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2017年4月19日 田中 均 :日本総合研究所国際戦略研究所理事長
仏大統領選はポピュリズムによる「新たなフランス革命」か
フランスの大統領選挙は4月23日に第1回投票が行われ、第1回投票で過半数を得る候補者がいれば決定、さもなければ5月7日に上位二名による決選投票となる。過去に第1回の投票で決まった例はなく、常に2回の投票が行われてきたが、ここに来て、選投票でル・ペンが最終的に勝利するシナリオも喧伝されだしている。ル・ペンはユーロからの離脱やEU離脱を問う国民投票の実施、厳しい移民政策を公約に掲げており、ル・ペンが勝利することになれば、EUを軸とする欧州秩序を大きく変えるだけでなく、戦後世界の大きな分水嶺になる。
決選投票でル・ペン氏勝利も?
急進左派の急追で情勢緊迫
今回の選挙では極右国民戦線のル・ペン党首、中道左派のマクロン前経済相、右派共和党のフィヨン元首相、左派社会党のアモン前教育相、急進左派のメランション欧州議会議員の5名が有力な候補者である。最近の世論調査ではル・ペン、マクロンが肩を並べ、フィヨン、メラションが追い上げているとされる。
14日フランスの有力紙ル・モンドが報じたところによると、ル・ペン、マクロンが22%で首位に並び、メランションが20%、フィヨンが19%と僅差である。これまでの予想ではル・ペン、マクロンが決選投票に残るが、決選投票では極右を嫌う穏健勢力がこぞって中道左派マクロンに投票するであろうし、マクロンが大差で勝利するのではないかと見られてきた。
しかし、ここに来て急迫している極左メランションがル・ペンと共に決選投票に残れば、ル・ペンが最終的に勝利する可能性があるというわけだ。
こうした可能性を秘めたフランス大統領選挙の背景と影響について世界の趨勢の中で考えてみる必要があるだろう。脈々と流れていた反グローバリゼーションの勢いがポピュリストたちによって加速され、具体的形をとった最初の出来事は英国のEU離脱(Brexit)を決めた2016年6月の国民投票であった。これは11月の米国大統領選挙に引き継がれトランプ大統領の誕生となった。
反グローバル化とポピュリズム
米英では、政策実現難しく
Brexitとトランプ大統領誕生にはいくつかの点が共通している。それは第1にはグローバリゼーションがもたらした所得格差や移民・難民の流入に対する大きな不満を持ち、現状の変革を求める人々の意識がポピュリスト的手法で政治に吸い上げられたことである。第2次世界大戦の終了後の世界を導いてきたのは自由民主主義に基づくリベラルな国際秩序を求める考えであり、米英の政治はこのような流れを主導してきた。
ここに来て、そのようなリベラルな秩序をつくってきた既成の政党に対する不信、既成の政治指導者に対する不信、エリートに対する反感が投票に繋がった。英国の場合にはこのような意識はEUを差配するブリュッセルの官僚たちから英国の主権を取り戻そうという叫びに繋がり、「大英帝国の栄華を再び」といった強いナショナリズムが吐露されている。一方トランプ大統領も「米国を再び偉大な国に」というフレーズを用いて米国のナショナリズムを鼓舞している。
しかしこのような反グローバリゼ―ション・ポピュリズムの勢いも時が経てば困難に逢着する。Brexitを実現していくのは英国もEU諸国も既成の政党・政治指導者・官僚であり、EUから離脱する事を英国の現実的利益に沿った形で実現していく事は途方もなく困難なことである。英国は3月末にEU離脱決定を正式にEUに通知したが、今後2年で離脱協定や離脱後の経済関係を律する協定を合意することは著しく困難であり、相当な不透明性が漂う事となる。
米国でもトランプ政権の閣僚の多くは、グローバリゼーションから大きな利益を得た実業家や既成秩序を守る役割を果たしてきた軍人であるのは皮肉なことである。トランプ政権の政権運営に対しては伝統的政党、議会や裁判所といった既成勢力の抵抗は大きい。イスラム諸国からの入国を禁じる大統領令は連邦裁判所で効力が差し止められ、オバマケア廃止法案も撤回を余儀なくされている。また、ロシア問題を巡るFBIや議会の調査も容易ならざる事態に繋がる可能性を秘めている。
経済低迷で不安強まるフランス
2大政党への批判、極右、極左に支持
実はフランスにおいては英国や米国以上に反グローバリゼ―ションやポピュリズムが力を持ちうる余地は大きい。経済は長期低落しており、フランスの失業率は10%(米国や英国では5%内外で推移しているのに対し)、25歳以下の若年失業率は25%に達している。フランス人ほど将来に対して悲観的に見ている国民はいないと言われる。欧州の中でイスラム人口が最大であるのはフランスである。過去1年半の間に大規模なテロ事件が3回も発生し、大統領選挙は非常事態宣言下の選挙となる。
極右のル・ペンや独立系中道のマクロン、極左のメランションの躍進と対照的であるのは、これまでフランスの政治を担ってきた共和党、社会党という2大既成政党の不振である。このような2大政党に対する体制批判票は、時の経過と共に態度未定の3−4割の有権者にも浸透していく可能性は大きいと見るべきであろう。
ただ仮にル・ペンやマクロンが大統領選挙で勝利してもル・ペンの国民戦線は議会で現有議席はわずか2議席、マクロンの「前進!」という政党に至っては現有議席ゼロであり、6月の国民議会選挙で定数577議席の過半数を占めることなど到底考えられず、行政については既成2大政党の力は引き続き大きい。ル・ペンの場合には反EU、反移民の姿勢が明確であり議会との対立は避けられない一方、マクロンの場合には欧州統合推進を掲げた中道勢力であり、議会との協調は比較的容易であろう。
ル・ペンが勝利した場合には欧州の秩序は大きく変わるのだろう。ル・ペンは、ユーロの使用を禁止する、EUからの離脱に関する国民投票を就任半年内に実施、移民流入数を80%削減する、域外との自由貿易協定を廃止し、NATOから離脱するといった相当排他的な公約を掲げている。もちろん国民議会の構成次第でル・ペンの公約は実現困難となることも予想されるので、不透明な状況が招来されよう。ただ、欧州では既に英国、オランダ、オーストリア、ハンガリー、ポーランドなどで極右ナショナリスト勢力が大きく台頭してきている。これらの勢力は勢いを得てEUは分裂と崩壊の危機に瀕することとなる。
一方、マクロンは欧州統合の推進、保護を必要とする難民を歓迎、域外との自由貿易協定を支持するなどの公約を掲げており、勝利した場合には反EU、反移民の流れは当面止まり、(9月の総選挙の結果如何にもよるが)ドイツと共にEUの再建に向けて動き出す可能性が強い。おそらくBrexitについても欧州の混乱を回避していくという方向性が出てくるのではないのだろうか。現時点で最有力なル・ペン、マクロンの主張は対称的であり、どちらが勝利するかによって欧州の流れは違う方向に大きく変わりそうである。
曲がり角のEU統合にも影響
ロシア、トルコとの関係が情勢を複雑に
本年3月に行われたオランダの選挙では、極右自由党が第1党になることが予想されていたが、結果的には与党自由民主党が第1党の地位を保ち、反グローバリゼ―ションとポピュリズムの勢いが少し止まったという評価もされている。しかしEUを支えるフランスの大統領選挙のインパクトは圧倒的に大きい。例えばEU予算においては総額の17%とドイツの22%に次いで2位、欧州議会の議席配分においてもドイツの96名に次いで74名であり、元々欧州統合は独仏の和解のプロセスとして始まったものであるが、今日、EUの屋台骨を支えるのはこの2ヵ国なのである。
このようなEUが大きな曲がり角にあるときにさらに状況を複雑にしているのはEUの外縁にある大国ロシア及び新興国として力をつけてきているトルコとの関係である。
EUはロシアのクリミア併合・ウクライナ問題との関係で経済制裁を科しており、ロシアは対抗措置としてEUからの農産物輸入に制限を科している。農業大国フランスはこのロシアの対抗措置で大きな経済的影響を受けており、ル・ペンは対ロ制裁解除をはじめロシアとの関係改善を主張している。ロシアは米国の大統領選挙で行ったようにフランスの大統領選挙においてもロシアにとって不都合なマクロン候補の不利になるような情報戦を展開していると伝えられる。このようなロシアの動きは大統領選後の仏の対露政策に大きな影響を与えざるを得ない。
トルコでは大統領権限を大幅に強化する憲法改正が国民投票で成立したとされており、エルドアン大統領に権力集中する結果、エルドアン大統領の強権的統治が危惧される事態となっている。トルコはNATOの一員であるとともにEU加盟の候補国であり、またシリア難民問題の対策を講じていく上でもEUはトルコの協力を必要とする。トルコが民主化から遠のいていく事はEUにとって好ましいことではない。ロシアやトルコとの関係を考えていく上で独仏というEUの2大大国の強い結束を必要とするが、大統領選挙はそのような結束に大きな影響を与える。
歴史の分水嶺となる選挙
国家の復権か、グローバル化か
思えば近代の世界は1760年代の英国の産業革命に始まった。そして米国が独立(1776年)し、フランス革命(1789年)は前近代的な旧体制を打破する市民革命であったと言われる。果たして今日Brexitに始まりトランプ大統領の誕生を経てフランス大統領選挙に至るプロセスは二百数十年前のように世界の歴史を大きく変えるうねりとなるのだろうか。再び国家意識の強い閉鎖的な国際社会へと歴史を逆行していくのだろうか。それともグローバリゼーションの大きな流れを維持しつつ、開かれた社会を目指す方向に踏みとどまることができるのだろうか。フランスの大統領選挙は大きな分水嶺となるような気がする。
(日本総合研究所国際戦略研究所理事長 田中 均)
http://diamond.jp/articles/-/125311
欧州で活発な高利回り債起債、政治リスクにひるまず−ドイツ銀が予想
Marianna Aragao
2017年4月19日 10:16 JST
• 欧州の高利回り債発行は年初来で410億ユーロ
• ドイツ銀はその約8%に関与
欧州では予測が難しいフランス大統領選挙や英国の欧州連合(EU)離脱といった問題が、記録的な低金利となっているこの機を捉えたい高利回り債発行体をひるませることはなく、今年の高利回り債起債は昨年より増えるだろう。ドイツ銀行はこう予想する。ブルームバーグのデータによれば、同行は最も多くの高利回り債を手掛けている。
ドイツ銀の欧州高利回り資本市場責任者ディアムイド・トーミー氏は電話インタビューで、米連邦公開市場委員会(FOMC)が利上げ基調にある中で、米企業が借り入れコストが低い欧州で起債していると指摘。「イースター(復活祭)と仏大統領選の間、発行ボリュームは1−3月(第1四半期)より少なくなると見込んでいる。だが年末までには2016年を上回るだろう」と述べた。
欧州の高利回り債発行は今年410億ユーロ(約4兆7700億円)に達しており、ドイツ銀はその約8%に関与している。
ただ、バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチの欧州・中東・アフリカ(EMEA)担当レバレッジドファイナンス共同責任者クリス・マンロ氏(ロンドン在勤)は、「マクロ経済もしくは地政学的な出来事が投資家にスピードを落とさせる時期があるかもしれない」としている。
https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/isnk7Yuu1KZ4/v1/-1x-1.png
原題:Deutsche Bank Sees 2017 High-Yield Market Defying Political Risk(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-04-19/OOMSNC6K50XU01
トランプ氏の能力を米市場は過大評価、中国や欧州に投資を−ハント氏
Katherine Chiglinsky、Dan Reichl
2017年4月19日 09:57 JST
世界経済には楽観的、中国やインドのほかEUさえ良好と指摘
トランプ米大統領の公約実現は「極めて困難」だろう
米生命保険会社プルデンシャル・ファイナンシャル傘下の資産運用会社であるPGIMの最高経営責任者(CEO)デービッド・ハント氏は、米国以外の国・地域に投資機会を探すよう勧めている。同氏はトランプ米大統領が自身の掲げる成長目標を達成する能力を米市場が過大評価している可能性があると指摘する。
ハントCEOは18日のブルームバーグテレビジョンのインタビューで、「中国やインドの現状を見ると、また実際のところ欧州連合(EU)でさえ、われわれが考えていたより若干良い。世界経済に楽観的になる理由が現在ある」と述べた。
トランプ氏は選挙戦でインフラ投資拡大や規制緩和、減税を実施し、経済成長率を3%以上に回復させるとの公約を掲げた。これが当選後の数カ月間、株式相場を大きく押し上げたが、相場の勢いはここ数週間で失速。幾つかの政策で承認を得るのに苦戦していることが背景にある。
ハントCEOは「トランプ政権が公言していたような成長率に米経済のパフォーマンスを引き上げるのは極めて困難だろう」と語った。PGIMの運用資産は1兆ドル(約109兆円)。
原題:Hunt Says Bet on China, Europe Rather Than Trump Meeting Targets(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-04-19/OOMQZV6S972801
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