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【ワシントン=川合智之】トランプ米政権の科学技術政策に、研究者らの懸念が広がっている。宇宙開発で実現可能性の薄い目標を掲げる一方で、ワクチンへの懐疑を表明するなど、科学的証拠を無視した発言を続ける。地球温暖化にも否定的で、関連する研究成果の公表は停止された。世界中の頭脳をひき付け、米国の国力の源泉となってきた科学に、逆風が吹き付けている。
「宇宙の謎を解く」。科学に後ろ向きなトランプ氏が就任演説で突然掲げた目標に驚きが広がった。政権幹部の昨年10月の提言によると、トランプ政権の宇宙政策は「探査と科学」を中核に据え「今世紀末までに太陽系のすべての惑星を有人探査する」という。
だが、これまで有人探査が具体的に研究されているのは火星まで。政府の肥大化を嫌うトランプ氏が、現実に宇宙開発費を増額する望みは薄い。
オバマ前大統領の功績否定をめざすトランプ政権では、がんや幹細胞など生命科学にも矛先が向く。オバマ政権ではバイデン前副大統領ががん研究を主導、免疫療法などの研究を進める計画だった。キリスト教保守派のペンス副大統領は、受精卵から作る胚性幹細胞(ES細胞)研究に反対している。
トランプ氏はワクチンへの懐疑も表明している。ワクチンの安全性を再検討する委員会を設置、接種が自閉症のリスクを高めるとの説を支持する弁護士が委員長に就くと報じられた。この説は1998年に医学誌ランセットに掲載されたが、後にランセットが撤回。研究不正も見つかり、科学的には否定されている。
「当面、成果報告や写真、資料などを公表しないこと」。米メディアによると米農務省は23日、傘下の研究者らにこう通告した。農務省は気候変動が農業に与える影響などを調査していた。
同様のメールは米国立衛生研究所(NIH)や米環境保護局(EPA)などでも確認された。EPAは気候変動などへの研究助成金や、大気・水質調査などの契約を一時凍結するよう政権から通達を受けた。今後、EPAの研究成果は「政治的なレビュー」を受けなければ発表できない。広報室の電話は常時、留守番電話のままで、メディアへの情報提供も中断している。
トランプ政権はエネルギー省に対し、地球温暖化対策に携わった職員や研究者のリストを提出するよう指示した。リストに載れば退職強要や左遷につながるとの不安が広がっている。
気候変動対策への逆風も強まる。ツイッターで温暖化の豆知識を投稿していた米国立公園のアカウントは、関連投稿を削除した。
1月30日 朝刊
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