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劣化進む米国、政府やメディアのモラル低下 議会分断も深刻
トランプ米大統領の就任からまもなく半年。少しは現実的な路線に傾いたとはいえ、保護貿易や移民制限、孤立主義の本質は変わらず、内外に予想以上の混乱をもたらした。民主主義や自由経済の守護者を自任し、戦後の世界を主導してきた米国の劣化は鮮明だ。
異端の経済・外交政策を掲げるトランプ米大統領には「断絶王」の異名も=ロイター
米外交問題評議会のリチャード・ハース会長は、伝統的な価値観を軽んじるトランプ氏を「断絶王」と批判する。米ピュー・リサーチ・センターが世界37カ国で実施した世論調査によると、トランプ氏が率いる米国に好感を抱く人の割合は平均で49%にとどまり、オバマ前政権末期の64%から大幅に低下した。
この異端児には確かに致命的な欠陥がある。過激な経済・外交政策やロシアゲート疑惑によって、超大国の威信を失墜させた責任は重い。それを承知のうえで、あえて問う。劣化したのは大統領だけなのか――。
気になるのは公僕の反乱だ。いまの米国は「リーク天国」と化し、政府の中枢からおびただしい量の内部情報が漏れてくる。トランプ氏に強い不満を持ち、政権を窮地に追い込みたい高官がうごめいているのだろう。
トランプ氏は5月、ロシアのラブロフ外相らとホワイトハウスで会談した際に、イスラエルから入手した過激派組織「イスラム国」(IS)の機密情報を漏らしたと報じられた。大統領の軽率な行動にはあきれるばかりだが、ごく一部の閣僚らに知らされていた最高機密の存在をリークする高官にも危うさを感じる。
メディアの緩みも見逃せない。米CNNテレビは6月末、トランプ氏の政権移行チームに参加していた投資会社の経営者とロシアのファンドとの関係を米議会が調査しているという記事を撤回した。事実確認など必要な手続きを経ていなかったためで、取材した記者ら3人が辞職したそうだ。
「当局者がこぞって内部情報を漏らすだけでなく、メディアも十分に検証しないで一斉に報じている」。レーガン元大統領の法律顧問を務めたピーター・ワリソン氏は、ロシアゲート疑惑を巡る報道基準のハードルが下がっていると話す。
独善的で差別的な大統領が相手なら、多少乱暴な手段に出ても許される――。そんな空気が人権擁護団体や環境保護団体などの抗議活動を過度にエスカレートさせているだけでなく、政府やメディアのモラルも低下させているように思える。
もう一つ挙げておきたいのは、議会の深刻な分断である。前政権のレガシー(遺産)をことごとく否定し、医療保険制度改革法(オバマケア)の見直しや金融規制の緩和などに動く与党・共和党。現政権の公約をひたすらこき下ろし、徹底抗戦の構えを崩さない野党・民主党。トランプ氏の下で両者の対立はより先鋭化し、妥協点を容易に見いだせない。
「まるでイスラム教のスンニ派とシーア派のようだ」。米著名ジャーナリストのファリード・ザカリア氏は、保守とリベラルの亀裂の深さをこう表現する。このままでは政治の機能不全を解消できず、米経済の底上げやテロ対策の強化といった重要課題への対応が遅れる恐れがある。
トランプ氏の肩を持つ気は毛頭ない。しかし誰もが低い次元でやり合うのでは、米国の劣化も取り返しがつかなくなるのではないか。
(ワシントン支局長 小竹洋之)
[日経新聞7月11日朝刊P.9]
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