アホの天木直人と比較すると IQ が全然違うね:2017年6月23日知の力をあらためて実感する本 From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学 中野剛志さんと柴山桂太さんとの対談本
『グローバリズム その先の悲劇に備えよ』(集英社新書) https://www.amazon.co.jp/%E3%82%B0%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%AA%E3%82%BA%E3%83%A0-%E3%81%9D%E3%81%AE%E5%85%88%E3%81%AE%E6%82%B2%E5%8A%87%E3%81%AB%E5%82%99%E3%81%88%E3%82%88-%E9%9B%86%E8%8B%B1%E7%A4%BE%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E4%B8%AD%E9%87%8E-%E5%89%9B%E5%BF%97/dp/4087208869 が発売になりました。 最近は、例えばテレビをつければ、インテリぶったコメンテーターが的外れな意見を述べていたり、高学歴の政治家がしどろもどろでおバカな答弁をしていたりするのをいやというほど目にしています。 そのためか、受験に有利になるといった表面的なこと以外では、「勉強すること」の大切さを子供たちに自信をもって語ることが少なくなっているように思います。 今回の新著『グローバリズム その先の悲劇に備えよ』を読んで感じたのは、シンプルなことですが、まさに、学ぶこと、知性や教養を身に着けることの力です。 昨年来、ブレグジットやトランプ大統領の誕生、フランスの選挙でのルペン氏の善戦など、脱グローバル化とでもいうべき動きが顕著になってきています。しかし、識者と称される人々のコメントは、いまひとつピンとこないものがほとんどです。 例えば、ブレグジットやトランプ大統領の選出などのグローバル化に反発する動きは、ポピュリズムの噴出であり、危険だなどとよく言われますが、こうした動きが本当に危険だと言えるのか、またポピュリズムと民主主義はどう違うのかなど、納得できる説明が提供されることはあまりありません。 本書は違います。脱グローバル化の近年の動向の背景にあるものはどういう事態なのか、二人の対談を読めば、容易に理解できるようになっています。 新たな視点も数多く提示されます。
例えば、米国の大統領選で現れた「ポピュリズム」について、柴山さんは、クリストファー・ラッシュという歴史家を引きつつ、次のように述べます。 「……アメリカのポピュリズム運動の奥底を流れているのは、「服従と憐憫の拒否」なのです。エリートに服従したくないし、福祉という憐憫を受けたいわけでもない。自分の仕事と家族を大事にしながら、誰に頼ることなく自立している状態を理想としているのです。 トランプが大衆人気を獲得した理由は、自立を求める層を取り込んだからだとも解釈できるのです。おまえたちが自立できるよう、仕事をつくってやるというトランプの言葉が、彼らの心をつかんだ。アメリカ史の底流を流れるポピュリズムの通奏低音を、トランプはうまく言葉にしたんですよ。(略)一方で民主党の側は、貧困層に福祉を与えてやるという態度だった」。 なるほど、と思いました。米国庶民層の倫理の特質、クリントンではなくトランプに庶民層の指示が集まった理由について認識が深まります。 ( ゚д゚)ホゥ また、巷にあふれる、事実に基づかない陳腐な物言いに対しては、二人とも的確かつ手厳しい批判を展開します。 例えば、中野さん。グローバル化すれば、経済的に繁栄すると同時に、経済的相互依存の深化のため戦争も生じなくなるというグローバル化推進派のエリートがよく用いる理屈に対して、次のように反駁します。 「経済的相互依存で平和になるという理論は、第一次世界大戦直前の英独相互の貿易依存度が実は高かったという事実を持ち出すだけで、崩れ落ちる。その程度の脆い理屈ですよ」。 そして、次のように続けます。 「それに、何が利益になるかというのは、階級や集団によって違うわけですね。だからこそ国家は、特定の集団の利益によって代表されてはならない。しかし、グローバル化はグローバルに移動できる特定のエリートたちには恩恵を与えますが、好き勝手に国境を越えて移動できない庶民には不利益を与える。そのくせグローバリストは、グローバル化があたかも国民全体の利益になるような顔をしているのです。 つまりエリートぶっている彼ら自身が、根本的に間違った理論に基づいて発言をし、その上で自分たちに有利な社会をつくっているのです」(39頁)。 明快かつ痛快な指摘です。 他にも、「日本は自由貿易で戦後成長したんだから、自由貿易を捨てちゃいけない」などと言って、TPPなども全肯定して突き進み、現在でも世界の保護主義化の盾になろうとする日本のグローバリストに対しても、二人は事実に基づき、明確な批判を提示します。つまり、「戦後の自由貿易体制こそ日本の繁栄を築いた礎である。それゆえ日本は保護主義に常に反対し、自由貿易の側につかなければならない」といったこれもよく聞く論法に対する批判です。 一部だけ、紹介しましょう。 中野「まず指摘しておきたい一般的な誤解は、1960年代の高度経済成長期でさえ、GDPに占める輸出の割合は、一割前後で推移していたということです。戦後日本は、別に貿易立国でも何でもなかった。むしろ、日本の経済は戦後一貫して内需依存型だったんです」(134頁)。 柴山「(略)戦前と戦後で分ければ、日本は戦前のほうが外需依存型だったわけでしょう。そんな経済史上の事実の前提も抜きにして「自由貿易が日本の繁栄を築いた」と言われても、困りますよね」(同頁)。 また、柴山さんは続けて次のように言います。 「戦後に貿易依存度が若干、高くなったのは、終戦直後や高度経済成長期ではなくて、日本経済が不調になってから。いわゆる「失われた二〇年」の、デフレ期に入った後なんですね。(略)小泉政権以降というか、2000年代に入って輸出がむしろ伸びています。これは決して褒められたことではなくて、内需がしぼんだから外需に頼った。外需依存型の経済というのは、非常に脆弱なんです。外部環境でショックがあったときに打撃が大きいので」(135頁)。 本書は、以上のように、「識者」やマスコミが無批判に流布してしまっているグローバリストの怪しげな通説の誤りを丁寧に指摘していきます。 お二人が、インチキな通説に流されず、世界の現状を的確に把握しているのは、政治や経済の歴史に通暁しているからでしょう。 中野さんは、「はじめに」でこの本の狙いについて次のように書いています。 「…激動の時代にあっては、もはや、周回遅れの思想にしがみついている、役立たずのエリートたちなどを頼っても、仕方がありません。我々一人一人が、これまでの通俗観念を疑い、現実を直視し、知識を洗いなおした上で、自らの世界観の座標軸を新たに設定しなおさなければならないのです。本書は、そのための試みです」(6頁)。 学ぶことの大切さ、知性や教養の力というものをあらためて実感できる本です。 https://38news.jp/economy/10645
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