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米国の対イラン政策の本当の課題
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9023
2017年3月9日 岡崎研究所 WEDGE Infinity
イランが1月29日に行った中距離弾道ミサイルの発射実験にトランプ政権は制裁を発動しました。これに関して、ワシントン・ポスト紙の2月3日付社説は、トランプ政権にとって重要なことは周辺地域の安定を阻害するイランの行動を抑止するための戦略を持つことだ、と述べています。要旨、次の通り。
トランプ政権の根性に探りを入れた最初の国の一つはイランである。核弾頭を含む1000ポンドの弾頭を搭載可能な中距離弾道ミサイルを発射したのである。2015年7月の核合意以降、イランは何度もその種のテストを行ってきた。その遺産が壊れることを避けたいばっかりに、オバマ政権は概ね象徴的な制裁を課す一方で、これらのミサイル発射を軽視してきた。
今回のミサイル発射に対するトランプ政権の言葉の上での反応はもっと激しいものであった。フリン大統領補佐官は「イランには警告済みである」と劇的に述べた。しかし、2月3日に最初の行動が明らかになった時、それはオバマ政権の対応に似たもの、即ち、ミサイルの資材調達に関わった個人と団体に狙いを絞った制裁であった。核合意を破棄し、イランの艦艇をペルシャ湾から叩き出すと選挙戦でいっていた大統領にしては、それは慎重で控え目なステップであり、好ましいことであった。
トランプ政権がミサイルのテストおよび中東におけるイランの侵略を押し返そうとすることは正しい。しかし、戦略的にやるべきである。核合意を無効にすることは、核兵器に用いられるウランの濃縮という、目下封じ込められている脅威の扉を開くことになる。必要なことはその他の差し迫った脅威に対応する措置である。イラクとシリアに展開する数千のシーア派の民兵、イエメンの反乱軍ホーシーに対するイランの支援、ペルシャ湾の米国艦船に対する脅威、サイバー攻撃などがそれである。
ミサイル発射が特に問題と思われるのは、核合意を承認した安保理決議にオバマ政権が認めた抜け穴があり、これをイランが悪用しているからである。即ち、イランは弾道ミサイルの発射をしないよう要請されているに過ぎず、ロシアがイランの側に立っている状況では安保理による強制措置は不可能である。
今回の対応が制裁にとどまったとしても、受けて立つ用意がないエスカレーションを挑発するような措置に走らなかったことは支持し得る。他方で、この対応には雑なところがある。中東全域に展開する米兵や米軍艦艇はイランの報復に脆弱であり得るのに中央軍司令部は前もって警告を受けなかった。同盟国が協議を受けた様子もない。
イランが過去十年に中東で獲得した地歩を巻き返すには何年もかかる。これに成功するには、トランプ政権は優先事項をはっきりさせねばならない。例えば、トランプ政権がこの地域における潜在的な同盟国と見做すロシアはイランの戦略的なパートナーとなっている。シリアでアサド政権を存続させることはイランの支配を固定化することになる。このようなチャレンジに対応する戦略を持たない限り、イランの聖職者を感心させることにはならないであろう。
出典:‘The real test of America’s Iran policy’(Washington Post, February 3, 2017)
https://www.washingtonpost.com/opinions/global-opinions/the-real-test-of-americas-iran-policy/2017/02/03/1c2fad84-ea3c-11e6-80c2-30e57e57e05d_story.html
上記社説は、核合意を破棄することはウランの濃縮という脅威の再来を意味するとして、そういう無茶な措置に踏み込まなかったことに安堵を表明しています。同時に、トランプ政権にとっての本当のチャレンジはイラク、シリア、イエメンなど周辺地域における攪乱的なイランの行動という差し迫った脅威にどう対応するかにあると主張し、具体的な脅威を掲げているわけです。
いずれの脅威への対応も簡単なことではありませんが、社説は、戦略的に優先事項を整理することが重要と指摘しています。トランプがロシアをこの地域における潜在的なパートナーと見なすこととイラン敵視は、どこかで整合性を保ち得なくなるでしょう。
■トランプ好みのアプローチ
トランプは「イスラム国」打倒のためにはアサドとも組むのかも知れませんが、それではシリアにおけるイランの支配力の伸長と固定化を許し、トランプの希望とは逆の結果となります。米国は「イスラム国」駆逐に向けてイラクに協力していますが、イラン敵視はイラクに展開する米軍をイランに支援されるシーア派民兵の標的とする危険があるでしょう。要するに、選挙戦で主張してきたことを繋ぎ合わせただけでは政策とか戦略にはなり得ないということです。1月28日、トランプはメモランダムに署名してイスラム国打倒の計画を策定するよう命じましたが、その計画が政権の戦略の質を明らかにすることになるでしょう。
一方、イランももう少し賢くトランプ政権に対応すべきだと思います。弾道ミサイルの発射実験は安保理決議に整合的でないにしても、違反とまでは言えません。だからといって、トランプ政権をテストしてみる必要はどこにもありません。去る12月、来日したザリフ外相は講演で「核合意は多国間の合意であり、米国だけで壊すことは出来ない」と述べて、合意に利益を見出していることを明確にしましたが、そうであれば、わざわざトランプを刺激することはないのです。イラン航空はボーイング社に航空機80機(166億ドル)を発注したといいますが、この種のトランプ好みのアプローチを大切にすることが、イランにとって得策でしょう。
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