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【オピニオン】ロシアはトランプ氏への影響力を確保したか
トップ機密も「相互確証破壊(MAD)」の時代
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トランプ次期米政権の閣僚人事に関する議会公聴会とロシア文書が与える影響について、「ビジネスワールド」欄担当コラムニストのホルマン・ジェンキンス・ジュニアに聞く(英語音声、英語字幕あり)Photo: Zuma Press
By HOLMAN W. JENKINS, JR.
2017 年 1 月 16 日 09:22 JST
ソ連が崩壊を始め、米国がサダム・フセインをクウェートから追い出そうとしていたころ、ありもしないモノをあり得ないほど大量に売り出すファックスが世界中を飛び交った。売りに出されたのは、イラク通貨のディナールやソ連の「白いルーブル」、大量に備蓄されたソ連製アルミニウムに対する権益、大量のアトロピン(イラクの神経ガスから国連の多国籍軍を守るために需要があったと言われている)だ。
この世で一番簡単にでっち上げられるのは、人を驚かすような文書だ。売り手は米中央情報局(CIA)との関係をほのめかした。世界を揺るがすような地政学的な混乱が起きているときに、国を助けながら、一夜にして大金持ちなれるチャンスだという。記者は周辺をかぎまわった。話をしてくれる人には不自由しなかった。分厚い調査書類がまとめられた。
そうした話は十分もっともらしく聞こえた。そのため、だまされやすいある欧州の(われわれも知っている)銀行関係者が、今ならナイジェリアのメール詐欺やコンピューターを使ったなりすまし犯罪をはたらいているような輩にあおられ、そうした詐欺まがいのチャンスを追いかけて銀行もろともトラブルに巻き込まれた。
そして今、メディアと法執行機関はドナルド・トランプ氏に関するロシアの匿名筋からの情報が満載された文書を追いかけている。
「裏付けが取れていない」情報
彼らは何カ月も前から情報の真偽を確認しようとしているが、確認できないと話している。当然ながら、なかったことを証明することは困難だ。その結果、おそらく今回の情報は虚偽だろうが、偽の情報ではなく「裏付けが取れていない」情報として伝えられている。文書を作成したのが「英国の元情報部員」とされることにあまり感心してはいけない。元情報部員のほうが記者や会計士、弁護士など情報収集のプロより情報に通じていたり、コネがあったり、へまをする可能性が低いかと言えば、必ずしもそうではない。
しかしながら、文書の情報が真実であると考えることのほうがある意味、興味深い。ロシア政府はこの情報のおかげで、トランプ次期大統領に対して影響力を確保すると言われている。本当にそうだろうか。
トランプ氏はいくつかの点で、上品とは言えない人生を歩んできた。その軽率な行為を目撃した人達が誰かに話したくなったと考えるのはおかしなことではない。外国の情報機関がそうした情報を追いかけていたとしてもあり得ないことではない。(文書で指摘されたように)トランプ氏がミスユニバースのイベントでモスクワを訪れた際にロシアの情報部員がハニートラップを仕掛けたというのもあり得ない話ではない。ロシアがトランプ氏に事業への資金提供をちらつかせることもあり得なくはない。ただし、問題の文書によると、興味深いことにトランプ氏はこの話には乗らなかったという。そう書かれているのは、文書の作成者がこの一件については、ないことを証明することが可能であると分かっているからなのだろうか。いずれにしても、トランプ氏が所有する資産の裏側には必ず負債がある。その出所を確認することは可能だ。
だからなんだというのだろう。文書の内容が真実だとしても、この情報でロシア政府は本当にトランプ氏に対する影響力を確保できるのだろうか。
互いに機密を盗み合う主要国
われわれは、あらゆる主要国政府が互いに機密を盗み合う世界に生きている。漏れ聞くところによると、米国政府は対象国の通話を全て録音し、1カ月間取っておくことができるという。米国はドイツのアンゲラ・メルケル首相の携帯電話を盗聴していたとされる。中国は米人事管理局のコンピューターシステムに侵入し、米国政府の現・元職員と応募者2200万人について個人情報を盗み出した。北朝鮮はソニーのシステムに侵入し、デジタル機密を探し回った。ウクライナ危機が始まったころ、ロシアは外交を担当する2人の米政府高官の通話の録音をリークした。ロシアはヒラリー・クリントン氏側近のジョン・ポデスタ氏と民主党全国委員会(DNC)の電子メールを盗み出し、全世界にばらまいた。オランダの捜査当局はウクライナ上空でマレーシア航空機がミサイルで撃墜された事件で、ミサイルの発射台をロシアが提供していたことに関して数えきれないほどの通信傍受を引用することができた。報道によると、ノルウェーとスウェーデンは西側の情報機関のためにロシアのインターネット通信を監視している。
世界の主要情報機関が握る情報量は膨大で、そのほとんどは外部と共有されていない。米国の情報機関はロシアによるDNCのハッキングについては熱心に自分たちの業績を明確に語っていたのに、プーチン時代に起きたその他の犯罪に関する膨大な情報については口を閉ざしている。これらの情報は暴露されれば、プーチン氏にとって非常に厄介なことになるだろう。
世界主要国の政治家の間では、「相互確証破壊(MAD)」に似た考え方が広がっている。モスクワのホテルの一室での下品なエピソードのおかげで(それが本当に起きたとして)、トランプ氏が米国大統領としてロシアに対して持つような影響力を、ロシア政府がトランプ氏に対して持つことはないだろう。
米大統領選へのロシアの干渉に関して言えば、民主党政権がこの問題に熱心だったのは党派的要素が関係していることは間違いない。しかし、この問題には別の側面がある。米国で現在起きているのは、こういうことだ。米国政府はプーチン氏に対して、プーチン氏が自らやロシアの情報活動にこれだけ注目を集めることで、MADの領域に踏み込んだということを必死に伝えようとしているのだ。
メディアや議会の一部がこの機会を利用して、ロシアが関係する殺人や暴力に関する情報を開示するようCIAに改めて要求することは全くの見当違いとは言えない。こうした情報が暴露されれば、プーチン氏の権力維持が危うくなるとは言わないまでも、西側政府と仕事がしにくくなるのは確実だろう。
米国が対処する必要があるのは、プーチン氏の活動の厚かましさと傲慢(ごうまん)さだった。ハッキングなど情報時代の破壊行為に関する限り、われわれはMADの世界に生きている。米国は改めて他の主要国が尊重しなければならない、超えてはならない一線を定めるべきだ。早いに越したことはない。
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記者会見に臨むトランプ次期大統領(11日)
By SETH LIPSKY
2017 年 1 月 16 日 11:23 JST
――筆者のセス・リプスキー氏はニュースサイト「ニューヨーク・サン」の編集長
***
故ロバート・L・バートリー氏ならどうしただろうか。筆者はジャーナリスト倫理を巡って迷った時にこう自問することが多い。ドナルド・トランプ次期米大統領に対する裏付けのない醜聞がつづられた35ページのメモ全文を公開した米ウェブメディア、バズフィードのベン・スミス編集長は、まさにそうした局面に直面していたといえるだろう。
バートリー氏は20世紀の最後の数十年間、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の論説トップを務めた。それは伝統的な新聞ジャーナリズムにとって最後の輝かしい時期だった。同氏は欧州、アジア、米国の各版で社説面を統括していた。
バートリー氏を思い出させる出来事は11日に起きた。バズフィードがトランプ氏に関するメモを公開したことを受け、米紙ニューヨーク・タイムズが「メディアとの、そしてメディア内部での戦争」と呼んだ事態は、大統領選後初めて開かれた記者会見を席巻した。
トランプ氏は集まった記者たちの前で、メモの存在を暴露したCNNを「偽ニュース」だとあざけり、バズフィードを「できそこないのゴミの山」と切り捨てた。それはメディア新時代にある種の教訓をもたらすような瞬間だった。
バートリー氏なら若いスミス氏に何とアドバイスしただろうか。それは推測するしかない。この偉大な人物はバズフィードが創設された3年前の2003年に死去したからだ。ただ、バートリー氏が若い編集者だった筆者に語ったことは思い出せる。当時、筆者は極めて弱い情報源を頼りにした特ダネを抱えていた。
不確かなスクープの思い出
それは1990年代初めのことだった。記事はジューイッシュ・フォワード紙の故デービッド・トワーズキー記者(ワシントン担当)が執筆し、筆者が編集していた。内容は中東におけるブッシュ一族のビジネスのもつれについてだ。詳細は忘れたが、筆者が優柔不断だったことは忘れていない。
フォワード紙はスクープを切望していた。そしてトワーズキー氏はいくつかのスクープをものにしていた。例えば、大統領選に勝利したビル・クリントン氏の政権移行チームのメンバー1人が「ベンセレーモス旅団」の全国委員会に仕えていたという特ダネを書いた。同旅団はキューバ情報機関の最前線だと米連邦捜査局(FBI)がにらんでいた組織だ。また、クリントン氏が司法省市民権局の局長に指名したラニ・グイニア氏が、複数の法律専門誌で、少数派(マイノリティー)の選出が公民権法により求められていると主張していたことも報じた。クリントン氏はグイニア氏の指名を撤回した。
ブッシュ一族の事業に関する情報は人目を引くはずだったが、トワーズキー氏は情報の裏を取ることができなかった。そこで、筆者は印刷の準備が整えられている間に試し刷りを1枚持って外出し、ウイスキーを購入し、午後9時半にウイスキーの瓶でバートリー邸のドアをたたいた。
バートリー氏はドアまでやって来た。筆者が訪問の目的を告げてウイスキーを手渡すと、同氏は笑顔で筆者を中に招き入れた。グラスと氷を取りに行っている間、同氏はリビングのソファに座るよう指示した。
試し刷りを上から下まで読みながら、バートリー氏は記事の文章一つ一つに対し特徴的な甲高い声で笑った。その後、同氏は顔を上げ、「私ならきっとウォール・ストリート・ジャーナルには載せないだろう」と断言した。
どの新聞にもそれぞれの使命
筆者は「恐れていたことだ」と言いかけ、フォワード紙の一面をどのようにして差し替えるかで頭がいっぱいになった。
バートリー氏は不意に「しかし」と言葉を差し挟み、「だからといって、あなたがフォワード紙に載せるべきではないという意味ではない」と話した。そして、そのネタはまさに小さな新聞(当時のフォワード紙の発行部数は2万8000部)が報じるべき内容だと述べた。
トワーズキー氏の記事は掲載されたが、石のように埋もれていった。ただ、バートリー氏が示したポイントは、数年も筆者の心に残っている。どの新聞にもそれぞれの使命があり、どの記事を掲載すべきかは内部の編集者以外には誰も決めることができない。
ベン・スミス氏は彼の世代で最も優秀なジャーナリストの一人だ。筆者が率いていたフォワード紙でキャリアを開始し、米紙ニューヨーク・サンでも記事を書いていた。CNNがその存在を明かしたが内容の公開には踏み切らなかったメモを、バズフィードが伏せておくことなどできるものか――スミス氏はそう結論付けた。
そもそもメモはバズフィードが作成したものではない。ワシントンに出回っていたし、極秘情報でもなかった。一連の出来事に関係のある当事者で、それを知らなかったのは一般市民だけだったようだ。このためメモの公開でいいことがあるかもしれない。
米国はトランプ氏が毎日立ち向かわねばならない世界を間違いなく理解し始めている。バートリー氏はこの壮観を見て甲高く笑っていることだろう。
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