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「辞任」「解任」続出で迷走するホワイトハウスの課題
「オバマケアの見直し」膠着が人事の混乱の伏線に
2017.8.10(木) 新潮社フォーサイト
トランプ氏、首席補佐官の交代発表 内紛露呈、共和党と関係悪化も
米メリーランド州で開かれた討論会で発言するラインス・プリーバス大統領首席補佐官(2017年2月23日撮影、肩書は当時のもの)。(c)AFP/Mike Theiler〔AFPBB News〕
(文:足立 正彦)
7月下旬からトランプ政権のホワイトハウス人事を巡る迷走が続いている。
ウォール街の投資家であるアンソニー・スカラムッチ氏の広報部長任命を契機としてホワイトハウス中枢の内紛が一挙に露呈し、同氏の広報部長起用に強く反発していたショーン・スパイサー大統領報道官は7月21日に辞任。後任には、5月からスパイサー氏に代わってホワイトハウスでの定例記者会見を頻繁に担当してきたサラ・ハッカビー・サンダース副報道官(マイク・ハッカビー元アーカンソー州知事の娘)が昇格した。
また、スパイサー氏やスティーブ・バノン首席ストラテジスト兼大統領上級顧問とともにスカラムッチ氏の起用に反発していたラインス・プリーバス大統領首席補佐官も7月28日に事実上更迭され、後任にはジョン・ケリー国土安全保障長官が横滑りし、7月31日に正式に就任した。
そしてさらに驚かされたのは、ケリー大統領首席補佐官が就任するや否や、スカラムッチ広報部長がわずか在職10日の7月31日に解任されたことである。トランプ大統領に対してスカラムッチ氏の解任を求めていたのは、他でもないケリー氏であった。
迷走するホワイトハウス中枢人事
トランプ政権発足からいまだ半年余りしか経過していない。にもかかわらず、ホワイトハウス中枢の混乱ぶりには目を見張るものがある。
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ロシア政府が2016年米国大統領選挙に介入していたとして、オバマ政権(当時)が対ロシア報復制裁措置を決定した昨年12月29日のまさにその日、セルゲイ・キスリャク駐米ロシア大使(当時)と電話でトランプ政権発足後の制裁措置の解除について協議していたことが発覚したマイケル・フリン氏は、在職わずか24日で国家安全保障問題担当大統領補佐官を辞任に追い込まれた。
そして今回のスパイサー、プリーバス、スカラムッチ各氏の相次ぐ辞任や解任と、ホワイトハウス中枢の人事は大きく揺れ動いており、トランプ政権の「異常さ」は明白である。
プリーバス氏らの「辞任の伏線」
プリーバス氏は2011年から共和党全国委員会(RNC)の委員長を務めており、当時、RNCで報道担当をしていたのがスパイサー氏である。
プリーバス氏は中西部ウィスコンシン州の地方政治に深く関与しており、保守系有権者の草の根運動であったティーパーティー(茶会党)運動が全米各地に広がった2010年中間選挙では、ウィスコンシン州でも共和党のスコット・ウォーカー州知事候補やロン・ジョンソン上院議員候補の初当選に大きく貢献していた。
また、ポール・ライアン下院議長も同州第1区選出の下院議員であり、ライアン下院議長との関係も良好であり、それだけに、ホワイトハウスと議会共和党との橋渡し役を期待され、プリーバス氏を大統領首席補佐官に起用した背景があった。
しかし、RNC委員長として選挙での政治資金調達や党勢拡大に取り組んできたプリーバス氏には議会折衝の経験がほとんどなく、加えて「共和党内の意見対立」という大きな制約があった。
1月3日に招集された第115議会(〜2019年1月)でトランプ政権と議会共和党指導部が最優先で可決を目指したのは、医療保険制度改革法(通称、オバマケア)の撤廃と置き換えを目指す代替法案であった。
だが、オバマケアにより生じている財政支出を削減するには撤廃すべきとの立場の保守派議員と、無保険者を大幅に増加させるという低所得者層の切り捨てはすべきではないとの立場の穏健派議員との間で、共和党内での意見の対立が激化。その結果、上院では、オバマケア撤廃法案も代替法案も一部撤廃法案も、いずれも共和党議員の一部が離反してすべて否決。ついに7月28日には、上院でのオバマケア見直しを事実上諦めざるを得ない状況に追い込まれた。
共和党がホワイトハウス、上院、下院のすべてを支配しているにもかかわらず優先法案を可決できない現状にトランプ大統領は不満を募らせていたが、それがプリーバス氏やスパイサー氏の在任わずか半年余りでの辞任の伏線であった。つまり、共和党主導の上院におけるオバマケアの見直しが膠着状態に陥る中でホワイトハウス中枢の人事を巡る混乱が明らかになったことは、決して偶然ではない。
ホワイトハウスへの規律導入
ホワイトハウスと議会との橋渡し役を期待されていたプリーバス氏の辞任で懸念されるのは、トランプ政権と共和党主流派との今後の関係である。
今回、大統領首席補佐官に就任したケリー氏は元海兵隊大将であり、国土安全保障長官として国境管理の強化などに取り組んできた。だが、大統領首席補佐官というポストは、政権の要として、とりわけ議会対策について重要な役割を担う。
ちなみに、元軍幹部が大統領首席補佐官に就任した事例は非常に少なく、ウォーターゲート事件当時、リチャード・ニクソン大統領と、副大統領から後任の大統領に昇格したジェラルド・フォード大統領に仕えたアレクサンダー・ヘイグ氏(第1期レーガン政権で国務長官に就任)以来となる。
トランプ政権下のホワイトハウスは内部対立やメディアに対する意図的な情報のリーク(漏洩)などが日常茶飯事となっており、混乱をさらに助長する結果を招いていた。こうした状況に対してプリーバス氏は適切に対応できなかったため、トランプ政権の不安定さを有権者に印象付けることになった。
まずこうしたホワイトハウスの従来までの状況を変革し、ホワイトハウスに規律を導入することがケリー氏の最初の取り組みとなる。
その一環として、これまでは主要幹部であれば自由に大統領執務室に出入りできた状況を改め、たとえトランプ大統領の長女イヴァンカ・トランプ大統領補佐官であっても、娘婿ジャレッド・クシュナー大統領上級顧問であっても、ケリー氏の許可を必要とするかたちに変更した。
ただ、ケリー氏の不安材料として、議会折衝を挙げなければならない。国土安全保障長官当時の信頼の厚いスタッフを配置するとともに、現在、議会折衝を担当しているマーク・ショート立法担当部長の他に、議会折衝に長けた人物をさらに迎えることも不可欠となろう。
そうした取り組みによって、優先法案であったオバマケア代替法案頓挫からの立ち直りを図り、減税や法人税引き下げを柱とする税制改正などの次の主要な立法課題に取り組むための第1歩としなければならない。(足立 正彦)
足立 正彦
住友商事グローバルリサーチ シニアアナリスト。1965年生れ。90年、慶應義塾大学法学部卒業後、ハイテク・メーカーで日米経済摩擦案件にかかわる。2000年7月から4年間、米ワシントンDCで米国政治、日米通商問題、米議会動向、日米関係全般を調査・分析。06年4月より現職。米国大統領選挙、米国内政、日米通商関係、米国の対中東政策などを担当する。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50732
米政権、ラスプーチンと将軍たちとの新たな戦い
アメリカ現代政治研究所
火だねを残したホワイトハウスの人心一新
2017年8月10日(木)
高濱 賛
新たに大統領首席補佐官に就任したジョン・ケリー氏(写真:AP/アフロ)
ドナルド・トランプ米大統領は、課題山積の中で17日間の夏休みに入りました。7月のホワイトハウスはまさにハリケーンが襲ったような感じでしたね。
高濱:8月に入ってもハリケーンの余波はホワイトハウスをすっぽりと包んでいます。まだまだ不安定な天候が続くと見る「政界天気予報」もあります(笑)
トランプ大統領は、ロシアとの不透明な関係をめぐる「ロシアゲート」疑惑に対して積極的な動きをとらないと見なしているジェフ・セッションズ司法長官を更迭する可能性すらほのめかしているのですから。
7月28日にはラインス・プリーバス大統領首席補佐官(*1)を、同31日には10日前に起用したばかりのアンソニー・スカラムチ広報部長(*1)をそれぞれ更迭しました。同26日には、ショーン・スパイサー報道官(*1)が辞任しています。
*1:プリ―バス氏の後任には7月31日、ジョン・ケリー国土安全保障長官が就任。スパイサー氏の後任はサラ・ハッカビー・サンダース副報道官が7月21日に昇格。スカラムチ氏の後任は8月6日現在未決定。
政権発足から6カ月の間に首席補佐官、国家安全保障担当補佐官、報道官が全員交代するという異例の事態です。それでも「裸の王様」と化したトランプ大統領は、得意の「You're fired!」(*2)(お前は首だ!)の連発でした(笑)
*2:トランプ氏はかつてテレビ番組「アプレンティス」(見習い)に出演。「You're fired!」を決まり文句として使ったため、この表現は同氏のトレードマークになった。
ホワイトハウスの内紛はこれまでにも噂されてきましたね。
高濱:トランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー上級顧問に連なる中道派と、スティーブン・バノン首席戦略官・上級顧問らの保守強硬派との確執が注目されてきました。
その中で両派の間に立って蝶つがいの役割を果たしてきたのが、プリーバス首席補佐官でした。共和党全国委員長だった経験からトランプ大統領と共和党保守本流の連絡役でもありました。そのプリ―バス氏の首を斬ったのですからワシントン政界は開いた口が塞がりません。
プリーバス氏を更迭した理由はなんですか。
高濱:プリーバス氏が「ウエストウィング」(ホワイトハウス行政府)を取り仕切ることができていたのは、一にも二にも大統領との信頼関係でした。
首席補佐官は閣僚外の役職ですが、日本で言えば、内閣官房長官です。首席補佐官のオフィスは大統領執務室に一番近いところにあり、大統領に会おうと思えばいつでも会えます。
トランプ大統領はそのフリーバス氏を7月に入って遠ざけ始めたんですね。理由は、ロシアゲート疑惑への対応にしても医療保険制度改革(オバマケア)を撤廃・代替する法案にしてもうまくいかないのは「お前が悪いんだ」と、責任をプリーバス氏になすりつけたのです。
加えてプリーバス氏は、クシュナー上級顧問やバノン首席戦略官とは異なり、大統領選を一緒に戦った「譜代」ではありません。政権発足と同時に陣営に入った「外様」です。本人はそう思わなくても、トランプ大統領に対する「忠誠心」に差がありました。
もっとも山積する課題が解決しないのは、プリーバス氏だけの責任ではありません。最大の理由は、トランプ大統領自身が思いつきで政策を決定することと、ツイッターによる暴言・放言です。
保守系新聞のウォール・ストリート・ジャーナルは7月30日付の社説でこう指摘しました。「ホワイトハウスが混乱する原因はプリーバス氏ではなく大統領自身にあることを認識しない限り、いくらスタッフを刷新しても問題解決にはならない」 ("WSJ says 'Trump is the problem, not Priebus, " Brian Freeman, www.newsmax.com.,7/30/2017)
ケリー新首席補佐官は軍隊式秩序を持ち込めるか
プリ―バス首席補佐官を追い出したのは、「ホワイトハウスのラスプーチン」とも呼ばれているバノン首席戦略官と言われていますが……
高濱:そう言われています。トランプ大統領はバノン氏を怒鳴りつけたり、批判したりしているのですが、同氏は同大統領の「アルターエゴ」(alter ego=分身)的存在です。トランプ大統領の思考を理路整然と整理する知的同志なのですね。
それにロシアゲート疑惑の追及はひたひたとウエストウィングに押し寄せています。トランプ大統領の最側近であるクシュナー氏は疑惑を晴らそうと議会証言に臨みました。当面はなんとか切り抜けたものの、疑惑から完全に抜け出せたとはいえない状態です。
バノン氏は側近グループでは唯一、ロシアゲート疑惑と無関係とされています。そのためウエストウィングで最近特に影響力を強めています。
プリーバス氏に代わって急きょ、首席補佐官に起用されたのは軍人出身のジョン・ケリー国土安全保障長官ですね。
高濱:中南米を担当する南方軍司令官でした。トランプ大統領はケリー氏に、情報管理を含め軍隊式の規律と秩序をホワイトハウスにもたらして欲しいようです。
ジェームズ・マティス国防長官(元中央軍司令官)、H.R.マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当、元陸軍中将)に続き、首席補佐官までが軍人出身者になったわけです。
退役将軍が政権の中枢に座を占めてもあまり批判が出ないのはなぜでしょう。
高濱:米国ではシビリアン・コントロールがそれだけ定着しているからかもしれません。それにこの3人の将軍は、輝かしい軍歴もさることながら、ワシントン政界や言論界でも人品骨柄申し分ないと太鼓判を押されている人たちですから。むしろトランプ政権を立て直すのはこのマティス長官、マクマスター補佐官、それにケリー補佐官の3人と言われているくらいです。
("100 days, Trump's Generals seen as a moderating force," Tom Bowman, NPR, 4.28.2017 )
「ノーナンセンス・アプローチ」だが、安定化には火種残る
これで“ハリケーン一過”、トランプ政権は仕切り直しで順風満帆となりますか。
高濱:それが、そうもいかないようです。暗雲は依然として立ち込めています。
タイム誌でホワイトハウスを担当しているゼーキ・J・ミラー記者はこう指摘しています。「ケリー氏を首席補佐官に起用したことを評価する声が大方だ。だがノー・ナンセンス・アプローチ(現実的でしっかりしたアプローチ)ではあるものの、混乱しているホワイトハウスを安定させることができるかどうかはまだ分からない」
「ホワイトハウス高官の一人は、『トランプ大統領はケリー首席補佐官に強力なリーダーシップを期待している』と言っている。だが、トランプ大統領自身が唯我独尊、勝手な言動と決定を続けている。大統領がそれをやめない限り、ケリー補佐官が本当にリーダーシップを発揮できるかどうか。不安定要素は残ったままだ」
("What the White House Staffing Changes Mean." Zeke J. Miller, Time.7/31/2017)
アフガニスタン派兵規模をめぐって対立
バノン氏とマクマスター補佐官が対立していると言われます。直近の案件はなんですか。
高濱:アフガニスタン情勢をめぐっての案件です。具体的には、トランプ政権としてどのようなアフガニスタン戦略を策定するか。「オバマ政権のアフガニスタン戦略は間違っていた」(トランプ大統領)のであれば、それに代わる新しい戦略を打ち出さなければなりません。ところが政権発足から6カ月たってもはっきりした戦略を出せずにいるのです。
アフガニスタンには依然として8400人の米軍兵士が駐屯しています。治安状況は厳しいまま。主要な反政府武力勢力であるタリバンのほか、「ISILホラサーン州」を称する勢力などが各地でアフガニスタン政府軍への攻撃を繰り返しています。テロなどによる民間人の死者は17年上半期だけで1662人と、前年同期比で2%も増加しているのです。8月3日にはカンダハル州でタリバンが自爆テロを起こし、米軍兵士2人が死亡しています。
("Iran Gains Ground in Afghanistan as U.S. Presence Wane," Carlotta Gall, New York Times, 8/5/2017)
トランプ大統領の考えは「米兵はアフガニスタンから1日も早く引き揚げるべきだ」と単純明快です。しかし、情勢が悪化する中で直ちに撤退はできません。好転させるには増派せざるを得ない。マティス国防長官は少なくとも3000人の増派が必要だと見ています。
全権移譲されていたマティス長官が増派を決めれば実地に移されるはずだったのですが、最近になってトランプ大統領がその全権を取り上げてしまいました。最終決定は国家安全保障会議(NSC)の判断にゆだねることになりました。
マクマスター補佐官は、マティス長官の意見に賛同しています。しかし、バノン氏がこれに横やりを入れている。バノン氏は「われわれは勝っている。だから引き揚げろ」という考えです。トランプ大統領はバノン氏の考えに賛同しているふしがあります。
バノン氏が大統領の耳元でなにやら囁いているのが目に浮かぶようですね。ケリー首席補佐官としては、バノン対マクマスターの確執を和らげ、ウエストウィングに秩序を取り戻すことが最初の腕の見せ所ですね。
高濱:悪いことに、バノン氏の主張を超保守系メディアがリングの外で支援しています。バノン氏の古巣であるブライトバード・ニュースはじめ、FOXニュースでホストを務めるショーン・ハニティ氏たちです。同氏はトランプ支持のハードコアです。
こうしたメディアは8月に入って「マクマスターはオバマ政権からの生き残りに追従している」「マクマスターは本当にトランプ支持者なのか」などと批判し始めています。集中砲火を浴びせているのです。
(”The War Against H. R. McMaster," Rosie Gray, The Atlantic, 8/4/2017)
大統領がほのめかす「マクマスター・アフガン駐留米軍司令官」説
トランプ大統領はどちらの肩を持っているのですか。
高濱:心情的にはむろん、バノン氏を信頼しています。ただマイケル・フリン氏が大統領補佐官(国家安全保障担当)を辞任したあと、マクマスター将軍を三顧の礼で迎え入れたのですから、そう簡単に更迭するわけにはいきません。それにマクマスター氏は軍事問題の権威、文武両道兼ね備えた学者将軍です。
トランプ大統領は最近になって、「アフガニスタンの戦局が好転しないのは、ジョン・ニコルソン司令官の責任だ。奴を更迭して別の将軍を送れ」といい出しました。これもバノン氏の入れ知恵でしょうね。
直接の上司であるマティス長官や国防総省(ペンタゴン)の制服組最高幹部はニコルソン司令官の続投を主張して反発しています。
こうした状況の中でトランプ大統領は、ニコルソン司令官を更迭し、その後釜になんとマクマスター補佐官を送ることを考え始めたといわれています。
となると、マクマスター氏の後任は誰になるのですか。
高濱:マクマスター補佐官の後任には、マイク・ポンペオ米中央情報局(CIA)長官(*3)を横滑りさせるというのです。米メディアは「ホワイトハウスのドミノ現象」と呼んでいます。
*3:ポンペオ氏は下院議員。米陸軍士官学校卒の退役陸軍大尉、ハーバード大法科大学院卒の弁護士。マクマスター氏の後任になれば、引き続き軍人出身者が大統領補佐官(国家安全保障担当)になる。
マクマスター補佐官の反応はどうですか。
高濱:マクマスター補佐官は、NSCの人事刷新を終えたばかりです。ロシアゲート疑惑で事実上解任されたフリン前補佐官が引き連れてきた人材を一掃しました。
7月末までに、上級部長のエズラ・コーエン・ワトニック氏、情報担当首席補佐官のテラ・ダール氏、中東政策補佐官のデレク・ハービィ氏、戦略担当部長のリッチ・ヒギンズ氏を更迭しました。
("White House purging Michael Flynn Allies From National Security Council," Glenn Thrush and Peter Baker, New York Times, 8/2/2017)
マクマスター補佐官としては、自前のスタッフを集めて、さて仕事を始めようとしていた矢先に、“戦場送り”になる可能性が浮上したわけです。相当、頭にきているのではないでしょうか。戦場送りにされるようなら辞表を叩きつけるかもしれません。
なるほど、ホワイトハウスが混乱している最大の要因が大統領自身であることが手に取るようにわかります(笑)。それでこれからどうなるのですか。
高濱:「神のみぞ知る」ですね。
しかし、トランプ大統領にとっては、お膝元の内紛どころじゃない状況が続いているのです。内政・外交もさることながらロシアゲート疑惑に対する捜査が新たな段階に入りました。
ホワイトハウスの「ドミノ現象」が続く中で、ロバート・モラー特別検察官がロシアゲート疑惑をめぐって大陪審を招集したことが3日に明らかになっています。捜査は当面、トランプ大統領の長男ドナルド・トランプ・ジュニア氏とロシア人弁護士の面会(16年6月9日)などロシア側との接触が焦点になっているようです。
トランプ大統領はモラー特別検察官を捜査から外す可能性を否定していません。同特別検察官を解任するのではないのかといった憶測も消えていません。
内憂外患、17日間もゴルフなぞしている余裕はないはずです……。打つ手なしだからゴルフ三昧しかない、のかもしれませんが。注目はこれからの17日間、トランプ大統領がツイッターで何を発信するかですね。
このコラムについて
アメリカ現代政治研究所
米国の力が相対的に低下している。
オバマ大統領に代わって政治経験ゼロの不動産王ドナルド・トランプ氏が大統領の座に就いた。
大統領選中に掲げた「米国第一主義」と「偉大な米国」を錦の御旗に、内政外交の舵を大きく切った。
東アジアでは、北朝鮮の挑発行為に対抗して軍事力を誇示。緊張を高める政策を取る。一方、欧州では、防衛費の分担をめぐって、北大西洋条約機構(NATO)加盟国との関係をギクシャクさせている。政権発足早々に中東諸国を歴訪したが、イスラム教過激派組織によるテロの撲滅につながる糸口をまったく掴めていない。
転換期を迎えた米国が今後どう出るかは、日本にも重要な影響を及ぼす。日本にとって米国の後ろ盾は欠かせない。これまでにも増して米国政治の動向を注視する必要がある。
米国に拠点を置いて25年のベテラン・ジャーナリスト、高濱賛氏が米国政治の最新の動きを追う。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/261004/080800052
2017年8月10日 加藤 出 :東短リサーチ代表取締役社長
米国で財政規律をめぐるバトル「政府債務上限問題」が再燃中
9月29日までに米国の政府債務上限を議会が引き上げないと、政府の支払いが遅延する恐れがあると訴えているスティーブン・ムニューチン米財務長官?Photo:AP/アフロ
米国の政府債務上限問題が金融市場の懸念事項になってきた。スティーブン・ムニューチン米財務長官は、9月29日までに議会が上限を引き上げないと、政府の支払いが遅延する恐れがあると訴えている。
米財務省が工面しても、10月上旬には国庫の資金は底を突きそうだ。2011年7月と13年10月に同じ問題で混乱が生じた時は、米国債のデフォルト(債務不履行)が心配され、利回りが上昇した。国債の元利金支払いを他の米政府の支払いよりも優先させるべきだ、という議論もあるが、今のところムニューチン氏は政府の支払いに優先順位をつけることに慎重だ。
米議会は夏に休会となるため、9月29日までの議会の稼働日数はわずか12日しかない。しかし、ドナルド・トランプ米政権の議会に対するコントロール力は弱く、状況は混沌としている。米連邦準備制度理事会(FRB)は、9月19〜20日の米連邦公開市場委員会(FOMC)でバランスシートの縮小開始を決定したがっているが、もしこの問題で市場が不安定になれば、延期の可能性も出てくる。
世界の金融市場関係者にとって、米国でたびたび生じるこの問題は大きな迷惑だ。国債発行計画を含めた今年度の政府予算が議会で承認されているのに、債務上限の制約で予算執行が滞るというのは、制度の構造としても不合理である。ただ、米議会には国の借金を安易に膨らませてはいけないと信じる勢力がいて、米国債市場を“人質”に取って、財政規律をめぐるせめぎ合いを何度も演じている。
国際通貨基金(IMF)の推計では、米政府における17年のグロス(総額)債務の国内総生産(GDP)比は108%、基礎的収支の赤字のGDP比は1.9%である。一方、日本のそれらはいずれも倍以上の239%と3.9%だ。しかも、日本の今後の財政収支は高齢化と人口減少によって、より厳しくなっていく。それなのに、財政規律をめぐる米国のようなバトルは日本では見られない。
19年度に消費税率を引き上げなければならない、という緊張感も今はあまり見られない。危機意識が高まらない理由の一つは、日本銀行の超金融緩和策によって多くの国債の発行金利がゼロ%前後、またはマイナス金利に押し下げられていることにある。
1990年代には、スウェーデンやオーストラリア、ニュージーランドで財政改革が進められたが、国債の利払い費が膨張して、予算がそれに深刻に圧迫されていたことが背景にあった。将来世代へ借金をつけ回すことへの罪の意識が世界で最も弱い国民は、もしかするとわれわれかもしれない。
状況を少しでも改善するための手として、せめて独立財政機関の設立が必要と思われる。米国では議会予算局がそれに当たり、政府が経済政策などを発表すると、長期的に財政に与える影響をすぐに試算して公表する。彼らは政治から完全に独立した存在で、トランプ政権が妙に楽観的な見通しを示しても彼らに否定されてしまう。
経済協力開発機構(OECD)によると、20カ国以上が独立財政機関を設置し、30〜50年といった超長期の財政収支の推計を公表している。一方、日本政府はたった8年先しか示していない(加藤創太・小林慶一郎編著『財政と民主主義』第2、4章に詳しい)。
中立的な組織をつくる難しさはあるが、信頼に足る議論のたたき台があれば、長期的な財政収支に対する国民の関心は今よりも高まってくるのではないか。
(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)
http://diamond.jp/articles/-/138086
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