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トランプの虚言は当選しても就任しても終わらない Carlos Barria-REUTERS
「トランプ大統領はウソつき。」
http://www.newsweekjapan.jp/pakkun/2017/02/post-21.php
2017年02月09日(木)17時00分 パックンのちょっとマジメな話 ニューズウィーク
パックン(パトリック・ハーラン)
<アメリカ大統領に敬意を払えば、トランプを「ウソつき」と言い切るのはためらわれるかもしれない。世界中の人々が、彼の発言をどう呼ぶべきか困っていると思うが......>
「トランプ大統領はウソつき。」
こう書くかどうか、みんな迷っている。前からトランプには真実と反する発言が多いが、ウソと言いきっていいのか。世界中の報道機関、ジャーナリスト、コメンテーターやハーバード卒漫才師兼自称コラムニストが、心に葛藤を抱えているはず。そこで、ちょうどいい解決策を僕が見つけた! もう少し文字数を稼いでから発表しよう。
そもそも「ウソ」という言葉を使うことを、なぜためらうのか。昔から大統領本人を尊敬していなかったとしても、その地位に対する敬意を示すため「ウソつき」と呼ぶのはご法度だった。
ワシントン、リンカーン、ルースベルトなどの歴代大統領が築いた栄光もある。大統領の指令の下で戦ってきた戦没者や退役軍人へのリスペクトもある。アメリカの象徴でもある大統領のイメージや信頼性を保つためにも、メディアの中立性を維持するためにも必要である。そして単純に、マナーでもある。メディアがそのマナーを守る代わりに、歴代大統領はウソをほどほどにするマナーを守るようにしてきた。
しかし「ウソ」という表現に対する拒絶反応を克服しなければならない時がきた。ウソをウソだと言わないことの危険性を、身をもってわかったから。ウソをウソと言ってこなかったことで、ウソつきが大統領になったのだ。
ニューズウィーク日本版の本誌でも紹介したが、トランプは民間人だった時代から無数のウソをばらまいてきている。その中でも一番有名な例は「オバマ大統領はハワイ出身と偽っているが、ケニア出身だ。大統領になる資格はない」と、長年繰り返してきたbirtherism(誕生主義)の主張。
もちろん出生届など、オバマがハワイ生まれである証拠はたくさんあるが、それらを全部無視して、現職大統領の権威を奪うべく、このばかばかしい陰謀説をずっと広めてきた。
ちなみに僕は海外旅行中、カナダ人と偽ることにしているけど、それはまた別の話。
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トランプの虚言は、当選しても就任しても終わらない。就任式でのがらがら具合は、写真を見ても明らかに確認できるのに、「会場はワシントン記念塔まで観客に埋め尽くされた」とウソをついた。また、式典中ずっと小雨が降っていたのに、「僕が話しだしたらきれいに晴れた」とウソをついた。そのあと、大統領選の得票率でヒラリーが勝った事実を掘り起こし、「300万人の不正投票があった」とウソをついた。
前から「トランプのウソTop500」などのウェブサイトが多くあったが、就任後はさらに大統領のウソを随時リストアップするウェブページがいくつか新設されている。「雇用を創出する」という公約はどうやら真実のようだ。少なくともトランプのウソを指摘する産業で、雇用が増えているもよう。
しかし、ウソの例があふれているなかでも、やはりみんな表現に迷ってしまう。
トランプ大統領はウソつき。
この一行があるだけで、それを発した人やメディアが疑われる。このコラムもそうだろう。「パックンはアンチトランプのリベラルだ! ヒラリー応援団長だ! 個人レベルではトランプブームに乗っているくせに批判する偽善者だ!」と、僕を責める人は大勢いるはず。
その指摘は間違いない。全部あっている。しかし、それでもトランプはウソつきだ。はっきり書かないと、メディアも真実を崩壊させる共犯者になる。
しかし、伝統やマナー、中立性維持のほかに、「ウソ」と書くかどうか、もう一つの悩みがある。それはウソの定義。「ウソ」は、本人がわざと真実と反することをいうこと。つまり、本人が真実をちゃんと把握していなければ「ウソ」にはなり得ない。間違いは「ウソ」ではない。トランプが間違っているだけだという可能性もある。
しかし、真実が分かる出生証明書や航空写真などの証拠をもってしても、言い続けるのであれば"間違い"と言い張れないだろう。ここまでくると残る選択肢は「妄想」と判定することだけ。もうそうするしかないかも。
しかし、妄想かどうかの診断は精神科医がすることだ。メディアがいうと中傷っぽくなる。だからメディアはdelusion(妄想)という表現を避ける。また上述のとおり、トランプの知識や内心が分からないからlie(ウソ)も使いたがらない。結局は明らかに真実と異なる発言でもclaim(主張)、say(言う)など、無難な表現を使う傾向が強い。
それゆえに、見出ししか読まない読者も多いなか、ニュースがウソや妄想だと気付かず、彼の虚言を真実と受け止めてしまう人が生まれる。やはり、トランプの「非真実的発言」をどうにか一言で表さなければならないご時世だ。
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そのために、ちょうどいい表現がある。それはtrump。固有名詞ではなく、小文字のほうのtrump。ご存じのとおり、「カードゲーム」という意味で使われている和声英語でもあるが、英語では「切り札」という意味の名詞である。
またヒラリーのスローガンLove trumps hate(愛は憎しみに勝つ)にあったように、「〜に勝る」という意味で動詞としても使う。でも僕が勧めるのはその使い方ではない。
実はtrumpにはもうひとつの意味がある。ちょっと古い意味だが、現大統領の発言に奇跡的に当てはまるものだ。それは「だます」や「捏造する」。つまり、これを使えば見出しはTrump lies...ではなくTrump trumps...と書けばいいのだ! 気持ち悪いぐらいの偶然で、完全に問題解決ではないか。ぜひ広めよう!
ちなみに、「うそだろ〜」と、「さっきの妄想のダジャレのような、微妙な冗談だろ!」と思う人もいるかもしれないけど、このtrumpという動詞の意味は本当だから。僕は決してトランプっていないからね。
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