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ワシントンのホワイトハウス前でドナルド・トランプ大統領に抗議するデモに参加した女性(2017年2月4日撮影、資料写真)。(c)AFP/MOLLY RILEY〔AFPBB News〕
トランプは入国禁止令の裏で「宣戦布告」していた シリア侵攻に向けて突き進むトランプ政権
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49107
2017.2.8 部谷 直亮 JBpress
1月27日にトランプ大統領の発した入国禁止に関する大統領令をめぐり、混乱と困惑と非難が広がっている(ただし米国内での支持は過半数以上である)。
だが、筆者はこの大統領令はトランプ政権の深謀遠慮であり、端的に言えば目くらましだとみている。トランプは三手先を読んだ手を打っているのだ。
というのも、実は翌28日にトランプ政権は非常に重要な文書をいくつか公表している。大別すると、(1)ワシントンの既得権益たるロビイスト利権を破壊するもの、(2)シリアへの直接軍事介入に関するものだ。
今回は(2)についての文書を見てみよう。
■大統領覚書でイスラム国への戦布告
28日、トランプ大統領は「イラクおよびシリアのイスラム国(いわゆるISIS)を打倒させるための計画」と題する大統領覚書を公表した。内容を簡単に要約すると次の通りである。
ISISは、米国がこれまでに直面したイスラム過激派テロとは異なり、最も悪質かつ攻撃的である。彼らはカリフ国なる国家を建設しようとしており、交渉の余地なぞない。ゆえに、私はわが政権に対し、包括的なISIS打倒計画の策定を命じる。
ISISは中東や米国内で数々の米国市民を殺害し、我々の同盟国への攻撃にも関与して、そこでも米国人が死傷している。加えて、彼らは支配領域で計画的な民族浄化を行っている。
このままISISを放置すると、化学兵器能力も含めて彼らの力は大きくなるばかりである。同盟国やパートナー国を攻撃する米国市民も出てくるだろう。だからこそ、米国はISISを打倒するために断固とした行動を選択しなければならない。
ISISを打倒するための政策は、省庁間を超えて実行する。ISIS打倒のための新計画の策定は即時行うこと。打倒計画の原案は、30日以内に国防長官が大統領に提出すること。
その計画は以下をカバーするものとなる。
(1)包括的な戦略・計画
(2)ISISに対する武力行使に際し、国際法以上に厳しい米国の法律と政策上の規制を緩和するための勧告
(3)ISISIのイスラム過激主義のイデオロギーを否定し孤立させるための広報外交・情報戦・サイバー戦略の策定
(4)ISISと戦う新しい有志連合を形成すること
(5)ISISの収入源の遮断
(6)予算面に関する詳細な戦略など
■「総力戦」でISISと対決
この覚書に関して注目すべき点は4つある。
第1に、ISISの化学兵器の能力を懸念していることである。イラク戦争開戦の大義名分がなんであったかを思い出してほしい。米国には化学兵器に対する強烈な嫌悪感と危機感がある。化学兵器能力を破壊するには地上兵力の投入が必要であることは言うまでもない。
第2は、ISISと戦うための「新しい有志連合」を結成するというものだ。これは明らかにロシアと組むことを意味している。オバマ政権時の米軍は、シリアに空爆を行い少数の特殊部隊も投入している。トランプ政権は、これを超える戦力を投入し、ロシアと共同作戦を展開することを目指している。
第3は、命令が政府の多くの役職に向けられていることだ。命令の対象は、副大統領、財務長官、国防長官、司法長官、エネルギー長官、国土安全保障長官、大統領首席補佐官、国家情報長官、国家安全保障担当補佐官、CIA長官、大統領顧問、統合参謀本部議長など実に幅広く、「総力戦」を思わせる。トランプ政権のISIS打倒に向けた並々ならぬ意気込みを感じさせる。
第4に、ISISに対して武力を行使する際は「国際法以上に厳しい米国の法律と政策上の規制を緩和する」よう国防長官に勧告している点だ。これは、作戦展開に際しての米軍の規範を緩めることを意味している。要するに、できるだけ武器を使用して攻撃しようという積極的な意志の表れである。
これらを見れば、トランプがシリアとイラクにおける武力介入を強烈に志向していること分かるはずだ。
■シリア侵攻に向けての兆候
トランプ大統領のさまざまな言動を観察すると、米軍が中東への武力介入を実施する兆候や根拠が見て取れる。4点挙げてみよう。
1点目はトランプ政権の公約である。トランプ大統領は2016年3月、2〜3万人規模の軍事力をISISと戦うために派遣したいと述べた。これは地上軍の投入を示唆している。マティス国防長官も先月の公聴会で「中東に軍事的な打撃を与える」としており、これまでの空爆と特殊部隊以上の戦力を投入すると示唆している。
2点目は、最近のトランプ大統領が、シリア難民がシリア国内で安心して暮らせるような「安全地帯」を設置するとしていることだ。既にヨルダン政府との調整も始まり、サウジ政府とは実現することで合意している。その設置には当然ながら哨戒と防衛のための地上戦力が必須である。候補地の広さから言っても、前述の2〜3万の兵力と符合する。政権移行チームに参加したほぼ唯一のシンクタンクであるヘリテージ財団に所属する中東専門家ジム・フィリップスが「トランプ政権は難民を守るために戦争を開始する意志を持っている」と断言していることも留意すべきだろう。
3点目は、トランプ政権が米軍の体制構築を進めていることだ。米軍は、オバマ政権下の予算削減で即応性が低下した。トランプ大統領は、米軍の早急な再建を命じる大統領覚書を、入国禁止令前日の1月27日に発した。具体的には、米軍の訓練・装備の維持整備・軍需物資・装備近代化・インフラを含む即応体制の状況を30日以内に評価し、今年度予算で実施可能な改善措置に関する報告を国防長官に命じ、予算管理局長にも今年度の国防予算の修正を検討するよう命じている。
4点目は、オバマ政権との違いを出すためにもシリア侵攻は欠かせないということだ。オバマ政権のシリア政策は、無人機・有人機による大量の空爆と若干の特殊部隊を投入するというものであった(ちなみにオバマ政権はこの2年間で少なく見ても約5万発の爆弾を世界に投下している)。オバマ政権の否定から出発しているトランプ政権が特色を出すとすれば、地上兵力の投入しかない。オバマ政権が失ったシリア情勢での主導権を奪還し、トランプ政権の成果を示すためにも地上兵力の投入は必須である。それは、和平や停戦協議で強い影響力を確保することにもつながる。
■1カ月後に完成する作戦計画原案に注目
さて、問題はトランプ政権がシリア侵攻を実行できるかである。
トランプ政権はいまだ実務レベルの指名が進まず、シリア侵攻の体制は整っていない。また、トランプ政権は、文書のリークは多発するし、大統領覚書の書式が整っていなかったり、政権を支える共和党保守派VS共和党主流派およびネオコンの政治的闘争が継続していたりと、「爆発しそうになりながら驀進する機関車」状態である。
しかも、軍の中では慎重論の声も聞かれる。実際、安全地帯の設置は、ロシアやアサド政権などが現地で展開する戦力との間で衝突を招きかねないとの批判も出ている。
だが、トランプ政権が地上兵力を含む積極的な中東への介入を志向しており、そのための準備を着々と進めていることは確かである。トランプ政権の「入国禁止」の大統領令だけに目を奪われてはならない。入国禁止が逆にISISのホームグロウンテロを誘発するという指摘もある。確かに筆者はそれに大方同意する。だが、それは一面的な見方である。要するに入国禁止令は、トランプ政権がシリア介入するための口実(受け入れないのであれば人道的な代替案が必要という論理)であり、同時に大規模な軍事作戦を中東で展開した際に必要な予防的な防衛措置なのだ。
今後、表層的な動きに心を奪われることなく、1カ月後にISIS打倒計画の原案が完成することを冷静に注視しておくべきだろう。
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