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トランプ政権のクシュナーVSバノン確執の本質
The Economist
それはトランプ大統領のレガシーを巡る戦いだ
2017年4月21日(金)
The Economist
今やバノン首席戦略官(左)とクシュナー大統領上級顧問(右)の対立はワシントンでも有名だ (写真:AP/アフロ)
権力の中枢である米ワシントンは、決して平穏な場所ではない。中世の時代に農民などの庶民が騎士たちの一騎打ちを楽しんで見物したように、現代も政界という名の「村」における権力者たちの対立をロビイストやコンサルタント、嫌われ者のジャーナリストたちは注視している。過去も今も彼らが目にしたがっているのは、権力者が対立相手を泥の中に叩き落とす様子だ。
それだけに米国の首都でトランプ大統領の側近がこれだけ対立しているというのは、興奮せざるを得ない。ここ何週間もスティーブン・バノン首席戦略官・上級顧問とジャレッド・クシュナー大統領上級顧問という2人の権力者が、報道陣へのリークやブリーフィングを通してつばぜり合いを繰り返している。
観衆にとって面白いのはクシュナー氏が大統領の娘婿という点だ。少年っぽさを残すハンサムな彼は、米不動産王の最有力の跡取り候補であり、かつ民主党への大口献金者としても知られ、トランプ氏が信頼する相談相手である娘のイヴァンカ氏と結婚している。
バノン氏は、怒りを蓄積してきた白髪交じりの年配者で、トランプ政権が掲げる「米国第一」のナショナリズムの推進者だ。
「お父さんがそれでは立派にみえなくなってしまう」
ホワイトハウスで繰り広げられる様々な対立劇の大半は、党派的なイデオロギーの対立だったり人間関係のいざこざだったりする。クシュナー陣営が口にする不満を聞いていると、これは「家の格」にかかわる問題なのだという。米ワシントン・ポスト紙に匿名の情報筋が語ったところによると、トランプ氏の支持者の中核を焚き付けるようなバノン氏の強硬路線を追求することは、「お父さんがそれでは立派にみえなくなってしまう」ことだという。
一方で、政権内部および保守派メディアにいるバノン派は、クシュナー氏は隠れリベラルであり、大衆を味方につけたトランプ氏の歴史的な勝利を台無しにしていると主張する。その憤りはイヴァンカ氏、さらにゴールドマン・サックス出身の国家経済会議(NEC)委員長を務めるゲイリー・コーン氏や国家安全保障問題担当の副補佐官ディナ・パウエルにも向けられている。
バノン氏も確かに過去、ゴールドマン・サックスで働いていたが、近年は右派系ニュースサイト「ブライトバート・ニュース」のボサボサ頭の好戦的な会長として悪名をとどろかせている。
バノン派は、メディアに対してクシュナー派を中傷する時、「民主党のやつら」「ニューヨーカーたち」「グローバリスト」といった言葉を使う。クシュナー氏と上品な身なりをした彼の仲間たちは、国境に壁を築くなどといった移民に厳しい政策を打ち出すことに怖じ気づく一方で、シリアで世界の警察官の役割を演じたり中東で和平の調停役を担ったりすることには積極的で、医療政策や気候変動などの問題では民主党の専門家の声に耳を傾けすぎだ、というのだ。
また、クシュナー氏に何から何まで任せられていることが、バノン派や民主党、評論家の嘲笑の的となっている。中東和平問題から、カナダやメキシコ、中国との外交関係を見守り、ビジネス界の手法を使って連邦政府の立て直しまで担うという。そんなことが可能なのか、というわけだ。
バノン氏が掲げる“大義”
だが、こうした対立を左派と右派の衝突、あるいは「ホワイトハウスに渦巻く陰謀」などと思って見ていると、本質を見誤る。バノン氏とクシュナー氏の半ば公然となっている対立は、もっと重大なものを巡る対立だ。つまり、トランプ大統領の目的、大統領として何を実現させるのかという問題を巡る対立なのだ。
バノン氏にとって2016年の大統領選挙に勝利するということは、後に歴史が「トランプ主義(トランピズム)」と呼ぶかもしれない大義を推進することだった。
バージニア州で労働者階級の家庭に生まれた元海軍将校のバノン氏は、社会というものがいかにして壊れていくのかについて何年も研究を重ねてきた。そして身の毛のよだつような暗い映画をいくつも製作してきた。その内容は、特定の社会に深く属することもない腐敗したエリート層が、どんどん流入してくる移民で金儲けをして、労働者階級を犠牲にしてきたと主張するものだ。米国の保守的で伝統的価値観が支配的な中部地域で、競争を重視しつつも困った人には手を差し伸べるというユダヤ教とキリスト教に共通する価値観が崩壊していく様子を嘆く映画も作ってきた。
バノン氏は、極右勢力の多くの人より先にトランプ氏が従来型の保守派ではないが、ポピュリズムの影響力を「本能的に」察知していることに気づいていた。
大統領の「首席理論家」として政権に加わったバノン氏は、ホワイトハウスのウエストウイングに構える執務室で、トランプ氏が選挙戦中に演説であげた公約の数々を書き出して壁に貼った。公約は国境の警備から貿易まで多岐にわたる。バノン氏は、その中には「行政国家を解体する」ことにより、各種規制やそれを策定する連邦政府機関を徹底的に見直すことも含まれると言う。
バノン氏は、既存の保守派がトランプ大統領に過激な政策を捨て去るよう説得しようとするたびに、「トランプ氏は必ず『いや、米国民に約束したのだから計画は実行する』と言い返す」と語り、公約の実行を保証した。
対立する2人の決定的な違い
バノン氏は選挙戦中、クシュナー氏とプロの選挙コンサルタントへの軽蔑という共通の思いを抱くことで絆を深めた。クシュナー氏に言わせれば、トランプ陣営は型破りなスタートアップ企業のようで、政治以外の分野で「変わった」経歴を持った技術に詳しい人が多かった。
クシュナー氏は昨年12月にニューヨークで開催された経営者たちの会合で、選挙活動に参加したことで政府から無視されていると感じる米国人の怒りを目の当たりにしたと語っている。自分が移民問題や環境問題について世間離れしたエリートたちの意見に染まっていたことに気づいたのだという。
だが少なくとも1つの点で、クシュナー氏はバノン氏と決定的に異なる。クシュナー氏にとって、昨年の大統領選挙はトランプ氏の勝利であって、決してトランプ主義の勝利ではないという点だ。
選挙後ほどなくクシュナー氏は米誌フォーブス誌の取材に対し、義父は従来の民主党や共和党の典型的タイプとは異なり、それらを超える存在であり、「機能する政策を組み合わせ、機能しない政策を排除」していると語った。
両方が生き残るのは不可能
バノン氏もクシュナー氏も、トランプ氏に対する評価について批評家たちが間違っていることを証明するためにホワイトハウス入りした。だが、トランプ氏が選挙中の公約を片っ端から破ることで支持率を上げ、成功を収めるとすれば、それはバノン氏が追求してきたナショナリスト的な大義は裏切られることになる。
バノン氏は、自分ならトランプ氏の最も忠実な支持層をつなぎ止め、選挙中の約束を履行することでその支持を維持する手助けができると、トランプ氏にアピールして生き延びてきた。しかし、これまでのトランプ氏の言動を見れば、彼が約束したからと言っても、それらを彼に実際に履行させることがいかに難しいかがわかるはずだ。
バノン氏の大義に比べ、クシュナー氏が唱える現実主義的な「ファミリーファースト(トランプ家が一番大事)」の方がロジックとしてはずっと単純だ。米国人は、自分たちの生活が改善すればトランプ氏に感謝するだろう、というわけだ。
今のところクシュナー氏もバノン氏もトランプ氏を成功の道へと案内しようとしている。だが、どこかの時点で2人が追求する最終目標は両立しないことが判明するだろう。だからこそ、最近はバノン氏がクビになるという噂が飛び交っているのだろう。しかも、トランプ氏自身がその噂を煽っている。
二人が争っているのは、何をトランプ大統領の遺産とするか、だ。つまり、そのことは両者があい成り立たないことを示している。
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このコラムについて
The Economist
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女子大生を餌食にする中国「裸ローン」の罠
世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」
自撮りヌード写真を担保に借金、返済できなければバラマキ
2017年4月21日(金)
北村 豊
“恩施市”は、湖北省の西南部に位置する“恩施土家族苗族自治州”の州政府所在地で、海抜900m以上の山岳地帯にある常住人口75万人の風光明媚な地域である。省都 の“武漢市”からは直線で500kmの距離にあり、自動車なら6.5時間かかる。4月3日、その恩施市の農民である周さんは自分の携帯電話に1通の写真付きメールを受領した。何だろうとメールを開くと、周さんは自分の目を疑った。携帯電話の画面には娘の“小周”(仮名)の“裸照(ヌード写真)”が写っていたのだった。
身分証明書を持って全裸写真を自撮り
4月10日付の湖北紙「楚天都市報」は、『武漢女子大生の“裸貸(裸ローン)”5000元(約8万円)が雪だるま式に増えて26万元(約416万円)に』と題する記事を報じた。その概要は以下の通り。
【1】20歳の小周は、武漢市”にある某職業技術学院大学の2年生である。2016年10月の或る日、大学のトイレに入った小周は、個室のドアに貼ってあった消費者金融業者の広告に目を止めた。当時、小周には買いたい物があったが、懐が寂しく、到底手が届きそうになかった。そうだ、一時的に借金すれば欲しい物が買える。そう思ったら、何かに取りつかれたように、自身のスマートフォン(以下「スマホ」)で広告に書かれていたSNSの“微信(WeChat)”に連絡を入れ、先方の担当者に借金したい旨を伝えていた。
【2】ひとしきりチャットを続けて、カネを借り入れる意向を示すと、消費者金融業者の担当者から身分証の写真、学生証の写真、スマホの通話履歴を微信で送るよう要求された。小周が指示通りの物を送信すると、担当者はさらに次の物を微信で送信するよう要求した。
(1)“手拿借條”:担当者が送信するひな型に通りに手書きした借用書に自分の署名を行い、署名済みの借用書を手に持って上半身を撮影した画像。
(2)“裸條”:“全身赤裸手持身分証自拍(全裸で身分証を手に持って自撮りした)”写真あるいは動画。
【3】欲し物を買いたい一心の小周も“裸條”にはさすがに躊躇した。これを担当者に伝えると、この写真や動画は担保であり、万一返済期日までに返金されなくても、必ず流出する訳ではないので心配不要だと答えた。これで安心した小周は借入額もさほど大きくないので、返金は問題なくできると判断して、担当者の要求通りに(1)と(2)を送信した。
【4】小周の借入金は5000元(約8万円)であったが、審査費、写真の秘密保持費などの費用を差し引かれて、消費者金融業者から小周の銀行口座へ払いこまれたのは2750元(約4万4000円)だけだった。この2750元を何に使ったのか、小周には全く記憶がない。彼女が覚えているのは、毎月の生活費が1000元(約1万6000円)で、常に足りなかったからカネを借りて何かを買ったという事だけで、具体的に何を買ったのかは覚えていないのだ。
30社以上から借金、8万元が26万元に
【5】署名した借用書には借入金を1週間以内に全額返済することが明記され、返済できない場合は、完済まで毎週287元(約4600円)の金利を支払わねばならないと規定されていた。ただでも少ない毎月1000元の生活費に頼るしかない小周に借金を返済する術はなかったが、借金のことを両親に告げる勇気はなかった。そこで、ひたすら友人たちに頼み込んでカネを借りて回ったが、最後には誰もカネを貸してくれなくなった。カネに詰まって苦しんでいると、消費者金融業者の担当者が親切に助言してくれた。それは、インスタントメッセンジャーアプリ「QQ」の借金グループに加入し、別の消費者金融業者から新たにカネを借りて、前の借金を返済するというもので、小周を借金地獄の泥沼に陥れるものだった。
【6】借金の返済に追いまくられて冷静に物を考えられなくなっていた小周は、何も考えずにQQの借金グループに加入し、半年間に30社以上の消費者金融業者からカネを借入れては借金の返済に充てることを繰り返した。この結果、手続き費用を差し引いて、小周が手にした元本の合計は8万元(約128万円)以上に達したが、これに利子を加えた返済が必要な借入れ金の総額は26万元(約416万円)近くに膨れ上がっていた。
【7】2017年の“春節(旧正月)”休暇(1月27日〜2月2日)中に、小周はスマホの電源を切って、外部との連絡を絶った。春節休暇中は小周のスマホと連絡が取れなくても仕方ないと考えていた消費者金融業者も、休暇が明けても連絡が取れないことに業を煮やした。そこで小周から事前に受け取っていたスマホの通信履歴にある電話番号宛てに下記のような返金催促メールを発信した。
どうぞ返済するよう忠告して下さい。
小周 身分証番号:4228221997XXX
貴女は2017年1月26日に4万元を借入れたが、明日2月4日の午後6時が返済期限です。ここに約束の時間と金額に基づき貸付金の返済を行うよう注意を喚起します。いかなる理由でも返済金額と期限の変更は認められません。もし詐欺的手段を隠して故意に貸付金を返済しないことが疑われるなら、我々は強大な社会世論の圧力、身近な親友や友人、通信履歴、第三者の借金返済機関を通じ、また、直接住宅を訪ねての催促、地元の住民委員会および地元の尋ね人広告に借金未済を暴露するなどの手段で24時間返済催促を行います。負債を返済するのは当然の道理であり、期限を過ぎて返済しない結果は重大なものとなります。期限超過の罰則は毎日200元(約3200円)となります。この返済催促は貸付側がQQや携帯電話などの常用通信手段を通じて告知義務を履行していることを示しています。
2017年2月3日
【8】父親の周さんは消費者金融業者から届いた催促メールを見て、初めて娘が借金取りに追われていることを知った。周さんは慌てて小周に連絡を取り、借金について問いただしたが、小周は言葉を濁し、カネを借りたと言うだけで、カネを何に使ったのかは口を閉ざしたままだった。愛する娘が困っている。仕方なく、周さんは虎の子の4万元(約64万円)を小周に手渡し、大至急借金を返済するよう言い聞かせた。
親や親戚、友人にヌード写真が届く
【9】ところが、文頭に述べたように、4月3日に全裸の小周が身分証を手にした“裸照(ヌード写真)”が周さんの携帯電話に送信されて来た。これを見て肝を潰した周さんは精神的に崩壊した。まさか娘にまだ借金があったなんて、周さんは考えたこともなかった。“裸照”は小周の“姑姑(父方のおば)”や“姨媽(母方のおば)”、大学のクラスメートたちにも届いていた。急きょ武漢市へ出向いた周さんは小周と会って彼女がはまった消費者金融の罠の全貌を聴取し、4月5日の午後に娘を伴って“武漢市公安局”の“東湖新技術開発区分局関南派出所”に事態を通報した。
【10】小周は今まで経験した事のない恥辱と後悔にさいなまれ、周さんに全てを告白した。借金の元本と利子の合計は26万元だが、父親の援助もあって、すでに16万元(約256万円)は返済済みで、残りの借金は10万元(約160万円)余りだが、その大部分は“裸照”を担保に取られている。かくも膨れ上がった借金の起因になったのは、最初に借入れた5000元であった。その後に借入れたカネを彼女はほとんど使っておらず、その大部分を借金の返済に充てていた。“裸照”付きのメールが大学のクラスメートたちにも届いたことから、小周は面子を失い、大学にいられなくなった。また、さらなる借金取りの出現を恐れて、小周は周さんと共に武漢市を離れ、現在は両親と共に上海市へ出稼ぎに行っている。なお、周さんによれば、彼には小周の他に9歳の息子がおり、上海市では夫婦2人でプラスチック工場の臨時工として働いているが、月収は2人合わせて6000元(約9万6000円)程なので、借金の残額10万元(約160万円)を返済することはどうやってみても不可能だという。
【11】楚天都市報の記者が“借貸(貸借)”、“借銭(借金)”などのキーワードでネット検索を行ってみると、非常に多くの消費者金融業者がヒットした。彼らの数社に微信やQQ、電話を通じて連絡してみると、ローンの月利は8〜15%とまちまちであった。月利15%として1万元(約16万円)を借りると、毎月の支払い利息は1500元(約2万4000円)となるが、1か月目の利息は先払いが要求されるのだった。記者が小周にカネを貸した消費者金融業者たちに連絡を取ってみたところ、ある業者は小周など知らないと言って電話を切ったし、またある業者は返済催促業務を外部に委託しているので、もしかすると“裸照(ヌード写真)”を使って催促している可能性もあるかもしれないと答えた。
【12】小周は大学には行きたくないと言っていたが、大学側は小周に対する心理カウンセリングを継続しており、当面は休学扱いとして、一定時間が経過したら復学が可能なように配慮してくれている。周さんは小周を復学させるかどうかを思案中であるという。
【13】小周事件に関する弁護士の意見はどうなのか。湖北典恆弁護士事務所の“陳亮”弁護士は次のように述べている。すなわち、“裸照”を担保として行う貸付は、契約そのものが無効である。なおかつ、我が国の法律が認めているのは年利24%以内の貸借関係だけで、これを超えた部分は法律の保護を受けない。小周の借金は高利貸しに属するものであり、借金1件毎に小周が元本と年利24%の利息を支払っていれば、それ以上の利息を支払う必要はない。余分に支払った利息が36%以上であれば、民事訴訟を通じて返還を求めることができる。
中国では上述したような「“裸照”を担保に取る貸付」を“裸貸(裸ローン)”と呼ぶ。3月7日付で中国国営通信社の「新華社」が報じたところによれば、大学生向けのネット消費者金融の規模は2016年に800億元(約1兆2800億円)を突破し、さらに拡大する傾向にあるという。こうした大学生向けのネット消費者金融を“校園貸(キャンパスローン)”と呼ぶが、“校園貸”は借入がネット完結型で簡便であることが大きな魅力となっている。身分証番号、在学している大学名、学年、学生番号、学部などの個人情報を登録して、身分証や学生証の写真を示して検証し、署名した契約書の写真や動画を送信すれば、わずか10分足らずの時間で数千元から数万元のカネを借入れることができる。このため、“校園貸”はネット消費者金融の中で目覚ましい発展を遂げているのである。
2015年に始まり、各地に波及
しかし、“車貸(自動車ローン)”なら“汽車(自動車)”を担保に取れるし、“房貸(住宅ローン)”なら“房産(家屋)”を担保に取れるが、大学生相手では担保に取るものがない。そこで悪質な消費者金融業者が女子大生を対象として考え出したのが“裸照(ヌード写真)”を担保に取る“裸貸(裸ローン)”であった。キャンパスローンの“裸貸”は2015年に中国南部から始まったとされるが、2016年には山東省、江蘇省、広東省、北京市、四川省などの各地に波及し、急速に全国的な存在となった。
2016年11月30日には、消費者金融プラットフォームの“借貸宝”を経由して“裸貸”を利用した161人の女性たちの個人情報を記録した10ギガ(G)の圧縮データがネット上に流出する事件が発生し、“裸貸”は中国社会で改めて注目を集めることになった。161人中で本籍が流出した者は146人で、その内訳は14人の四川省が最多で、広東省(11人)、江蘇省(10人)がそれに続いた。また、年齢情報が流出したのは144人で、そこには1993〜1997年生まれ(23〜19歳)が91人含まれ、最年少は1999年生まれの17歳で4人含まれていた。また、学校情報が流出したのは28人であり、借入金額が流出したのは26人で、最高額は2.3万元(約37万円)、最低額は1000元(約1万6000円)だった。
メディアの記者が“借貸宝”を運営する“九鼎集団”に連絡を取ったところ、先方の担当者は、「“借貸宝”は消費者金融の仲介を行っているだけで、金融実務は貸付人と借入人が個人的に行うP2P方式であり、我々は双方の貸し借りには介入しておらず、“裸貸”を行うような不良業者とは全く関係ない」と述べたという。
“裸貸”で借りたカネを返済期日までに返済できなければ、通話履歴に記載された父母や親戚、友人、知人に返済催促のメールが発信され、それでも返済がなされなければ、“裸照”がメールでばらまかれる。さらに返済がなければ、元本に高率な利息を加えた莫大な金額を、彼女たちにその肉体で償わせることになる。2016年11月11日付の甘粛紙「蘭州晩報」が報じたところによれば、“裸貸”を行っている貸付人たちは、返済不能となった借入人の女性たちに肉体による返済方法を提案し、彼らの客である“富二代(富豪の子供)”や“官二代(政府高官や地方幹部の子供)”の放蕩息子などと一夜を共にしたり、愛人になることを強要するのだという。逃げ道をふさがれ、追いつめられた女性たちは自暴自棄となり、春をひさぐ転落人生を歩むようになるのである。
高利貸しの危険、知っていたのは1.75%
キャンパスローンで“裸貸”を主体としている消費者金融業者によれば、女子大学生が借金をする理由は、恋愛や遊びの資金不足、アップルのiPhone購入、ファッションアイテムの購入など、千差万別だが、彼女たちは“裸貸”によって地位や名誉を失うことになるかもしれない危険を負うことなど一顧だにせず、安易な気持ちで“裸照(ヌード写真)”を送信してくるのだという。
4月14日付の北京紙「新京報」は『大学生のネット金融調査報告』を掲載したが、調査結果の概要は以下の通り。
(1)大学生の66%はキャンパスローンの危険性を認識しておらず、年利36%以上が高利貸しとなることを知っていたのは、わずか1.75%に過ぎなかった。
(2)キャンパスローンの利用者は、男子学生が73%、女子学生が27%で、圧倒的に男子学生が多かった。キャンパスローンを利用する目的は、物質生活の改善(デジタル機器、ファッション、化粧品などの購入):54%、基本的な生活支出:36%、娯楽支出(旅行、ゲーム、会合など):24%、などであった。
文頭に述べた小周の場合は、父親の周さんが速やかに公安局へ通報したことにより難を免れたが、違法な消費者金融業者の餌食になっている女性たちが多数存在することは疑いのない事実である。“裸貸”は日本に存在しないと思うが、それにしても、担保に取った女子大生の“裸照(ヌード写真)”を肉親や友人にばらまくとは、人間の皮を被った悪魔の所業で、厳しく断罪されて然るべきである。
このコラムについて
世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」
日中両国が本当の意味で交流するには、両国民が相互理解を深めることが先決である。ところが、日本のメディアの中国に関する報道は、「陰陽」の「陽」ばかりが強調され、「陰」がほとんど報道されない。真の中国を理解するために、「褒めるべきは褒め、批判すべきは批判す」という視点に立って、中国国内の実態をリポートする。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/101059/041900097/
朝鮮半島で軍事衝突はない
混迷する朝鮮半島
2017年4月21日(金)
重村 智計
金日成生誕記念の軍事パレードを閲兵する金正恩委員長(写真:ロイター/アフロ)
米国のドナルド・トランプ大統領は4月6日の米中首脳会談で「中国が、北朝鮮を抑えないのなら、米国単独で行う」と述べた。米国が単独でシリアにミサイル攻撃をした直後のこの発言は、米国は北朝鮮を限定攻撃する意向だと受け止められた。攻撃については、4月15日説や25日説が、まことしやかに流されていた。
しかし、朝鮮半島で軍事衝突や戦争が年内に起きる可能性は極めて低い。トランプ大統領は「中国が北朝鮮の核開発を抑えなければ」と条件をつけており、6回目の核実験をしても米国が直ちに単独攻撃をするわけではない。一方、中国の習近平国家主席は、対北朝鮮向けの石油輸出を禁止すると米国に約束した。北朝鮮の側から仕掛けることも考えづらい。北朝鮮は全面戦争できない国である。
歴史的な石油禁輸の約束
米ニューヨーク・タイムズ紙は4月13日に「習近平国家主席は、北朝鮮が核実験をすれば石油禁輸に踏み切る、とトランプ大統領に伝えた」と報じた。同紙は、国務省当局者にこの事実を確認した。これは中国の歴史的な決断だ。中国政府系の環球時報も同じ内容を報じている。
中国が、対北石油禁輸を約束したのは、これが初めてのこと。安倍晋三首相による働きかけの成果といってよいだろう。同首相は2月11日のゴルフ会談で、有効な対北制裁策をトランプ大統領に説いた。
安倍首相は、北朝鮮向け石油輸出を禁止すれば、同国の軍隊は崩壊し体制を揺さぶることができると説明した。同首相は、米中首脳会談直前にトランプ大統領と電話会談した際にも、対北石油禁輸を習氏に求めるよう改めてアドバイスした。
トランプ大統領は、4月6日の米中首脳会談で石油禁輸を強く求め、習主席がこれに応じた。トランプ大統領は「金正恩体制の崩壊は目標でない」と明言したと報じられている。
米中首脳による合意は、米国が「単独限定攻撃」するにはかなり時間がかかる事実を示している。北朝鮮が、核実験かICBM(大陸間弾道ミサイル)に進めば、中国は北朝鮮への石油供給をストップする。それでも、核開発が止まられなければ、米国は核施設への「限定攻撃」を検討する。トランプ大統領は、「中国に感謝している。習近平国家主席を信じている」と発言した。
わずか年50万トンの石油
北朝鮮は、なぜ全面戦争できないのか。同国は「石油最貧国」で、軍隊の石油消費量は世界最低だ。年間の石油輸入量は、中ロの貿易統計やオイル・タンカーの航行記録を確認しても、最大で年間70万トン程度。過去数年は、50万トン前後にとどまる。戦争をしない自衛隊でも、年間150万トンの石油を使用している。全面戦争は、中国とロシアが無制限に石油を供給しない限り不可能なのだ。
加えて、北朝鮮が使用する兵器は、1960〜70年代に装備された旧式だ。米韓の近代兵器には、太刀打ちできない。
だから、北朝鮮は核兵器開発に踏み切ったのだ。米韓両国が「北は戦争できない」とわかれば、攻撃してくると信じている。それを抑えるために核開発を進めたのだから、北朝鮮軍部には核兵器の開発で譲歩する気はない。
国連総会で演説か?
「単独攻撃」にかけるトランプ大統領の気をそぐために、北朝鮮に残された選択肢は多くはない。南北対話か米朝対話、日朝交渉の再開、日朝首脳会談の実現しかない。
北朝鮮は、5月9日に実施される韓国大統領選挙に期待している。革新系の文在寅候補が勝利すれば、直ちに南北首脳会談を呼びかける。投票前に核実験をすれば同候補が落選してしまうから、それまで核実験はしない。
米国は北朝鮮に対抗し、文在寅候補を落選させるための作戦を展開している。5月9日に向けて緊張を高める意向だ。韓国の内政には一切関与しないふりをする一方で、4月25日頃に空母カールビンソンを朝鮮半島近海に到着させる予定。中国の了解を得て、黄海深くまで航行させると見られる。米朝の軍事緊張を一挙に高め、文在寅候補を落選に導く。
このような状況において、金正恩委員長が「今年の国連総会で演説してもいい」と述べ、側近たちを慌てさせたという。中国外交関係者が情報源だから、にわかには信じがたい。それでも、金正恩委員長が限定攻撃を回避し、各国首脳の認知を得る打開策を模索している様子はよくわかる。
習氏は、金委員長の度重なる「訪朝招待」と北京への訪問要請を拒否しており、「それなら国連に行く」と中国に聞こえるように、情報を流したのだろうか。
日朝首脳会談の可能性
故金日成主席の生誕記念行事が行われた4月15日、粛清されたと報じられていた金元弘国家保衛相が、金正恩委員長と同じひな壇に姿を見せた。彼が、なお国家保衛省を担当し、対日政策を担当している様子がうかがえた。
宋日昊・朝日国交正常化担当大使は17日、平壌で取材に当たっている日本人記者団を呼び集め、日本に日朝交渉再開を呼びかけた。宋大使は、@拉致再調査を約束したストックホルム合意はすでに消えたA要望があれば残留日本人問題には応じるB戦争が起きれば日本に一番被害が及ぶ――など高飛車な態度を示した。その言葉からは、話し合いを望む北朝鮮の痛々しい思いが伝わった。
宋大使の発言には、ウソがある。戦争になれば、被害が大きいのは韓国と北朝鮮だ。日本にはほとんどない。日本がお願いすれば「交渉を再開する用意がある」という発言は、こう表現しないと北朝鮮の高官たちが納得しないからだ。
日朝は14年、ストックホルムで「行動対行動原則」に合意した。これは日本外交の失敗だった。この言葉は、北朝鮮外交が昔から駆使する「得意用語」。拉致問題への取り組みを遅延させる一方で、残留日本人の帰国や日本兵の遺骨捜索に協力し資金を手に入れることを意味していた。
外務省は、それに気がつかなかったようだ。安倍首相はこのトリックを知り、「拉致問題解決を最優先にしないと、交渉に応じない」と条件を変更した。北朝鮮は、外交作戦をひっくり返された。
北朝鮮では、秘密警察である国家保衛部が日本への工作と秘密交渉を担当してきた。ところが、2002年に日朝首脳会談が失敗に終わり、日本部局は廃止。ここ数年、担当者は一人しかいなかった。最近の情報では、金委員長の指示で今年初めに日本部局が復活し、20近い人員が働いているという。金委員長は、明らかに「日朝交渉」を目指し、「日朝首脳会談」を視野に置いている。
このコラムについて
混迷する朝鮮半島
朝鮮半島の動向から目が離せない。
金正恩政権は、事実上のミサイル実験と見られる「人工衛星打ち上げ」を計画。
この成否は、日本に対する核の脅威を変質させる可能性がある。
金正恩氏の政治基盤の安定にも影響する。
一方、韓国では4月に議会選挙が、12月に大統領選挙が予定されている。
現・李明博大統領は日米と緊密に連携している。
しかし、次期政権が同様とは限らない。
韓国の動きも、北朝鮮の変化も、日本の政治・経済・社会に直接の影響を及ぼす。
その変化をウォッチし、専門家の解説をお送りする。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/230558/042000012/
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