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19日の記者会見でのトランプ氏(GettyImages)
過去の批判許さず、トランプ政権、高官ポスト埋まらず
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8955
2017年2月20日 佐々木伸 (星槎大学客員教授) WEDGE Infinity
トランプ米政権の各省の政治任用の高官ポストが政権発足1カ月たってもほとんど埋まっていない。過去にトランプ氏への批判歴のある人材の起用を断固認めない方針だからだ。当の大統領は政府の態勢が整わないこともどこ吹く風で、「メディアは国民の敵」と非難し、メディアとの”戦争”を激化させている。
■副長官ポストはわずか3人
米国では政権の交代に伴って、ホワイトハウスや国務省など各諸官庁の政治任用の高官らも替わる。その数は4000人を超える。しかし現政権では、そのポストがほとんど埋まっていない。元々、上院での閣僚の承認も野党民主党の反対で大幅に遅れ、これまでに15閣僚のうち承認されたのは9人だけだ。
15の省庁でナンバー2の副長官が決まったのは3人にすぎない。この異常事態が特に深刻なのは外交を取り仕切る国務省だ。政権発足直前、副長官や次官、実務の責任者である局長ポストの次官補クラスが辞任するか、解任されるかでほとんどいなくなった。ティラーソン国務長官が承認されたのは2月2日だが、長官に引き継ぎすべき人間たちがいなくなったのである。
現在は1人高官として残ったナンバー3のシャノン国務次官が長官を補佐しているが、このほどドイツで行われたG20外相会議に出席の長官に同行した国務省幹部8人のうち、5人は臨時の肩書きで随行した。ティラーソン長官は報道官も任命できておらず、人材集めに苦労していることもあって、同省のポストの削減を検討中といわれる。
ティラーソン氏は最近、副長官候補として、レーガン、ブッシュ両政権に仕え熟練の外交専門家であるエリオット・エイブラムズ氏の就任をホワイトハウスに具申したが、拒否されてしまった。大統領選挙期間中にトランプ氏に批判的な発言をしたことがあったというのが拒否の理由だ。最近、国務省の幹部外交官6人が解雇されたのも同じような理屈だった、という。
国務省だけではない。先週には住宅都市開発省の高官が突然解任されたが、ホワイトハウスが過去にこの高官がトランプ氏に批判的な言動をしていたことを知ったからだった。国家安全保障会議の高官も最近、政権に不満を漏らしたことが発覚してやはり解任されている。
このように政治任用ポストが決まらない理由はホワイトハウスが過去にトランプ批判をした人間を認めず、起用には絶対的な忠誠を要求しているからに他ならない。トランプ氏自身が自分を軽んじた人間を許せず、また共に選挙を戦ってきたバノン首席戦略官兼上級顧問ら側近が厳しくチェックしている。
トランプ氏は国務長官人事で、元共和党大統領候補のロムニー氏と2度会談したが、長官候補の1人として検討する姿勢を見せたのは、長官に指名する気があったからではなく、選挙期間中に「大統領の資質はない」などと批判したロムニー氏を玩び、見せしめにするつもりではなかったのか、との見方が強い。
トランプ氏は19日、「ロシア制裁見直し密約」の疑惑で辞任したフリン補佐官(国家安全保障問題担当)の後任候補4人と面談する予定だが、最有力候補だったハワード将軍が補佐官就任の申し出を辞退したのは、トランプ氏への絶対的な忠誠を要求され、バノン氏ら側近が国家安全保障問題に干渉する恐れのあることを嫌ったためとも言われている。
■“独裁者の始まり”
トランプ氏は表面上、政権のこうした体制遅れを気にしている様子はない。それどころか16日の初めての単独の記者会見では、政権が混乱しているとの批判に対して「機械のようにうまく回っている」と反論。報道機関を“超偽ニュース”と非難、メディア叩きを徹底する構えを見せた。
トランプ氏の現在の攻撃の対象はメディアと、メディアに情報をリークしている情報機関だ。とりわけニューヨーク・タイムズ紙が最近、選挙期間中にトランプ陣営の幹部が繰り返しロシア情報機関当局者と接触していた事実を素っ破ぬいたことに激怒。リーク狩りを司法省に指示した。
一部では、トランプ陣営がトランプ氏を勝たせるため、対立候補だった民主党のクリントン氏の不利になるような情報をロシア情報機関に流させるため、ロシア側と共謀していたのではないかという「ロシア・ゲート」疑惑も出ており、これがトランプ氏立腹の原因になっているようだ。
こうしたトランプ氏のメディア非難に対し、共和党の重鎮で、上院軍事委員長のマケイン議員は「言論の自由を封じ込めることは独裁者が初めにやることだ。大統領は独裁者になろうとしている」と強く諫めた。しかしトランプ氏がこうした批判に耳を貸すとは思われず、政権の機能不全とメディアとの対立はさらに拡大しそうな雲行きだ。
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