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「下半身論争」を制したトランプの恐るべき会話力 聖書から下ネタまで語るこの男の恐ろしさ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50849
2017.02.08 佐藤 優 作家 週刊現代 :現代ビジネス
■聖書の引用で伝えたメッセージ
日本時間1月21日、米国のワシントンでドナルド・トランプ新大統領が就任演説を行った。日本のマスメディアはまったく注目していないが、トランプの聖書の引用が興味深い。
〈私たちは古い同盟関係を強化し、新たな同盟を作ります。そして、文明社会を結束させ、過激なイスラムのテロを地球から完全に根絶します。私たちの政治の根本にあるのは、アメリカに対する完全な忠誠心です。そして、国への忠誠心を通して、私たちはお互いに対する誠実さを再発見することになります。
もし愛国心に心を開けば、偏見が生まれる余地はありません。聖書は「神の民が団結して生きていることができたら、どれほどすばらしいことでしょうか」と私たちに伝えています〉(1月21日、NHK NEWS WEB)
「神の民が団結して生きていることができたら、どれほどすばらしいことでしょうか」(How good and pleasant it is when God's people live together in unity)という聖書の言葉は、日本聖書協会の新共同訳では、「見よ、兄弟が共に座っている。/なんという恵み、なんという喜び」と訳されている。旧約聖書の「詩編」133編の1節だ。短い詩なので、全文を引用しておく。
〈【都に上る歌。ダビデの詩。】見よ、兄弟が共に座っている。/なんという恵み、なんという喜び。/かぐわしい油が頭に注がれ、ひげに滴り/衣の襟に垂れるアロンのひげに滴り/ヘルモンにおく露のように/シオンの山々に滴り落ちる。/シオンで、主は布告された/祝福と、とこしえの命を〉
ヤーウェ(神)の教えに基づく世界支配はシオン(イスラエル)から広められるという意味だ。ダビデ王を理想としたメシアニズムを典型的に示す内容である。
キリスト教徒のみが聖典とする新約聖書ではなく、キリスト教徒、ユダヤ教徒の両者が聖典とする旧約聖書からあえて引用し、イスラエルと全世界のユダヤ人に「私はあなたたちと価値観を共有しています」というメッセージをトランプ大統領は送ったのだ。
トランプ政権の外交は、親イスラエル政策を基調とすることになろう。
■フロリダを制したペニス論争
トランプを理解するためには、同人の世界観を正確に把握していなくてはならないが、それが極めてむずかしい作業なのである。トランプについて多くの本が出ているが、この不思議な人物の全体像の解明はできていない。今のところ「ワシントン・ポスト」紙が総力をあげた取材をまとめた『トランプ』が最良の書だ。
本書を読むと、トランプは独自の言語ゲームを展開する才能を持っていることがよくわかる。例えば、2016年2月25日にヒューストンで行われた、トランプとマルコ・ルビオの間でのペニスの大きさをめぐる論戦だ。
〈(ルビオは)ディベートで、移民問題と、貿易問題と、ニューヨーカーの商慣行を槍玉に挙げ、トランプを叩いた。次に、からかってみた。トランプを「いかさま師」と呼び、外見をけなしたのだ。そして、トランプとともに泥沼にはまった。
デトロイトでのディベートで、トランプの「手が小さい」ことについて本人と辛辣なやりとりをし、それがなんと、ペニスの大きさに関するあけすけなやりとりに発展したのだ。ルビオはトランプの手が身長に比べて不釣り合いに小さいと指摘し、「手の小さい男が世間でどう言われているか、知っていますよね?」と言った。
トランプはこの餌に食いついた。「この手を見てくれ、これが小さいか? 彼は俺の手のことを持ち出してきた―手の小さい男は、別のものも小さいに違いないと言いたいんだ。保証するが、問題ないよ。保証する」
この下品な冗談は、トランプの勢いにはほとんど影響しなかった。だが、ルビオのほうはたちまち転落の渦に呑みこまれ、べそをかきながら退場した。トランプは46%近い票を集めてフロリダを制し、対するルビオは27%で、選挙戦から撤退した〉
トランプは、政治を含む公の席では語ってはいけないとされていた事柄について語ることによって、これまで政治に関心を持っていなかった人々の支持を得ることに成功した。
しかし、このルビオの例でわかるように他の人が「下品さ」でトランプと勝負を試みても負ける。なぜそうなるのだろうか。
アリゾナ州ピオリアの代議員ロリ・ハック(主婦)の見解が興味深い。この州では勝者総取りシステムが取られているので、代議員は州の予備選挙の勝者であるトランプに投票しなくてはならない。
〈予備選の結果に拘束されずに投票させてほしいと主張したが、州の共和党委員長はそれを認めず、「もうけっこうだ」と言い渡した。ハックは代議員の地位を剥奪され、トランプに投票する意向を表明していた人物に差し替えられた。(中略)
指名投票をめぐる対立が過熱したときは、会場内で人々が怒鳴り合うのも目の当たりにした。暴力に発展してもおかしくない状況に見えた。トランプが人々から引き出した感情に、ハックは恐ろしさを感じていた。「これはカルトに他ならない。怒りのあまり人々は冷静な判断力を失っている。トランプは片端から刺激的なことを言い、それが人々の怒りに火をつける。でも、彼の本質に気付いた人たちもきっといると思う」(中略)
とはいえ11月の本選挙で民主党のクリントンに投票する気にはどうしてもなれないので、棄権するつもりだと、ハックは言った〉
確かにトランプの熱心な支持者は、カルト集団の構成員に似ている。明確な対象がない「何かに対して怒っている人々」の感情に火を点け、行動に駆り立てる才能をトランプ大統領は持っている。その結果、世界的規模での大混乱が起きかねない。
『週刊現代』2017年2月11日号より
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