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米メディアには「ファクト・チェック」という監視ツールが存在する。(※イメージ)
内田樹「ファクト・チェッカーの基準ではトランプは大嘘つき」〈AERA〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20170124-00000201-sasahi-soci
AERA 2017年1月30日号
思想家・武道家の内田樹さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、哲学的視点からアプローチします。
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米メディアには「ファクト・チェック」という監視ツールが存在する。大統領選挙のときに注目されたが、立候補者の発言に虚偽や誇張がないかを査定し、有権者の判断材料として提供するのである。「ワシントン・ポスト」の専用サイト「ファクト・チェッカー」は政治家の発言の虚偽や誇張を5段階で評価している。単位は「ピノキオ」。学校をさぼってサーカス団にとらわれたピノキオが、「学校はどうしたの?」と問われたときに、事実をごまかそうとして次々嘘を重ねるたびに段階的に鼻が伸びる有名な場面から採られたものである。
「ファクト・チェッカー」の評定基準では「0ピノキオ」が「事実」、「1ピノキオ」が「一部に事実誤認、断片的引用」、「2ピノキオ」が「重大な事実欠落や誇張」、「3ピノキオ」が「深刻な事実誤認、明白な矛盾」、「4ピノキオ」が「大嘘」。
トランプは選挙期間中に「同時多発テロで世界貿易センタービルが崩壊したとき、アメリカのイスラム教徒は歓声を上げた」「私はイラク戦争に反対した」「米軍は日本防衛に莫大な資源を投じているが、日本はその対価を払っていない」など大量の嘘を吐き続けた。選挙期間中の彼の92発言について「ファクト・チェッカー」は「4ピノキオ」が59、「3ピノキオ」が22、「2ピノキオ」が7、「1ピノキオ」が1、「0ピノキオ」が3という査定を下した。つまり、彼の発言は88%が「深刻な事実誤認ないし嘘」だったということである。一メディアからではあれ、全発言のうちに「ほんとうのこと」が3.3%しか含まれていないという評価を下された人物が大統領になってしまったのである。
なにより重大なのは、アメリカの有権者たちの多くがこのファクト・チェックの結果を無視したということである。事実だろうが嘘だろうが、とりあえず耳に心地のいい話を聞かされることを彼らは選んだ。
日本にはファクト・チェックそれ自体が存在しない。日本の政治家が嘘や誇張を口にしないからではもちろんない。嘘と誇張がデフォルトなので査定の意味がないからである。という私の意見は自己採点で「1ピノキオ」。(内田樹)
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