局は、市場から「管理費」などの名目で資金を徴収し、国家財政に充てている。
携帯ビジネス急成長
治安当局もブローカーで稼ぐ
こうした中で、いま急成長するのが、携帯ビジネスだ。
今年1月の時点で、北朝鮮の携帯ユーザーが370万人を超えたという調査結果がある。 北朝鮮の人口が約2500万人(2015年調べ)だから、14.8%。仮に一世帯4人と計算すると、普及率は60%になる。かなりの世帯が保有しているようだ。
なによりも、北朝鮮では携帯電話を保有しているかどうかは、ビジネスの信用度にも関わってくる。携帯電話すら持てないヤツに商売なんぞできるわけがないと言ったところだろうか。
だが、携帯電話の使用は情報の流出入に関わってくるだけに、正規の手続きを経て購入しようとすれば、非常に手間がかかる。
ここで登場するのがこの制度を利用したビジネス、つまり「携帯ブローカー」だ。
北朝鮮の携帯電話はプリペイドカード式だ。ブローカーたちは、あらかじめ当局に「賄賂」を渡し、家族名義で複数の携帯電話に加入する。そしてその電話をブローカーに転売するのだ。
市場でこの「飛ばし携帯」は300ドルという「高値」で売買される人気商品。こうしたことから、治安機関が違法通話などで没収した携帯電話を「飛ばし携帯」として転売して、資金を稼ぐケースもあるほどだ。
さらに、慢性的な電力不足事情を反映してか、独自開発した充電器まで登場している。中国からバッテリーを輸入する商人が、電気技師を雇って北朝鮮の規格に合わせた充電器を開発してしまったのだ。非正規、すなわち「サードパーティー製」の充電器である。
携帯電話機器の販売のみならず、国際電話すらもビジネスのネタになる。
北朝鮮当局公認の携帯電話は、海外とは通話できない。そこで、貿易や外貨調達などで、海外の取引相手などと安全に通話するため、主に中国キャリアの携帯電話を貸し出すビジネス、いわば通話ブローカーが生まれた。
通話ブローカーには、治安当局者が関わることもある。ブローカーは、電波を監視する機関にワイロを渡して、国際通話を見逃してもらう。
通話料金は1時間あたり500元(約7620円)と非常に高価だが、念のため安全な通話のためのノウハウも教える。例えば、北朝鮮の治安機関は電波探知機を駆使して、海外との通話に対して厳しい監視をしている。これに対して、電波が探知されにくく、また探知されても見つかりにくい山の中や、安全なスポットで通話するノウハウを伝授するのだ。
一般庶民の一部には、移動しながらの通話だったら発信源が特定しづらいことに気づき、携帯電話に繋げたイヤホンマイクをマフラーと帽子で隠し、歩きながら通話するという。それだけでなく、自転車に乗って走りながら通話する人もいるという。携帯電話一つとってもありとあらゆるビジネスを考え出すのが北朝鮮の庶民たちだ。
脱北者からの外貨送金が
起業を支える
単純なモノの売買から始まった市場経済化は、日増しに発展しているようだ。
例えば、国営で立ち行かなくなった炭鉱の権利を個人が買い取って、国営企業の看板を掲げながら、事実上、会社のように経営される「自土(チャト)」。また、商売をしたいが資金がない人のために外貨を保有している人を紹介して、その手数料をもらう「ファイナンス・ブローカー」も存在する。
外貨を元手に起業する人たちも出ている。数年前に、毎日新聞の記者が興味深い記事を書いている。
企業家と名乗るある北朝鮮男性は、食品加工業を始めるため、「誰が外貨を持っているか」という情報を仲介する業者に200ドル(約1万6000円)払い、出資者6人から総額5000ドル(約40万円)を集めた。それを元手に操業されていない国営企業の機械を買い取り、改造して、食品加工ビジネスを始めた。
当時で、原料費約300ドルに対し約1200ドルを売り上げていたという。ちなみに北朝鮮の3〜4人家族の平均的な生活費が約100ドルだ。
市場市場経済で生きる中で、北朝鮮の人々は、様々な制約に縛られながらも、試行錯誤を繰り返しながら、学んでいるわけだ。
こうしたビジネスを展開するには、資金がいる。しかし、北朝鮮には資金を融資する銀行が存在しない。では、彼らはどこから資金を調達しているのか。
実は「脱北者」から調達しているのである。
韓国に定着する脱北者のほとんどが、北朝鮮に残した家族に送金、つまり「仕送り」をしている。その額は、少なくとも年間1000万ドル(10億2000万円)という調査結果がある。これに加えて、中国に潜伏しながら北朝鮮に送金している脱北者も含めると、相当な額が北朝鮮に流れている。
北朝鮮経済がいくら成長してきているとはいえ、人々が通常の生活を営むために10億円は多過ぎる。この10億円のかなりの額が、ビジネスをするための資金となっていると見て間違いないだろう。
「デノミ」失敗、統制に戻せず
市場からミサイル開発資金得る
こうした草の根資本主義は、金正日体制のころから急拡大したが、金正日委員長は、当時、苦々しい思いで見ていたに違いない。
国民を統制するためには、経済を統制しなければならない。しかし、統制しようにも国家にその余力はなく、その間にも庶民たちのチャンマダンはどんどん増殖した。
北朝鮮当局は2009年11月、電撃的に「デノミネーション」を断行する。北朝鮮ウォンの通貨単位を変えることによって、市中にたまった資金を表に出し、再度、市場を統制しコントロールする狙いがあったといわれている。
ところが、庶民たちがこれに猛反発する。
もともと、通貨では、人民元や米ドルが信用ある通貨として使われていたのだが、デノミを機に、北朝鮮ウォンの信用はガタ落ちし、またデノミの混乱で経済は停滞した。 庶民の怒りを抑えるため、デノミ実施の責任者だった朴南基(パク・ナムギ)氏は翌年3月に処刑された。
この事件は、金王朝の独裁体制でさえも、草の根資本主義にはもはや簡単には手出しできないことを象徴する事件といえる。
朴南基氏の処刑は、当時は一切、明らかにされなかったが、2013年の張成沢(チャン・ソンテク)処刑事件の際に、北朝鮮が公式に明らかにした。
つまり、デノミネーションの混乱を張成沢と朴南基に押しつけて「失敗」だったと認めたのだ。北朝鮮の草の根資本主義に対する「敗北宣言」と言っても過言ではない。
この敗北を教訓としたのか、金正恩体制は、草の根資本主義を統制するのではなく、容認しながら囲い込もうとする方針に転換したようだ。
韓国シンクタンクの推計によると、人口2500万の北朝鮮で、市場での仕事に従事している人が110万人にのぼり、当局の許可を得たものだけでも404ヵ所の市場が存在する。この市場から「管理費」という名目で北朝鮮当局が1日に得る額は、日本円にして約1738万円から約2217万円に達する。
もちろん、この管理費全てが北朝鮮の核・ミサイルの開発資金に充てられてるわけではないだろうが、金正恩体制が市場から相当な資金を得ていることがわかる。
「北朝鮮に核・ミサイルを開発する資金などあるわけがない」というのは、既に過去の話なのだ。
意識を変え始めた経済民主化
政治の民主化につながる
海外からの送金や資金の流入で、市場経済が離陸し始めた例としては、かつてのベトナムがある。
米国に亡命したベトナム人が家族に送金し、その金を資本にベトナム人たちはビジネスを始め、市場経済が発展した。国家も統制できず、最終的に容認したため、1986年のベトナム共産党大会で提唱された経済開放政策の「ドイモイ(刷新の意味)」につながったという説もある。
北朝鮮も、このあたりの事情は熟知しているはずで、それ故に、簡単に開放政策に舵を切ることはないだろう。開放政策が、政治的な民主化につながり、いずれ金王朝の体制不安につながりかねないと見ているからだ。
だからといって、市場に下手に手出しをして統制すると、思わぬしっぺ返しをくらってしまう。
金正恩体制は、草の根資本主義が発展する現状を黙認しながらも、いずれは牛耳ろうと虎視眈々と狙っている。つまり、国家と市場のせめぎ合いは今現在も続いているのだ。
こうした北朝鮮の現状を日本や周辺国はどう捉えるべきか。
経済が発展するということは金正恩体制が潤うことに直結し、より“暴走”を加速させ、体制を強固にしかねないため、もっと経済制裁などで締め付けなければならないという強硬論が出るのはおかしくはない。
しかし、筆者は金正恩の暴走をストップさせるためにも、草の根資本主義をより発展させるような手段を講じるべきだと思う。
実際、草の根資本主義を通じて、北朝鮮の人たちの意識は変わり始めている。
今の北朝鮮の閉鎖的な体制では、未来がないということもわかっている。時間はかかるかもしれないが、北朝鮮民衆の意識変化を促すことが、結果的に金正恩体制を変更に導くという考え方があってもいいのではないか。
(デイリーNKジャパン編集長 高 英起)
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