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Column | 2017年 04月 2日 19:45 JST 関連トピックス: トップニュース
コラム:
「絶望死」が増加する米国社会の暗い闇
3月29日、1世紀以上ものあいだ、戦争か疫病、あるいは自然災害でもなければこのような状況は発生しなかった。だが、ソ連が崩壊したときにそれは起きた。写真は2014年、ニューヨークの夕暮れ(2017年 ロイター/Lucas Jackson)
Edward Hadas
[ロンドン 29日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 1世紀以上ものあいだ、戦争か疫病、あるいは自然災害でもなければこのような状況は発生しなかった。だが、ソ連が崩壊したときにそれは起きた。そして今、米国も同じ状況を迎えている。
米国の国民、特に白人で低学歴層の平均寿命が以前よりも短くなっているのだ。主な原因はドラッグ、アルコール、そして自殺だ。
プリンストン大学のアン・ケース教授とアンガス・ディートン教授は、これら「絶望による死」の背景にある統計を紹介している。ブルッキングス研究所のためにまとめられた両教授による最新の研究からは、25─29歳の白人米国民の死亡率は、2000年以降、年間約2%のペースで上昇していることが分かる。
他の先進国では、この年代の死亡率は、ほぼ同じペースで、逆に低下している。50─54歳のグループではこの傾向がさらに顕著で、米国における「絶望による死」が年間5%のペースで増加しているのに対して、ドイツとフランスではいずれも減少している。
米国社会の最底辺では特に状況が深刻だ。
学歴が高卒以下の人々の死亡率は、あらゆる年代で、全国平均の少なくとも2倍以上のペースで上昇している。また、低学歴の米国民のあいだでは、「健康状態が良くない」と回答する人が、以前に比べて、またより大きな成功を収めた米国民に比べて、はるかに多くなっている。
何か重大な問題が進行している──。単に経済云々ではなかろう。というのも、米国経済は成長しているし、失業や脱工業化は他の先進国にも共通する問題だが、そこでは「絶望による死」は増加していないからだ。米国の独自志向にこうした憂鬱なバリエーションが表われるには、何か別の理由があるに違いない。
ケース、ディートン両教授は、低学歴層の「累積的な不利」が、米国では他国よりも大きな問題になっているのではないかと指摘している。なるほどと思わせるが、米国の「3つの弱点」が、文字通り致命的に相互作用していると考えるほうが優るのではないか。
第1に、米国の福祉制度は不十分だ。オピオイド系鎮痛剤中毒の拡大は、どのような制度においても重大な問題になるだろうが、米国の各州による対策は、恐らくどの先進国に比べても整合性がなく、資金も不足している。
米国の福祉制度の貧弱さを擁護する人々は、民間・宗教団体による慈善活動の強力さを指摘することが多い。しかしこの薬物中毒の事例においては、そうした取り組みもやはり力不足である。
第2に、医療制度も混乱している。規制当局も医療関係者たちも、オピオイド系鎮痛剤の処方に関する監視を怠ってきた。鎮痛剤「オキシコンチン」を製造している米医療用麻薬最大手のパーデューファーマなどの企業によるロビー活動を責めることは簡単だ。同社は2007年、虚偽表示の容疑を認め、6億ドルの罰金を納めている。
だが、比較的小規模な企業によるロビー活動にさえ当局が抵抗しにくいというのでは、まるで開発途上国における状況のようである。オピオイド中毒は、もっと大きなパターンの一部にすぎない。米国民は、処方薬である鎮静剤や精神安定剤の利用について、異常なほど無頓着だ。
第3に、米国民は異常なほど自己破壊欲が強い。この国民性を理解するために、まず、現代世界の絶望をめぐる、研究者のあいだの長年の議論を振り返ろう。
ケース、ディートン両教授が実践している統計社会学の端緒となったのは、エミール・デュルケムの1897年の著作「自殺論」だ。デュルケムは、家庭や共同体、既成宗教により提供されてきた伝統的な指針が排除されたことに基づく、きわめて現代的な孤独を仮定した。
彼はこれを「アノミー(無規範状態)」と呼んだ。政治分野の識者は「疎外」、文化分野の批評家は「幻滅」という言葉を使うところだ。心理学者は孤立した個人の抑うつを臨床的に研究し、社会学者はいかに経済的な変化によって社会的な立場や自尊心が広範に失われたかに注目する。
専門家たちは恐らく正しいのだろう。共同体や信仰(哲学者がときに「意味」と呼ぶものを提供しやすくする)を衰弱させるような現代的要因はたくさんある。意味が失われれば、人生はすぐに絶望的な快楽の探求へと堕落してしまい、あるいは生きることそのものが拒否されてしまう。
アノミーや疎外、共同体の喪失が、現代のどの場所よりも米国に大きなダメージを与えつつあることは理解できる。厳格な個人主義を常に尊重してきた国においてこそ、孤独は容易に到来するからだ。
また、米国民のなかでも、非熟練労働が社会的に低く評価されるせいで最も疎外感を感じている人々に最も大きなダメージが生じているというのも筋が通っている。家族の分断が進むなかで、またかつてはこれも先進国中で米国の独自路線の好例であった敬虔(けいけん)な信仰が衰退するなかで、このグループの経済的な苦痛は倍加している。
この国で政治的な対応が遅れている理由も、オピオイド中毒と自殺に対する米国の脆弱(ぜいじゃく)性をもたらしている同じ国家的欠点によって説明できる。政府に対する本能的な不信感や、一枚岩の医療アプローチの欠如、国家的な失敗を認めることへの消極性、これらすべてが思い切った政策を妨げている。
とはいえ、かつては米国政府も積極的だった。1960年代の「貧困との戦争」、そしてこれに関連するリンドン・ジョンソン大統領による「偉大な社会」プログラムは、概ねその目標を達成した。
「絶望との闘い」は、もちろんもっと困難かもしれないが、公的部門の資金と専門能力が役に立つかもしれない。この問題への取り組みが成功しなければ、「米国が再び偉大に」なる可能性は大きくないだろう。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)
コラム:トランプ大統領があざ笑った「ワシントン政治」の逆襲 2017年 03月 28日
「国境課税ならドル高」、トランプ氏の矛盾押し付けで経済破滅=浜田参与 2017年 02月 01日
コラム:トランプ政権の排外姿勢が米観光業に打撃 2017年 03月 03日
http://jp.reuters.com/article/usa-death-failure-column-idJPKBN17218X?sp=true
ベネズエラで危機深まる、検事総長が大統領に反旗−国債が急落
Andrew Rosati、Fabiola Zerpa
2017年4月1日 07:05 JST
検事総長が最高裁の判断を公に批判
29日の最高裁の判断以降、不安感が強まる
31日のベネズエラでは危機が深まった。長年にわたり与党、社会党寄りだった検事総長が、野党多数の議会の立法権を最高裁が剥奪したことを違憲と発言。小規模なデモが散発的に起こり、これを懸念して国債市場では投げ売りが出た。野党はこの混乱に乗じて、軍隊に憲法上の秩序を「回復」するよう求めている。
ディアス検事総長が最高裁の動きを憲法上の秩序を「破壊する」とした発言はさしあたって法律上影響はないものの、長年にわたり裁判所を使って議会の力を封じ込めてきたニコラス・マドゥロ大統領にとっては痛手となる恐れがある。
故チャベス大統領に10年前に任命されたディアス検事総長は、首都カラカスでの記者会見で「こうした事態に懸念を表明するのは私の責務だ」と表明して拍手喝采を浴びた。憲法の小冊を握りしめた検事総長は、ベネズエラは政治的相違を乗り越えるべきだと述べ、「そうすれば憲法を尊重し、相互尊重をはぐくみ、非独裁が維持されて、民主的な道が開けることになる」と力説した。
原題:Venezuela Crisis Deepens, Bonds Sink as Maduro Ally Pushes Back(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-31/ONP6496K50XT01
Column | 2017年 04月 2日 19:43 JST 関連トピックス: トップニュース
コラム:米国家安全保障会議、最大の課題はトランプ氏自身か
Kent Harrington
[30日 ロイター] - 政府の委員会が歴史を左右することはめったにないが、国家安全保障会議(NSC)は例外だ。大統領にとっての取締役会に相当し、独自のスタッフを抱えるNSCは、国家安全保障政策の策定や監督に携わっている。
北朝鮮に対する最善対応の決定からロシア台頭への対処に至るまで、NSCがいま取り組んでいる広範囲のテーマを見れば、この機関の重要性と、その課題の重さが分かる。
トランプ政権下でNSCの指揮を執るのは、新たに国家安全保障担当大統領補佐官に任命されたH・R・マクマスター中将だ。軍出身の研究者として敬意を集めるマクマスター氏には、曲芸的な手腕が求められる。
10を越える省庁からNSCに上がってくる政策提案を導き、議論が袋小路に陥らないように配慮し、大統領執務室ではNSCの決定を推進する。どれについても、大統領が外交、経済、国防の点で何を政策目標としているか目配りが必要だ。
これまでの報道からは、マクマスター氏はNSC内に独自色を持ち込もうとしているように見える。彼は2つの次席補佐官職を廃止したが、NSC内の上位グループである定員9人の「主要閣僚」委員会に、国家情報長官と統合参謀本部議長を復帰させたいと考えていると伝えられる。トランプ氏は大統領令によりこの2つの役職をNSCの会合から外し、代わりにスティーブ・バノン大統領上級顧問を加えている。
だが、こうした変更を加えても、マクマスター氏にとっての最大の問題は解決しない。秩序とはおよそ縁遠い大統領のもとで、秩序あるNSCを運営するという課題だ。歴代の国家安全保障担当補佐官と同様に、マクマスター氏は大統領との個人的な絆・信頼関係を構築しなければならない。だが、彼がトランプ氏に影響を与えられるかどうかは、なお未知数だ。
冷戦時代の起源から現在NSCが直面している政策策定上の課題に至るまで、NSCの歴史を顧みれば、マクマスター氏がホワイトハウスにおける自らの立場を築く際に考慮すべき教訓がいくつか得られる。
NSCは必然的に、大統領とその政治スタイルを反映する。
過去の歴史から考える限り、トランプ政権下のNSCは、トランプ大統領の色に染まることになるだろう。
アイゼンハワー大統領はNSCに大きな責任を与えたが、これは同大統領が第2次世界大戦中に連合国軍最高司令官を務め、権限を委譲し、対立する同盟国をまとめて重要な意志決定を下していた経験を反映している。アイゼンハワー大統領は「主要閣僚」委員会を小人数に留めたが、NSCの規模は拡大した。
ケネディ大統領政権下のNSCは、アイゼンハワー政権下とは違った。ケネディ大統領は自らの現場優先のスタイルに合ったスリムな参謀組織を好み、NSCを縮小した。ジョンソン大統領のもとではまた風向きが変わり、外交や政策の細部に関心の薄かったジョンソン大統領は、ほぼNSCを無視するようになった。
重要なのは人間関係だ。
マクマスター氏は、諸々の問題と官僚機構を動かすコツに長けた人材をNSCに揃える必要があるが、さらに重要なのは、ティラーソン国務長官やマティス国防長官といった「主要閣僚」との関係である。こうした関係がギクシャクした場合に何が起きるか、歴代のいくつかの政権に前例が見られる。
カーター大統領のもとで、ズビグネフ・ブレジンスキー補佐官(国家安全保障担当)はソ連に対して強硬な政策を主張していた。対ソ関係をめぐるバンス国務長官との意見不一致は公然たる対立へと発展し、国内外での政権のイメージを損なった。
またライス首席補佐官は、ジョージ・W・ブッシュ大統領とうまくいっていたにもかかわらず、別方面との戦いを余儀なくされた。
チェイニー副大統領とラムズフェルド国防長官が彼女に抵抗し、その立場を揺るがせたのである。チェイニー副大統領は対テロ強硬派であり、9.11同時多発攻撃以降、テロ容疑者の扱いその他の問題をめぐってライス補佐官と衝突した。ライス氏は回想録のなかで、ラムズフェルド氏とほぼひっきりなしに対立していたと回顧している。ラムズフェルド氏は退任後も態度を和らげず、ライス氏を「学者」と批判している。
しかし、国家安全保障担当補佐官は、「主要閣僚」に対して脇役に甘んじるわけにはいかない。
マクマスター氏は国家安全保障全般について大統領の右腕となるはずだ。だが、トランプ大統領が得意とする人騒がせなマネジメント手法、身内で固めた側近、彼自身の往々にして気まぐれな行動を考えれば、マクマスター氏の立場はあまり確実とは言えない。彼の前任者たちも同じような立場にあった。
議会政治の信奉者だったレーガン大統領は、NSCの位置付けを低下させ、主要閣僚に政策の策定や管理を委ねた。彼は政権2期で6人と、次々に国家安全保障担当補佐官を交代させた。実質的にどの補佐官も、シュルツ国務長官やワインバーガー国防長官といった強力な人物の脇役に甘んじた。だが、こうした有力者の意見の相違をまとめる剛腕の補佐官がいなかったため、特に中東情勢や軍縮をめぐる彼らの政策論争によって、政権は身動きが取れなくなってしまった。
レーガン大統領は、イラン・コントラ事件のスキャンダルによって国家安全保障政策の策定が混乱していることが明らかになり、事態を直視せざるをえなくなった。スキャンダルの後、NSCを検証するために任命された「タワー委員会」は、大統領と国家安全保障担当補佐官との関係を批判し、NSCと、これに参加する主要閣僚に対する大統領の指揮権を強めるよう求めた。
これほどの大問題はないにせよ、マクマスター氏は大きな障害に直面している。何よりも、大きいのが、トランプ氏の側近との競争である。トランプ氏の娘婿であるジャレド・クシュナー氏やバノン氏の信奉者数名によって新たに設立されたチームである「戦略イニシアチブグループ」は、NSCの領分を侵食しつつある。
さらにクシュナー氏は20数カ国もの首脳と大統領執務室の連絡役となっており、外国からトランプ大統領に接触する窓口としてのマクマスター氏の立場が危うくなっている。
マクマスター氏にとって政策策定における重要な支援者となるべき主要閣僚のもとには、次官・次官補といった必要な人材が揃っていない。こうした多数のポストが空席のままでは、特に国務長官、国防長官、国土安全保障長官がNSCにおける協議に参加しようとしても、待ち受けるさまざまな問題や決定事項を処理する体制が整わない。
もちろん、マクマスター氏が実力のあるNSCを構築できる可能性は残っている。イラン・コントラ事件の後で国家安全保障担当補佐官に就任したフランク・カールッチ氏とパウエル氏は、レーガン政権下のNSCを改革し、会議の意志決定を効率化した。それにマクマスター氏のもとには、推定400名の職員を含め、任務を果たすための豊富なリソースがある。
だが、現在のホワイトハウスによる国家安全保障政策の特徴とも言える混沌のなかから、マクマスター氏が秩序を構築するためには、大統領の支援が必要だ。つまり、マクマスター氏にとって最大の課題は、トランプ大統領その人なのである。
*筆者は元CIA上級アナリスト。東アジア担当国家情報責任者や、アジア拠点主任、CIA広報部長を歴任。
本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)
訂正:コラム:米政権、ゴールドマン出身の両雄に目立つ不協和音 2017年 03月 22日
コラム:韓国政治混迷で日本に降りかかる「火の粉」=西濱徹氏 2017年 03月 21日
コラム:トランプ大統領があざ笑った「ワシントン政治」の逆襲 2017年 03月 28日
http://jp.reuters.com/article/us-security-nsc-trump-idJPKBN17406W
World | 2017年 04月 1日 17:35 JST 関連トピックス: トップニュース
焦点:中国が豪州に急接近、トランプ外交の「空白」狙う
3月29日、5日間に及ぶ中国の李首相(中央)のオーストラリア訪問中、両国は、「米国第一」を掲げるトランプ大統領の保護主義に対抗するとの明確な課題を共有することにより、これまで前例のない合意点を見いだした。写真左はターンブル豪首相。シドニーで25日撮影(2017年 ロイター/David Gray)
[シドニー 29日 ロイター] - 熱狂的なスポーツファンの多いオーストラリアで、ほとんどこれは大失態と言える行為だった。同国を訪れていた中国の李克強首相が、シドニーで行われていたラグビーの試合会場に、相手チームのカラーである青と黒と白のマフラーを身に着けて登場したのだ。
だが李首相はすぐに、ターンブル豪首相に合わせてホームチーム「シドニー・スワンズ」の赤と白のチームマフラーも身に着けた。
李首相はその後、さわやかな秋の夕べに両チームのマフラーを着用するのは「実に暑かった」と告白。しかし両国の指導者が満面の笑みで肩を並べている姿は、就任したばかりのトランプ米大統領とターンブル首相との険悪な電話会談とは明らかに対照的である。
5日間に及ぶ李首相のオーストラリア訪問中、両国は、「米国第一」を掲げるトランプ大統領の保護主義に対抗するとの明確な課題を共有することにより、これまで前例のない合意点を見いだした。
「中国とオーストラリアの協力は、自由貿易を守り、その恩恵を支持するというわれわれの決意を地域と世界に示すものだ」と、ターンブル首相はシドニーで開催されたフォーラムで財界のリーダーや政治家らに向かってこう述べた。李首相も同様の発言を行った。
とはいえ、貿易関係強化は、超大国の間に挟まれたオーストラリアのデリケートな綱渡りの一側面にすぎない。米国との揺るぎない安保関係や西側の民主的価値観は、これまで同国と中国の関係深化を限られたものにしていた。
オーストラリアが将来、経済的に中国に依存せざるを得ないことをよく分かっている李首相は今回の訪問中、オーストラリアに対し「冷戦時のように、どちらかの側につく」ことをけん制した。
これに対し、ターンブル首相は「オーストラリアが中国か米国を選ばなくてはいけないという考え方は正しくない」とすぐさま応じた。しかし、一部の専門家は異を唱えている。
「オーストラリアが直面する問題は、影響力を強めたい中国によって高まる緊張であり、今後オーストラリアは2つの同盟国のどちらかを選ばなくてはならなくなるかもしれない」と、メルボルンにあるラ・トローブ大学のニック・ビスリー教授(国際関係学)は語った。
<中国にシフト>
比較的平和ななか経済成長を遂げてきたオーストラリア国民は、次第に中国に対する認識を変えつつあるようだ。ある世論調査では、中国と米国のどちらがオーストラリアにとって重要かという質問に対し、2年前は米国と答えた人が多かったものの、現在は数字が拮抗しており、変化の兆しが見えている。
トランプ大統領は、米国のアジア重視政策に寄与する環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を表明。TPPには中国は含まれておらず、李首相はその間隙を突いて、おいしい手土産をもってオーストラリアにやって来た。その手土産とは、冷蔵牛肉輸出の規制撤廃というものだ。
中国は昨年、オーストラリアから1500億豪ドル(約12兆8500億円)規模のモノとサービスを輸入しており、大差でオーストラリアの最大貿易相手国の座を獲得。しかし、貿易と安全保障を両立させるのはオーストラリアにとって至難の業である。
同国の軍事的優先事項と経済的優先事項は、発展途上だが戦略的に重要な北部地域でぶつかり合っている。ダーウィンのオーストラリア軍基地には、まもなく新たな米軍駐留部隊が到着する予定だ。同基地は領有権が争われている南シナ海を監視する拠点となっている。
オーストラリアは今のところ、同海域における米主導の「航行の自由」作戦への参加要請を断っているが、米国、英国、カナダ、ニュージーランドと結ぶ諜報に関する協定「ファイブ・アイズ」の一員として、米国との安保同盟を着実に強化している。
その一方で、オーストラリア北部は、中国が掲げるシルクロード経済圏構想「一帯一路」などに組み入れられることによって、インフラや産業への大規模投資を政府が模索している地域でもある。
中国はオーストラリアに対し、同構想に署名するよう求めているが、両国は李首相訪問中に合意には至らなかった。しかし専門家たちによれば、合意はそれほど遠い話ではないという。
<投資と送還>
豪中関係の強化には他にも障害がある。
李首相がオーストラリアを去ってからわずか2日後、10年前に署名された中国との「犯罪人引渡条約」を批准する議会承認案が撤回された。
「首脳級の他国訪問は成果によって評価されるため、中国は李首相のオーストラリア訪問のころに犯罪人引渡条約が批准されることに関心を寄せていただろう」と、豪シンクタンク「ローウィ国際政策研究所」のユアン・グラハム氏は指摘。
「訪問は経済面では非常に成功したように見えるが、条約が批准できなかったことは、いや応なく喪失感を招くだろう」と同氏は言う。
また、ある大規模な豪中ビジネスフォーラムの出席者たちによると、会議の際に交わされた会話のほとんどは、中国の投資に対するオーストラリアの矛盾したアプローチについてだったという。
オーストラリア政府は海外資金の必要性を説く一方で、民営化事業に対する中国主導の入札をリスクと表現している。電力公社オースグリッドや牧場運営大手S・キッドマンの中国企業への売却をオーストラリア政府が阻止したことは、中国政府に遺恨を残している。
「中国の投資家が、そもそもなぜオーストラリアに投資するのかと自問する日が来るだろう」と語るのは、北京大学の査道炯教授(国際関係学)だ。「オーストラリアは、経済的あるいはテクニカルな要因ではなく、政治に基づいて判断を下している」
(Jane Wardell記者、Jonathan Barrett記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)
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トランプ氏「米製造業の偉大な復活へ」、大統領令署名
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