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深まる中露関係、募るロシアの不満
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2017年5月31日 廣瀬陽子 (慶應義塾大学総合政策学部教授) WEDGE Infinity
今年の5月14〜15日に、中国が推進している現代版シルクロード経済圏構想である「一帯一路」の国際会議が中国の首都・北京で開催された。同会議には、全世界の計130カ国の1500人、そして29カ国の首脳が参加した。「一帯一路」は中国が4年の年月をかけて推進してきたものだが、このような会議が行われるのは初めてであり、中国は大国の威信をかけてこの会議に臨んだ。この会議は、中国の最近の外交政策の成否のメルクマールとなり、また今後の「一帯一路」の発展を展望するうえでも重要な一歩とみなされていたのである。
そのため、中国の同会議に対する思い入れは極めて強く、参加国との連帯を強めていくために手を尽くし、そして、自由貿易の重要性を盛り込んだ首脳会合の共同声明も採択された。
■米国への対抗で深化する中露関係だが……
そして、同会議ではやはり中露関係の緊密さが顕著に見られた。米国でロシアによるサイバー攻撃とそれによる影響やドナルド・トランプ政権関係者とロシアの関係が米国政治の焦点となる中で、米露関係が冷戦後最低レベルに落ち込んだとすら言われる中、米国への対抗軸で共通の利害関係を持つ中国とロシアが関係を緊密にするのは自然な流れであった。
また、中露は、中国が推進する「一帯一路」構想とロシアが主導し、旧ソ連の5カ国が参加する「ユーラシア経済連合」の連携協定を2015年に結び、「一帯一路」の成功が中露両国にとって有益であると国民にも訴えつつ関係深化を進めてきた。
会議においても、ロシアのウラディーミル・プーチン大統領は一番の賓客として扱われ、スピーチの機会も習近平国家主席の次に設けられた。プーチンはその場を利用し、ロシアが主導している「ユーラシア経済同盟(EEU)」と「一帯一路」の類似点を強調し、中露の計画は相互補完関係にあるとした上で、これらのメガプロジェクトに代表されるユーラシア統合を「未来に向けた文明的プロジェクト」だと述べた。
そして、ロシアは「一帯一路」との連携をさらに進め、ポジティブな成果を出す必要に迫られていた。特に、2014年後半からの原油安やウクライナ危機によって欧米が発動している対露経済制裁によって、ロシアのみならず、ロシアと深い経済関係を持つ旧ソ連諸国の多くが経済的ダメージを受けていることも重要な背景である。たとえば、ユーラシア経済連合の域内貿易額が、昨年には2014年と比して30%も減少したことは、その一例である。旧ソ連諸国の経済パフォーマンスに当面期待できず、ユーラシア経済同盟加盟国の間でも失望感が広がっている状況では、数年前と比べれば随分勢いは衰えたとはいえ、まだまだ力がある中国経済による好影響を期待するほかなく、また巨大経済圏構想の可能性を見せつけることで、大国としての存在感も示すことができるのである。
■メガプロジェクトの連携、裏切られるロシアの期待
そして、会議の期間中、中露間の大型プロジェクトが多数成立した。
まず、中露両国がロシア極東及び中国北東部の開発支援のために、総額100億人民元(約145億ドル)の共同地域開発協力投資ファンドを設立するという計画が発表された。
加えて、ロシア石油最大手ロスネフチと中国石油天然ガス集団(CNPC)は両者間の協力の効率化向上を目指すための合同調整委員会の設立に関する取り決めに調印したことが発表された。
また、ロシア天然ガス最大手ガスプロムのミレル社長とCNPCの王会長は、地下ガス貯蔵、電気産業、道路インフラなどの分野での協力深化に関する文書に調印した。
このように、中露関係のプロジェクトは、地域発展を目指すものやエネルギー関連の協力強化が主軸となっており、経済規模も大きい。
その一方で、両国のメガプロジェクトの連携に関し、ロシアの期待が裏切られているのもまた事実だ。
前述の通り、プーチンは度々中露のメガプロジェクトの連携が有益であると国内外に訴え続けて来たが、実際のところ、プーチンが本気でそう思っているとは考えづらい。プーチンの連携を高く評価する発言の背景には、むしろ、連携からの恩恵が少ない現実への批判を避けるためだとも考えられる。実は、ロシア側が「一帯一路」との連携に期待していたものと実態はかけ離れており、プーチンをはじめとした当局やオリガルヒ(財閥)の懐疑心は強まっていると言われる。
そのような疑念を高めているのが、「一帯一路」と「ユーラシア経済連合」の連携を象徴するプロジェクトとして発足したモスクワ・カザン高速鉄道計画におけるロシアの失望である。この鉄道計画は、いずれモスクワと北京が鉄道で結ばれるとされる高速鉄道の基礎となるとされ、最初の了解覚書では、同鉄道はシベリア地域を通るとされていた。しかし、のちに同鉄道の線路はロシアのほとんどの地域を通過せず、カザフスタンの首都アスタナから新疆を通過して、所要時間が3分の2になるように変えられたのである。中露協力のモデル計画とされていたプロジェクトの結果がこのような惨憺たるものであることは、ロシアにとって大きな痛手であった。
しかも、これのみならず、中国と欧州を結ぶインフラの多くはロシアを全く通らず、中央アジアと南コーカサス地域を通過しており、ロシアは陸運の利益を得られないのだ。さらに、そもそも陸路よりも海路での運輸の方が50%以上安価になるため、所要時間は陸路の方が早くなるとはいえ、経済合理性の観点から、中国・欧州間の貨物輸送で陸路経由が占める割合は1%以下となっている。このことから、ロシアが陸の現代版「シルクロード」計画から得られる利益はほとんど想定できないのである。
■ロシアよりも中国と関係を深める中央アジア諸国
このような状況に鑑み、ロシアの研究者の中には、「一帯一路」構想は達成指標がないが故に、中国が軽微なものも含むあらゆる結果を「一帯一路」の成果として喧伝していることから、「一帯一路」そのものの意味に疑問を呈するものもいる。「一帯一路」がそもそも大した成果が上がっていないものなら、「ユーラシア経済連合」との連携で良い成果が出ないのは当たり前だという議論である。
確かに、「一帯一路」の経済パフォーマンスは決して良いとはいえない。たとえば、中国の投資家は融資するプロジェクトをかなり選り好みして決めるため、実際の融資額は期待を下回っており、昨年では中国の「一帯一路」」関係の投資額は、3年ぶりに減少した。そして、中国の投資家からすると、ロシアが提案するプロジェクトはあまり魅力的に感じられず、結果、対露投資のパフォーマンスは悪くなるのである、そのため、ロシアの専門家の中には、ロシアが主導する「ユーラシア経済連合」は素晴らしいが、中国が自国の経済利益のみを考慮する自己的な行動をとるが故に、連携においてはロシアの実入りが小さいのだという議論を提示するものもいる。
さらにロシアの重要な「勢力圏」であり、中国が経済的に台頭してくるまではロシアが政治・経済の影響力を独占的に維持してきた中央アジア諸国が、ロシアよりむしろ中国との関係を深めていることもまたロシアにとっては許容しがたい問題だ。「一帯一路」の国際会議でも、中国と中央アジアの関係強化は顕著に見られた。習主席はカザフスタン、キルギスタン、ウズベキスタンの各国首脳と会談し、中央アジア諸国との関係強化を強調した。
これら会談の中で、例えば、カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領は、カザフスタン鉄道がカザフスタンと中国の国境にあるコルゴスの輸送拠点の49%を譲り受けるという合意に調印した。これはカザフスタンが重要物流拠点として高い戦略性を持つと見なされるようになったことの証左である。また、ウズベキスタンのミルジヨエフ大統領も中国との経済関係の強化を強く求めており、今回の会談では最大200億ドルの協力協定も締結した。中国は、ウズベキスタン東部のフェルガナ盆地と、残りのウズベキスタンを結ぶ最初の唯一の鉄道に対する共同出資をすることを約束した。この連携は中国製品を中央アジアに輸出するために極めて重要である。
その鉄道が完成した現在、中国は戦略的に1億7500万ドル相当の高速道路プロジェクトにも取り組んでいる。
■単純ではない中露関係
このように中国とロシアの「一帯一路」と「ユーラシア経済連合」の連携への期待は高いとはいえ、実際にはあまり良い結果が出ておらず、また、地域覇権を維持したいロシアにとっては中国の勢力拡張は決して望ましくない状況だ。
米国への対抗軸という揺るがない共通利益を持っていることを背景に、中露関係が緊密であることは間違いないとはいえ、両国のメガプロジェクトにおける連携は、ロシアの期待とそれに応えていない中国という図式、ロシアの「勢力圏」に迫る中国の影響力など、両国関係の判断も単純ではない。このような状況の中で、7月には習主席の訪露が予定されている。中露両国は世界大国のイメージをどのように守っていくのか、また現実にどのような成果を出せるのかは今後も注目される。
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