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ロシアを内部から痛めつける格差拡大と貧困問題
医師の時給はなんと273円、まかり通る汚職に若者が反旗翻す
2017.4.21(金) 大坪 祐介
ロシア南部 アストラハン市内 ソ連時代から変わらない街並みが残る
?去る3月26日、モスクワはじめロシア国内の主要都市で「反汚職デモ」が繰り広げられた。クリミア併合後に高い支持率を誇るウラジーミル・プーチン政権での出来事であっただけに、日本のメディアでも「反政府デモ」として大きく取り上げられた。
?このデモは反政権活動家として有名な弁護士、アレクセイ・ナバリヌイ氏がインターネット上のSNSなどを通じて呼びかけたものだ。
?これに先立って彼の組織がドミトリー・メドベージェフ首相のビデオを公開した。首相の不正蓄財を暴露したこのビデオがデモのきっかけになったと思われる。
?筆者も公開直後にユーチューブでそのビデオを見た。ドローンで撮影したと思われるモスクワ郊外の大邸宅、イタリア・トスカーナのワイン畑など、一国の首相・元大統領とはいえ疑念を抱かざるを得ない光景であった。
汚職・不正に対する若者の怒り
?ちなみに先頃発表されたロシア政府要人の所得・資産公開によると、メドベージェフ首相の2016年中の年収は858万ルーブル(約1673万円、1ルーブル=1.95円、以下同)である。
?また同首相はロシア国内に367.8平米のアパートを所有、18.8ヘクタールの土地を49年間リース保有している。
?なおプーチン大統領は年収が885万ルーブル(約1725万円)、保有資産は土地1500平方メートル、77平米と153平米の2つのアパート、18平米のガレージである。
?冒頭の暴露ビデオで公開された大邸宅はこの公開資産にはもちろん含まれておらず、疑念は深まるばかりであるが、当のメドベージェフ首相はデモ当日はソチでスキーに興じていたと報道されている。
?筆者はデモ当日は東京にいたので、現場の雰囲気(もちろんモスクワにいても近づくことはないのだが)を知る由もないが、その翌週にモスクワでロシア人の友人たちの話を聞くと、今回のデモはこれまでの反政府デモとは何かが違うと言う。
?デモ参加者の多くが10〜20代の若者で、彼らの怒りの矛先がどこに向いているのか分からないと言うのである。
?もちろん、表向きは汚職で私腹を肥やしたに違いないメドベージェフ首相に向いているのは確かだろう。しかし、メドベージェフ首相が辞任すれば怒りが収まるかというとそういうものでもない。
?むしろ彼らの怒りはもっと漠然とした、社会全体の閉塞感にあるように感じるという。その閉塞感の根本は何であろうか?
?筆者はロシア社会に広がりつつある「貧困の拡大」が原因なのではないかと感じている。
?確かにマクロの景気は2016年第4四半期から前年比プラスに転じ、2017年もロシア政府は+2%程度のプラス成長を見込んでいる。
国民の75%が貧困層以下
?ロシア国民の多くはやっと暗いトンネルを通り抜けたと喜んで良さそうなものであるが、景気低迷と高いインフレの中でロシア国民の所得格差は拡大しており、景気回復・拡大の担い手となるべき中間層が大きく傷んでいる可能性が高い。
無機質な高層建築が立ち並ぶ新たなビジネス街 モスクワ・シティ
?ロシアにおける貧困層の定義は最低月収(1万700ルーブル=2万865円)以下の層を極貧層、最低月収からその2倍以下の層が貧困層とされる。
?また中間層は最低月収の4〜6倍(8万3460円〜12万5190円)と定義されている。
?この定義に従うと、足許、中間層に属する勤労者は12.7%(3年前には15.5%であった)、12%がアッパーミドル以上、そして残り75%が貧困もしくは極貧層となる。
?勤労者の4分の3が貧困層にとどまるというのは、日本でも話題になった「ワーキング・プア」そのものだ。そしてロシアの場合、貧困者の数の問題以上にロシア固有の問題がある。
?それは教師や医師、それに科学者、エンジニアといった、西側社会ではエキスパートと呼ばれる職種の勤労者の多くが貧困層に属するという問題である。
?こうした人々は本来、社会の健全な発展や維持の基盤となることが期待されているはずである。ところが、その彼らが貧困に直面してしまっている。
?象徴的な記事が4月7日付のモスクワタイムスのウエブに掲載されている。見出しはこうだ。
?「ロシアの医師の給与はファーストフード店員以下」
?同記事が伝えるところでは、米シンクタンクCEPRの調査で、ロシア国内の医師の時給は140ルーブル(273円)、マクドナルドのスーパーバイザーの時給は146ルーブル(284円)となっている。
?日本をはじめ欧米諸国では考えられない状況だが、ロシアでは医師の90%以上が国家公務員であり公立の病院で勤務している。もちろん医師になるためには欧米諸国と同じレベルの高等教育を受ける必要がある。
若者の真の怒りは経済格差
?こうした社会のミドル層の崩壊に直面するロシアの若者が、自分の将来に対してやり場のない怒りをデモで表明するのも無理からぬものがある。
モスクワ市内には愛国心を鼓舞する巨大ペイントが増えている
?そして今回のデモはモスクワにとどまらず、ロシア各地の主要都市でも行われた。そこには大都市と地方の格差に憤る若者の怒りもあったに違いない。
?大都市と地方にある程度の経済格差が生じることは人口規模、産業構造を考えれば致し方ない。しかしそれが命の格差になるとどうだろうか?
?4月11日、ソビャーニン・モスクワ市長はモスクワ市の平均寿命が77歳となったことを発表した。ハイテク医療の導入でモスクワ市民の平均寿命は改善を続け、ついにスロバキア、エストニアといった東ヨーロッパ諸国並みになったと称賛した。
?しかし、ロシア全体の平均寿命は依然71歳にとどまる。ロシア国内で最も寿命が短いのが、トゥヴァ共和国の62歳である。
?モンゴルと国境を接するこの共和国ではいまだに病気になるとシャーマン(呪術師)に頼ると聞く。モスクワのようなリッチな大都市とは異なり近代的な医療設備へのアクセスが十分ではないことは想像に難くない。
?最後に貧困と汚職の関係を考えてみたい。
?ロシアの世論調査機関レバダセンターが行った調査「あなたやあなたの周りの人が賄賂を払ったケースは何ですか?」が参考になる。
貧困と汚職は表裏一体
?トップは「就職の便宜」(29%)、わずかの差で「病院サービス」(26%)、「役所の許認可」(19%)と続く。
?驚くことに「運転免許」(14%)、おなじみ「交通違反」(14%)、「学校入学の便宜」(12%)、「住宅割当て」(10%)、そして「葬儀手配」(10%)となっている。最後はまさに地獄の沙汰もカネ次第ということだろうか。
?この結果を見ると、貧困と汚職が表裏一体の関係にあることを改めて認識させられる。つまり、正規の給与では生活できない医師や公務員は国民から賄賂をもらうことで生活を維持している。
?他方、一般の国民にとって貧困から抜け出すためには良い学校に入学する、良い職場に就職することが近道だが、貧困層には賄賂を払う余裕はなく、結果的に経済格差がさらに拡大する。
?改めて冒頭の「反汚職デモ」に戻ろう。
?ロシアでも若年層の失業問題は深刻である。懸命に勉強して専門知識を身につけても、既述の通り豊かな生活を送れる保証はない。ロシアの若者たちの怒りは汚職に対する道徳問題ではなく、経済問題であることを理解する必要がある。
?プーチン政権は汚職対策を強化するだけでは問題解決につながらないこと、何よりもロシアの若者が豊かな未来を描ける社会構造改革の必要性を強く認識する必要があろう。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49785
【第45回】 2017年4月21日 冬木糸一 :HONZ
レイプに拷問…内戦泥沼化シリアの実情『シリアからの叫び』
内戦が続くシリア。いつになったら停戦するのだろうか…
シリアの国情は長い期間にわたって荒れ狂っている。
『シリアからの叫び』
ジャニーン・ディ・ジョヴァンニ(著)、古屋美登里(訳)
亜紀書房
256ページ
2300円(税別)
ことの発端は2011年。2010年に起こったアラブの春を端緒として過激化した反政府運動と、それに対抗するアサド大統領に率いられた政府軍によって内戦が勃発。ジリジリと進まない市街戦、非人道的で歯止めのかからない拷問、市民へのレイプ被害など無数の事態により状況は泥沼化していく。国連難民高等弁務官事務所によるとシリアからの難民は500万人を超えたという。外務省のデータによると2012年のシリア人口は2240万人だから、尋常な数ではない。
いったい、シリアで何が起こっているのか。そもそもなぜこのような戦争が起きてしまったのか。そこで暮らす人々は何を考えているのか。本書『シリアからの叫び』はそうした疑問に答えるべく、政府軍、反体制側といった立場を問わず、シリアの人々に対して寄り添うようにして行われた取材をまとめた渾身のルポタージュである。ジャーナリストだけ数えても94人もの犠牲者が出ているシリアなので、ただでさえ命がけの取材内容を、見事な筆致で描き出していく。
レイプ、拷問
事実上の戦争が起こっているわけだから、シリアで起こっていることは何もかもが問題といえるのだが、とりわけ深刻にみえるのがレイプ/拷問による市民への被害である。シリア国連調査委員会のレポートによれば、シリア難民たちは脱出理由のひとつに誘拐やレイプ、拷問の危険性が高まったことをあげているが、著者が調査を行った2012年頃から日常的に行われていたようだ。
本書にもレイプ被害にあった犠牲者の生々しい声が集められている。レイプは被害者からしてみればただでさえ最悪の事態だが、結婚するまでヴァージンであることが求められるイスラム教の女性にとってはより深刻な結果をもたらす。レイプ被害を受けることで結婚ができなくなり、社会から孤立せざるをえなくなるなど、精神的な被害がより重体化するケースがあるからだ。
政府軍による(反体制側も拷問を行っているという証言もある)拷問の内容も衝撃的。一人の男性の証言によると、家に押しかけてきたアサドの軍隊員によって銃撃され、拷問を行う病院へと連行される。死体置き場へと放り投げられ、毎晩拷問が終わるとそこへ戻されることになる。
拷問では好き放題に殴られ、逆さにつるされ、外科用のメスで腹を開き腸を切られ、乳首の下から背中の中央まで届く穴を開け吸引チューブで肺に穴を開けるなど、とても現実とは思えない過酷な拷問が行われていたケースが無数に浮かび上がってくる(ちなみにこの証言者は、医師が偽の死亡診断書を書いてくれたことにより脱出し、ぎりぎり生きながらえることができた)。
1センチ1センチ進んでいく
取材は市街戦が起こっている街の政府軍や、市井の人々に対しても行われている。特に市街戦においては、政府軍も反政府軍も、もちろん市民も疲弊しつくしている様が描き出されていく。
市街戦では戦況が膠着しがちであり、スナイパーが一日中銃弾を応酬しあい、建物を一軒一軒、道路を一本一本じりじりと制圧する/される苦しい戦いが続く。極度に長い時間死が隣にある日々。『「ひとつの建物を占拠するには何時間も、何日もかかるんだ」リファフは低い声で呟いた。「こんなふうに戦いは進むんだ。こっちが一センチ進むと、あっちは一センチ下がる。あっちが一センチ進むと、こっちは一センチ下がる」』とは政府軍側の兵士の弁だ。
“「でもわたしのような中立の者もいるから、なんとか仲良くやっていけるのよ。みんなうんざりしてるから近所づきあいはいいの。あなたはホムスが戦場だと聞いているでしょう。でも、爆弾と暮らすことを学んでいる人たちがいるってこと、知らないでしょ」”
Twitterなどで発信できる時代だが、こうした“戦場”とみなされている場所で営まれているそのリアルな実情は、著者のようなジャーナリストがいなければなかなか表に出てこないものだろう。
おわりに
本書でシリアの人々の実態を知ったからといって、我々に出来ることは多くはない。
とはいえ、どれほど容易く破壊的な争いに陥ってしまい、元の生活に戻るのがいかに困難なのか。非人道的な拷問やレイプが当然のものになってしまう過程、そこでいったいどれだけの不幸が起こるのかという、“内戦”──その実態を、本書は心底まで実感させてくれる。声なき人に声を与える、ジャーナリズムの仕事のひとつの見事な達成の成果がここにある。
HONZメンバーであるアーヤ藍が配給に携わったシリア映画はこちら
(HONZ 冬木糸一)
http://diamond.jp/articles/-/125518
ベネズエラで反体制の大規模デモ、少なくとも参加者2人死亡
Nathan Crooks、Fabiola Zerpa、Noris Soto
2017年4月21日 03:30 JST
ベネズエラでは19日、首都カラカスなどの都市で反体制デモが行われ、少なくとも2人が死亡した。マドゥロ大統領の統治に抗議するデモとしては過去数カ月で最大規模となり、デモ参加者らは銃弾や催涙ガス、大統領を支持する過激派勢力に立ち向かった。
カラカスのデモ行進は数マイル(1マイル=約1.6キロメートル)に及び、デモ主催者らは「最大の行進」だと指摘。バルキシメトやポルラマルなどの都市でもデモ隊が街頭に繰り出し、国家警備隊や地元警官らと衝突した。カラカスとサン・クリストバルでデモ参加者少なくとも2人が死亡した。
野党指導者で大統領選に2度出馬したエンリケ・カプリレス氏は「数百万人のベネズエラ国民がこの日、憲法を守るために恐れることなく結集した」とのコメントを電子メールで発表した。
数千人のマドゥロ大統領支持者もカラカス中心部で集会を開き、国営テレビではペットボトルの水を配布するトラックや故チャベス大統領の形をしたバルーンが映し出された。
ベネズエラ最高裁が先月、野党多数の議会の立法権を剥奪しようと試みたことを受け、マドゥロ大統領に国内外で厳しい目が向けられている。野党は同大統領罷免の国民投票を実施する取り組みが昨年、選挙管理委員会によって打ち切られた後、勢いの増強を目指している。
同大統領は「この日、彼らは権力打倒を試みたが、またもや失敗した」と述べた。
原題:Massive Anti-Maduro Protests Leave 2 Dead in Venezuela (1)(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-04-20/OOPUOX6JTSE801
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