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「壁を建てたのは、英語を話さない人達だった」 アメリカ〜超大国はどこへ行く  クラウド界の絶対王者「AWS」独走の秘密
http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/519.html
投稿者 軽毛 日時 2017 年 3 月 06 日 10:57:22: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

「壁を建てたのは、英語を話さない人達だった」

トランプのアメリカ〜超大国はどこへ行く

国境に移り住んだアーティストはイーゼルの前で抗議する
2017年3月6日(月)
篠原 匡、長野 光
 米国最南端の町、ブラウンズビル。メキシコ国境に隣接する町には国境のフェンスが既にある。もっとも、両国を隔てるリオグランデ川から離れたところに建てられたため、実際の国境とフェンスの間に取り残された住民も少なくない。彼の日常生活に支障が出ないよう、道路のところはフェンスが切れている。フェンスの目的が不法移民を阻止することだとすれば、その効果は全くない。

 「米国第一主義」というスローガンの下、トランプ大統領は雇用の国内回帰と治安の強化を推し進めようとしている。その政策を支持する米国人は一定数、存在する。それでは、国境に住む人々はどう感じているのか。 4人目は国境のゲートと目と鼻の先に住むアーティストのマーク・クラーク氏。メキシコの文化に惹かれブラウンズビルに移り住んだ同氏はアートを通じてフェンスに抗議している。

(ニューヨーク支局 篠原 匡、長野 光)
(フェンスの向こう側 Vol.1 / Vol.2 / vol.3 から読む)


メキシコとの国境に接するブラウンズビル(米国テキサス州)。国境のフェンスよりメキシコ側に住むアメリカ人が少なからずいる
フェンスの向こう側 Vol.4 マーク・クラーク

Mark Clark(マーク・クラーク)  68歳
アーティスト

マーク・クラーク氏、アーティスト(写真:Miguel Angel Roberts、以下同)

国境のゲートのそばでアートギャラリーを運営しているマーク・クラーク氏
 2008年に、あのばかげたフェンスの一部が完成したときにアートショーを開催しました。タイトルは“Art Against Wall”。フェンスに自作の絵を引っかけたんだよ。メディアで紹介されたし、けっこうな人が見に来ました。それで2回目をやることにしたんだけど、2回目はブラウンズビル市の許可が下りなくて。勝手に絵を飾ったら国境警備隊が武装してきて、「すぐに出て行け」と怒鳴られた。こちらは私の他に老婆ふたりと犬一匹なのにあんなに武装してきて。

 私がブラウンズビルに移住したのは2005年です。それまでは22年間、ワシントンDCのスミソニアン協会で働いていました。なぜブラウンズビルに移住したかというと、メキシコ人やメキシコの文化が好きなんですよ。20年近く年2回ほどのペースでメキシコに遊びに行っていて。ここは国境なのでメキシコにすぐ行くことができるし、町自体もほとんどメキシコと言っていい。文化がとても面白いんですよ。


ギャラリーのバルコニーから国境のフェンスが見える。「(国境を越えたメキシコ側の)マタモロスには週1回は行くかな。向こうでアートを見たり、画材を見たり。向こうの方が人口も多いし、ブラウンズビルよりもいろいろあるよ」
「売れ行き? 酷いね(笑)」

 ここでアートギャラリーを運営しています。売れ行き? 酷いね(笑)。でも、気にしたことは全くない。私は既にリタイアしており年金がある。大した額じゃないけれど、生活していくぶんには何の問題もない。私が来る前に、ここには芸術やアートと呼べるようなモノはなかったけど、今では才能のあるアーティストも増えつつある。この町に少しは貢献できたんじゃないかな。


ギャラリーの内部。ここに展示されている作品は地元アーティストのもの。彼が乗っている自転車はフェンスと同様の素材を使って制作している
 この町はメキシコと米国の文化が混じり合うところだから、私自身の作風にも大きな影響を与えた。政治的という面でも。私は米国でもメキシコでも民主党を支持しているんだ。あのばかげた壁のためにね。このエリアの芸術作品は注目され始めている。以前、メキシコシティのメトロの地下に、150フィート(約46メートル)にわたって私の作品が展示されるというイベントがあった。そのときは毎日1万人が私の目の前を通過していったんだ。


クラーク氏の油絵。メキシコの影響が色濃く感じられる

ドラッグカルテル同士の構想が激しかったマタモロスの影響が色濃く感じられる作品。ドラッグカルテルのギャングがクルマを蜂の巣にしている

こちらの作品では、トランプ大統領と思われる金髪の男が首を刈られている
「シフト交代するときに警備が緩む時間があるんだよ」

 不法移民はよく見かけるよ。もう12年ぐらい住んでいるけど、月に1人は確実に見るという感じだね。なぜ不法移民と分かるかって? 壁をよじ登っているからかな。泳いでいたり(笑)。確かに、国境警備隊はたくさんいるが、シフト交代するときに警備が緩む瞬間があるんだよ。実際、その時間にゲートの真下を不法移民がよく泳いできてたよ。

 一度、スイムスーツを着て、足にフィンをつけた不法移民が頭に大きな缶を載せて泳いできたときがあった。全部で6人。一人はトランシーバーと拳銃を握っていたよ。そのときはさすがに警察に通報したね。

「シャベルをやるから好きなだけ穴を掘りな」

 トランプ氏は国境に壁を作るといっているけど、怒っている男の暴走といったところだ。シャベルをやるから好きなだけ穴を掘りな、という感じだね。どうせ相手は入る方法を見つけるし。あの壁は大きな「ファック・ユー」サインだ。

 しかしそれにしても、このエリアは安全だよ。一度だけ身の危険を感じたことがあった。真夜中に、底の大きな駐車場でがたいのいい男達が叫ぶように声をかけてきたんだ。「やられる」と思ったら、キリスト教のパンフレットを出して布教してきた。全く安全だよ、このあたりは。


ここの作品は購入可能。頼めば小さなサイズに書き直してくれることも
 メキシコ人はとにかくよく働くよ。しかも、米国人が頼まれてもやらないような仕事をやる。暑くて、汚くて、危険を伴う、そんな仕事だよ。そこのフェンスを立てた人達も英語をしゃべらない人達だった。工事のときに止まっていた労働者のナンバーを見ると、全部メキシコだからね。皮肉としかいいようがない。不法移民が米国民の仕事を取るというけれど、どれだけの米国人が暑い日に黙々とシャベルで穴を掘るっていうんだよ。


「正直、取り締まりが厳しすぎると思う。昔はもっと簡単に行き来できていたが、家族が生き別れ状態なんて話もよくある」
 日経ビジネスはトランプ政権の動きを日々追いながら、関連記事を特集サイト「トランプ ウオッチ(Trump Watch)」に集約していきます。トランプ大統領の注目発言や政策などに、各分野の専門家がタイムリーにコメントするほか、日経ビジネスの関連記事を紹介します。米国、日本、そして世界の歴史的転換点を、あらゆる角度から記録していきます。

このコラムについて

トランプのアメリカ〜超大国はどこへ行く
1月20日に第45代米大統領に就任したドナルド・トランプ氏。通商政策や安全保障政策など戦後、米国が進めてきた路線と大きく異なる主張をしているトランプ大統領に対する不安は根強い。トランプ氏は具体的に何を実施し、何を目指しているのか。新大統領が率いるアメリカがどこに向かうのか。それをひもといていこうというコラム。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/012700108/030300014


 

クラウド界の絶対王者「AWS」独走の秘密

企業研究

アマゾン・ウェブ・サービス、成長率は年60%
2017年3月6日(月)
小笠原 啓
巨大な上に成長率は年60%。マイクロソフトとグーグル、IBMが束になってもかなわない。アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)は発足から10年で、クラウド業界で他を圧倒する存在になった。“絶対王者”として独走する秘密は何か。米ラスベガスで毎年開催される「re:Invent」に答えがあった。


米ラスベガスで開催された「re:Invent」に登壇したアマゾン・ウェブ・サービスのアンディ・ジャシーCEO(写真=鍋島 明子)

スライドの撮影に余念がない女性エンジニア(写真=鍋島 明子)
 2016年11月30日午前7時。パソコンを抱えたインド系の若者と中年の白人女性が、米ラスベガスの巨大ホテルで先を争うように走っていた。途中にルーレット台やスロットマシンが置かれているが目もくれない。カジノより確実な稼ぎを約束するイベントが、間もなく開演するからだ。


世界各国から3万2000人が来場した(写真=鍋島 明子)
 午前8時、数千人の技術者がひしめくイベント会場に、1人の男が姿を現した。米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のアンディ・ジャシーCEO(最高経営責任者)。米アマゾン・ドット・コムが提供する、クラウドサービスの指揮官である。

 「あらゆる業界の大企業がクラウドを使い始めた」「古いテクノロジー企業が収縮する一方で、AWSは急成長を続けている」。会場の熱気は、ジャシーCEOの次の言葉で一気に高まった。

 「これから、あなたたちが手にする“スーパーパワー”を紹介しよう」

 AWSの年次イベント「re:Invent」(新発明の意)は、客観的に見れば新製品発表会だ。ジャシーCEOが胸を張る「スーパーパワー」も自社サービスの宣伝に他ならない。だが、そう切り捨てられない“熱量”がこのイベント全体を支配している。


パートナー企業がブースを構え自社サービスをアピールした(写真=鍋島 明子)
 参加料金は原則として1人1599ドル(約18万円)と高額だ。にもかかわらず、今年の来場者は3万2000人と昨年比で1万人以上も増えた。5日間で約400の会議が催され、世界各国のソフト開発者やIT企業の幹部が集結。日本からも700人以上が参加した。

 人材育成を手掛ける米グローバルナレッジによると、2016年時点で最も稼げるIT関連資格は「AWS認定技術者」だ。平均年収は12万5000ドル(約1400万円)を超え、サイバーセキュリティー関連の資格保有者より高い。AWSの最新動向を把握してスキルを身に付けることが、ITエンジニアとしての収入アップに直結する。ジャシーCEOの発言が自分たちの稼ぎを左右すると知っているからこそ、技術者たちは高いチケット代を払い、眠い目をこすってラスベガスに集まったのだ。

サーバー数千台を5分で準備

 AWSはアマゾンの一部門にすぎないが、その勢いは本業のネット通販を凌駕し始めた。2016年1〜9月期の売上高は、前年同期比58.6%増の86億8300万ドル(約9800億円)。営業利益も同2.4倍の21億8200万ドル(約2500億円)に達した。アマゾンの全売上高に占める比率は9.4%にとどまるが、74.4%の利益を生み出している。

売り上げはネット通販の10分の1
●米アマゾン・ドット・コムの業績推移

利益の過半をAWSが稼ぐ
●セグメント別営業利益(2016年1〜9月期)

 AWSはもともと、アマゾンのネット通販を支える存在だった。膨大な数の注文をリアルタイムに処理するには、サーバー運用などで高度なノウハウが求められる。こうしたノウハウをまとめて社外に開放すれば、大きなビジネスになると考えた。2006年のことだ。


左:米マクドナルドなどがAWSの導入事例を公開
右:巨大カジノを抱えるホテルがイベントの舞台(写真=鍋島 明子)
 狙いは、「システム開発に関する複雑な業務を、ネット通販と同様に“ワンクリック”で提供する」(AWS日本法人の長崎忠雄社長)ことだった。まずは膨大な数のサーバーを調達し、世界各地に巨大なデータセンター群を構築。顧客企業が必要に応じて、インターネット経由で利用できる仕組みを整えた。今では「2005年時点にアマゾンを支えていたのと同規模のサーバーを、毎日追加している」と、AWSのトップ技術者であるジェームズ・ハミルトン氏は話す。


AWSは毎日、大量のサーバーを追加していると説明した
 サーバーの調達は、企業にとって頭の痛い問題だ。複数製品を比較し、必要な台数を算定するのは一苦労。設置場所を確保して電源などを手配するだけでも、半年近くを要してしまう。AWSはこの作業を劇的に手軽にした。申し込みから5分程度で数千台規模のサーバーを利用する準備が整い、必要に応じて増強できる。

10年間で58回の値下げ

競合4社の合計より大きい
●世界のクラウド市場シェア

出所:米シナジー・リサーチ・グループ。2015年のシェア。IaaS、PaaS、プライベートおよびパブリッククラウドの合計
 ここに着目したのが、米Airbnb(エアビーアンドビー)などのスタートアップ企業だった。今年本格サービスを始めた、金融ベンチャーのウェルスナビ(東京都千代田区)もその一社だ。

 独自のアルゴリズムで自動的に資産を運用する「ロボアドバイザー」サービスが売りだが、「AWSなしには起業は考えられなかった」と柴山和久CEOは打ち明ける。早く結果を出さなければ潰れかねないベンチャーにとって、一銭の利益も生まないサーバーの調達業務に費やす時間はないからだ。

 スピードだけではない。ネット通販で培った薄利多売のビジネスモデルもAWSの特徴だ。

 大量調達によりサーバーなどのコストを削減。それを原資に新たな顧客を呼び込むことで、常にスケールメリットを追求し続ける。サービス開始からの10年間で58回も値下げし、業界の価格破壊を先導してきた。

 企業が自前で購入したサーバーは年を追って陳腐化し、次第に保守コストがかさむようになる。AWSでは逆に、常に最新のサービスをクラウド経由で利用でき、料金は一貫して下がり続ける。旧来のIT業界の常識を真っ向から否定することで人気を博し、AWSは急速にシェアを高めていった。

 米シナジー・リサーチ・グループによると、AWSの世界シェアは2015年に31%で、米マイクロソフトと米IBM、米グーグルなど4社合計を上回る。発足から10年で、AWSは他の追随を許さない“絶対王者”と見なされるようになったのだ。


AWS日本法人の長崎忠雄社長は「製品ロードマップの9割は顧客の声で決まる」と話す(写真=鍋島 明子)
 IT業界では、デファクト(事実上の標準)を握った企業が圧倒的に優位となる。“勝ち馬”に乗ろうと多くの技術者が集まることで、ソフト開発が一層加速するからだ。「新技術が真っ先に採用されるため、優秀なエンジニアほどAWSを使いたがる」とウェルスナビの柴山社長は話す。

 結果、「米国ではあらゆる組織が雪崩を打ってAWSに移行している」と、調査会社ITRの甲元宏明プリンシパル・アナリストは指摘する。米ゼネラル・エレクトリック(GE)や米マクドナルドなど業界のトップ企業はもちろん、米中央情報局(CIA)や米航空宇宙局(NASA)もAWSを利用している。

 米国の全証券会社が加盟する規制機関「FINRA」のスティーブン・ランディッチCIO(最高情報責任者)は今年のre:Inventに登壇し、こう宣言した。「AWSは競合より数年先を走り、ギャップは今も広がり続けている。FINRAは今後、あらゆるシステムをAWSに移行させる」。規制当局が公の場で“お墨付き”を与えたら、銀行や証券会社がどんな行動を取るかは明らかだ。

 日本でも同様の動きが始まっている。ソニー銀行は2013年末から段階的に、リスク管理や帳票管理といった社内の業務システムをAWSに移行させてきた。移行したシステムの年間のコスト削減効果は、3〜5割に達するという。

 銀行業務の中核である勘定系システムについては慎重にならざるを得ないが、「規制対応などを踏まえつつ、今後はさらにAWSへの移行を進めていきたい」と福嶋達也・執行役員は力を込める。「国内IT勢とは規模が桁違いで、AWSを利用しない方がむしろリスクが高まる」(同)と考えているからだ。

AWSを選ぶ「3つの理由」

サーバーやデータベースをクラウドで提供
●AWSが提供する主なサービス

(※図1)
 国内企業がAWSを選び始めた理由は、大きく3つある。

様々な業界で導入相次ぐ
●AWSを導入した主な日本企業

 1つ目は機能の豊富さだ。※図1で示したように、AWSには仮想サーバーやストレージなど、ITインフラの構築に必要な機能が既にそろっている。その機能が今でも猛烈な勢いで増殖しており、AWSが2015年に追加した新サービスや新機能の数は722。2016年は約1000に達する。そのほぼ全てが「顧客の要望に応えるために開発したものだ」と長崎社長は述べる。

 AWSの新サービスが、新たな市場を創出するケースも増えてきた。

 ビッグデータ分析では高価なハードとソフトを使うのが通例で、かつては膨大な初期投資を賄える大企業の独壇場だった。ところが、2012年に「Redshift(レッドシフト)」を投入したことで状況が一変。従量課金で使えるようになったことで、ベンチャー企業でも手軽にデータ分析できる環境が整った。スマートフォンのアプリ開発が活性化した、一つの要因と言える。

 システム構築を手掛けるサーバーワークスの大石良社長は「AWSの進化に追随すれば、常に最新技術を使い続けられる安心感がある」と話す。

 2つ目はセキュリティーだ。


ソニー銀行の福嶋達也・執行役員は「国内勢はAWSに追いつけていない」と語る(写真=陶山 勉)
 AWSはクレジットカード業界の標準である「PCI DSS」など様々な認証を取得し、セキュリティー専門家も数多く抱える。同社のサービスは複数企業でITインフラを共有するのが前提だが、仮想プライベートクラウドの「VPC」を使えば、特定領域を“専有”できる。企業内ネットワークと同等の安全性で、AWSを使える仕組みが整った。

 国内金融機関は金融情報システムセンター(FISC)の安全対策基準に照らしてシステムを運用する必要があるが、「当行の独自チェックと第三者監査を通じ、AWSは基準をクリアしているとの結論に至った」(ソニー銀行の福嶋執行役員)。

 金融機関だけではない。医療機器を手掛けるシスメックスは、世界各国から寄せられる苦情を管理するシステムをAWS上で稼働させている。同社の血球分析装置などに不具合が生じていないかを、顧客の声を通じて把握する。

 問題を見落とすと健康被害につながりかねないため、情報管理の方法は薬機法(旧薬事法)などで規定されている。同社情報ソリューション部の矢野光洋シニアプランナーは「誰がいつログインしたかなど、正確な記録を残せるのがクラウドの利点だ」と話す。

自社で管理するより安全

 AWSは2016年から、セキュリティー機能の「AWS Shield(シールド)」を無償で提供している。面倒なサイバー攻撃対策を肩代わりしてくれるようになった。自社でデータを保管するよりもAWSに預けた方が安心だという考えが、世界で一般的になりつつある。

 3つ目の理由は、「JAWS(ジョーズ)」と呼ばれる技術者コミュニティーの存在。日本全国に60以上の支部があり、毎晩のようにAWSの使い方を議論している。フリーランスだけでなく、企業に属するITエンジニアも数多く参加するのが特徴だ。

 大手ITベンダーが顧客企業を組織する「ユーザー会」とは異なり、JAWSの運営はコミュニティーごとの自主性に任されている。参加者に求められるのは、積極的にノウハウを開示するオープンな姿勢。「他社の失敗事例を学べるのが面白い」と、大企業中心のコミュニティーを率いるNTTドコモR&Dイノベーション本部サービスイノベーション部の大野友義部長は話す。

 日本企業はシステム導入でも「前例」を重視する傾向がある。様々な事例がJAWSの場で共有されることで、AWSの普及が加速するのは確実だ。

 11月のイベントでは、AWSの新たな武器がトラックとともに登場した。「AWS Snowmobile」だ。

トラックで企業内データを“引っ越し”
●ラスベガスでお披露目された「AWS Snowmobile」

 企業が扱うデータが増えるほど、AWSへの移行は困難になる。ネット回線は大量のデータを転送するには不向きだからだ。そこで考えたのが、トラックに積んだサーバーを企業のデータセンターに直結してデータを吸い上げ、AWSに運ぶ構想だ。ジャシーCEOによると「専用線で26年かかるデータを、半年で転送できる」という。

 AWSの力が増すほど、協業する企業も広がる。NECは11月、AWSへの移行支援体制を強化すると発表。最上位のAWS認定技術者を50人規模に増強し、2年間で120億円の売り上げを目標に掲げた。「AWSとまともに戦うのは得策ではない。既存システムとAWSを上手に融合させることを提案していきたい」と、SI・サービス市場開発本部の川井俊弥エグゼクティブエキスパートは話す。日立製作所もAWSに精通した人材の育成を進めている。

パートナー育成が課題

 「自分たちで勉強してAWSを使えば、ITベンダーに頼んでいた仕事を“中抜き”できると日本の経営者が気付き始めた」と、ガートナージャパンの亦賀忠明・最上級アナリストは指摘する。国内では前述のサーバーワークスなど、AWSにほぼ特化したITベンダーが急速に台頭している。NECや日立といった大手も、旧来型のビジネスに固執していては明るい未来は描けない。

 AWS自身も協業の必要性を強く認識している。様々なサービスを矢継ぎ早に提供したことで、単純明快だったAWSも次第に複雑化してきた。今では主要サービスの数が70を超える。「従来のパートナーだけでは仕事をこなしきれなくなってきた」との不満も、顧客企業から漏れるようにもなった。日本国内でさらにシェアを伸ばすには、実際の業務に精通したパートナーの育成が喫緊の課題だ。

 拡大するクラウド市場でAWSが最も有利なポジションにいるのは間違いない。だが、地力があるIBMやマイクロソフトそしてグーグルを相手にリードを保ち続けることができるのか。挑戦者だった過去の10年とは違う戦い方を迫られることになる。

INTERVIEW
アンディ・ジャシーCEOに聞く
クラウドはアマゾンの通販を超える

米ハーバード大学でMBA(経営学修士)を取得し、1997年に米アマゾン入社。2006年にAWSを立ち上げ、一貫してクラウド事業を率いる(写真=鍋島 明子)
──米国と比べると、日本企業のクラウド導入は遅れている。

 「まだ初期段階だが、これから間違いなく加速する。クラウドを導入すると、アイデアが浮かんでから実現するまでの時間が極めて短くなる。何千台というサーバーを数分間で用意でき、必要なくなったら余計な料金は支払わなくてよい。試行錯誤のスピードが速まれば、それだけ競合より先を走れる」

 「ほとんどの企業はIT人材の不足に悩んでいる。ITインフラをクラウドに移行すれば、貴重な人材を(保守ではなく)サービス開発に集中させられる。これは、企業全体の競争力にプラスに働くはずだ」

──AWSが市場を支配し、いつか値上げするのではないかとの懸念がある。

 「可能性はほぼゼロだ。AWSは過去10年間、競合に関係なく自主的に50回以上も値下げしてきた。削減したコストは顧客に還元するのが我々の主義だ」

 「クラウドは長期にわたるビジネスだ。仮に2?3年赤字になっても、必要な投資をためらうことはない。顧客との良好な関係を構築するのが最優先だ」

──AI(人工知能)では米グーグルなどとの競争が激化している。

 「AIは今後の成長に不可欠な要素だ。AWSは技術者に様々なツールを提供し、開発が加速するよう支援している。クラウドで提供する膨大な処理能力なしに、AIの進化は難しいだろう。AWS上では他のプラットフォームとは比較にならない規模で、AIや機械学習の開発が進められている」

 「音声認識に関しても競争が激しい。(英語と比べると)日本語対応には時間がかかっているが必ず対応する」

──2016年4月にAWS部門のCEOに就任した。AWSの位置付けは変わるのか。

 「アマゾンの小売事業はAWSにとって巨大で重要な顧客の一つだ。経営体制も顧客基盤もお互いに独立しており、それは今後も変わらない」

 「AWSの年間成長率は50%を超える。現在でも非常に大きなビジネスになっているが、まだ膨大なチャンスがあると考えている。1000億ドル規模の小売事業を超えて、AWSはアマゾン最大の事業になるだろう。いつになるかは明言できないが、間違いなく可能だ」

(日経ビジネス2016年12月26日・2017年1月2日号 より転載)


このコラムについて

企業研究
『日経ビジネス』に掲載された、企業にフォーカスした記事の中から読者の反響が高かったものを厳選し、『日経ビジネスオンライン』で公開します。

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