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プーチン、沿ドニエストルに"死刑"を宣告
ウクライナの電力輸出攻勢に沿ドニエストル経済は大ピンチ
2017.4.11(火) 藤森 信吉
沿ドニエストル側に位置するモルドバ地区電力発電所 (同社HP)
あまり知られていないが、ウクライナは電力輸出国である。ウクライナ危機により一時的に輸出余剰を喪失したものの、今年に入り、ウクライナのDTEK社がモルドバへの電力輸出契約(契約期間: 2017年4月1日から翌3月31日まで)を取りつけ、その復活を印象づけた。
この契約通りに電力供給が行われれば、これまで主たる供給者であつた沿ドニエストルは輸出市場を失い、経済危機が深刻化することになる。
一見すると、この契約劇にはモルドバの政治的意図が反映されているようにみえる。何しろ、沿ドニエストルはモルドバからの分離独立を目指す「非承認国家」であるからだ。
しかし、実際は、沿ドニエストルのパトロンであるロシアの意向が強く反映されている。
電力輸出国ウクライナ
伝統的にウクライナは旧ソ連諸国に電力を輸出してきた。しかし、ドンバス紛争で石炭供給が不安定になると深刻な電力不足に陥り、2014年夏には各地で停電が発生した。
この機に乗じてロシアがウクライナのシェアを奪った。ロシア国営INTER RAO社は、対ベラルーシ輸出を増やし、また、同社が沿ドニエストルに保有するモルドバ地区発電所(MGRES)もモルドバにおけるウクライナのシェアを奪った。
発電所をあしらった沿ドニエストル政府の紋章
モルドバは、電力自給率が2割程度と低く、恒常的な電力輸入国である。
しかし、ウクライナは、すぐに輸出余剰を回復させる。2016年度こそウクライナはモルドバへの輸出契約を取りつけられなかったものの、今年3月末〆の国際入札で最安値を提示して落札に成功した。
一方、沿ドニエストルのMGRESは落札できなかった。表向き、MGRESより安い価格を提示したウクライナのDTEK社が勝ち、国際入札によって透明性・競争性が確保された、という評価になろう。
しかし奇妙なことが多すぎる。MGRESは負けるわけにはいかなかったし、負けるはずもなかったからだ。MGRESが自ら負けを選んだとしか思えない。
「発電国家」沿ドニエストルと無料の天然ガス
MGRESはソ連時代、旧ソ連南部や東欧諸国の電力需要を満たすために建設された巨大な火力発電所である。ソ連崩壊後、同発電所は沿ドニエストル政府によって国有化され、2005年にロシア国営INTER RAO社に売却されている。
沿ドニエストル経済における発電の重要性は極めて高い。電力は、貿易輸出額、工業生産額の3〜4割を占めている。
また法人税納税額でMGRESは第2位である。
2015年にGDP(国内総生産)成長率マイナス21%を記録した沿ドニエストル経済にとり、今般の電力輸出市場の喪失は、死刑宣告に近いインパクトがあろう。
このように沿ドニエストルにとり、モルドバ電力市場の確保は死活問題になるわけだが、ウクライナ側より安い価格を提示して落札することは十分可能である。その秘密が、ロシア・ガスプロム社が沿ドニエストルに供給する「無料の」天然ガスである。
「非承認国家」という立場を利用して、沿ドニエストルはロシアから輸入する天然ガスの対価を支払わずに消費し続け、ロシアも「沿ドニエストルはモルドバの一部であるから、その消費分はモルドバに課す」としてこれを黙認してきた。
沿ドニエストルは毎年約20億m3の天然ガスを受け取っているから、5億ドル(1000m3=250ドルで計算)が毎年、債務として累積していく計算になる。事実上の援助金である。
この「無料の天然ガス」のおかげで、沿ドニエストルは、国内消費者に極めて安価なガスを供給することができる。ウクライナの4分の1以下という安いガスを使って発電するわけだから、価格競争力で負けるはずがない。
グラフ1 モルドバおよび沿ドニエストルのガス輸入量(単位:億m3)(出所)モルドバガス社HP、ガスプロム社HP
グラフ1は沿ドニエストルとモルトバの天然ガス輸入量である。沿ドニエストルの経済規模はモルドバの8分の1であるが、天然ガス輸入量は2倍である。火力発電所がその7割を消費しているからだ。
この構造では、発電すればするほど、MGRESと沿ドニエストル政府は潤い、モルドバも安い電力を購入できる。その一方で、ガスプロム社の債権は膨れ上がっていく。
2016年末時点で、ガスプロムの対「モルドバ」ガス債権は65億ドル、うち60億ドルが沿ドニエストル消費分である。この額は、モルドバGDPの1年分、沿ドニエストルGDPの8年分に相当し、もはや回収不能な水準に達している。
逆に言えば、この構造では、輸出を止めて発電量を落とせれば、ガス債務の累積も穏やかになり、ガスプロムの負担も軽くなる。
報道によると、事前の相対交渉でMGRESは引き下げに応じず、入札に際しても、2016年度供給価格より高値を提示、これはウクライナ側より1割高かったという。自ら負けを望んだとしか思えないような行動だ。
モルドバ再統合への道
ここで注目されるのが、政治的な動きである。MGRES(INTER RAO社)もガスプロムもロシア国営企業であるから、入札に際して、クレムリンの意向が反映されないはずがない。
沿ドニエストル議会・政府合同庁舎とレーニン像(2012年筆者撮影)
また、3月末の応札締切日を前に、ロシア、モルドバ、沿ドニエストル各首脳が早くも今年2度目の会合を行っていることも異例である。
2016年
12月16日 クラスノセリスキー沿ドニエストル新大統領就任
12月20日 沿ドニエストル大統領、モスクワ訪問、ラゴージン副首相と会談
12月23日 ドドン・モルドバ新大統領就任
2017年
1月5日 モルドバ・沿ドニエストル両大統領、沿ドニエストルで会談
1月17日 モルドバ大統領、モスクワ訪問、プーチン大統領と会談
3月17日 モルドバ大統領、モスクワ訪問、プーチン大統領と会談
3月21日 沿ドニエストル大統領、モスクワ訪問、ラゴージン副首相と会談
3月30日 モルドバ・沿ドニエストル両大統領、モルドバで会談
実際、3月30日のモルドバ・沿ドニエストル両大統領会談では、この入札が議題に上った。
一方、3月17日のモルドバ大統領との会談については、ロシア大統領府のプレスリリースには「沿ドニエストル問題について対話を活発化させた」としか書かれていない。
しかし、モスクワで沿ドニエストル経済の命綱である電力問題が話し合われないはずはない。そもそも沿ドニエストル電力のモルドバ輸出体制を作り上げた当事者はウラジーミル・プーチン(当時、首相)とイーゴル・ドドン(当時、モルドバ第1副首相)であるから、その仕組みを熟知している。
ウクライナDTEK社の供給能力が不足しているとの指摘があり、モルドバが必要とする全量をカバーできないのではないかという懸念があるのも事実だ。
いずれせよ、沿ドニエストルの電力輸出は削られ、その結果として天然ガス消費量は大きく減ることになる。
この入札劇は何を意味するのだろうか。既報のとおり、クレムリンは、モルドバにおける親ロ派大統領当選を奇貨として、沿ドニエストル問題の解決、すなわちモルドバ連邦下での再統合を推し進めている。
再統合の動機の1つに、ロシアが負っている非承認国家維持コストの削減がある。モルドバが再統合されれば、沿ドニエストル経済の面倒はモルドバにかかることになるからだ。
ウクライナ危機以降、ロシアは沿ドニエストル経済への関与を減らし続けており、2015年にはかつて沿ドニエストル経済の一翼を担っていた冶金工場を手放している。
そしてその2年後に発電事業からも手を引こうとしている。今後起こる、ロシアの天然ガスを通じた沿ドニエストル「援助」の大幅縮小には、沿ドニエストル・モルドバ再統合へ向けたクレムリンの強い意志が込められている。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49684
揺れる南アフリカ、マンデラの遺産を脅かす経済問題
不満の根底にアパルトヘイト当時と変わらない黒人の生活
2017.4.11(火) Financial Times
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2017年4月6日付)
公金使った南ア大統領宅改修は「違法」、護民官が費用支払い要求
南アフリカの首都プレトリアで記者会見するジェイコブ・ズマ(Jacob Zuma)大統領(2013年10月14日撮影、資料写真)。(c)AFP/ALEXANDER JOE〔AFPBB News〕
南アフリカのジェイコブ・ズマ大統領は3月末、非の打ちどころがないプラビン・ゴーダン財務相を含め、閣僚の半分を解任したとき、これで政府が「抜本的な社会・経済改革」の仕事に取り掛かれると述べ、猛烈な内閣改造を正当化した。
ズマ氏の主張は理不尽だ。大統領の政策は――それが「政策」と呼ぶに値するのであれば――、アフリカ大陸の大部分を台無しにしてきた恩顧主義的な政策を復活させ、支持者の私腹を肥やすことだ。
ゴーダン氏の解任は、無謀な行為だった。解任を受け、通貨ランドは13%急落し、南アのドル建て債務は米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)から「ジャンク(投機的)」に格下げされることになった。これにより輸入品が値上がりし、南ア国民の借り入れコストも上昇する。言い換えると、ズマ氏が自分が仕えていると主張する当の国民に害を及ぼすのだ。
だが、ある意味では、ズマ氏は1つ、重要な真実にしがみついている。
同氏が言うように、アパルトヘイト(人種隔離)政策からの解放後、23年経った今になっても、多数派の黒人が置かれた社会的、経済的状況は十分に変わっていない。経済格差を測るジニ係数(税引き前の家計所得ベース)は、白人少数派の覇権的支配下にあったころと事実上同じだ。与党アフリカ民族会議(ANC)に投票する人の大半は、仕事に就いていない。若年失業率は50%を上回っている。
ズマ氏の発言は――不誠実だとはいえ――、同氏よりはるかに信頼できる人物の考えと重なる。ANCの元議長(党首)で、1981年にアパルトヘイト後のジレンマを予見してみせたオリバー・タンボ氏その人だ。アパルトヘイトからの解放は、経済的解放がなければ無意味だと同氏は言った。「既存の経済的勢力が利益をそのまま保持するのを許すことは、人種差別的な優位と搾取の根を育むことであり、解放の影にさえならない」。
タンボ氏の警告には、先見の明があった。ANCは実際、南アの経済的利益をそのまま残した。ネルソン・マンデラがまとめたグランド・バーゲン(包括取引)は、もし黒人に選挙権が認められたら、黒人は計画を邪魔しない、というものだった。問題は、その計画は多数派の黒人が人種差別的な法律に縛られ、意図的に貧しくさせられていたときに立てられたことだった。
南アが1994年に白人独裁体制から多民族の民主主義体制へ移行したとき、新たな指導者たちは2つの経済を引き継いだ。1つは白人の豊かな経済、もう1つは黒人の貧しい経済だ。南アの民主主義がやり残した大きな仕事は、どうにかしてこの差を埋めることだ。
だが、一体どうすれば埋められるのか。日本や韓国、シンガポールなど、一握りの「奇跡」のアジア経済国を別にすると、短期間で貧困から富へ移行した国はほとんど存在しない。南アが豊かで平等な社会に少しでも近づくためには、30年間にわたる年間10%の成長――および再分配――が必要になる。
ANCはほんのわずかでも、そこに近づくことができなかった。好況期でさえ、1人当たりの経済成長率が年間3%を超えることはめったにない。昨年は現に、経済が縮小した。
急進的な再分配を否定したANCは、漸進主義的な政策を追求した。
まず、現在副大統領を務めるシリル・ラマポーザ氏が代表的な受益者にあたるような権限付与計画を通じて、少数の黒人エリート層を生み出した。次に、税収を再分配した。現在、1700万人の南ア国民が社会給付金を受給している。このセーフティーネット(安全網)はよく、ANCの大きな功績として称賛される。
だが、それはANCの大失敗でもある。なぜ1700万人もの人が、生計を立てるのに給付金に頼らねばならないのか?
こうした展開において、財務省は確かに――ズマ氏が言うように――おおむね保守的な役割を果たしてきた。同省の仕事は、財政責任を確保することだった。これは、過度な再分配主義的政策や無謀な支出を確実に抑制することを意味した。
ANCは、どうしようもない手札を引き継いだ。マンデラの取引は、まだ大部分において疎外されている多数派黒人の間で大きな不満を生んだ。それがジュリアス・マレマ氏のような人物にとって肥沃な土壌を生み出した。マレマ氏は、ANCから分派した政党「経済的解放の闘士(EFE)」を率いる扇動家で、急進的な再分配を唱え、白人の特権を攻撃している人物だ。
また、最近もあったように、ズマ氏が「すべての南ア国民、特に貧しい人々に有利になる、構造、制度、機構、所有パターン、経済の管理・統制の根本的な変化」を求める際のレトリックも、黒人の抱く不満で説明がつく。
南アにとっての悲劇は、一体どうすればそのような劇的な変化が実現し得るのか分からないことだ。少なくとも、受け入れられる時間軸では無理に思える。ラマポーザ氏のようなテクノクラート(実務家)もマレマ氏のような急進勢力も、貧しい黒人経済から豊かな黒人経済を魔法のように作り出すことはできない。
もし公平性がゴールなのだとすれば、唯一あり得る方法は、裕福な白人を貧しくすることだ。そして、その道を進んだ先にあるのは、ジンバブエだ。
By David Pilling
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49690
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