http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/254.html
Tweet |
ベラルーシとロシアの関係に黄信号、背後に中国の影
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8899
2017年2月17日 小泉悠 (財団法人未来工学研究所客員研究員) WEDGE Infinity
■欧州最後の独裁国家
ベラルーシという国の存在感は日本ではあまり高くない。
旧ソ連のヨーロッパ部に位置する国で、東はロシア、西はポーランド、北はリトアニアとラトヴィア、南はウクライナに面している。国土面積は20万7600平方kmと日本の半分ほどだが、人口は約950万人に過ぎない。我が国との貿易額は年間40億円にも満たない額であり、影が薄いのも無理からぬところだろう。
ベラルーシではルカシェンコ大統領が1994年以来の長期政権を築いており、これを指して「欧州最後の独裁国家」などとも呼ばれる。これが日本で最も流布しているベラルーシのイメージかもしれない。
一方、ベラルーシと圧倒的に深い関係にあるのがロシアだ。同じ旧ソ連諸国であったというだけでなく、言語(ベラルーシ語はスラブ諸語の中でも特にロシアに近い)や宗教(ベラルーシ正教会はモスクワ総主教庁の一教区とされている)面でも両国の距離は近い。
軍事的にはロシア主導の軍事同盟である集団安全保障条約(CSTO)に加盟しており、相互防衛義務を負う。しかも、ロシアとベラルーシは1999年に連合国家協定を結んでいるので、連邦未満ではあるが単なる同盟国以上という関係にある。
■漂流する「連合国家」
ところが、その実態は極めて不安定なものだ。ことに近年では、その傾向が強まっている。
たとえば昨年末、ロシア主導の経済同盟であるユーラシア経済連合の首脳会合にベラルーシのルカシェンコ大統領は出席せず、予定されていた共通関税法典への署名も行われなかった。ロシアはベラルーシの対露債務5億5000万ドルが返済されていないことを理由にベラルーシに対する原油供給を削減することを決定しているほか(ロシアから供給される安価な原油を精製して輸出することで外貨収入を得ている)、ベラルーシが欧米との関係改善を図ろうとしていることに懸念を示しており、こうした政治・経済的摩擦がその直接的なきっかけと見られる。
今年2月には、ロシアの情報機関である連邦保安庁(FSB。国境警備隊を傘下に置いている)がロシアとベラルーシの国境に検問所を設置したことが新たな摩擦の種になった。
それまでロシアとベラルーシの国境ではパスポートコントロールは実施されておらず、EU内のように自由に往来することが可能であった。ところが今年1月、ベラルーシが世界80カ国(日本もそこに含まれる)とのビザを撤廃したことで、ロシア側が安全保障上の懸念を提起したのである。ベラルーシとロシアが国境を開放しあった現状でビザを撤廃すれば、ベラルーシ経由で望ましくない人物がロシアに入国してくる可能性があるためだ。
ロシア側の言い分には一理あるにせよ、「連合国家」を謳いながらこうした基本的な問題ですり合わせができていなかったことをこのエピソードはよく示している。
ちなみにロシアが導入した検問所はパスポートコントロールではなく、ロシアにビザなしで入国できない国民だけを選別するものであるようだ。しかし、ベラルーシ外務省は検問所の設置に関してロシア側から事前の通告がなかったとしており、ルカシェンコ大統領もこれを「政治的攻撃」と呼んでロシア側を厳しく非難している。
■ウクライナ危機で先鋭化
こうした摩擦はこれまでにも幾度となく繰り返されてきたものだが、ウクライナ危機以降には、より深刻な政治・安全保障上の問題にまで発展するのではないかという見方も出始めている。
その理由は主として3つある。
第1に、ウクライナ危機によってロシアと西側諸国の関係が悪化した結果、ベラルーシもこれに巻き込まれる恐れが出てきた。特にベラルーシとして避けたいのは、米国やEUの対露制裁にベラルーシが巻き込まれることであろう。
このため、ベラルーシはロシアによるクリミア併合について態度を明らかにしておらず、ドンバス地方での紛争についてもロシアに味方するのではなく停戦交渉の「仲介役」として振舞っている。それどころかベラルーシは依然としてウクライナとの軍需産業協力さえ維持しており、「連合国家」とはいいつつもウクライナ問題ではロシアとの距離を取ろうとする傾向が顕著だ。さらにルカシェンコ大統領は今年1月、「ウクライナの“親愛なる兄弟”達は独立のために戦っているのだ」とさえ述べている。
第2に、軍事的緊張がさらに高まった場合には、ベラルーシはロシアの前線国家にされかねない。ベラルーシはNATO加盟国であるポーランド、リトアニア、ラトヴィアと国境を接しており、いざ対NATO戦争となった場合には戦場になる可能性が高い(実際、ロシア軍西部軍管区が実施する対NATO演習ではベラルーシが主な舞台となる)。
これはベラルーシとしてはさらにありがたくないシナリオであろう。このため、ベラルーシはレーダーや通信基地といったごく少数の例外を除き、ロシア軍の駐留を認めてこなかった。これに対してロシアはベラルーシにロシア空軍基地を設置させるよう圧力を掛けており、長らく両国の懸案となっていたが、2月に記者会見に臨んだルカシェンコ大統領は基地設置を拒否する考えを表明している。
また、ベラルーシはロシアの同盟国でありながら、自国を「中立国」であると位置付ける憲法第18条の規定を維持しており、ロシアを敵には回さないまでもロシアの軍事紛争に巻き込まれたくないとの立場も垣間見える。
第3に、ロシアの言うことを聞かない旧ソ連の「友好国」にロシアが軍事介入を行うというウクライナ危機の構図は、ベラルーシでも繰り返されかねない。前述の記者会見においてルカシェンコ大統領は「ロシアはベラルーシが離れて行ってしまい、ルカシェンコが西側に寝返ることを恐れているのだ」と述べているが、ロシアのウクライナ介入はまさにウクライナがこのような状況に陥りかねないとの懸念を背景としていた。
■ロシアの介入はあり得るか?
最後のシナリオは、ウクライナ危機直後からすでに囁かれていた。
勢力圏としての旧ソ連諸国をロシアが力づくで守ろうとするのであれば、ベラルーシがその例外となる根拠はない、という考え方がその背後にはある。もしもベラルーシで政変が発生し、ウクライナのように親西側的な政権が成立した場合には、ロシアがウクライナに対して行ったようなハイブリッド戦争型の介入を仕掛けてくる可能性はたしかに排除できない。2014年にロシア系の高級軍人がベラルーシ国防省内から排除され、ベラルーシ系にすげ替えられたことがその傍証とされることもある。
とはいえ、ベラルーシ軍の常備兵力は実質でわずか4万5000人ほどにすぎず、ロシア軍の本格的な介入を受けた場合にはひとたまりもない。経済的に見てもベラルーシのロシアに対する依存度は大きく、ロシアとの極度の関係悪化は避けざるをえない。昨今のロシアとの対立にも、ベラルーシはどこかで落とし所を見つけようとするだろう。
加えて、ベラルーシは依然としてロシアとの軍事同盟関係を維持しており、今秋にはロシア軍の定期大演習「ザーパト(西方)」に合わせてベラルーシでの大規模合同演習も予定されている。
■中国ファクター
したがって、ベラルーシとしては当面、ロシアという巨大な隣人との関係は継続せざるをえない。
だが、中長期的にはまた別だ。一帯一路構想を掲げる中国というファクターを考慮せざるを得ないためである。すでに中国はベラルーシの首都ミンスク郊外に大規模な産業団地を建設するためのプロジェクトを立ち上げているほか、これまでは軍事面でロシアの大きなレバレッジであった武器供給にも中国は一部で進出し始めている(ベラルーシの新型多連装ロケット・システムであるポロネズは中国製ロケット発射システムを採用した)。
これまでロシア以外に後ろ盾を持たなかったベラルーシが、その一部を中国に求められるようになれば構図が変化しかねない。中国のベラルーシに対する関与はまだ限定的なものに過ぎないが、今後のロシア・ベラルーシ関係を考える上で無視できないファクターになりつつあると言えよう。
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。