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「レッドライン」を越えてきた強気の北朝鮮
足元を見られるトランプ大統領は国内でも一層窮地に
2017年7月25日(火)
上野 泰也
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は、ICBMの発射実験成功の後、「米国の敵視政策や核の威嚇が根本的に清算されない限り、われわれはいかなる場合にも、核と弾道ミサイルを交渉のテーブルに上げない」と述べて交渉を拒否。強気の姿勢を崩さない。(写真:AP/アフロ)
強気の理由は「武力行使はない」と見ているから
筆者は6月6日に配信された当コラム「何が起きれば『恐怖指数』は急上昇するのか? 北朝鮮の『レッドライン』と『ロシアゲート』疑惑」の中で、北朝鮮に対し武力行使に踏み切る「レッドライン」を米トランプ政権はあえて明示していないものの、米政府高官の発言などから、@核実験、A大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射、B米軍基地への先制攻撃の3つが実質的な「レッドライン」とみられるとした。
その後、米国の独立記念日(7月4日)に北朝鮮は弾道ミサイルを発射。米軍筋などは当初は中距離弾道ミサイルだと推定していたが、北朝鮮当局がICBM「火星14」発射に成功したと発表すると、米国も飛距離5500km以上のICBMだと認めた(韓国の国家情報院は中距離ミサイル改良型だとしている)。ハワイやアラスカにも届くとみられており、米ジョンズ・ホプキンズ大高等国際問題研究大学院の米韓研究所によると、試験と開発が進めば1〜2年で核弾頭1発を搭載し米西海岸を射程に収めるミサイルになり得るという。
こうした状況になってもトランプ政権の動きは鈍く、武力行使に踏み切る兆候はない。そして、米国の足元を見て(武力行使はないと見透かして)、北朝鮮は強気に出ている可能性が高い。
北朝鮮が反撃すれば、日韓に多大な被害
武力行使の手法で最も有力なのは、巡航ミサイルによる核施設・ミサイル発射基地空爆だろう。だが、それをためらわせる要因として、@ターゲットを事前に全て捕捉して同時攻撃することの難しさ(核施設は地下にも存在するし、ミサイルは移動発射台の場合もある)、A北朝鮮の強力な砲兵部隊が報復措置として韓国を砲撃した場合に想定される甚大な被害、B左記ともリンクしている韓国・文在寅政権の対北朝鮮武力行使への強い反対姿勢、C国連決議がなく中国・ロシアの事前の了承もないまま攻撃する場合のこれら両国と米国の関係悪化、以上4点を指摘することができる。
ワシントンの軍事筋によると、トランプ政権は北朝鮮の核・ミサイル関連施設への先制攻撃や、北朝鮮船舶が出入港するのを阻止する海上封鎖などをかつて検討したが、北朝鮮の反撃によって韓国や日本に多大な被害が出ることから「現実的ではない」と判断されたという(7月6日 朝日新聞)。マティス米国防長官は6日、「(北朝鮮によるICBM発射自体で)われわれが戦争に近づいたわけではない」と述べ、外交的解決の模索を確認した。
金委員長「核戦力強化の道から一歩も引かない」
金正恩朝鮮労働党委員長はICBM発射に成功した後、「米国の(北朝鮮への)敵視政策と核の威嚇が根本的に清算されない限り、われわれはいかなる場合にも、核と弾道ミサイルを交渉のテーブルに上げない」「核戦力強化の道から一歩も引かない」と述べた。このため、次は6度目の核実験強行で米国を揺さぶるのではないかという見方が出ている。もしそうなれば、実質的「レッドライン」の2つめが越えられたことになり、緊張が高まるわけだが、すでに述べた理由から米国による武力行使は予想し難い。
この間、中朝貿易関係者の間では2年後には制裁が緩和されるとの期待感が広がっており、北朝鮮当局は2年程度で対米交渉により局面を打開する戦略を描いている可能性があるという(7月12日 毎日新聞)。
7月11日のウォールストリートジャーナル(アジア版)はコラムで、安全保障問題で経験豊富なロバート・ゲーツ元国防長官の対北朝鮮政策案を取り上げた。北朝鮮に体制維持保証を与えることも含め、まず中国との間で包括的で高度な合意に至った上で、実効性ある査察も交えて北朝鮮の核を封じ込める。中国が北朝鮮説得に失敗した場合、米国はミサイル防衛網拡充などで中国との対決姿勢を強めるというものである。
中途半端な緊張状態が、しばらく続きそうな雲行き
ほかに、経済・金融制裁強化、中国による北朝鮮への原油供給停止などのアイディアは出ている。だが、いずれも切り札にはなりにくい(後者はロシアが抜け道になり続けると実効性は低下する)。中途半端な緊張状態が、しばらく続きそうな雲行きである
北朝鮮リスクの封じ込めがうまくいかず、中国からはこの問題で一方的に責任を押し付けられることへの不満の声が出始めている中、国内政治的にもトランプ大統領の立場はますます苦しくなっており、「トランプ包囲網」がじわじわ狭まっているようにも見える。
1月20日の就任式からもうすぐ半年になるが、態勢立て直しはいっこうに進まず、支持率が上向く兆しもない。議会民主党との対立は激しく、CNNなど国内大手マスコミとの関係は悪化したままである。
トランプ長男のロシア問題は深刻度が高い
これは大統領にとってかなり大きなダメージだと筆者がすぐ考えたのが、7月9日にニューヨークタイムズ(電子版)が報じた、大統領の長男ドナルド・トランプ・ジュニア氏とロシア人弁護士ナタリア・ベセルニツカヤ氏の面談である。時期は大統領選挙期間中の昨年6月9日で、当時選対本部議長だったポール・マナフォート氏と、トランプ氏の娘婿であるジャレッド・クシュナー氏が同席した。その後公表された電子メールからは、仲介者が「ロシアの検事総長が、クリントン氏を有罪にする公文書や情報、同氏のロシアへの対応に関する情報をトランプ陣営に提供すると申し出た。非常に高度な機密情報なのは明らかで、ロシア政府によるトランプ氏支援の一環だ」と伝えると、トランプ・ジュニア氏が「感謝する。あなたの言う通りなら、今夏の後半だと素晴らしい」と返信したことがわかり、グラム上院議員(共和党)は「これまでの疑惑の中で最大の問題だ」とした(7月13日 日本経済新聞)。
相応の根拠が見出されれば「弾劾」もある
これに対しトランプ大統領はツイッターで「これは政治史上最大の魔女狩りだ」としつつ、ロイターに対し7月12日、この面談のことは2〜3日前まで知らなかったと述べた。だが、家族とのつながりを人一倍大切にしているとされる大統領が、こうした重大なことを本当に何も知らないままだったとは考えにくい。
ロシア政府による米大統領選への干渉をトランプ氏が容認(黙認)し、これと共謀して選挙に勝とうとしていたことが立証される、あるいはそうした疑惑に相応の根拠が見出される場合は、議会が大統領弾劾手続きに着手する可能性が格段に高まる。
こうした「ロシアゲート」疑惑の拡大をうけて、民主党全国委員会は「トランプ陣営がロシアと共謀したがっていたことに疑問の余地はない」との声明を発表。昨年の大統領選で副大統領候補だったケーン上院議員は「反逆罪の可能性もある」とした(7月12日 時事通信)。
一方、大統領を見捨てる行動をとれば、再選が難しくなる
もっとも、来年秋に中間選挙を控えている共和党の下院議員たちが所属政党の大統領をそう簡単に見捨てて弾劾手続きに乗り出すわけにはいかないだろう。以前にも書いたことだが、「ラストベルト」などでトランプ人気が根強い状況が変わらなければ、大統領を見捨てる方向の行動をとった議員は再選が難しくなるという事情がある(当コラム6月13日配信「どうして米国株は最高値を更新しているのか? 『トランプ辞任なら株高』という説もあるが…」ご参照)。
また、ワシントンポストによると、1996年の大統領選(ビル・クリントン大統領が再選した)で中国政府が選挙結果を左右しようとした疑いが浮上し、FBIや議会が調査したものの、結局のところクリントン陣営や民主党議員の誰も訴追されることはなかったという。
モラー特別検察官がどのような結論を出すか
米国の刑法では共謀自体は犯罪にならないので、連邦選挙運動法など何らかの法律に抵触していたかどうかを検察当局は調べることになる(7月11日 ロイター)。大統領による司法妨害の疑惑を含め、多方面にわたって調査を行っているとみられるモラー特別検察官が最終的にどのような結論を出すかが、最も大きなポイントになる。
いずれにせよ、トランプ大統領の政治的な求心力はじわじわ低下しており、財源難から実現困難とみられている大型減税を含む税制改革は、ますます遠のいている。民主党のシャーマン下院議員は7月12日、司法妨害を理由にトランプ大統領の弾劾決議案を提出した。この議案が可決される可能性は現時点ではほとんどないものの、今後は「弾劾」という言葉がこれまでよりも頻繁に、マーケット関連のニュースに登場しそうである。
このコラムについて
上野泰也のエコノミック・ソナー
景気の流れが今後、どう変わっていくのか?先行きを占うのはなかなか難しい。だが、予兆はどこかに必ず現れてくるもの。その小さな変化を見逃さず、確かな情報をキャッチし、いかに分析して将来に備えるか?著名エコノミストの上野泰也氏が独自の視点と勘所を披露しながら、経済の行く末を読み解いていく。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/072000102/
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/012700108/071900022/
トランプ政策の皮肉な副産物
移民の代わりにロボットへ
2017年7月25日(火)
篠原 匡、長野 光
「米国第一主義」という旗印の下、移民に対して抑制的な政策を打ち出しているトランプ政権。不法移民の国外追放や取り締まり強化、専門的な技能を持つ外国人に発給される「H-1B」ビザ審査の厳格化、外国人起業家に門戸を開くためにオバマ政権が導入した「スタートアップ・ビザ」の実施延期など、様々なレベルで締め付けを強化している。その狙いの一つは米国人の雇用確保だが、足元で起きている状況を見ると、トランプ大統領の認識とは少し異なる。(下の動画をごらんください)
(ニューヨーク支局 篠原匡、長野光)
https://www.youtube.com/watch?v=q4tZ9iEWooI
五大湖の一つ、ミシガン湖に接する米中西部ウィスコンシン州。酪農やチーズ生産が盛んなことで知られているが、一方で衛生陶器のコーラーやバイク製造のハーレーダビットソンが同州に本拠を置くなど製造業の集積も進んでいる。最近は同州出身のポール・ライアン下院議長や、トランプ大統領の首席補佐官を務めるラインス・プリーバス氏の関連でこの地名を聞くことも少なくない。そんなウィスコンシン州の製造業は深刻な問題を抱えている。労働力が足りないのだ。
「セールスの伸びは極めて強いが、このままの状況が続けばビジネスを少し減らす必要があるかもしれない」
芝刈り機や除雪機で高いシェアを誇るアリエンスのダン・アリエンスCEO(最高経営責任者)はそう語ると顔をしかめた。
芝刈り機や除雪機を製造するアリエンスのダン・アリエンスCEO(上)と製造現場(下)
新製品の引き合いが予想以上に強く、除雪機で40%、芝刈り機も20%の増産を目指している。そのためには200人の労働者が必要だが、2月から人材募集をかけているのに一向に集まらない。急場を凌ぐため、近隣のグリーンベイからマイクロバスでソマリア難民を連れてきた。また、今の時期は9月からの新学期に向けて学生が休暇に入っているため学生バイトも増やしている。それでも、9月以降に労働力が足りなくなることに変わりはない。
「人材募集に27万ドルをかけたが、これは前年の10倍だ。来年度も30万ドルの予算を組んでいる」
これはアリエンスに限った話ではない。同じウィスコンシン州シボイガン郡で発砲材料を用いた製品を手がけるプリマス・フォームも7つの職種で人材を募集中だ。
「本格的に人手不足が問題になってきたと感じたのは1年ほど前から。失業率が下がるのは嬉しいことだけど……。今後も厳しい状況が続くと思う」。そうデイビッド・ボーランドCEOは打ち明ける。同州の失業率は5月で3.1%と、全米平均(6月で4.4%)を大きく下回る。
そして、同じような悩みを全米の企業経営者が抱えている。
経済好調の副作用
アリエンスから西に2400km、ユタ州ソルトレイクシティ。屋根材の販売を手がけるルーファーズ・サプライのステファニー・パパスCEOはトラックドライバーを探すために走り回っている。「この2年間で人手不足が深刻になってきた。今が一番苦しい」。
屋根材を販売するルーファーズ・サプライのステファニー・パパスCEO(上)と作業現場(下)
労働環境が過酷なトラックドライバーはもともと労働力の確保が難しい。その中でもルーファーズのドライバーは目的地に運ぶだけでなく、建設現場で屋根材を降ろしたり、クレーンで建物の上まで屋根材を上げたり、複雑な作業が求められるため求人のハードルが高い。退役軍人の採用を検討し始めたほか、トラック免許の教習所に求人を出したり、免許の取得をサポートするなどの対応をしているが、必要な人数は確保できていない。
なぜこのような状況になっているのか。一つは堅調な米国経済だ。
フィラデルフィア連銀が毎月出しているState Coincident Index。これは非農業部門就業者数や製造業の平均時給、失業率などのデータを元に全米50州の経済状況を示したものだ。過去3カ月の変化を見ると、アラバマ州の3.9%増を筆頭に44州で数値が改善している。
多くの州で景況感が改善している
注:フィラデルフィア連銀が毎月発表しているState Coincident Index。非農業部門就業者数や製造業の平均時給、失業率など4つの統計から算出。3カ月の変化を示している
出所:Federal Reserve Bank of Philadelphia
全米に目を転じても、2017年第1四半期の実質GDP(国内総生産)成長率は1.4%増にとどまったが、個人消費はいまだ堅調だ。低調だった設備投資もここに来て拡大しており、企業の景況感は悪くない。通商政策をはじめトランプ政権が進める政策には不透明感も漂うが、米経済は今のところ「適温」の状態が続いている。
ベビーブーマー(1946〜64年生まれ)が退職している影響も大きい。
米国の労働力における大きな世代の塊として存在していたベビーブーマーだが、2000年代後半以降、退職が目立つようになった。米国の25〜54歳人口は80年代に2%以上の伸びを見せたが、この10年は0.1%に過ぎない。その穴を埋める存在として期待されるミレニアル(80年代〜2000年代初頭生まれ)も労働環境の悪い製造業を嫌って都市に出て行ってしまう。
「この世代は、親から『大学を出て自分よりもいい仕事に就きなさい』と言われてきた。地元にはベビーブーマーを埋め合わせる人材がいない」。シボイガン郡経済開発公社のデーン・チェコリンスキ氏は語る。
さらに、移民の流入が鈍化していることも労働力不足に拍車をかける。
米ピュー・リサーチ・センターによれば、両親ともに米国生まれの米国人が労働市場に流入する数は1990年代以降、減少傾向にある。75〜85年の10年間に25~64歳人口が2003万人増加したのに対して、1985〜95年は1512万人、95〜2005年は1057万人、05〜15年は482万人と大きく減っている。(参考記事:FACTANK『Immigration projected to drive growth in U.S. working-age population through at least 2035』)
その減少を補ったのは移民だ。実際の流入数を見ても、1995〜2005年は1083万人、05〜15年も612万人と両親ともに米国生まれの米国人を上回っている。だが、移民を送り出してきた国々の経済成長に伴って、米国への流入ペースは鈍化しつつある。そうなると。今後の伸びを支えるのは親とともに米国に来た移民2世だが、親世代の流入が鈍化すれば移民2世の伸びも鈍化する。
移民2世が減少する?
注:単位は百万人。2015年以降は予測
出所:Pew Research Center
経済面だけを考えれば、移民の流入を促進するような政策を採るべきだが、現在の抑制的な移民政策を考えると移民が急増していくとは考えにくい。しかも、トランプ政権が志向している製造業の米国回帰が進めば人手不足はさらに加速する。トランプ政権は長期的に3%の経済成長を目指しているが、現状では労働力不足が足かせになる可能性が高い。
もっとも、労働力不足はトランプ政権にとって悪い話ばかりではないかもしれない。トランプ大統領が意図していることではないだろうが、現在の状況が続けば企業は生産性の改善に取り組まざるを得ない。それが結果的にロボット開発のイノベーションを加速させるという期待だ。
「人類は今、ロボットの活用という面でとてつもない成長を目の当たりにしている」。カリフォルニア大学サンディエゴ校のヘンリック・クリステンセン教授がこう指摘するように、ここ数年、ロボットの活用が急速に広がっている。とりわけ中堅・中小の製造業での導入が目立つ。
例えば、鉄製のバスケットを製造しているMarlin Steel。同社は米国内のベーグル店向けにバスケットを納入していたが、中国がWTO(世界貿易機関)に加盟した2001年以降、価格競争力の勝る中国企業との競争に晒された。会社を畳むかドラスティックに会社を変革するか――。その二者択一を迫られたMarlin Steelは生産プロセスの自動化を決断。生産性の向上によって、それまでのベーグル店だけでなく、自動車メーカーや医療機器メーカーなどに顧客を広げることが可能になった。
人手不足に悩んでいるウィスコンシン州のプリマス・フォームも過去1年半でロボットの数を増やした。導入しているのは設定次第で動作を変えることができるフレキシブルなロボットだ。製品数が多く、一つあたりの生産量がそれほど多くない同社にとって、製造プロセスごとに作業を切り替えられないと導入する意味がないからだ。結果的に、他の複雑な作業に従業員を回せるようになった。
「この数年で使用されるロボットの数は10~15%ほど伸びた。自動車業界が中心だが、中小の製造業がロボットの導入を始めている」
自動化システムの業界団体、A3(Association for Advancing Automation)の代表、ジェフ・バーンスタイン氏は言う。
ロボットを開発しているメーカーは先行きに自信を深める。
人間と一緒に働く協働ロボットを開発しているRethink Robotics。16年に片腕ロボット「Sawyer」を投入したところ、想定以上の引き合いがあったため増産を決めた。「歴史的に自動化は一つの目的のためにカスタマイズされており、大企業以外は活用できなかった。だが、Sawyerは安全かつフレキシブルで、トレーニングも簡単。協働ロボットは労働力不足のギャップを埋める存在になる」。製品・マーケティング担当役員のジム・ロートン氏は語る。
従来は自動化や省人化が難しかった業界でもロボットの導入が進みつつある。典型的な業界は物流だ。
「物流センターの作業員は1日に最大12マイル(19.2km)も歩く」。物流センターでの自走型ロボットを開発しているシリコンバレーのベンチャー企業、Fetch Roboticsのマイケル・ファーガスンCTO(最高技術責任者)が語るように、倉庫の労働環境は過酷だが、eコマースの拡大とともに物流センターの数や取扱数量は激増している。倉庫の生産性向上は小売りや物流会社にとって深刻な問題だ。
Fetch Robotics Freight500 in action
『vimeo』動画より
その中で米アマゾンは12年に倉庫の自動化を手がけていたKiva Systems(現Amazon Robotics)を買収、物流センターの自動化を加速している。カナダの物流コンサル会社、MWPVLの試算によると、Kivaの自動化システムの導入で20%の労働コストの削減につながるという。業界の自動化ニーズは強く、Fetchのようなベンチャーも続々と生まれている。
将来的な期待の高い業界としてはトラック業界や農業も挙げられる。
「トラックの中に押し込まれた生活で年収6万ドルなら、最低賃金のウォルマートで働く方がマシだよ」。トラックの自動運転と遠隔操作の技術開発を手がけるStarsky Roboticsの創業者、ステファン・セルツ・アクスマカー氏はこう語る。広大な米国大陸のこと、東海岸から西海岸に行って戻るまでに3週間は拘束される。それでいて、アクスマカーCEOが指摘するように年収は6万〜9万ドルに過ぎない。
農業も同様だ。カリフォルニア州で野菜や果物の収穫にあたっているのは多くの場合、不法移民だ。作業自体がハードな上に、トランプ大統領の移民政策で労働力の確保が難しくなりつつある。それだけにテクノロジーに対するニーズも強く、様々なスタートアップが研究開発に取り組んでいる。
Blue River technologyはカメラでレタスの苗を瞬時に見極め、生育不良の苗や雑草にピンポイントで除草剤を散布する装置を開発した。ロボット関連のプロジェクトを数多く抱える非営利の研究機関、SRI Internationalでも、イチゴやリンゴを収穫するロボットの研究を進めている。
「われわれは人間の生活を楽にするためのロボットを開発している。汚い仕事、辛い仕事を人間から解放することは社会にとって大きなベネフィットだ」。SRIでロボットの研究・開発を取り仕切るナヒド・シドキ・エグゼクティブディレクターは語る。
ロボット開発が加速している背景には、企業サイドの強いニーズに加えてビジネスモデルの変化もある。これまでロボットメーカーは装置の販売で収益を上げていたが、クラウドビジネスなどと同様、利用時間や台数、利用量などに応じて課金するモデルに変わりつつあるのだ。「これだと初期の設備投資負担が軽く、状況に応じてビジネスを拡大できるため、ユーザーは自動化投資に踏み切りやすい」(シリコンバレーのロボットスタートアップで働くロボット評論家の河本和宏氏)
労働力が増えないのであれば、生産性を高める以外に経済成長を実現する術はない。だが、米国では生産性の伸びが低迷しており、その部分も制約要因になっている。それが人手不足によって解消されるのであれば、トランプ政権にとっては嬉しい誤算だろう。もちろん、あらゆる業界でロボットが活用されるようになるにはもうしばらく時間がかかる。それでも、今の人材不足が開発を加速させるのは間違いない。「米国人の雇用創出」を訴えるトランプ大統領が求めるものとは違うと思うが。
このコラムについて
トランプのアメリカ〜超大国はどこへ行く
1月20日に第45代米大統領に就任したドナルド・トランプ氏。通商政策や安全保障政策など戦後、米国が進めてきた路線と大きく異なる主張をしているトランプ大統領に対する不安は根強い。トランプ氏は具体的に何を実施し、何を目指しているのか。新大統領が率いるアメリカがどこに向かうのか。それをひもといていこうというコラム。
日経BP社
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