http://www.asyura2.com/17/kokusai19/msg/188.html
Tweet |
フランス「斜陽の町」が映す大統領選の行方
かすむEUの未来
爆発する既存政党への不満、「ルペン大統領」の可能性はある
https://www.youtube.com/watch?v=h8hUpCpcK74
2017年4月20日(木)
蛯谷 敏
4月23日のフランス大統領選第1回投票が、あと3日に迫った。国民戦線のマリーヌ・ルペン候補と、無所属のエマニュエル・マクロン候補が有力候補となっているが、両氏の支持は伸び悩んでいる。一方、極左政党・左翼党のジャンリュック・メランション候補の支持が急拡大。共和党のフランソワ・フィヨン候補を含めた4人の混戦状態に陥っている。
社会党と共和党という2大政党に基盤を持つ候補者が大統領の座を争ってきたフランスにとって、今回の大統領選は異例の事態。その背景にあるのは、長らく停滞する経済に、有効な施策を打てなかった既存の2大政党に対する国民の不満だ。候補4人のうち、3人は既存の2大政党以外の人間。国民が既存の政党以外から新たなリーダーを求める機運がかつてないほど高まっている。
その中でもやはり、注目せざるを得ないのが、国民戦線のルペン候補だろう。「反EU」を掲げる同候補の公約は過激だ。EU離脱を問う国民投票の実施、シェンゲン協定や北大西洋条約機構(NATO)からの脱退、通貨ユーロを離脱し、旧フランを再導入するなど、欧州統合を後退させる政策を声高に主張する。いずれも、すぐに実現する可能性は低いが、仮に「ルペン大統領」が誕生すれば、欧州が大混乱に陥るのは間違いない(詳細は2017年4月17日号のスペシャルリポート)。
伸び悩んではいるものの、ルペン候補の支持率は依然として24%前後でトップを走る。第1回の投票を勝ち残る可能性は高い。世論調査では、決選投票では過半数を獲得できず、対立候補に敗れると見られているが、大学教授など専門家の多くは今もルペン候補が勝利するとの見通しを捨てていない。昨年、英国で実施された国民投票の前例もある。
都市部よりも郊外で分厚く広がるルペン支持層。その現場を取材すると、変化に対する国民の渇望が想像以上に強いことが分かった。
かつて鉄鋼の町と呼ばれたフロランジュ。欧州アルセロール・ミタル傘下の製鉄所内には操業を停止した無数の生産設備が点在していた。
製鉄所の敷地を高台から見下ろすと、不気味な静寂、あたり一帯を覆っていた。
仏北東部、ルクセンブルクとドイツの国境近くにある小さな町、フロランジュ。一帯はロレーヌ地域と呼ばれ、欧州を代表する鉄鋼生産地域として1950年代から知られてきた。フロランジュ周辺の町に広がる150ヘクタールの広大な産業区域にはかつて、無数の鉄鋼生産設備や関連工場が集積していた。
しかし、3月下旬に訪れたフロランジュに、鉄鋼の町の面影はほとんどなかった。中心部に位置する製鉄所には、稼働を停止した無数の鉄鋼生産設備が点在するのみだった。
稼働を停止した製鉄所の生産設備
製鉄所周辺で目に入るのは、廃墟となった町工場やホテル、朽ち果てた住居など。町にも人の気配はほとんどない。フランスの2017年1月の失業率は約10%だが、フロランジュ一帯の失業率は20%近くに達すると言われる。
製鉄所の近くには、廃墟となったホテルがそのまま残っていた
朽ち果てた町工場も多く目についた
一時は世界的な鉄鋼生産拠点として名を馳せたロレーヌ地域だが、1970年代以降は、徐々に衰退の道を辿った。2000年代以降、中国やインドなどの新興国で鉄鋼生産が急増した後は、衰退のペースに拍車がかかった。
欧州の鉄鋼メーカーも、世界再編の波に飲み込まれていく。2006年には、インドの富豪、ラクシュミ・ミタル氏率いるミタル・スチールが、ルクセンブルクのアルセロールを買収。同年、ミタルはフロランジュの製鉄所を保有していたフランスの製鉄企業ソラックも傘下に収めた。
アルセロール・ミタルはその後、激化する世界競争に対応するため、採算の合わない欧州の製鉄所を次々と閉鎖していった。2011年、フロランジュにもリストラの波が押し寄せた。ミタルは製鉄所内の高炉2基を停止し、実質的に閉鎖することを決めた。
当時、フロランジュ、そして周辺の町は、高炉停止に抗議する従業員や関連会社の人間であふれ返った。高炉関連の仕事に従事していた人間は、取引先や飲食店といった周辺産業も含めると、数千人に達する。雇用を失うことは、フロランジュにとって存亡にかかわる危機だった。
町を歩いても、人の気配がほとんどない
多くのメディアが取り上げた高炉の停止は、フランス全土に知れわたり、社会問題化した。そして、瞬く間に政治問題へと発展し、翌2012年の大統領選の争点となった。当時、社会党の候補だったフランシス・オランド(現大統領)氏は「大企業によるリストラから労働者を守る」と声高に主張した。
世論の追い風を受けたオランド候補は、当時のニコラ・サルコジ大統領を破り、大統領選に勝利する。オランド大統領はフロランジュや周辺地域の雇用維持を約束し、一時は工場を国有化する可能性にまで言及した。雇用の受け皿となる売却先を見つけない限り、大企業は工場を閉鎖できないなどの法律を定め、「フロランジュ法」と名付けた。
政治介入を受けてミタルは、その後、フロランジュの製鉄所内に鉄以外の製品を作る別の生産ラインに投資を継続することを決めた。
しかし、停止した高炉2基は結局、再稼働することはなかった。フロランジュや周辺地域の雇用は減り続け、飲食店やホテルなども次々と廃業した。今ではこの一帯は、米国中西部の荒廃した工業地帯になぞらえ、フランスのラストベルト(rust belt)と呼ばれる。
雇用拡大と景気回復を掲げたオランド大統領は公約を果たすことなく、今週末に迫った大統領選には出馬しない意向を明らかにしている。
町のあちこちに、ルペン候補のポスターが貼られていた
「社会党のことはもう信じていない」。フロランジュ市内にある数少ないピザレストランで働く30代の店員に大統領選について聞くと、こんな答えが帰ってきた。男性は、以前は鉄鋼関係の仕事をしていたが、今は定職に就いていない。
「彼らは労働者の味方だと言って散々理想を語ったが、状況は何も良くなっていない」。男性はこう続けた。「ルペンの方が、よっぽどましだ。彼女にフランスを変えてもらいたい」。
「既存政党の候補は誰がなっても同じ」
仏ニース大学で比較政治学を研究するギレス・イバルディ氏は、「高い失業率に苦しむ地域や、欧州統合が進む中で恩恵を受けていないと感じる地域では、社会党への失望を埋めるように、国民戦線が支持を広げている」と指摘する。
国民戦線は、極右政党と紹介されているが、実際は左派の政策も取り込んでいる。低所得者や中小・零細企業への支援を充実させる政策を掲げており、社会党に不満を持つ国民の支持を吸収している。特に国民戦線の支持が広がっているのがフロランジュのような地域で、隣町のアヤンジュでは2014年、国民戦線に所属する町長が誕生した。
現場を取材して特に感じたのが、国民が変化を渇望していることだ。
「既存政党の候補は、誰が大統領になっても変わらない」とフロランジュに住む40代の女性は言う。「社会党と共和党以外なら誰でもいい。新しいリーダーでなければ、フランスは変わらない」。
ルペン候補とともに、無所属のマクロン候補や左翼党のメランション候補らが支持を高めているのは、多くの国民が既存の政党にノーを突きつけているからだろう。
最新の世論調査によると、ルペン候補の支持率は24%でトップ。同じく、無所属のマクロン候補も24%で並ぶ。反ルペンの支持を固めた。ここに来て、左翼党のメランション氏も支持を急拡大させ、3位の座を共和党のフィヨン候補と争う展開になっている。
今のところ、4月23日の第1回投票ではルペン候補とマクロン候補が勝ち残り、5月7日の決選投票でマクロン候補がルペン候補を破るとのシナリオが有力視されている。しかし、英国のEU離脱を巡る国民投票の前例もあり、「ルペン候補が勝つ可能性は捨てきれない」(英リーズ大学のジョシュリン・エバンス教授)と言う識者は少なくない。
長らく2大政党が大統領の座を争ってきたフランスにとって、今回の大統領選は大きな転換点となり得るだろう。2017年前半、欧州政治で最も注目を集めるイベントがいよいよ始まる。
フランス大統領選
5年に一度実施される選挙で、今回は11人が立候補した。4月23日の第1回投票で有効投票の50%+1票以上を獲得した候補が当選する。「単記2回投票制」を採用しており、第1回投票で当選者が決まらない場合は、上位2人の間で決選投票を実施する。決選投票は、最も多い票を得た候補者が当選する。今回の投票日は5月7日。1965年以降、第1回投票で大統領が決定した例はない。
このコラムについて
かすむEUの未来
EU(欧州連合)離脱をめぐる英国との交渉、主要国で台頭する反EUの政治勢力、終わらない難民問題…。課題山積のEUは今、発足以来の正念場を迎えている。欧州各国で起きる政治・経済の動向を中心に、ロンドン駐在記者が現場で見て聞いたリアルな欧州の姿をリポートする。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/030900123/041800007/
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。