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トランプを最も恐れる必要がない同盟国は日韓
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8670
2017年1月18日 岡崎研究所 WEDGE Infinity
トランプと彼の発言に揺さぶられている日韓や欧州の同盟国の今後の動きについて、エコノミスト誌が12月17日号掲載の記事で解説を試みています。要旨、次の通り。
トランプ政権の今後の動きについて、ある程度の推測はできる。優先課題はジハード・テロの阻止で、マティス国防長官とフリン国家安全保障担当補佐官を擁することから、おそらくIS打倒の動きが強化されよう。その後どうなるかは謎だが。アフガニスタンにもタリバン封じ込めのために米軍が増派される可能性がある。オバマが求めたイランとの関係改善は棚上げにされよう。
また、トランプが同盟国に対し、防衛費の拡大と駐留米軍の経費負担増を求めるのは間違いない。他方、米国防省の予算は拡大、海軍の増強と核兵器の近代化が図られよう。これは米国の抑止力を高め、同盟国にとっても利益になる。
これまでのトランプの発言にもかかわらず、一番恐れる必要がない同盟国は日韓かもしれない。(1)両国が防衛面でかなり努力してきた、(2)北朝鮮の脅威が増大している、(3)米国民の日韓防衛への支持がある、ためだ。一方、北朝鮮は2020年頃には首都ワシントンを核攻撃できる能力を獲得すると予想されている。駐留米軍の縮小を検討するには微妙な状況と言えよう。さらに、世論調査によれば、米国民の70%が米国による日韓の防衛を支持、日韓の企業が米国内で数十万の雇用を生んでいることもよく知られている。
他方、米国民のNATO支持率は53%、共和党支持者に限れば43%でしかない。欧州同盟国の「ただ乗り」は、2008年の金融危機後の緊縮財政でさらに悪化、余裕のあるドイツでさえ国防費はGDPの1.2%だ。しかし、ここに来て欧州も、ロシアによるクリミア併合や欧州周辺での度重なる大規模軍事演習、プーチンの核の脅し等に衝撃を受けており、NATOの防衛費は今年3%増加する。それに、国境を越えたテロ、サイバー攻撃、大規模な難民流入等の新たな脅威に対しては、米国と欧州が協力して当る必要がある。ただ、トランプにはNATOについて、価値を共有する国々の「運命共同体」という観念はないだろう。トランプがプーチンと図ってウクライナ問題に早々に決着をつける恐れもある。
中東の同盟国はイランを嫌うトランプをオバマより良いと思っている。また、トランプはパレスチナ和平にも関心を示していない。しかし、もしトランプが本当にロシアと組んでISを打倒すれば、結果的にアサドとアサド支持のイランが勝利することになる。また、イラクの秩序回復には、イラクをシーア派支配の国にしようとするイランの戦略を米国が阻止する必要がある。つまり、米国はISを叩くだけではだめで、結局、トランプも中東には関与せざるを得なくなるだろう。さらに、トランプは、米国はもはや中東の石油を必要とせず、従ってサウジ支援の必要はないと示唆、サウジが米軍の維持を望むのなら、少なくとも経費負担増を求めるだろう。
早ければ5月に開かれるNATO首脳会談や夏のG7首脳会談でのトランプの言動が判断材料を提供するはずだが、今後については2つの展開があり得る。一つは、外交はマティスやティラーソン、そして議会の保守派指導者に委ねられる。もう一つは、何らかのトランプ・ドクトリンが出現、同盟諸国を混乱に陥れるというものだ。しかし、現実がどちらにころぶか、誰にも、おそらくトランプ自身にもわからないだろう。
出典:‘America’s allies are preparing for a bumpy ride’(Economist, December 17, 2016)
http://www.economist.com/news/international/21711881-donald-trumps-victory-has-shaken-countries-depend-america-security-and
米国の同盟諸国は、トランプの発言の趣旨を測りかねていますが、トランプは多くの発言を軌道修正しています。
日本と韓国については、米軍の駐留費をもっと負担すべきで、さもなければ核武装も含めもっと自主防衛に努めるべきであるとの趣旨を述べましたが、その後核武装発言は否定し、安倍総理との会談では日米同盟の重要性を確認しています。
時代遅れであり、米国の支援を求めるならもっと軍事費を増大させるべきである、と言っていたNATOについてすら、その後NATOのストルテンベルグ事務局長との会談で、NATOの永続的重要性に言及しています。
■トランプに確固たる理念はあるのか?
したがって、トランプがどのような同盟政策をとるかは、今後の具体策を見るしかありません。ただ、世界における米国の役割について、トランプが確固たる理念を持っているとは思えません。
トランプは、米国はもう世界の警察官の役割は果たさないとの趣旨の発言をしていますが、これは単に経済的負担の話をしているのではなく、自由と民主主義を守り、広めるという理念は掲げないということのようです。米国のこの理念のもとに、戦後世界は「パックス・アメリカーナ」の世界といわれました。中国の台頭と、それに国力が伴うかの問題は抱えながらもプーチンのロシアの挑戦によって、もはや世界は「パックス・アメリカーナ」とは言えなくなっていますが、トランプは理念の面からも「パックス・アメリカーナ」を過去のものとしようとしています。
戦後の米国の同盟政策は、自由と民主主義を守るという理念と戦略の基礎の上に立っていましたが、トランプの外交政策にはこれが欠けています。したがって、たとえ同盟政策が継続されるとしても、米国の世界戦略の上に立ったこれまでの同盟政策と同質と言えるかどうかの問題をはらむこととなるでしょう。
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