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フロリダの支持者に出迎えられるトランプ大統領(GettyImages)
トランプ氏就任1カ月で見えてきたもの、見えてこないもの
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8962
2017年2月21日 海野素央 (明治大学教授、心理学博士) WEDGE Infinity
今回のテーマは「トランプ氏就任1カ月で見えてきたもの、見えてこないもの」です。ドナルド・トランプ氏が大統領に就任してから1カ月が経ちました。率直に言ってしまえば、乱気流の中での政権スタートになりました。本稿では、トランプ大統領のこの1カ月間の言動から見えてきたものと見えてこないものを整理してみます。
■見えてきたもの
第1に、「対立の構図」の活用です(図表1)。
トランプ氏は大統領就任後も選挙モードから抜けておらず、相変わらず対立の構図を活用しています。ヒスパニック系、イスラム系、移民、難民、司法及び主要メディアを敵に回して支持層に訴えています。特に、主要メディアに対しては、偽ニュースであるとレッテルを貼り対決姿勢を崩していません。そこでもメディアの報道に関して「真実対もう一つの真実(うそ)」という対立の構図を作っているのです。
トランプ大統領は「メディアは私の敵ではない。米国民の敵だ」とまで言い切りました。その意図は、米フォックスニュース以外の主要メディアを叩いて彼らに不信感を抱いている支持層を固めることです。裏返せば、同大統領は主要メディアと融和を図れば支持を失うのです。従って、同大統領の対立の構図を利用したスタイルは継続していくと見てよいでしょう。
第2に、一貫性です。まずメッセージにおける一貫性があります。トランプ大統領は、核となるメッセージである「米国を再び偉大な国に取り戻す」を変えていません。
次に、公約を果たし、強いリーダーを演出し、変革をもたらすという点に関しても一貫性があります。米ギャラップ社が実施した世論調査(2017年2月1−5日実施)によりますと、62%がトランプ大統領は「公約を守る」、59%が「強いリーダーで意思決定ができる」、53%が「国が必要としている変革をもたらすことができる」と回答をしています。中でも、「国が必要としている変革をもたらすことができる」は、2016年9月に実施したギャラップ社の調査結果と比較しますと、13ポイントも上昇しています。この点は看過できません。
乱発する大統領令は、「変革」の象徴になっているのです。「公約」「強いリーダー」「意思決定」並びに「変革」は同大統領の強みであり、これらの3要素を意識してメッセージを発信する限り、大きく支持を失うことはないでしょう。
第3は、第1と関係があるのですが、トランプ大統領に熱狂的なトランプ信者の維持です。同大統領は状況が不利になると、今後支持者を集めた集会を用いてトランプ信者に政策の正当性を訴えていくことが見えてきました。
トランプ大統領は、この1カ月間、国家安全保障担当の大統領補佐官マイケル・フリン氏の辞任、次期労働長官に指名したアンドリュー・パズダー氏の辞退及び大統領顧問ケリアン・コンウェイ氏の失言など種々の問題に直面してきました。そこで、2月18日南部フロリダ州で集会を開いてポイントを稼いでダメージコントロールを行ったのです。それに加えて、集会には孤立していない自分を演出する狙いもあったのです。
第4に、「忘れられた人々」のメッセンジャー(伝達者)です。トランプ大統領は上の集会で自分が忘れられた人々のメッセンジャーであることを強調しています。ワシントンにいる職業政治家及びエスタブリッシュメント(既存の支配層)から無視されてきた白人労働者、退役軍人、不法移民によって子供を殺害された親並びに規制によって自由を奪われたと強く感じている有権者の声を代弁し伝達するメッセンジャーであると言うのです。
「忘れられた人々」はトランプ氏を大統領にしてくれた忠誠心の高い有権者です。トランプ大統領は内政及び外交において、「忘れられた人々」の利益代表者であるという視点でみると、同大統領の言動が理解できます。
■見えてこないもの
トランプ大統領には就任して1カ月が経過しても依然として見えてこないものがあります。それらを「価値観」「コミットメント(関与)」「ミッション(使命)」並びに「ビジョン」に基づいて述べてみましょう(図表2)。
超大国米国のトランプ大統領は、「自由」及び「平等」といった価値観を含んだ「人権」について全くと言ってよいほど語りません。同大統領が平和のために世界の出来事に積極的に関与するのかについても見えてきません。たとえ、海外の政治指導者との共同記者会見で外交について触れても、内政のように目に見える形で行動を起こしていません。どちらかと言えば、現在のところ外交において「3つの無」、即ち「無関与・無関心・無干渉」です。
トランプ大統領のミッションは白人労働者及び退役軍人のための雇用創出であり、その点においては使命感を持っていると言えるのですが、超大国のリーダーとして世界に対してどのような使命を抱いているのかに関しては不透明です。ただ、同大統領は通商及び難民に関してはビジョンを持っているように窺えます。「自由貿易」ではなく2国間協定による「公平な貿易」並びに難民受け入れに反対の立場をとっています。それを超大国米国の大統領が描いているあるべき姿とするならば、世界から共感を得るのはかなり困難であることは間違いありません。
■トランプは統合者に成り得るのか
超大国米国の大統領のビジョンは、理想的ではありますが米国社会に加えて世界の統合並びに融合です。にもかかわらず、トランプ大統領は、国内で偽ニュースやもう一つの真実という禁じ手を使い、有権者の認識を歪めています。
前回の「火中の栗を拾った安倍首相」で指摘しましたように、トランプ大統領の例のイスラム圏7カ国からの入国一時禁止に関する大統領令は、内政問題のみならずグローバルな争点になっています。今後、分断により支持固めをする戦略を変更しない限り、「一つの米国」及び「一つの世界」にすることは不可能でしょう。
政策に加えて、トランプ大統領の思考様式にも問題が存在します。同大統領は、ロシアとの関係が改善すれば両国にとって良いと「ウィンウィン」を強調していますが、上の大統領令、メキシコ政府に対する言動並びに通商における2国間協定に固執する姿勢は、「ウィン(同大統領)ルーズ(イスラム教徒・交渉相手国)」です。「ウィンルーズ」が支配的な思考様式を備えた同大統領は、統合者ないし融合者には成り得ない可能性がかなり高いと言えます。仮に成ったとしても、人種、民族及び宗教における文化的多様性を否定するトランプ信者からの支持を失うという結末になるのです。
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