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7月25日、“ラストベルト”地帯のオハイオ州ヤングスタウンを訪れ熱狂的な歓迎を受けたトランプ大統領(Justin Merriman/Gettyimages)
北朝鮮にはないがトランプの資産捜査にはあるレッドライン
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10267
2017年8月3日 海野素央 (明治大学教授、心理学博士) WEDGE Infinity
今回のテーマは「トランプの2つの失望」です。ドナルド・トランプ米大統領は、ホワイトハウスでの記者会見及びツイッターでジェフ・セッションズ司法長官と中国に対して「大変失望している」とかなり強い不満を漏らしました。2016年米大統領選挙におけるトランプ陣営とロシア政府の共謀を巡る「ロシアゲート疑惑」を払拭できない状態が続いているからです。それに加えて、期待していた中国が本気で最大限の圧力をかけないために、トランプ政権の対北朝鮮政策は効果が出ず、完全に袋小路に陥っています。そこで本稿では、トランプ大統領の2つの失望の背景を説明しながら、ロシアゲート疑惑と北朝鮮によるICBM(大陸間弾道弾)発射の問題を考えてみます。
■リスクの高いモラー解任
まず、トランプ大統領のセッションズ司法長官に対する失望からみていきましょう。そのきっかけになったのは、同長官がロシアゲート疑惑の捜査から身を引くと決断したことでした。トランプ大統領は同長官にロシアゲート疑惑を解決させたかったのですが、思惑通りにいかず、結局、特別検察官が任命されコントロールが効かなくなってしまったのです。
そこでトランプ大統領はあるシナリオを練っていると見られています。セッションズ司法長官を解任して、新長官にロシアゲート疑惑の捜査を進めているロバート・モラー特別検察官の首切りをさせるシナリオです。ただ、このシナリオにはかなりのリスクが伴います。すでに共和党の重鎮リンゼー・グラム上院議員(サウスカロライナ州)は、モラー特別検察官の首を切った場合、「トランプ政権の終わりの始まりになる」と警告し、反対の意思表示をしています。
仮にトランプ大統領がセッションズ長官を解任すれば、上院は承認公聴会で同大統領が指名した新長官の候補にモラー特別検察官による捜査継続を約束させるでしょう。それでも、同大統領が強硬手段に出て、新長官を通じてモラー氏の任務を解けば、ジェームズ・コミーFBI長官解任時よりも、世論からロシアゲート疑惑の捜査に対する司法妨害だと激しい批判を浴びることは回避できません。一刻も早くロシアゲート疑惑の重圧を取り除きたい同大統領ですが、モラー解任は状況をさらに悪化させる可能性が少なくありません。
■トランプの主体性欠如
次に、中国に対するトランプ大統領の失望です。7月28日北朝鮮は、第2回目のICBMを発射し、実験の成功を発表しました。それに対して同大統領は、ツイッターを通じて北朝鮮ではなく中国に対して失望感を表明し、一方的に批判しています。同大統領の北朝鮮政策は中国に外部委託(アウトソーシング)をしており、主体性に欠け、すでに限界にきています。率直に言ってしまえば、同大統領は他力本願で、北朝鮮核・ミサイル問題に対するコミットメントが低いのです。
トランプ大統領は、中国が最も北朝鮮に対して影響力があると主張してきました。もちろんこれは事実なのですが、同大統領の3つの「こ」、即ち「効率・コスト・公平」の思考様式が働いていることも看過できません。効率よくコストをかけずに中国に北朝鮮問題を一任したのです。しかも同大統領は、中国は貿易面で米国から十分稼いでいるのだから、中国が米国に代わって北朝鮮問題を解決するのはフェア(公平)であると捉えているのです。
それに対して、中国は北朝鮮問題を米国が責任転換をしていると強く認識しています。トランプ大統領の3つの「こ」の思考様式が、北朝鮮問題の解決を遅らせている一要因となっていることは否定できません。
■レッドライン不在
7月4日北朝鮮が第1回目のICBMを発射するまで、日本国内ではトランプ大統領のレッドライン(超えてはならない一線)に関して評論家やマスコミが熱い議論を交わしました。ところが、同大統領自身はレッドラインについて明言していませんでした。第1回目のICBM発射実験の成功後、同大統領はレッドラインを引かないと発言しています。
仮にレッドラインが存在していれば、トランプ大統領は第1回目のICBM発射の時点で、即座に自ら緊急記者会見を開くないしホワイトハウスの執務室からテレビカメラを通じて米国民及び世界に向けてメッセージを発信する、といった行動に出たはずです。あるいは、オハイオ州、ウエストバージニア州及びニューヨークでの演説の中で、北朝鮮のICBM発射の問題について時間を割いたはずです。
トランプ大統領は、上のいずれの行動も起こしていません。メディアは、第2回目のICBM発射後、トランプ大統領と安倍晋三首相が電話協議で具体的な行動を進めていくことで一致したと報道していますが、同大統領の動きは鈍いと言わざるを得ません。
一般に、レッドライン及びデッドライン(期限)は、相手に圧力をかける効果を狙って設定されます。同時に、自分に対してはレッドラインにコミットするという意味が含まれています。
ところが、トランプ大統領のレッドラインに対する考え方は異なります。同大統領はレッドラインを引くことは、相手に戦略や情報を与えていまい、自分の立場を弱くすると捉えているのです。同大統領にとってレッドライン並びにデットラインは効果的な交渉の道具ではないのです。結局、評論家やマスコミはレッドラインの思考の罠にはまり、振り回されていたのです。
■本当のレッドライン
北朝鮮の第1回目ICBM発射実験の後、トランプ大統領は米ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューに応じました。その中で、同大統領はレッドラインに言及したのです。「仮にモラー特別検察官がトランプ大統領や家族の資産を捜査すれば、それはレッドラインか」という同紙の質問に対して、「そうだ」と回答しました。同大統領にとって、本当のレッドラインは北朝鮮のICBM発射ではなく、特別検察官による資産の捜査なのです。
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