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コミー前長官の発言にトランプ大統領は何を思うのか(Photo by Mark Wilson/Getty Images)
トランプvs元FBI長官、公聴会の勝者は誰か?
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9866
2017年6月15日 海野素央 (明治大学教授、心理学博士) WEDGE Infinity
今回のテーマは「コミー氏の証言」です。2017年6月8日、ジェイムズ・コミー米連邦捜査局(FBI)前長官は、上院情報特別委員会でロシア政府とトランプ陣営との共謀疑惑に関して宣誓証言を行いました。テレビ視聴者数は全米で約1950万人でした。
本稿では、まずコミー前長官の証言の信ぴょう性について分析し、次に共和党上院議員の議論の狙いを明確にします。さらに、公聴会に対する極右サイト「ブライトバート・ニュース」及びFOXニュースの反応を紹介したうえで、誰がこの公聴会の勝者かについて考えます。
■コミー証言の信ぴょう性
コミー前長官は、トランプ大統領との9回(面会3回・電話6回)にわたる会話の内容に関する書面を上院情報特別委員会に提出しました。この書面には両氏が会話を交わす場面が、詳細に描かれています。
特に、2017年2月14日にホワイトハウスの大統領執務室で開かれたトランプ大統領と情報機関幹部の会合です。同大統領の机の前に半円を描くように置かれた6席の椅子に、マイク・ペンス副大統領及びジェフ・セッションズ司法長官等が着席したと述べています。コミー前長官は同大統領の正面の椅子に座ったと書いてあります。同前長官の後ろにはソファーと椅子があり、複数のホワイトハウスのスタッフが座っていたと注意深く観察しています。会合が終わると、同大統領から同前長官以外の情報機関の幹部とスタッフは退席を求められました。
コミー前長官は、その際の様子も詳細に記述しています。セッションズ司法長官が同前長官に話しかけてきてぐずぐずしていたので、トランプ大統領が退席を促したというのです。最後に執務室に残ったのが娘婿のジャレッド・クシュナー大統領上級顧問でしたが、同大統領は同上級顧問も退席させました。2人になったところで、同大統領は国家安全保障担当のマイケル・フリン前大統領補佐官の話を持ちかけて、「彼(フリン)はいい奴だ。彼を放っておくことを望んでいる」と語ったというのです。
ホワイトハウスの大統領執務室には木箱入りの床置き大型振り子時計があります。その時計の傍のドアから執務室に入ろうとしたラインス・プリーバス大統領首席補佐官に対してトランプ大統領が、「すぐに終わるから」と言いながら手を振って同首席補佐官にドアを閉めさせたというのです。このあたりの描写も詳細です。コミー前長官の書面及び証言は信ぴょう性が高かったといえます。
■共和党上院議員VS.コミー前長官
今回の公聴会では共和党上院議員が民主党上院議員よりも効果的な議論を展開し、コミー前長官からトランプ大統領に有利になる証言を引き出していました。例えば、ジム・リッシュ上院議員(共和党・アイダホ州)は同大統領が捜査対象になっていないこと及び2017年2月14日付の米ニューヨーク・タイムズ紙の記事が間違っていることをコミー氏に証言させました。
2月14日のニューヨーク・タイムズ紙の記事は、トランプ陣営がロシアの情報機関と繰り返し連絡をとっていたという内容です。記事の最後に、上院情報特別委員会マーク・ウォーナー副委員長の「フリン氏が辞任しても捜査は続ける」と決意を示したコメントが掲載されています。上述しましたが、トランプ大統領がフリン氏の捜査中止ともとれる発言をコミー前長官にしたのも同月14日でした。
トランプ大統領はニューヨーク・タイムズ紙の上の記事に目を通しているはずです。仮にそうであれば、記事の内容が同大統領の動機づけになって、フリン氏に対する捜査中止をコミー前長官に迫ったと解釈ができます。
公聴会で共和党上院議員はこの記事の潰しにかかります。トム・コットン上院議員(共和党・アーカンソー州)もコミー前長官からニューヨーク・タイムズ紙の記事が誤っている点を確認し、トランプ大統領の「主要メディアはフェイク(偽)である」という主張が正しいという印象を視聴者に与えたのです。
マルコ・ルビオ上院議員(共和党・フロリダ州)は、トランプ大統領が捜査対象ではないことをもう一度コミー氏の口から言わせました。スーザン・コリンズ上院議員(共和党・メイン州)は、同氏がトランプ大統領との会話を記したメモをコロンビア大学法科大学院の教授に渡したという証言を得ました。公聴会では共和党上院議員は、同大統領擁護で一致していたのです。
■ブライトバート・ニュースとFOXニュースの反応
大統領首席戦略官スティーブン・バノン氏が会長を務めていたブライトバート・ニュースの反応は早かったです。即座に、今回の公聴会でニューヨーク・タイムズ紙の記事がフェイク(偽)であったことを確認したという見出しの記事を掲載しています。主要メディアは偽りであり、ブライトバート・ニュースが真実だと信じているトランプ信者に訴えているのです。
同様に、FOXニュースもトランプ大統領を擁護しました。中でもトランプ大統領の応援団と見られている人気番組「ハニティ」は、第1にニューヨーク・タイムズ紙は不正確な情報を流したこと、第2にコミー前長官本人が情報提供者であったこと、第3にオバマ政権のロレッタ・リンチ前司法長官が、FBIが行っていたヒラリー・クリントン元国務長官のメール問題の捜査妨害をしたことが明確になったと報じています。
■コミーの誠実さ
今回の公聴会でトランプ・コミー両氏はダメージを受けたので、双方が敗者であるという見方があります。トランプ支持者から見れば、コミー前長官、ニューヨーク・タイムズ紙及びリンチ前司法長官が敗者になるでしょう。一方、クリントン支持者の立場に立てば、トランプ大統領の司法妨害の可能性が高まったと捉え、同大統領を敗者にするでしょう。
筆者が最も注目した証言は、2017年1月27日のホワイトハウスでの夕食会でトランプ大統領がコミー前長官に忠誠を求めたとされる場面です。同前長官は、「ぎこちない沈黙の中で、私は動かず、話さず、表情も変えなかった。私たちは単に黙ったまま、お互いを見つめ合った」と述べています。この場面は、将来映画の一シーンになるかもしれません。
組織で仕事をしていれば、誰でも多かれ少なかれ上司から圧力をかけられた経験を持っているでしょう。視聴者の中には、コミー氏と自分を置き換えて同氏に感情移入を行い、理解を示した人もいるはずです。トランプ大統領と同氏の双方がダメージを受けたにせよ、筆者は詳細な書面を提出し、誠実な印象を与える証言を行ったコミー氏に軍配が上がったとみています。
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