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差し止めを巡って政権側と連邦裁判所が対峙している、トランプ大統領の入国禁止令。そもそも大統領令をやめさせることはできるのか。ニュースだけではわからない法の仕組みを解説する
トランプに大統領令“暴発”をやめてもらう方法はあるか
http://diamond.jp/articles/-/117432
2017年2月10日 鈴木貴博 [百年コンサルティング代表] ダイヤモンド・オンライン
■トランプの大統領令は防げるか?わかりづらい制度の仕組みを解説
トランプ大統領が就任以来、矢継ぎ早に乱発している大統領令が、世界の困惑を招いている。医療保険制度改革・オバマケアの見直し、メキシコ国境の壁建設、そして一番の困惑の元は、1月27日に発効し、全米の国際空港を大混乱に陥れた「特定7ヵ国の国民の米国への入国を90日間禁止する」大統領令だ。
この大統領令に対しては、ワシントン州シアトルの連邦裁判所が大統領令の一時的差し止めを全国的に命令した。これによって、全米の空港で対象国からの入国者の受け入れが再開され、国務省は「ビザ取り消しを撤回する」ことを発表した。
この入国禁止に関わる一連の事件は、アメリカの政治ルールがわからない人には「何が起きているのか理解が難しい」事件だったと思う。大統領令とは何か。それが暴走だった場合は誰が止めることができるのか。そして今後の日本への影響と対策とは――。日々のニュースを読み解くためのサポートとして、簡単に大統領令をめぐる基本知識をまとめてみよう。
そもそもアメリカ大統領令とは何なのか。これは行政の長である大統領が行政機関に対して出す命令だ。お役所内の業務命令のようなもので、民間企業には直接の効力が及ばない命令なのだが、各行政機関は即座にこの命令に従う必要がある。
問題はここにある。大統領令は執行権の行使なので、議会の承認が要らない一方で、行政機関はそれを実行に移すため、結局国民や企業、関係各国に影響が及ぶ。そのため大統領令は、実質的に法律と同等の効力を持つことになる。アメリカ大統領にとって強力な権限を行使する手段なのだ。
大統領令の発動自体はそれほど珍しいことではない。しかし、微妙な問題を扱う大統領令は問題を引き起こす。よい例は、ブッシュ大統領がテロとの戦争の中で発した「テロリストに認定された人のアメリカ国内資産を凍結する」大統領令だ。9.11テロ後の空気もあり国内は賛成だったが、それでも憲法で認められた人権や財産権を侵害する可能性が問題視された。
現在はブッシュ大統領時代と違い、アメリカ国民の利害が分断されている。その片方の側に立って発せられる大統領令だからこそ、トランプ大統領の大統領令はこれまで以上に物議を醸しているのだ。
■立法、司法、行政の対抗手段はどれも一長一短
では、この大統領令に反対する側の権力は、どのようにして対抗することができるのか。今回問題になった「入国禁止」について考えてみると、立法・行政・司法の三権それぞれに対抗手段がある一方で、それぞれが問題を抱えている。
まずは議会だが、大統領令を違法とする法律を議会で通して対抗することができる。ストレートに言えば「テロリストの入国を阻止するために短期間(90日間)7ヵ国の国民の入国を禁止することを禁止する法律」をつくれば、行政府が「禁止行為」を行うことが違法になる。
ところが議会には、2つ足かせがある。1つは時間がかかること。今回の騒動のような場合には、議会が短時間で新たな法案を可決できるとは思えない。もう1つは、大統領に法案の拒否権があることだ。これを発動されると、議会は法案を持ち帰って、3分の2の賛成で再度可決しなければならない。だから法案が成立したとしても、そのためにはすさまじいエネルギーを必要とするだろう。議会にできる対抗策には、時間とエネルギーがかかるのだ。
また、行政の対抗手段としては、意見具申、命令拒否、サボタージュなど「上司である大統領に反対する」方法がある。
実際、今回の入国禁止については、司法長官代行が反対したことで即刻解任されている。解任されたイエーツ司法長官代行は、そもそもオバマ政権で起用された高官で、トランプ政権での新しい司法長官が議会に承認され次第退任する予定だったため、反旗を翻しやすかったという事情がある。
とはいえ、大統領令があまりにひどく、仮に命令を受ける部下である閣僚や高官が次々に反旗を翻した場合には、さすがに大統領も考え直さざるを得ないかもしれない。
より実効的なのは、末端のサボタージュだ。命令を受け取った者が様々な手段で妨害することはできる。メキシコの壁の建設であれば、「予算がない」「工事業者が遅れている」など、現場での作業が進まない理由などいくつも見つけることができるだろう。しかし、今回のような入国禁止の場面では、「7ヵ国の国民の入国を禁止する」という命令を現場でサボタージュすることは、かなり難しいだろう。
そうなると一番効力があるのは、司法判断ということになる。実際、今回の入国禁止で各地で訴訟が起き、一番早く判決が間にあったのがワシントン州連邦裁判所だったということになる。
私は法律の専門家ではないが、裁判の内容やその後のホワイトハウスの反論を見ていて興味深いのは、裁判所は入国禁止を違憲だとし、ホワイトハウスは合法だとしていることだ。
簡単に言えば、行政は危険人物である可能性がある人の入国を拒否する権利を法律上持っているが、その対象を特定の国の国民全員にまで拡大するのは、憲法には違反しているという議論なのだ。つまり、今回の大統領令は法律的にグレーな部分を命令として発令したものなので、それを止めるかどうかについては、違憲判断をあおぐしかなかったわけだ。
実は、その議論が本来は難しく、本当に違憲なのかどうかを判断するには時間がかかる。実際、司法関係者は、地裁が差し止め命令を出して事が一旦おさまったことで安堵しているように見える。これが仮に、トランプ大統領が強硬で一足飛びに最高裁の審判を仰ぐような行動をとったら、大変なことになるらしい。実際にそのような方法はあるのだが、最高裁の判事はこのような高度な政治判断に対し、短時間で結論を出す責任は取りたがらないのだ。
■「トンデモ大統領令」で日本が被る脅威は?
さて、日本が危惧すべきは、今後トランプ政権がどこまで国益のために既存の法律を拡大解釈してくるかということと、それがどの領域で日本の国益と相反してくるか、ということだろう。
懸念点としては、日本企業のグローバル投資への介入と、日米安保の拡大だと思う。前者については、トヨタがトランプ大統領のツイッター攻撃を受けたことで、すでに日本国内でも対策検討が始まっているが、いきなり意表を突いてくるという意味では、後者により気をつけるべきだろう。とはいえ、それもアメリカと一緒に突然、戦争に行くようなことはなかろう。
安保に関しては、経済界にとってより現実的な脅威は3つある。サイバーテロに対する具体的な大統領令が発令された場合、エネルギーの輸出に関する具体的な大統領令が発令された場合、そしてアメリカが敵対視する国に投資をする企業に対して何らかの制裁的な大統領令が発令された場合だろう。
そしてトランプ大統領は、一番物議を醸しそうなところを選んで大統領令を発動することで、世論を動かそうとしているように見える。「混乱を起こすことで議論に風穴をあけ、そこから何らかの変革が起きればいい」くらいに割り切っているように見える。
現在の日米関係を見る限り、まずないとは思うが、万一トランプ大統領が尖閣諸島や北方領土など、わが国にとって微妙な問題に平気で切り込んできた場合、日本と中国・ロシアとのビジネス・パートナーシップが壊れかねないリスクはある。このような不安に、わが国もグローバル企業もしばらくの間、振り回されることになる覚悟は必要だろう。
(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)
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